3-7話 神から与えられた使命4
プラン達は緊張した様子で窓から昨日とは打って変わった寂し気な街並みを見つめた。
まるでゴーストタウンのような雰囲気なのは早朝である事とは一切関係がなく……その原因は言うまでもないだろう。
素行の悪そうな恰好をした男が五人、閑散とした道を堂々と歩いていた。
男達は串焼きや唐揚げなど、昨日プラン達が食べた物を大量に持っていた。
ただ、彼らの食べ方は汚いという言葉すら使うのがはばかられるほど酷かった。
一人で五本も六本も大きな串を持っている為か一切口にしていない串をぽろぽろ地面に落とし、それを笑う。
他の食べ物を持っている者達も、どうしてそんなに落とすのかという位ぽろぽろ地面に落としながら食べ歩いていた。
その上、中身が残ってようがなかろうが飽きたらその容器をその辺や民家の壁に叩きつけゲラゲラと笑っていた。
「……見事なまでの三下ムーブだな」
ヴェルキスは苦笑いを浮かべながらそう呟く。
威圧の為にあんな態度を取ったとしても恰好悪い事なのだが、彼らの場合はそんな事すら考えていない。
あれは彼らにとって素の行動でしかなかった。
「くっだらねぇ。食べ物大切にしないなら盗賊になんてなるなよ」
サリスは強烈なまでの怒りを顔で表現し、そう吐き捨てるように言った。
一応ではあるが領主である為、サリスは食うに困って盗賊などになる者達の事を知っている。
というよりも、このメンバーでそれを知らない者は一人もいない。
そして、そんな彼らの事を気に食わないと思わない者もまたこのメンバーにはいなかった
「……気持ちはわかる。だが、ここは待機だ。出て行く事は許さない」
テオはそう言葉にした。
「あん? どうしてだ?」
出て行ってぶちのめす事を考えていたサリスは露骨なまでに不満を露わにする。
それくらい、彼らの存在がサリスは気に食わなかった。
「見つかるとまずいからだ」
「誰にだよ?」
「あいつらの親玉にだよ。拠点の防衛を整えられたら任務は確実に失敗するだろ」
「バレないようにこの場で皆殺れば良いんだよ」
サリスは堂々とそう言い放つ。
それに合わせて、まるで部屋の温度が下がったかのように冷たい、不穏な空気となる。
「……却下だ」
テオは沈黙の後、そう言葉にした。
「どうしてだよ?」
「理由は山ほどあるが……まず最大の懸念である全員殺しきれるかだ。ヴェルキス先輩。どう思いますか?」
その言葉にヴェルキスは少し考え、そして首を横に振った。
「実力で言えば俺一人で五人殺す事は可能だ。相手が逃げないなら絶対に勝つ自信があるぞ。だが……悪いが逃げられない保証はない。全員で戦った場合でも負ける事はないだろうが……ぶっちゃけて言うが俺一人で戦うより逃げられる可能性があがる」
目視での実力を計り、ヴェルキスはそう言葉にしサリスは不満を表すように舌打ちをして見せた。
その見事なまでの三下ムーブと愚かな人間性とは異なり、彼らは食いはぐれの盗賊とは比べ物にならないほどの実力を身に秘めていた。
そしてそれはただ強いだけでなく、生き残る事に特化した強さでもある。
だからこそ、ヴェルキスは勝てるけど逃げられる可能性が高いという評価を下した。
「ついでに言えばたとえ成功したとしてもその場合この町が盗賊から疑われ、今回の比じゃない被害を受ける可能性もあるんだ。だから……待機するしかない」
テオの言葉に、誰も何も言わなかった。
言えなかった。
そう言葉にするテオ自身が、とても納得しているようには見えなかったからだ。
この中で、テオだけが現状を正しく把握していた。
正しくはプランとミグも理解しているのだが、二人の理解している内容とテオの理解している内容では天と地ほどの差が存在する。
