3-8話 神から与えられた使命5
「女の子も無事だったし盗賊達も何故か自分の汚した場所を片しながら帰っていった。大怪我した男の子も先輩の薬でまるで怪我してなかったかのように元通りになった。結果で言えば最高の状態だろう」
テオはしみじみとそう呟いた後、突然叫びだした。
「つーかやりすぎた! はいこれ絶対この町で俺達がもめごとになるパターンだぞおい! 面倒になる前に逃げるぞ!」
テオの叫び声に合わせ、全員が慌てて町から撤退し、同時に馬車を学園に返した。
ちなみに、緊張と疲労で走る体力が残っていないヴェインハットはサリスに背負われた。
頑張ったご褒美、だそうだ。
「というわけで、これから徒歩で次の町に向かうのだが……その前にあの騒動でヴェインハットに質問がある奴挙手」
今回の騒動で、誰一人ヴェインハットが何をしたのか、どういう目論見だったのか良くわかっていなかった。
その為、テオは挙手しながらそう言葉にし、ヴェルキスがそっと手を上げた。
「じゃあ先輩。先にどうぞ」
「おう。ヴェイン。とりあえず尋ねるんだが神様とか詳しいのか?」
その言葉に、複雑な心境を醸し出しながらヴェインは曖昧に頷いた。
「正直に言えばボチボチ。とりあえず各神様の好みそうな事とかできない事とかその辺りなら多少は知っている」
ヴェインハットの言葉に、テオとエージュは少しだけ驚きの表情を見せた。
神に対し造詣の深い者や知性の高い者なら、さきほどのヴェインハットの発言を聞けば誰でも驚く。
六神に出来ない事はない。
そう思う者は流石に誰もいない。
だが……具体的に六神に何が出来ないかを聞かれて答えられる人はそう多くはないだろう。
何故ならば、記述された書物はほとんど残されていないからだ。
それは古い歴史では焚書の対象であり、現在であってもそのようなものを残すと不敬であると考え自粛する者が多い。
神の出来ない事を理解している。
それはつまり、神に対し相当深い知識を持っているという事の証左であった。
「んじゃ、これが何かわかるか? 気づけば何かついていたからたぶん神様絡みだと思うんだが……」
そう言ってヴェルキスは自分の首にかかっているネックレスを見せた。
左右不均等ながら表面に光沢感のある、琥珀に似た半透明の紅い石がペンダントトップになっており、チェーンの部分はシンプルな銀ながら一つ一つの鎖が全て均一で整合性のある輝きを放っている。
そんな、相当以上に値の張りそうなネックレスがいつの間にか自分の首にかかっていた事に対しヴェルキスは若干の怯えを見せていた。
「……あー」
ネックレスを見てそう呟くヴェインハットの雰囲気には、強い同情が含まれていた。
「何その態度!? え? これ呪いか何かなの?」
ヴェルキスが慌ててそう尋ねると、ヴェインハットは首を横に振った。
「いや。そういうわけじゃない。だが……呪いの方がマシかもしれんな。そろそろ回復したから降りる。悪かった」
そう言ってヴェインハットはサリスの背から降りた。
「おう。気にするな仲間だろ。……正直セクハラしてくるかと思ったが……んな事はなかったな」
「え!? してよかったんですか!?」
「したら全身の骨が折れるまでぶん殴っていた」
にっこりとした笑顔でそう答えるサリスには、かならず実行するという凄みが現れていた。
ヴェインハットはした方が良かったかしなくて良かったか。
その答えが出ず深く思考していた。
「んで、呪いの方がマシってどういう事だヴェイン」
「ああ。それはですね先輩、闘争神のお気に入りのサインみたいなものだと思って下さい」
「は? え? 何で?」
「さぁ? 確かに先輩は気に入られそうな要素が多いですけどそこまで気に入られるとは思ってなかったんだが……」
「気に入られる要素ってどんなんだ?」
「戦いに身を委ねる善人。闘争神は戦い続ける人生である上に、困っている人を助けずにはいられない人間性、格上相手にも怯まない度胸、竹を割ったような性格の人間を好む」
「……あー。うん、確かに俺は戦いから離れられないな」
呪いでしかない自分の剣を見つめ、ヴェルキスはそう呟いた。
「ちなみに……残念ながらそのネックレスを付ける事での恩恵は一切ない。ただ闘争神が天から先輩を見つけやすくなるだけの道具です。……本当ケチくさい」
ぽつりとそう呟くその言葉に、テオとエージュは苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべた。
