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3-4話 神から与えられた使命1


 出発前日、プランは盾サークルにて実戦的な盾の使い方、それも他人を庇う方法を学んだ。

 とは言え、これはただの付け焼刃であり役に立つかどうか非常に怪しい。

 それでも、そうだと最初から言われ自分でわかっていても、プランは少しでも出来る事を増やしておきたかった。

 罪悪感や責任もあるが、何より誰かを護りたかったからだ。


 そして出発当日、当然の事だが誰一人遅刻する事なく集まり、一同は馬車に乗り現地に向かった。




 今回テオが借りた馬車は三十人程度は座れるだろうと思われるほど広く、その中に乗っているのは貸し切りの為当然自分達だけ。

 プラン、サリス、エージュは肩が触れ合う距離で横に座り、そこから一人分ほど離れてテオ、ヴェインハット、ミグが座り、六人と反対側の座席にヴェルキスが座っている。

 そしてその集団から数人分以上席を離しクコが座っていた。


「あー。とりあえず見ての通り二人ほど追加で参加する事になった。とりあえず自己紹介から頼む」

 広い馬車の中でテオがそう言葉にすると、まずヴェルキスが立ち上がった。

「ヴェルキスだ。学園には五年滞在している。戦闘の方はそれなりには自信がある。ただ集団戦闘にはそれほど慣れていない。なので一緒に戦う事はないと思うがよろしく頼む」

 それでけ言ってヴェルキスは座席に座り直し、入れ替わるようにクコが立ち上がった。

「知っての通りクコだ。今更仲良くしてくれなんて烏滸がましい事は言わん。ただ、信用し信頼されるまで行動で示すつもりである」

 クコは若干緊張してか固くなった口調でそう言葉にし、深く頭を下げて座席に座った。


「というわけで作戦会議の前に……何か追加で情報があったか?」

 そう言葉にすると、ヴェインハットがふっと小さく笑い、ゆっくりと、足を組んだ。

 そのアカラサマとしか言えない態度で皆の注目が集めた後帽子を深く被り……ヴェインハットはやけに良い声で囁くように言葉を紡いだ。

「……毎回、情報が上手く入手できるとは限らない。……つまり、そういう事だ」

 そう言葉にし、足を組み替え何やら気取ったポーズを取った。


「……つまりさ、情報はなかったって事か?」

 サリスがそう尋ねるとヴェインハットは偉そうなポーズのまま首を縦に動かした。

「つまりそういう事だ」

 その瞬間、テオはヴェインハットを蹴飛ばし床に転がした。

「思わせぶりな行動を取るな」

 そう呟き、テオは盛大に溜息を吐いた。


「私……調べて来たよ。……話すの、めんどいけど……」

 とても眠そうに、というか船を漕いでるように半分寝ている状態でミグはそう呟いた。

「……プラン。頼む」

 テオはお前もかという困った顔でそう言葉にすると、プランは微笑みながら頷きミグの前に移動した。


「はーいミグちゃん。あーん」

 そう言いながらプランは袋からクッキーを取り出し、ミグの口の前に運んだ。

 目を閉じたままのミグは鼻をすぴすぴと動かした後、クッキーに飛びつき指ごと咥えた。

「あむあむ……。バターの味がすっごい……」

「うん。安かったから沢山使ってみた。美味しいでしょ?」

「うん。とても」

 そう言ってミグはにぱーっと微笑みプランに抱き着いた。


 たった一枚だけで横の人にも甘い香りを届ける程大量にバターが含まれたクッキーという本来なら贅沢極まりなく高価な物の材料を、今回プランはタダ同然で材料を用意していた。

 単純に食堂の手伝いをした後残った物は処理するとして無料でもらえるからだ。

 特にプランは、料理長含む食堂の調理員皆がプランの事を気に入っている為欲しい物があれば優先的に回してもらえるようになっていた。

 ただ、それはプランが気に入られているという理由もあるにはあるが、どちらかと言えばバター含む乳製品や氷など本来高価な物が学園内では非常に安価となっているという部分が大きかった。

 代わりにベーコンやハムなどの加工肉を除いた肉はどのような物でも割合的に高価となっている。

 アイスやバター、ソーセージ等が安くて肉が高いというのは田舎暮らしで相場を知らないプランであっても変であるという事に気づいてはいるが、悪い事ではない為気にしない事にした。