今回の依頼は、神からの使命である。
それを達成する為にプランとミグはやる気になっているが、テオは違う。
『失敗すれば世界が終わる』
テオはそのような心掛けで任務に臨んでいた。
ちなみに、このテオの考え方は決して間違っていない。
神が直接地上に影響ある行動を取るという事――それはつまり人類存続にかかわる大事件であるという事に他ならないからだ。
プランはワイスという妖精と共に時間を遡るという感覚を味わったが為にその特異への感性が常人ではありえない程に鋭くなり、その為神を含む特異な事が身近に感じられるようになってしまったが故色々と麻痺していた。
ちなみに、ミグはただ単純に関心が薄いだけである。
教会に行けば何となく自然と手を合わせるが、同時に今日の夕飯の事を考える。
ミグにとって神とはその程度の存在であった。
「……俺としては命令を聞く立場だから何も言わない。だが……テオ。それで良いんだな?」
そう言ってヴェルキスは五人組とはまた別の盗賊の男を指差した。
その男は泣いている少女を下卑た笑みで引きずっていた。
サリスとエージュは声にならない声を出し怒りで顔を赤くする。
プランとテオは逆に顔を青くさせていた。
計六人となった盗賊は何やら話し合っているようだった。
どうやら男の連れてきた少女について何か言っているようだ。
「……遠くて聞き取れないか」
ヴェルキスがそうぽつりと呟くと、うとうとしたままミグは手をフラフラと宙に動かしぐねぐとクラゲのような動きを始める。
「……ふぁー」
大きな欠伸をした後、少しだけ目を開き小さな声で言葉を紡ぎだした。
「……女の子が小さすぎるとか。趣味が悪いとか。ヤれればどうでも良いとか言ってる……」
ヴェルキスが顔に手を当て、盛大に溜息を吐いた。
「助けるぞ」
サリスがそう言葉にすると、テオは首を横に振った。
「ダメだ」
「じゃあ見殺しに……いや、死ぬだけじゃすまない目に遭うのを放置しろって事かよ?」
その言葉に、テオは何も言い返さなかった。
「おい。見殺しにしたいならせめて何か言えよ。おい!」
「サリス。声を抑えて……」
プランは今にもテオに掴みかかりそうなサリスを抱きしめて動きを止め、優しくそう言葉をかける。
「プラン。お前はどうなんだよ。お前はこいつみたいにあの子がどうなっても良いってのかよ!?」
サリスの心からの叫びに対しプランは悲しそうな顔で首を横に振り、そっとテオを指差した。
テオの手は震えていた。
力を入れて握り過ぎたのか、その手からはぽたぽたと血が流れ、床に血だまりを作っている。
表情こそ冷静そのものだが、テオの心境を察するには十分だった。
「お前……」
「任務は失敗するわけにはいかない。たとえあの子を見捨ててもだ」
鬼気迫るとしか言えない表情で、テオはそう言葉にする。
自分が凡人であるからこそ、テオは今まで様々な苦痛を経験してきた。
だからこそ、自分の助けられる範囲が限りなく狭い事をテオは自覚していた。
それがとても悔しくて、気に入らなくて……それでも、変えられないとテオは痛いほどわかってしまっていた。
「優先順位を付けなければいけない……。この依頼は俺が死んでも……いや、家族を犠牲にしてでも成し遂げなければならないんだ……」
テオは英雄ではない。
自他共に認める凡夫である。
だからこそ、テオは全てを賭け依頼に臨んでいた。
その理由を理解出来る者が誰一人いなくても……。
そんなテオの気迫に飲まれている中……事態は更に最悪な方向に進んでいた。
「……おい」
ヴェルキスは絞り出すような声でそう呟く。
その言葉に合わせて、全員は盗賊達の方を見た。
