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3-5話 神から与えられた使命2


 王都から馬車十数時間という恵まれた立地。

 そんな首都から近い場所にしては不思議な程牧歌的な町、ガダルスナ。

 のんびりとしているが限界集落と呼ばれるほど寂れている様子はなく、むしろそこそこ以上に発展している。

 生活必需品を買う店はある為暮らすに困る物はなく快適な生活は出来るが、その反面旅行にはあまり向かないような、その位の雰囲気の町ガダルスナ。

 その雰囲気は、プランが大好きな雰囲気だった。


「良さそうな町だね」

 プランが嬉しそうに呟くとサリスは微笑んだ。

「ああ、田舎らしくて良いな」

「……これで田舎なのかー。サリスの領は結構発展してそうだねぇ」

 そう言ってプランは苦笑いを浮かべた。


「……お前ら、一体どんな目してるんだよ」

 テオはようやく輪郭が見えだした位の町を馬車の中から睨むように見つけながら困った顔で呟いた。


 更に馬車が町に近づくと、全員はずっと感じていたやけに賑やかな雰囲気の正体に気が付いた。

 町全体が歌っているのだ。

 まったりとしたゆるやかな……まるで子守唄のような歌が、それもえらく楽しそうな雰囲気が町中から響き渡っていた。

「……肉の焼ける匂いがする」

 サリスは獲物を狙う鷹の様な目となりそう呟いた。

「何か豊穣祭みたいな雰囲気だね。お祭りでもあるのかな?」

 プランがそう呟くとテオが眉をしかめた。

「盗賊に狙われているのにか? しかもそんな情報なかったぞ」

「だよねー。盗賊が近場にいるにしては必死さも感じないし……どうしたんだろ?」

「いきゃわかるさ。いきゃあな」

 既に肉を食べる気満々の雰囲気となったサリスはそう呟き、貧乏ゆすりをしながら町に着くのを今か今かと待ちわびだした。




 施錠した門の前に止まると、四人ほどの鎧を来て槍を持った男達が馬車の方に近づいてきた。

 ただ、その様子は警戒心と呼ばれるものが全く感じられず、また武器を持った動きも慣れてないのかどこかぎこちない。

 どう見ても戦う事に不慣れな様子だった。


「失礼。ガダルスナに来た目的をうかがっても?」

 一人の男がそう尋ねると、テオは笑顔になった。

「はい。俺達は近隣の生態調査に来ました。付近の動物の生体について調査、研究し周囲の状況変化の予測構築を行うのが我々の仕事なんで」

 そうテオが答えると、男達はお互い顔を見合わせながら首を傾げた。

「すまん。言っている意味が全くもってわからん。何をどうしたいんだ?」

「ああ失礼。えっとですね……私は動物の学者です。この辺りにどんな動物がいるのかとか調べるのがお仕事なんです」

 そうテオが言うと男は感心したような顔で頷き、微笑んだ。

「ははー。あんた若いのに学者さんかい。偉いんだなぁ。そっちの嬢ちゃん達もかい?」

「まあそんなもんですね。んでそっちの人が護衛です」

 そう言ってテオはヴェルキスを紹介し、ヴェルキスは四人に無言のまま小さく頭を下げた。

「ははー。なるほどなるほど。……んで、そっちの何かとんでもない恰好のお人は?」

 帽子と布で顔の大半を隠しやけにポケットの多い服装をしているという怪しい以外の言葉が出てこないヴェインハットの方を見て男はそう言葉にした。


 その言葉に合わせてヴェインハットは立ち上がり、帽子を直しながらやけに低い声で答えた。

「協力者の者だ。狩人をしている」

 そう言った後、ヴェインハットは背後から一風変わった弓を取り出した。

 小さな弓が横に付けられ、その下に持ち手と引き金がある、そんな不思議な形状をしていた。

「ははー随分小さな弓ですな」

 男は興味深そうにそう呟いた。

「弩、またはクロスボウと呼ばれる最新技術による機械式の弓だ。装填に手間取る為連射は出来ないが、威力は――」

 ヴェインハットは馬車の中からクロスボウを空に向け、引き金を絞った。

 バシュンと弦の音とは思えないほど鋭い音が響いたその直後、男の傍に鳥が落ちた。

 その鳥には三センチほどの穴が開いていた。

「見ての通り、小さな獣程度なら軽く貫通するような威力をしている――」

 その様子に男達四人と、ついでにプランは小さく拍手をした。


 かっこいい狩人ムーブが出来たヴェインはやけに満足そうな雰囲気を醸し出していた。


「なるほどなるほど。学者さんとその一行ですな」

 男が納得したようにそう言葉にするとテオは頷いた。

「ええ。事前に盗賊が出ていると知ったのですが知ったのは出発した後でして……。入る事は出来ますか?」

「ええまあ……入るだけなら良いんですが荷物とかを盗賊に取られても俺達は責任取れませんぜ。それと……そっちのお嬢ちゃん達は気をつけてくれよ。盗賊は皆男で、しかも盗賊になるような我慢の利かない馬鹿だからな」