「……あ。でもさ、一応神様からのギフトなんだし、高い値が付くんじゃない?」
プランがそう言葉にすると、テオとエージュは再度同じような酷い顔となり、プランを信じられない物を見るような目で見つめた。
「……その発想はなかった。頭良いなプラン」
ヴェインハットがそう言葉にすると、プランはえへへと嬉しそうに笑った。
「というわけで一応だが地上では作れない神器であり神が直接渡した物だからそれなりには価値があるから売るって選択肢は多いにありだな。というか俺はその選択を推奨したい」
「どうしてだ? ネックレスを付けてたら何か悪い事でもあるのか?」
「いや、まったくない。逆に言えば付けていても何一つ良い事がない。俺はただ神の見世物に先輩がなるという状況が気に入らないだけだ。せめて見物料くらい貰ってもバチは当たらんと思うんだがな」
そう吐き捨てるヴェインの言葉を聞き、ヴェルキスは微笑み首を横に振った。
「いや……悪くない。神様が楽しんでくれるのならさ、俺のこの下らない戦いに明け暮れる人生にも少しは意味が出るだろうしな」
その笑顔は嬉しそうではあるが、見る者を酷く悲しくさせるような、そんな笑顔だった。
「……闘争神は善良で規律に厳しい人を好む。先輩がずっとがんばれば……何とかしてくれる可能性もありますよ」
ヴェインハットはぽつりと、そう呟いた。
「んじゃ次に俺の番だ。結局さ、信仰心を捨てろって言ってたけどどういう事だったんだ? あの神への戦いを捧げる言葉が悪いとは全く思えないのだが……」
テオがそう尋ねると、ヴェインハットは少し困ったような雰囲気を醸し出した。
「あー。そうか、あれじゃあわからなかったか……。まあ簡単に言えばだな。俺には信仰心というものが欠片もない」
「ああ。それは今理解した」
この世界は神が作ったものである。
その為、強弱こそあれど世界中ほぼ全ての人、それこそノスガルドだけではなく魔王、魔族を自称しているディオスガルズですら神に対する信仰心を持っている。
ただ、それは洗脳などではない為当然ながら例外も存在する。
救いの声が届かなかった者や、地獄を経験した者、そしてヴェインハットのように生まれながら神に対し猜疑心を持つ者達も、当然ながらこの世界には存在している。
「そして……俺は目的の為ならあらゆる手段を選ばない。だから俺は神を利用する方法を幾つか調べ使えるよう備えている。今回のようにな」
「……あー。神様を私的に都合よく使うから俺に信仰心を捨てておけって言ったのか」
「そういう事だ。……幻滅したか?」
「いや別に。むしろお前らしいっちゃらしい」
苦笑いを浮かべながらそう言葉にするテオ。
そして、ヴェルキス含め全員がそれにうんうんと同意し頷いた。
「……信仰心がない俺をどうにかしようと思わないのか? それこそ、昔なら魔女狩りにされても文句はないような事だぞ」
「六神以外の別の神様を信仰しているとかはないよな?」
「ないな」
ヴェインハットがそう答えると、テオは微笑んだ。
「んじゃ問題ない。クリア神も自分を崇拝しろ何て言っていないしな。出来る事を一生懸命やって毎日頑張れ。疲れたら休め。クリア神の教えを俺はそう学んだぞ。それ以外は些事だろ」
「……そうか。お前らもそうなのか?」
その言葉にエージュは困った表情を浮かべた。
「世界をお作りになった六神を崇拝してもらいたいですが……それよりも今を大切にしている方に無理強いするつもりもありません。間違いなく、それも正しい生き方ですもの」
「貴族ってもっと厳しいもんだと思ってたわ」
「厳しいですわよ。ですが、他人を厳しく律し自分の考えを押し付けるほど私は恥知らずにはなれませんので」
「そうか。エージュ様は良いお貴族様になるな」
ヴェインハットは嫌味でも何でもなく、本気でそう思い言葉にした。
「ところで、どうして私は様付けなのでしょうか? 別に貴族である前に冒険者仲間ですから呼び捨てで構いませんよ?」
「え? いや何となく気品あふれるからそう付けたいだけですが」
その言葉に、エージュは少しだけ嬉しそうな表情を浮かべ、こほんと一つ咳払いをしてそっぽを向いた。
「え!? そ、それなら仕方ありませんわね。私の気品に似合う呼び方であるなら無理に変えろなどと言うつもりは毛頭ございません。是非自由に呼んでくださいませ」