さきほどよりも移動してかなり遠くにいるが、それでも全員が目視出来る範囲に盗賊がいた。
盗賊と、暴れながら泣いている女の子と……盗賊に一人で立ち向かう男の子。
男の子は少女を助けようと挑みかかり、そのまま地面に思いっきり倒される。
そして、六人は代わる代わるその男の子を全力で蹴飛ばした。
ここまでかなりの距離がある。
だが、その距離であっても、女の子の絹を裂くような悲鳴が届いた。
「……私もテオと同意見」
プランはぽつりと、そう呟いた。
「この依頼は達成しなければならない。私が受けた、責任ある依頼だから。でもね、でも……それでも……私は助けたい。だからお願い。……力を貸して。あの子達を助けて」
プランはさっきからずっと黙っているヴェインハットに向け、そう言葉を紡いだ。
「……どうして俺に言った?」
ヴェインハットは鷹のように鋭い目でプランを睨みながらそう言葉にする。
「正道のヴェルキス先輩は難しいって言った。積み重ねの実績があるテオは無理と言った。エージュは諦め、サリスは何も考えられないほど怒ってる。ミグちゃんはムラッケが強いし朝弱いから人助けに向いていない。それに何より……この場をどうにか出来るとすればそれは貴方だけと思ったの」
プランは正直に、思った事を口に出した。
「そうか。……先に前提条件をクリアしておこう。出来るとは言い切れないが手がなくはない。ただ……俺から要求は二点ある」
そう言った後ヴェインハットはテオの方を向いた。
「テオ。時間がないから最短で答えろ。あの二人を助ける為に何を捨てられる?」
「依頼にかかわる事以外なら何でもだ。あの子達を見捨てる覚悟はあるが……酒も飯も一生楽しめん」
「そりゃ大問題。……テオ。あんたのその神様への信仰心は美徳だ。俺も尊敬している。だからな……それを捨てられるか?」
ヴェインハットの言葉にテオは少しだけ驚き、そして頷いた。
「人助けの為なら俺の信仰を捨ててもクリア神は怒らないであろうな。一時的か? 一生か?」
「助けるまでで良い。信仰心から見れば俺の行動は邪道だからな。ぶっちゃけテオは邪魔さえしなければそれで構わんぞ。……これで一点目はクリアだ」
そう言った後、ヴェインハットは帽子を少し上げ、鋭いその目でヴェルキスを見据えた。
「……何をすれば良い?」
ヴェルキスがそう尋ねると――ヴェインハットはばっと音を立て、ヴェルキスに深く頭を下げた。
それは見事なまで美しい、ホテルマンのような頭の下げ方だった。
「俺が何か良い感じにそれっぽい事を言ってかっこ良いムーブするんでその後戦闘の方おねしゃす!」
「……は?」
「いや、まじで俺がこう……なんかふんわりと良い感じにあの子ら救った上に盗賊の本拠地に見つからない感じにするんで実際の戦いの方をこう……何か良い感じに」
ぽかーんとした表情の後、ヴェルキスは笑った。
笑う事が出来ていた。
「ははっ。なんだそりゃ。……そんなんで俺達が誰も出来なかった事を出来るのか?」
ヴェルキスの質問に、ヴェインハットはコートをばさっとかっこつけて着込んだ。
「教えてやろうではないか。出来る奴に頼る俺の強さを」
「お前大物になるわ」
ヴェルキスは苦笑いを浮かべながらそう呟いた。
あまりに自信満々な上、何時もと全く態度の変わらないヴェインハットの様子に、全員は少しだけ笑え、同時に頼もしく思えた。
それと同時に、全員がヴェインハットを頼もしく思った事が無性に悔しかった。
血まみれでも盗賊の足を掴もうとする少年。
自分の事は好きにして良いから止めてくれと叫ぶ少女。
それを嘲笑う盗賊達。
最低最悪ではあるが、その光景を見てヴェインハットは安堵した。