「はい! 気をつけますね」

 プランが満面の笑みでそう答えると、男は何も言えなくなった。


「ん。まあ……来た時期も悪くないしな。丁度良いタイミングだ」

 そう言った後男達は戻り、町の扉は馬車を迎え入れる為に開かれた。

「すいませーん。今町では一体何してるんですかー?」

 プランがそう尋ねると、男達は少し悩むような顔をした。

「んー。特に目出度い事があったわけでもないし何かを祭ったりしているわけでもないし……。そうだな……強いて言うなら肉祭りだな」

 その言葉にサリスの心臓はドンドンと音を立てときめいた。




「……こんな感じで良かったかな?」

 門を通過した後プランがこそこそ声でそう尋ねるとテオは頷いた。

「ああ。出来るだけ身を潜めておきたいからな」


 今回の依頼内容は軍事拠点にいる集団の無力化、並びに奪われた物の奪還である。

 どのような作戦を取る事になるかまではまだ決めていないが、例えどのような作戦であっても格上相手なのだから不意を突く形となるだろう。

 というよりも、相手が拠点の性能を生かし防御に固め不意が付けなくなった場合、出来る事が何一つなくなり必然的に依頼失敗となってしまう。


 だからこそ、万が一でも自分達の情報が漏れてしまえば不味い為細心の注意を払うという意味でテオは身分を偽装する必要性を訴えた。

 そしてテオは再度、全員に己の身分を確認させた。


 テオは若い植物学者でヴェルキスはその護衛。

 プランとサリス、クコはテオの助手も兼ねた見習い。

 ヴェインハットは恰好が恰好すぎて偽るよりそのままの方が都合が良いと考え、狩人となった。

 そしてエージュとミグは無理を言って付いてきたスポンサーの娘達という設定である。

 エージュは話し方の問題で、ミグはその行動が自由過ぎて他に選択肢がなかった。


「……なあ、学者の卵らしいけどさ俺の役。お淑やかに行かないと駄目か?」

 肉の焼ける匂いと立ち並ぶ屋台を見ながらうずうずした様子でそう尋ねるサリスに、テオは首を横に振った。

「冒険者である事を隠すなら、好きに行動して良い。むしろ、自由に振舞った方が身分の迷彩になる。だから……楽しんできて良いとも」

 その言葉にサリスはガッツポーズを取った。

「っしゃ! 悪いなテオ。食うぞーつーか食えるよなたぶん。あんな思わせぶりな事門番が言ってたんだし食えなかったら怨んでやる」

「ただし、盗賊が出現した場合は即座に集合し身を隠す事。それと当然の事だが争いなど目立つ事は極力避ける事。守れるか?」

「もちろん! おいヴェイン、肉は好きか?」

 サリスに突然尋ねられ、少し驚きながらヴェインは首を縦に振った。

「ああ。狩るのも、調理するのも、食うのも好きだが」

「よし! 一緒に行動するぞ、跳べ!」

 その言葉と同時にサリスは走っている最中の馬車から跳び綺麗に着地した。

 そしてその直後にヴェインハットは「まさかデートか!」と叫びながら馬車から跳び、ごろごろと地面に転がった。


「……どうしてヴェインを連れて行ったのかわかるか?」

 テオがそう尋ねると、エージュはぽつりと呟いた。

「おそらくですが……(わたくし)達と共に行動するより、男性であるヴェインハットさんと共に行動した方がより早く移動出来てより多く色々な物が食べられると思ったからではないでしょうか」

