3-6話 神から与えられた使命3
「うん。これもやっぱり美味しい……」
三件目の屋台で肉を買い口に運んだプランは怪訝な顔をしてそう呟いた。
「そりゃ旨いさ。俺が作ったからな」
屋台の男は誇らし気にそう呟く。
確かに肉の焼き加減は絶妙だが、旨い理由はそれだけではない。
今まで食べた三件の屋台全ての肉が異常なほど柔らかく、そして肉に臭みが一切なく旨味が強い。
それは当然畑仕事を任せられるような馬の出せる味ではなく、完全に食用で育成された馬の味だった。
「美味しいのは……良い事、だよね?」
横でそう呟くミグにプランは困った顔のまま頷いた。
「う、うん。確かに良い事だけど……」
何てことないただの『どうして?』という小さな疑問が残る程度の事態ではあるのだが、全く不安にならないかと言えば嘘になる。
そんなどこか一抹の不安を抱えながら、プランは町を彷徨った。
それはそれとして、肉は美味しいし安いのでプランとミグは屋台巡りの肉比べをしっかり楽しんだ。
そこもとても美味しかった。
「……おや。あれは?」
七件目の馬の唐揚げをミグと二人でつまんでいる時、二人はクコの姿を見た。
ニコニコとした愛想笑いで下手に出て情報収集をするその姿はプランが見た事のない姿だった。
「はえー。ああやって作り笑いをしてまで情報集めるのか……。凄いなぁ」
「……作り、笑いなの?」
「うん。間違いなく。クコ君……クコが笑う時はもっと皮肉めいた笑みになるから」
「ふーん」
ミグは興味なさそうに唐揚げに手を伸ばした。
「……はい。……ありがとうございました。勉強になりました」
ニコニコしながら深くお辞儀をした後、クコはこちら側に気づきどことなく気まずいような顔をした。
「……よう」
片手を上げてそれだけ答えるクコの様子はさきほどまでと打って変わり、何時もの様に口がハの字となっていた。
「やっほ。どう? 順調?」
「ああ。と言っても、この辺りはまだ盗賊の被害が少ない……いや、馬が全滅しているから少ないと言うのは失礼か。それでも、略奪が非常に少なく盗賊の訪れた頻度は少ないから大した情報はなさそうだ」
「……うん、その馬についてなんだけど……ちょっと気になる事があって……」
「ふむ? 言ってみろ」
クコに真面目な表情でそう尋ねられたプランは、自分達が食べた肉が全て食用肉であるという事実をクコに伝えた。
「……そんなわかるものなのか?」
「わかるよ。唐揚げとかなら技量で誤魔化せる場合もあるけど、串焼きとか加工が焼いただけならどんな技量でも誤魔化せないよ。まず固いしこんな旨味出ないもん」
「ほー。なるほど。俺には気づかないアプローチの仕方だ。少しだけ参考になった。……わかった。そっち側も少し調べてみる。大丈夫だとは思うがお前も用心しろよ?」
「うん。でも、そこはお前らじゃないの? ミグちゃん無視するのは可哀想だよ」
そうプランが答えると、クコは可哀想な物を見る目でプランを見つめた。
「……え、いや、うん。そうだな。……ミグ、何かあったらそこの基本善人な狂人助けてやってくれ」
クコにそう言われ、ミグは唐揚げを食べながらしっかり頷いた。
「……え? 私そんな評価なの?」
プランが不満げな顔でそう言葉にするも、クコは訂正もせずすたすたとその場を去っていった。
「……ミグちゃん。私善人な狂人って感じなの?」
「……でも、プランはパン作りが凄いから」
肯定も否定もしないミグにプランは目を細め、じとーっと見つめた。
ミグは全く気にせず自分のペースで唐揚げを口に運び続けていた。
日が落ちかけ世界が赤く染まりだした頃、胃袋が悲鳴を上げだしプラン達は宿に戻った。
これは夕飯は当然夜までお腹空かないな。
そう感じるほど、プランの胃袋には肉がつまっていた。
テオが取ったのは一部屋だけだった。
ただし寝室が備え付けられている為寝るときは女性陣は寝室、男性陣はリビングで別れて寝る事が出来るが。
テオと共にいたエージュは男女別室となる事を何度も要求したが、これが冒険者の流儀である事に加えてこれから野宿などで共に寝る事すらあり得る為、慣れる事も兼ねて一部屋である事の重要性を説いた。
「というわけで各自情報を集めてもらったわけだが……比較的平和だからかたぶん碌な情報はなかっただろう」
全員が集まっている場で、テオはそう言葉にした。