少年が生きている事はもちろんとして、心も死んでいないからだ。
少年は少女を助ける為、命を捨てるのではなく、命を賭けて何かを成そうとしている。
そして横にいるのは不運に見舞われた嫌われ者のお人よしの先輩。
この時点で、ヴェインハットは作戦の成功を確信していた。
「いい加減飽きて来たな。……このオス殺せばこいつも少しは静かになってやりやすくなるか」
「どうでも良いけど早くしろよ。ボスに黙って出て来て、しかもボスの命令無視してこんな事しようとしてるんだから見つかったら俺達がやべぇぞ。全く。せっかくの外出で何でガキなんだよ」
「良いんだよガキで。楽だろ? ほれ、さっさと殺そうぜ」
そう言いながら剣を抜く盗賊。
泣き叫び止めて欲しいと懇願する少女。
そんな状態であっても、少年は盗賊の足を掴む手を決して離さなかった。
「……ああ。色々かっこいいムーブしようと思ったが……止めた止めた。どうやっても少年よりカッコよくなれる気がしないわ」
そう言いながら帽子を片手で抑えながらヴェインハットは姿を見せる。
「あーあ剣の血拭くのめんどくせぇだろうなぁ……。んあ?」
盗賊の一人がヴェインハットに気づき、威圧するように睨みつける。
だが、ヴェインハットは盗賊達の反応を全て無視をし、ゆっくりと盗賊達に歩み寄った。
明らかにカタギではない風貌の男が、一切無言で近づいてくる。
それは盗賊達がヴェインハットの方を注目するに十分な迫力があった。
そして、全員がヴェインハットに注目しその一挙一動に用心しだした瞬間、ヴェインハットは盗賊達の方にぽいっと何かを投げ、それは盗賊達の足元に転がった。
ジジジと音のする、導火線のついた丸い球。
それはどう見ても爆弾だった。
「はぁ!?」
盗賊の一人が現状を理解し声を荒げる。
その直後、他の盗賊もそれを理解してんやわんやと慌てだした。
「おい! 早く投げろ!出来るだけ遠くにだ!」
その言葉を聞き盗賊は誰が爆弾を拾うか言い合い、爆弾に一番近い盗賊が慌てて爆弾を拾い必死に投げ、そして全員が地面に伏せた。
「……バーン!」
「ひっ!」
ただ叫んだだけなのだが、爆発すると思い込んでいる盗賊達はヴェインハットの声を爆発音だと勘違いし、小さく悲鳴を上げる。
ヴェインハットはそれを嘲笑った。
「……嘘だよ馬鹿が」
「……は?」
盗賊達は現状が理解出来ず、地に伏せたまま顔をあげ目を丸くさせていた。
盗賊達はヴェインハットの姿を見た。
その両脇には、血まみれの少年と少年の手を握り続ける少女の姿があった。
「……あーあ。俺もこいつ位恰好良かったらモテてたかねぇ」
ヴェインハットは本気でそう呟いて悔しがり、二人を影で隠れているプランに預けた。
「後は頼む」
「そっちもお願いね」
それだけ言って、プランは二人を連れてその場を離れた。
「……さて、貴様らに言っておこう。言いたい事は三つだ。一つ、オスなのは人間ですらなく畜生なお前らだ。二つ、偽物の爆弾に怯える気分はどうだった? 三つ、弱い者虐めしか出来ない惨めな生き方をしているのってどんな気分なんだ?」
その言葉で、ようやく盗賊達は一つだけ理解出来た。
自分達は馬鹿にされているんだと……。
「殺す。殺してばらしてさっきいたコイツの仲間犯して殺してやる」
殺意と怒りに溢れ、盗賊達はヴェインハットを睨みつける。
口調はチンピラ、頭は悪い。
だが……非常に残念な事に、このチンピラ共は腕も経験も達者だった。
――怒りながらでも冷静に剣を抜く仕草、爆弾を見て投げしゃがめるだけの場慣れ。完全に格上だな。
ヴェインハットはそう現状を分析した。
とは言え、そもそも実力分析などどうでも良かった。