「なるほど……。つまり色恋のそれではないと」

「少なくとも、今のハワードさんはそのような事考えておりませんわね」

 サリス検定一級保持者のエージュが言葉にする以上、それに間違いはないだろう。


「んで、私もお祭り楽しみたいんだけど、先に何か用事ある?」

 プランがそう尋ねるとテオは頷いた。

「ああ。宿の手配がいるんだが……まあ俺が居れば何とかなるから行って良いぞ。だが、出来たら馬車が止まってから行ってくれ」

 苦笑いしながらのテオの言葉にプランは同じような顔で頷いた。




 馬車が止まった後、プランはミグと共に行動する事となった。

 テオとヴェルキスは宿の為、クコは単独で町の調査を行う為、そしてエージュは宿を取る時に一人は女性が居た方が良いという理由に加えてテオの手伝いをする為に宿側に残った。

 スポンサーの娘という仮の立場の事を考えればミグも残るべきなのだが、はなっからミグを制御出来ないと知っているテオは諦め好きにさせる事にしていた。

 そんなわけで、プランはミグと二人で、賑やかで楽しそうな街並みを歩いていた。


「さて、何からしようか。とりあえず頼まれた事からかな?」

『このゆるやかな歌を含む祭りについての情報を軽くで良いから調べてくれないか? 大した事じゃないと思うがやはり気になるからな』

 そうテオに言われたプランはミグにどうするか尋ね、そしてミグはすっと遠くを指差した。

 そこはパンの売り場だった。


「人に聞くのが一番……だよ?」

 パンが食べたいという強い意思を秘めた目で語ってくるミグを見て、プランは微笑みながら頷いた。

「うん。じゃああそこに行こうか」

「ん。……お金はいっぱいあるから、プランの分も買ってあげるね」

 むふーと喜びながらミグはそう言葉にした。


「パン、二つ。甘くて美味しいの下さい……」

 ミグはむふーとした顔のまま店に入店し、売り場の若い女性にそう声をかけた。

「はいはーい。結構割高だけどミルククリーム入りのパンが一番のオススメだよ。ただ高いからお嬢ちゃんにはちょっと……。後甘くて美味しいのならクルミ入り砂糖掛けのパンが安くてオススメだよ」