実際その通りで、この町ガダルスナが盗賊により受けた被害は極少数で、その代わり盗賊の情報はほとんどなかった。
「まあ……それでも全く被害がなかったわけじゃないけどな。……その恩恵を預かっておいてなんだが」
サリスは気まずそうにそう言葉にした。
おそらくだが、屋台巡りではしゃぎまわった後に馬の事実を知ったのだろう。
「……その事だが、色々と面白い情報を聞いた。盗賊騒動とは全く関係ないが、聞くか?」
クコがそう言葉にすると、全員が頷きクコに視線を集中させた。
「まず、最初疑問に思ったのはプランだ。理由は仕事に使う馬を食ってもここまで美味くならないという疑問からだそうだ。……俺にはさっぱりわからなかったが……」
クコの言葉にエージュとプラン以外の全員がそりゃそうだという顔をした。
「私は食べてませんので絶対とは言えませんが、たぶん私も食べたらわかりましたわ。食用の馬をうちの領は飼育していますので」
「なるほど。そういうものなのか。まあそんなわけでその事を少し調べてみたんだが……結果として言えば、町民全員騙されているって事だな」
「は?」
全員が同じような間の抜けた顔となった。
クコが調べた結果、確かに町民が加工している肉は食用の馬肉だった。
更に言えば、村人誰一人馬を解体しておらず、しかも解体した現場を見ていない。
そして、解体を行ったのは町長の確保する護衛兼の私兵だそうだ。
町長はどこからか決して安い訳ではない大量の解体したての馬肉を用意し、それを見せて馬を全部解体した町民に伝え肉を分け与えた。
それは全て、町長が仕組んだ事だった。
「一体どうしてそんな意味のわからない事を……」
テオはそう呟いた。
「わからん。だが、一つわかるのは町長は盗賊がいなくなった後の事を考えて行動しているという事はわかる。……それでも、ちょっと俺にはわからない部分があるが」
そう言った後、クコは続きを話し出した。
大量の馬肉という決して安くない物を買う為のお金はどこから出したかと言えば……一つ、それに相当する物が町には残っていた。
そう、労働用の馬である。
町と共に暮らしてきたガダルスナにはそれなり以上に馬を使う経験があった為町の馬達には怪我一つなく健康体そのものだった。
その馬を質に入れて金を集め、その金と元々町で蓄えていた金銭をごっそりと使って馬肉を購入し、町民に分け与え祭りとなるよう誘導した。
「とまあ、後半ほど確証は得られていないが概ねこんな感じだ。どうやら盗賊騒動が終われば質から馬を回収するよう手筈を取っているそうだが……そんな金どこにあるのだろうかね。馬肉買うのに相当使ったみたいなのに」
テオがそう語った後、プランは何か忘れている事があるような気がして昔の記憶を掘り越した。
「……凄まじい位やり手ですわねここの町長様。正直うちの領にスカウトしたいくらいですわ」
そうエージュが呟いた後、プランは忘れていた事を思い出し叫んだ。
「あ! これ補助金を出しても良い奴だ!」
そのプランの言葉にエージュは少し驚いた後、その言葉に同意するよう頷いて見せた。
「……何を言ってるのか良くわからん。ただ、探偵ごっこのオチを付けられるみたいだな。説明してくれないか?」
クコがそう尋ねるとエージュは頷いた。
「ええ。宜しくてよ。まず、大前提として国王並びに領主は盗賊による被害を補償して良いという制度がありますわ」
ここで重要なのは補償して良いという点である。
つまりそれは補償しなくても良いという事でもあった。
そんな権力者有利な制度だが、法の問題ではなく暗黙の了解として必ず補償しなければならない場合が存在した。
それは、盗賊達が元軍属であった場合だ。
その場合は国王はもちろんガダルスナを受け持つ領主も金銭を補償しなければならないという貴族の暗黙の了解があった。
「つまり、今回は高確率で全額補償が受けられるという事ですわね。……というよりも、この動き方を見るにここの町長様はおそらく盗賊が軍部と繋がりがあるという確証を握っていると思いますわ」
「だから質屋に馬達を避難誘導したという事か」
クコがそう言葉にすると、まだ続きがあるらしくエージュが言葉を紡ぎだした。
「ここで重要になるのは二点ですわ。一つ、盗賊対処の為馬達をどこかに預けなければならない状況だったという事。二つ、盗賊を誤魔化す為に馬肉を買わざるを得なかったという事。その条件を満たしつつ、町にメリットを誘導する。これは本当に凄まじいとしか言えないような策略ですわ」