ヴェインハットは戦うつもりなど最初からないからだ。
自分の実力が低いとは言わない。
だが、見習い冒険者である自分が盗賊六人相手にしてやすやすと勝てるなんて思い上がりをするつもりもなかった。
そしてヴェインハットは、自分の最後の仕事を行う事にした。
正直に言えば、それを行えばどのような事態になるのかわからない。
だが、それを行い勝てば盗賊の拠点にバレる事もなければこの町が後で犠牲になることもない。
そんな都合が良すぎるとしか言えない方法をヴェインハットは知っていた。
正しく言えば……多くの人が知っているが利用する事が出来ないその方法をヴェインハットは利用する事が出来た。
ヴェインハットは目的の為なら手段を選ばないタイプだからだ。
ヴェインハットは今にも襲って来そうな盗賊達に若干怯えながら息を大きく吸い、そして叫んだ。
「少女を護る為に戦い抜いた少年、その少年少女を護る為に立ち上がった英雄。その戦いを――闘争神グリンに捧げる!」
そう叫んだ後、ヴェインハットはボウガンではなく通常弓を取り出し、天に向かって矢を放った。
その瞬間、場の空気が変化する。
さっきまであった盗賊達の支配する暴力の空気は、もっと重たい暴力の……それでいて高揚とするような闘争の空気へと変貌する。
――良し! 来やがったバトルジャンキー! 後俺のする事は一つだけだ!
ヴェインハットは……わき目もふらず盗賊に背を向け全速力で逃げ出した。
そのフォームは……恐ろしいまでに綺麗であった。
「先輩、後はオネシャス!」
「うむ。任せるが良い」
影に隠れていたヴェルキスはケラケラと楽しそうに笑いながらそっと姿を現し、その剣を抜いた――。
「ぜはー。しんど……ああしんど……ちくせう。もっと恰好付けるつもりだったのに少年がかっこよすぎて全てもってかれた。町の女の子にキャーキャー言われるコースが……いやないな。人任せだったし。んでプラン。少年の怪我はどんな感じだ?」
ヴェインハットは地面に寝転がりながら、そう言葉にする。
「ん……。酷い傷。後遺症とかそういう次元じゃなくて……今日生きるかどうかって位だって言ってた」
「そうか……いや。そうだよな……。今はどこに?」
「家の方にいるよ。家族とあの子とお医者さんに見られながら」
「……責めて良いぞ。お前がもう少し早く動いていたらあの子が怪我しなくて済んだって」
ヴェインハットが寝ころびながらそう言葉を発する。
その顔はいつもと同じように見えないが、見なくても悔やんでいる事くらいは理解出来た。
「言わないよ。むしろ、無理を言ってごめんね。そしてありがとう。あの手、あんまり使いたくなかったんでしょ?」
何をしたのか良くわかっていないが、ヴェインハットの様子から問題はなくなったと理解したプランはそう言葉を発した。
「……まあな。神様ってのは気まぐれなもんだ。だからさ、上手く行くかわからなかった。理由はそれだけじゃないが、やはり確証のない作戦ってのはあんまりやりたくなくってな。今回上手くいったのは……あの少年の戦いが神様すら感動させるほど尊かったに過ぎない」
「そか。……んでさ、結局の話、闘争神に戦いを捧げたらどうなるの? その戦いから逃げる事が出来なくなるのは知ってるんだけど」
「勝敗が付いた時勝者の状況が悪かったら勝者に都合の良い展開にしてくれる。特にその戦いがより神を喜ばせる物であればあるほどその効果は大きい」
「じゃああの子の傷とかどうにか……」
「無理だろうな。俺もそれに期待してた部分があるんだが……今奇跡が何も起きてないなら駄目だわ。神ってのはこちらの都合の良い様には動かない。そういう存在なんだよ。あの盗賊達は……まあ、言わなくても良いか」