「……んでミグちゃん。調べた事教えてくれる?」

「むふー。……良いよ……。でも、今回の依頼と絶対かかわってるってわけじゃないからね?」

 ミグは自慢げにそう言った後、調べた事をゆっくりと話し出した。


 ミグが調べていたのはとある研究施設についてである。

 盗賊が拠点としているアップルツリー、近くにある錬金術研究の為に作られた『エメスの村』の中にある最大研究施設『エメスの水銀』。

 その施設でここ最近で研究成果が盗まれたという事を知り、ミグはそれについて詳しく調べてみた。


 国に命じられた研究の内の一つに妖精なしでの魔法行使についてというものがあった。

 現在人間は妖精がなければ気軽に魔法を運用出来ない。

 逆に言えば、条件さえ重なれば妖精がいなくても魔法が多少は使えるという事でもあった。


 例えばスクロールと呼ばれる紙。

 小さな正方形の紙だったり巻物だったりするその紙には呪文が刻まれており、魔法を使う為のキーワードさえ知っていれば誰であっても気軽に魔法を使えるようになるという物だ。

 ただし、スクロールに刻める魔法は簡素的な物だけで種類が少ない上に、術式も弱い。

 つまり、大した事が出来ないという事だ。

 それでいて、保存に難があり使用期限も存在する。

 使用期限が短い物なら庶民であっても何とか手が出るくらいの値段で入手出来るのだが、使用期限が長い物は同じ呪文であっても信じられないような値段になってくる。

 具体的に言えば、かまどに火を灯す火種のスクロールであっても一年期限の物になれば金貨数枚クラスという意味のわからない値段となる


 スクロール以外にも魔法陣を床に刻んで魔法を発動させるという事も出来る。

 ただ、こちらの方はスクロール以上に欠点が酷い。

 当然だが魔法陣をわずかでもミスすると発動はせず、最悪中途半端に発動すれば爆発したりと何が起こるかわからない。

 その為、正しく描くには相応の知識と根気だけでなく手の器用さが要求されてくる。

 もちろん魔法陣を描くのに使う道具も専用の物が必要であり、更に魔力の元となる何かを用意する必要もある。

 この様に時間、手間、必要金銭と全てのコストが最悪な上に地面に描くという性質上即効性がない魔法陣だが、強力なメリットも存在する。

 それは妖精を介入しての魔法よりも安定性が高いという点である。

 ムラッ気のある妖精と違い魔法陣での行使は成功さえすれば必ず、毎回同じ威力で同じ効果が作動する。

 それは妖精使いにとって絶対に出来ない事だった。


 それ以外にも複数の魔法行使方法はあるのだが、どれも妖精使いが呪文を唱えるような気軽にかつ実用的とはならない。

 それを実用的なレベルに仕上げろというのが、エメスの水銀が国から与えられた重要な命題の一つだった。

 それをエメスの水銀は熱意を込め、数百年と続けていた。


 そこの研究員は考えた結果、新しい方法として幾つかの技術を複合し実用的な物に出来ないかというアプローチに取り掛かった。

 熱意を持って研究する事を繰り返しすぎて、若干のマンネリ感と疲労感により考え出された息抜きがてらでの気軽な研究。

 適当にやって適当に失敗して、失敗の経験とデータを残そう位の気持ちで始めた実験だったが、何故かこれが思いの外上手くいった。


 軽量かつ持ち運ぶ事が出来、一種類ではあるが複数回魔法を行使する事が可能で、なおかつそこそこの術式を内蔵出来る。

 そんなスクロールの強化版のような物の開発に、一応だが成功していた。


 ちなみに……その形状は指輪である。


「という訳で……盗賊は指輪を貴重品と思って強奪したんだと思う」

 ミグがそう言葉を締めると、何とも言えない重たい空気が流れヴェルキスが顔に手を当てしかめっ面をした。


「ミグちゃんだったか? その指輪は幾つあって何の魔法が込められているかわかるか?」

「ん。盗まれた指輪の数はわからない。けど、二つか三つ程度だと思う。一つではないけど、あんまり沢山作れる物ではないらしいし。んで何の魔法かはわからないけど……実験の為だからある程度難しい魔法だと思うよ」

「……あんがとミグちゃん。……不安要素が増えたなぁ」

 ヴェルキスは苦笑いを浮かべながらそう呟いた。


 一種類限定だが誰でも複数回魔法が使えるなんて突入する事を考えたら最悪以外の何者でもなかった。

「……まあ、魔法使いがいなければ使い道もわからないだろうし魔法使いがいても指輪を見て理解出来るほどのレベルがないと意味はないだろうがな」

 そうヴェルキスが呟くと、テオとクコは頭を抱えだした。


「……おい。その様子だと……」

 ヴェルキスがそう呟くと、テオは口を開いた。

「……はい。いますね。今回の中にそこそこの、いえ、実力は大した事はないです。戦闘経験はほぼなしで妖精石も持ってない可能性が高いですし。……ただ……その人達研究畑の人なんで……知識の方は……」