「何か特別な事をしたという事か?」
クコの言葉にエージュは頷いた。
「今回、町長が要求出来る金額が『本来馬を買うよりも高い質から馬を買い戻す額』と『馬肉を買う為に使った額』となりますの。これは直接盗賊被害に遭うよりも大きな金銭的損害ですわね。ただし、人的損害は一切ありませんので十分凄い事ですが。要するに、より多くの資金を吐き出し、その金を補填出来る構えを取っている。いえ、場合によっては相当以上に利益が見込めますわね。馬肉に至っては自分達で消費してその分資金を得るという完全な二重取得が成立していますし……。町民の活力になりつつ経済の回転にもつながってますしで、一つの手段で三つ四つ同時に役割をこなすなんて……。本当すさまじいとしか言えませんわ」
エージュはやけに嬉しそうにそう言葉にし、プランも横でうんうんと頷いていた。
「……なあ。それってありなのか? 何か……国からしてみれば金食い虫の強欲な存在に見える気がするんだが」
テオがそう尋ねると、その問いもプランが答えた。
「うん。実際そうだし国からもそう見えるよ間違いなく。でもね? それが真っ当な国や領主にとっては最も信用出来る証拠なの。だってさ、町の為に強欲になれる町長だよ? この人なら町を守ってくれるって安心出来て信頼出来るじゃん。むしろ偉い人に遠慮する町長の方が信用出来ないよ」
その言葉にエージュは何度も頷いて見せた。
これが不当に金銭を蓄える為であるならそうでないのだが、もしそのようなちんけな悪事を働くような人物ならこんな大きな工作は出来ない。
そもそもこれはどう見ても、町の為を想っての町長の行動だった。
「……なるほどねぇ。住む世界が違うからピンとこないが、お前ら二人がベタ褒めするって事は凄いんだろうな」
サリスがそう言葉を発すると、プランとエージュはお互い顔を見合わせ、噴き出し笑った。
「一番知らないといけない立場の人が何言ってるのよ」
「そうですわよハワード伯爵」
エージュがそう言葉にするとサリスは心底嫌そうな顔を浮かべた。
「その呼び方は止めてくれ。本当に嫌だ」
「ふふ。ごめんなさい」
エージュはやけに嬉しそうに悪びれず謝罪をしてみせた。
「お前伯爵だったのかよ……」
テオは心底驚いた様子でぽつりとそう呟いた。
一応だが、一つだけ盗賊にかかわる新しい情報が仕入れられた。
それは盗賊達は馬を集めているという情報だ。
この町から接収しようとしただけでなく他の村や町からも馬を集めているらしい。
馬が足りないのか活動範囲を広げたいのか、それとも兵力を高めようとしているのか……。
何にしても、あまり良い状況ではないだろう。
今回レンタルした馬車は割高ではあるが誰も乗せずに走らせるとまっすぐ学園に帰るよう教育された物を選んでいる。
盗賊の拠点まで馬車に乗って移動出来るとは思っておらず、最初から途中で返す気だったからだ。
本来ならもう少し盗賊の拠点に接近してから返すつもりだったのだが……今回の事を考えるとこれ以上馬車で接近するのは危険だろう。
そう考えた一同はこの町で馬車を返す事に決定した。
「んじゃ、明日の朝出発。その直後に馬車は学園に返し後は徒歩。相当数野宿もすると思われるからある程度は覚悟しておいてくれ」
テオの言葉に全員が頷いた。
「……一つ心配事があるんだけど」
「なんだプラン。言ってくれ俺達はお互い何もわかり合えてない。だからこそしっかり問題点を見つめ話し合わないといけないからな」
「そういう話じゃなくて悪いんけど……これ、一月課題も兼ねてるしテオも延長してくれてるみたいだけど……その上で間に合う? これから歩きでの移動だけど」
「追加延長を頼むよう馬車に書置き残しとく……」
テオもその可能性を否定しきれなかったらしくぽつりとそう呟いた。
早朝の目覚ましは慌てた様子の男の声だった。
「お前ら起きろ!」
ヴェルキスの荒いが声量を抑えた声で寝室にいる女性陣は全員目を開け部屋の戸を開ける。
ミグは朝が弱いらしく、目を閉じたままプランにくっ付いていた。
「何があったの?」
静かに抑えた声でプランがそう尋ねると、男性陣は全員武器を持ち窓から外をのぞき見していた。
「わからん。わからんが……何やら騒がしい。どうやら盗賊が来やがったらしいぞ」
クコは鋭い目つきのままそう呟いた。
ありがとうございました。