あの盗賊達が誇りある戦いをするとは思えない。
むしろ、誇りなく敗走し神の怒りに触れてくれた方が都合が良い。
その方がこちらの心象がより良くなるからだ。
「おまたせ。終わったぞー」
ヴェルキスは悠々とした表情でそう言葉にした。
「おつかれっす先輩。あざっしたー」
地面に倒れたままヴェインハットはそう言葉にする。
「おう。何か途中で盗賊達全員に雷が落ちてさ、茫然とした様子のままふらふらと馬に乗ってここを去っていったけどこれで良かったか?」
その言葉にヴェインハットは神が自分達の存在した証拠を隠滅してくれた事を理解した。
「うぃっす。完璧っす。乙っしたー。あー気疲れした」
ヴェインハットはそう言った後、足をばたばたさせた。
闘争神グリンの落雷には記憶を消す事も、相手を意のままに操作する事も出来る。
勝者であるヴェルキスの望みと少年の献身を考えるに、盗賊の拠点に自分達の情報が洩れる事と盗賊達がこのガダルスナに報復する可能性は完全になくなった。
何よりその保証を、世界で最も偉大なる六つの柱がしてくれたのだから。
そう思った後、ヴェインハットは『下らない』と考えた。
「んでヴェイン。もひとついらぬ苦労買ってみない?」
プランがニコニコしながらそう尋ねて来た。
「あん? 俺もう疲れたんだけどー」
「いやー、今は何もしなくて良いよ? たださ……これ」
そう言いながらプランは真っ赤な液体の入ったガラス瓶を見せた。
それは治癒薬だった。
それも即効性があり、そして非常に高価な、それこそ高貴な領主や王が使うような代物だった。
プランがそれを持っているって事は、どう使うか理由はわかりやすいだろう。
「ヴェルキス先輩に借りました」
「あげたつもりだけど貸した事になりました」
「というわけでさ、借りたという事は使えば借金になるという事です」
その言葉にヴェインハットは顔を顰めた。
「当然私は払いますが、一緒に払いませんか?」
「……意味は」
「ないです。ヴェインが一緒に払おうが払うまいが、私はどっちにしても使うつもりですので」
「あのおにゃのこに使うならともかく、あの少年の為に俺が?」
「うぃ。そう。恰好良かった少年の為に」
「……なんで俺が野郎の為に身を粉にして働かないといけないのか。全くもって気に食わん」
「あら? じゃあ払わない?」
「払うに決まってんだろ」
その言葉に、プランはくすっと小さく笑った。
「ふふ。今のヴェインなら普通に恰好良かったよ?」
「プランに言われてもあまり嬉しくないなぁ……」
その言葉にプランは笑いながらヴェインハットをげしげしと蹴飛ばした。
「止めい」
「うぃ。じゃ、ちょっくら行ってくるね」
「あ。待ったプラン。その借金って何分割だ?」
「……言わなくてもわかるでしょ。私達のグループに恰好悪い人いると思う?」
「そりゃそうだ」
そうヴェインハットが答えた後、プランは急いで少年の家に走って行った。
「……あまり嬉しくないって言った癖に、口元はにやけてるんだな」
ニヤニヤしたヴェルキスの言葉に、ヴェインハットはさっと顔をヴェルキスから逸らした。
「……口元はいつも隠しているつもりだが……」
「カマかけたけど正解だったようだ」
嬉しそうにそう言葉を放つヴェルキスにヴェインハットは責めるような目を向けた。
「女性として意識出来ないほど子供っぽい女の子でも、やっぱり女の子に褒められたら嬉しい。それが俺だ」
そんな本音を語るとヴェルキスは楽しそうに笑う。
笑われているヴェインハットは、苦笑いを浮かべながら大っ嫌いな空を見た。
ありがとうございました。