頬を染めそわそわするエージュはやけに嬉しそうなのと同時に、やけに挙動不審となっていた。
「お前もお前でわかりやすいやっちゃなー。んで、俺達は別に信仰心があろうがなかろうが気にしないよな?」
その言葉に、プランとヴェルキスは頷いた。
ミグは欠伸をしていた。
「そうか。……ま、神様を都合良く使っておいてなんだが……あの手は極力使わないようにするさ。二つほど欠点があるからな」
「まあ大いなる存在を利用するなんて考えだからうまく行く可能性があるだけでも凄いんだが……。欠点って具体的に言えばどんなのだ?」
テオの質問にヴェインハットは溜息を吐いた後答えた。
「一つは、確実性が薄い事だ。神様が気に入らなかった。気に入ったけど見るのが面倒な気分だった。後、もっと気に入った戦いがあるから放置された。そんな風に状況や気分一つで失敗する策は出来たら取りたくない。それでも、リターンが多いから必要ならがんがん使っていくがな」
「なるほど……もう一つ――」
そうテオが尋ねようとした瞬間、キラッと、空に小さな光が映った。
その光はそのまままっすぐこちらに落ち、そしてヴェインハット目掛けて――。
ぺしーん。
間の抜けた音と同時にヴェインハットは手の甲を抑え、小さな声で悲鳴を殺しながら地面にゴロゴロと転がった。
「……な、何があったんだ?」
首を傾げるテオに、ミグはそっと何かを見せた。
「ん……。これ」
それは銅貨だった。
「……その銅貨がどうしたんだ?」
「さっき、空から落ちて来た……」
「は、はあ? いやまじで何が起きたんだ?」
理解出来ず首を傾げ続けるテオに、痛みで涙目になりぴょんぴょんと跳びながらヴェインハットは手の甲を見せた。
そこには真っ赤な丸い痕、具体的に言えばさきほどの銅貨の形状ぴったりの痕が残されていた。
「これがもう一つの理由。俺は悪い意味で目を付けられているからな。利用した後は直接バチを当てて来やがるんだ。全く小さい存在だよな世界を作った癖にさ」
恨みと怒りを込め涙目のままそうぼやくヴェインハットを見て、テオは苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。
「因果応報って……本当なんだ」
ミグはぽつりと、そう呟いた。
「……少し良いか?」
数時間ほど歩きそろそろ正午になろうという時に、少し離れた位置にいたクコが全員にそう切り出した。
「どしたのクコ君?」
「君は止めてくれって前言ったつもりだが……」
「いや、やっぱり呼びやすくて……。ごめん悪気はないのよ」
全く悪びれもせずにそう答えるプランにクコは溜息を吐いた。
「……相談だが、そろそろ野営の準備をした方が良いと愚考する」
「は? まだ昼だぞ?」
サリスが何を言っているんだこいつはみたいな表情でそう呟く。
それに対し、ヴェインハットは首を横に振った。
「俺もクコと同意見だ」
そう言ってヴェインハットは空を指差した。
「……別に何の変哲もない青空だぞ?」
サリスはそう答えた後何かに気づいたプランとミグは鼻をすぴすぴ動かし、その後首を横に振った。
「……確かに、雨の気配がする。それも結構酷い感じの」
プランの言葉にミグは頷いた。
「うん……濡れるの……や」
そう言った後ミグは首を横にふるふると動かした。
「……こいつらが言うと何か説得力あるな。野生的な意味で」
「あら? 最も野生的なお方はそのような気配感じないのですか?」
からかうような口調で尋ねるエージュにサリスは苦笑いを浮かべた。
「俺は雨の中でも走って獲物を取るタイプだからかね」
「なるほど。それなら納得ですわね」
エージュは楽しそうに微笑みながらそう答えた。
「というわけでクコ君。言い出したんだし何か意見あるよね?」
「ああ。少し迂回する事になるがそこに豊かな森がある。そこなら雨避けも楽だし獣もいるから野営の準備もしやすいだろう」
クコの言葉に全員は顔を見合わせ、同意を示すように頷いた。
「先輩、それで良いですかね?」
冒険者の先輩であるヴェルキスから意見を貰おうとテオがそう尋ねる。
それにヴェルキスは同意し頷いた。
「ああ。ただ……日にちに余裕はあるが雨が長引くようならそれも怪しい。どこかで無理をしないといけなくなる。拠点が出来たらその相談と準備もしておこう」
その言葉に全員が頷き、クコを先頭に早足で森に向かった。
ありがとうございました。
更新が遅れ、申し訳ありませんでした。