 全員の表情はミグを除き同じようなものとなっていた。

 もしその表情を一言で例えるなら……。


「あちゃー……」

 ミグは無表情で、ぽつりとそう呟いた。





 盗賊の最大人数は不明。

 ただし、近隣の村に来る窃盗、強奪の人数から馬の数は十八から二十と推定。


 未だ死者こそ出ていないが状況はかなり悪く、特にアップルツリーから最も近い村は限界一歩手前となっていた。

 元々裕福でなかったところにアップルツリーという職場を失い、盗賊に金銭は強奪され、食料は盗まれ……。

 何一つ希望が見いだせないという悲惨な状況だった。


 盗賊団の中に妖精石持ちがいる可能性は低いが、高確率で魔法についての研究者が最低三人ほど混じっていると推測されている。

 その他盗賊の人員は不明だが、手慣れた手段と軍事拠点跡地を復元する知識と技術からそこそこの経験がある兵士と工兵がいると考えて間違いないだろう。


 拠点はポピュラーな監視塔付きの砦。

 監視塔としての役割を重視しているからか防御性能はそこまで高くないものの、逆に索敵能力は相当に高い。

 人数も村や町に強奪しにくる人数が二十人程度いた事を考えると、最低でも四十人程度はいると思われる。


「とまあこんな感じだな。所属何かもバラバラみたいだし結構な数の非戦闘員もいるみたいだが……それでも数十人は戦争経験者がいるって考えて間違いないんじゃないか」

 テオがクコからの情報をもとに考察した内容を話し、周囲は更に重たい空気が流れた。

 想定よりも敵の数が何倍も多いからだ。


「おう。しんどいのはわかった。それで、どんな作戦をする予定だ?」

 魔法は脅威だが、人数なら多少多くても何とかなる自信があるヴェルキスは平然とそう言葉にした。

「シンプルに、作戦というレベルでもない行き当たりばったりな感じになると思います。作戦立てるほど連携も取れませんしガチガチの作戦を立てるほど情報もない。何より、素人の俺らでは作戦を立てて失敗した時立て直せないので。ですが、ヴェルキス先輩にやってもらいたい事はほぼですが決まってます」

「ほぅ。どんな役割だ?」

「陽動役ですね。出来るだけ騒いで、敵を引き寄せて暴れて、頃合いを見計らって逃げる感じの。はっきり言って囮ですね。めちゃくちゃ危ないです」

 テオの言葉にプラン、サリス、エージュは信じられないような顔を浮かべテオを見つめる。

 ただし、当の本人であるヴェルキスは、その言葉に満足そうに頷いた。

「ほほー。俺の使い方を良くわかってるし俺の行動理由も良くわかってそうだ。テオだったか。その名前覚えておこう。何時か別の時に出会ったら宜しく頼む」

 やけにテオの事を気に入ったのかヴェルキスは嬉しそうにそう言葉にした。


「……ま、俺も思うところがないわけではないが……これが最善なんだ。文句なら終わった後に頼む」

 その口調こそ軽いものの、その言葉と表情には真摯な気持ちが込められているのを感じたプラン達三人は何も言わず、何も言えず黙ったまま頷いた。


 ヴエルキスはただ単体での戦闘能力が高いだけでなく、魔剣の呪いにより人々の血と恐怖を集め続けなければならない。

 そして、魔剣の能力による剣技の上達で集団戦闘も多少以上に戦える。

 むしろ、技術向上という特性で考えるなら格下の複数相手にこそ向いているとさえ言っても過言ではない。

 実務的にも、ヴェルキスの望み的にも、テオの用意したヴェルキスのポジションは最適である。


 最適ではあるのだが……その使い方にテオは決して納得していない。

 納得していないのだが……それ以上のお互いが得となる作戦を考える事が出来なかった。


「……ふむ。人里が見えてきたな。あそこか?」

 ヴェインハットがそこそこ大きく発展した集落を指差しながら尋ねるとテオは頷いた。

「ああ。アップルツリーからは多少遠いが、近づくのが危険でな。あそこが盗賊による被害を受けた場所の中で最も遠くにある町、『ガダルスナ』だ」

「……んー。何か……様子が変だぞ?」

 サリスは遠くに見える町を見て、ぽつりとそう呟いた。

「まさか襲われてますの!?」

 エージュが慌ててそう尋ねると、サリスとついでにプランは首を横に振った。

「いや……そんな感じじゃないな。少し町が騒いでいるような……でも悪い感じというよりは目出度い感じというか……」

 そう言いながらサリスは良くわからず首を傾げた。


 プランはその雰囲気を良く知っていた。

 小さな田舎村のちょっとした贅沢。

 普段食べられない物を誰でも好きなだけ食べられる日。

 遠くに見えるガダルスナというそこそこ発展した街からは、田舎の農村の小さな祭りのような雰囲気が出されていた。



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