「ミルククリーム入りの、四つ……」

 そうミグが言うと店員の女性は目を丸くさせた。

「よ、四つ!? いや本当に高いですよ?」

「……幾ら?」

「四つですと……端数はまけて……二大銀貨(ジン)になりますね」

「その位なら別に……。はい」

 そう言いながらミグは平然と大きな銀貨二枚店員に握らせた。

「……私なら一枚で一週間の生活費になる物を……こんな小さな子が軽々と……」

 そう言いながら店員は奥に行き、パンを四つ持って来た。

「はいどうぞ……」

「……小さい」

 傷心した様子の店員に、ミグはぽつりとそう呟いた。

 確かに、白いふわっとした美味しそうなパンなのだが、その大きさはプランの握りこぶし位で本当に小さかった。

「すいません。予算的にこれが限度なんですよ。ミルククリームは最近作り出したばかりで中々値段が下げられなくて……」

「値段に文句はない……。これなら……あるだけ持ってきて欲しいの。お土産にするから」

「え、ええー……」

 女性は驚きを通り越したのか無表情になり、それだけ呟き動かなくなった。

「……私はスポンサーだから……こういう使い方しても良いの」

 むふーとした顔でミグはそう言葉にした。


「はい、あーん」

 ミグはパンを一つ持ってプランに差し出し、プランはそれをぱくっと口にくわえた。

「ありがとっ、あーん! ……うん。高いだけあって確かに美味しいわ……」

「ね。買ってよかった……」

 店にあるだけを買い込んだミグは満足そうにそう言葉にした。

「あ、あはは……お金持ちさんなんですねぇ……」

 店員は乾いた笑いを浮かべながらそう言葉にした。


「あ、すいません。教えて欲しい事があるんですが」

 プランがそう言葉にすると店員は微笑みプランの方を見つめた。

「はい何でしょうか安心する顔のお客様。いえ失礼しました何でもありません。何でしょうか?」

「……庶民的な顔だもんねぇ私。えっとね、この祭りって何の祭りなんです? 後どこからかずっと聞こえているこの歌は何でしょうか?」

「ああはいはい。見た事ないしお金持ちだし変だなと思ったら最近村に来た人ですか。旅行か何かです?」

「ええまあ」

「まあまあこんな大変な時に……盗賊についてはご存知?」

 こそこそ声で店員がそう尋ねると、プランは頷いた。

「はい。怖いですよね。ただ、お仕事で来ざるを得なくて……」

「お金持ちも大変なんですねぇ……」

「いえ、私は貧乏ですので」

「ですよね。同じ匂いがしますから」

 店員が心から嬉しそうにそう言葉を紡ぐ。

 それを見て、何も言えないプランは苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。


「んで何が起きてるかって言えば……その盗賊が理由なんですよ」

「盗賊が?」

 プランはミグの粉塗れになっているミグの口元を拭きながらそう尋ねた。

「盗賊はどうも訓練を受けた本職っぽくて、結構やばい感じでね……」

 それを語りに店員は今回の事態に付いて説明を始めてくれた。


 元々この町は馬が多くいた。

 馬と共に生き、暮らす。

 収穫に、移動にと馬の恩恵を預かって生きてきた為、馬に対し尊敬の念を持って生きる。

 それがこの町の在り方だった。


 そして、それを知った盗賊から馬を寄越せという連絡が来てしまった。

 馬を愛しているからこそ、馬が盗賊の手に落ち悪事の片棒を担ぐ事が許せなかった。

 かといって抵抗出来るほどこの町は強くない。

 その結果……馬を全て処分する事に決まった。

 他に何の方法もなかったからだ――。


「というわけで事故によりお馬さんは皆死んでしまったという事にして処分したわ。出来るだけ苦しまないように」

「それは……」

 何か声を掛けようと思ったが、プランは何も言葉に出来なかった。

 その様子を見て、店員は優しく微笑んだ。

「貴方良い人なのね……。他所の町のお馬さんの為にそんな顔出来るなんて……。別に気にしないで良いのよ。という訳で、大量に肉が余ったからこうして肉が駄目にならないよう連日お祭り騒ぎの大特価販売で売ってるってわけ。だから……出来たら貴方も食べてあげて。それが一番の供養になるって私思ってるから」

「はい。必ず頂きます」

 プランはこくんと頷き、まっすぐ店員を見つめそう答えた。


「ありがとう。そっちのお方は……うん。パンだけでお腹いっぱいになりそうね」

 店員はミグを見ながらそう言葉にする。

「ん。大丈夫。お肉分開けとくから」

 そう言ってミグは名残惜しそうに紙袋を閉じた。

「ありがとうございます」

 店員はその様子を微笑みながら見つめ、小さく頭を下げた。


「ああそうそう。歌の方よね。あの歌はこの町がもっと小さかった頃からずっと歌われている歌で、別に深い意味は何もないわ。祭りとか目出度い時とかの雰囲気作りの為に毎回歌うようにしてるの」

「へー。優しい雰囲気で良い歌ですね」

「ありがとう。ちょっと眠たくなるのが玉に瑕だけどね。この町では皆、あれを子守唄にして育ったから」

 店員はそう言いながらウィンクをして微笑んだ。


 店を出た後、プランは一番近くにある屋台で串焼きを一つ注文した。

「……さて、しっかりと食べないとね」

 プランは馬肉の串焼きを手に取り、真剣な様子で見つめた。


 悲しかっただろう。

 辛かっただろう。

 共に生きた仲間を殺さなければならない無念。

 それは相手が動物であっても、ないわけがなかった。

 せめてもの供養として皆で食べたい。

 その気持ちは、プランは痛いほど理解していた。


 プランも同じような事は何度か経験した事がある。

 父が現役だった頃、父は村の発展と兵の訓練の為に馬を何度か譲り受けた事があった。

 もうボロボロで長生きできないようなそんな馬を村の一員として受け入れ、優しく労わりながら共に生活する。

 たとえ弱っていても、馬の力は人よりも強い為重宝した。

 ただしその活動期間は恐ろしく短く……必ず、最後の時を迎える。

 むしろ、最後の時を迎え肉となる事を想定して父は馬を引き入れていた。


 貧しい領で食べる物にも余裕がない為、どれだけ悲しくても食べなければならない。

 そう父に鬼のような顔で怒られながら、幼い頃泣きながら食べた馬の味をプランは今でも覚えていた。

 食べる事を考慮していない働き馬の為その味はあまりおいしい物ではない。

 それでも、その肉は血となり肉となり、プランの中に確かに生きている。


「……頂きます」

 プランはそう呟き、肉を口に運んだ。

 ぷつっと軽い音を立てて肉は噛みきれ、そしてあっさりとした油の旨味と、それに絡み合った塩味が口の中に広がっていく――。

 その瞬間、プランは首を傾げ……そして少し時間が経った後声を荒げた。

「この肉食用馬の味じゃん!」

 悲しさと切なさはどこかに飛び、感動を返せという気持ちとなるプラン。


 そんなプランが横で叫んでいても全く気にせず、ミグは小さな口で器用に肉を頬張っていた。


ありがとうございました。

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