3-3話 部外者
「そんなわけでヴェル先輩、えっと……ヴェルキス先輩を呼ぶ事にしたよ。五年目の三十歳現場経験沢山! 問題ないよね?」
プランからそう言われたテオは少し驚きながら参加者の名簿にヴェルキスの名前を書き足した。
「流石だな。最悪の場合金でチンピラまがいの誰かを雇おうかと思っていたところだが……。うん、人誑しなだけはあるな」
「んー。今回は私関係ないかも……サークルの先輩ではあるけど、あの人たぶんお願いしたら必ず手伝ってくれるし」
「そうか。まあそんな人に巡り合うのも人誑しの運って奴なんだろう」
そう言ってテオは微笑んだ。
テオはヴェルキスという名前に聞き覚えがあった。
学園外でテオが冒険者として生活をしていた時に聞いた事がある、有名な冒険者。
と言っても、有名な理由は本人が凄いというわけではなく、魔剣持ちだからなのだが……。
特別な武器を持ち名を挙げていくヴェルキスは多くの嫉妬と羨望に塗れ、酒場で良く悪口を叩かれ、テオもそれを聞いたのは一度や二度ではなかった。
ちなみに悪口の内容は運だけで成り上がりやがってという単純な嫉妬である。
ただ、悪口を散々言われ、喧嘩をよくよくふっかけられても飄々と逃げ、暴れたという話は一度たりとも聞いた事がない。
その上であのプランが連れてきたのなら、人柄は問題ないだろう。
むしろ……問題はもう一人の方だった。
「……んでプラン。もう一人追加で参加するよう言われたクコについてだが……本気か?」
「うん本気」
「……参加は良いが……あいつの事を俺は認める気はないぞ」
「うん。それで良いよ」
本来であるならテオはクコの参加を拒否したい。
だが、猫の手でも借りたいという状況の今それをする事は出来なかった。
テオもわかってはいた。
クコは今一生懸命信用を取り戻そうとしている。
だが……いや、だからこそ、今こちら側と過度に接触するのは良くない。
テオはそう思っていた。
プランは見ての通り、全く、何一つ気にしていない。
下っ端であるクコどころか、他の誰が参加しようとしても間違いなく喜ぶだろう。
だが、そんなプランと仲の良かったサリスやエージュは彼らに悪印象を持っている。
プランが許している為口には出さないが、その態度は露骨な程である。
同時にヴェインハットも理由はわからないがあまり良い印象を持っていないようだ。
そして、ミグは、全く興味がなさそうだ。
この状況でクコと依頼を受けるのは正直好ましくない。
状況によってはチームの仲違いを誘発する恐れがあるからだ。
だからこの依頼が終わった後は、テオは少々距離を取る為にクコに対しきつめに当たろうと考えていた。
他の誰でもなく、クコの為に……。
「……まあ良いか。とりあえず先輩とクコの二人を出来るだけ早く俺の所に呼んでくれ。戦力調査と役割分担にかかわる相談をしておきたい」
「うぃ! じゃ行ってきます!」
そう言ってプランはぴゅーっと風のようにどこかに走り去っていった。
それから一時間後、テオの元にクコが姿を見せた。
「おう良く来てくれた。んじゃビジネスライクに行こうか。何が出来る?」
あくまで淡々と、今後の付き合い方に影響が出ない程度の笑顔を浮かべテオはそう言葉にした。
そこそこ何でも出来て比較的冷静で。
確かに凡庸ではあるのだが、その一歩引いた視線で物事を考え行動出来るのがテオの強みだった。
それに対し、クコは紙束をテオに差し出した。
そこに書かれていたのは……プラン、サリス、エージュ、テオ、ヴェインハット、ミグ、そしてヴェルキスの個人情報だった。
プランはムーンクラウン商会やクリア教枢機卿などとのコネに付いてが書かれ、サリスとエージュは家柄についての簡素なデータと戦闘技能について、テオ、ヴェインハットは戦闘データのみが記されていた。
ただし、ミグに至ってはたった一行しか記述されていなかった。
「……これはどうやって調べた?」
「俺が単独で。元々ギャリシーさんに命じられていたのはお前らの調査だったからな。見ての通り情報屋……とまではいかないがそれなりに出来る。情報を扱い、それを生かす。それが俺の数少ない長所だ」
それしか生きる術がなかった為学ぶしかなかった技術で、そしてこれからも生き延びる為の処世術。
それがクコにとっての情報だった。
「……ああ。全くもって残念だ」
テオはついそう呟いていた。
「……不合格だったか?」
他者に認められないという事に慣れているクコは平然としたままそう呟くが、テオはそれを否定するために首を横に振った。
「そうではない。ただ……いや、何でもない」
テオはそう答え、クコには見えないように溜息を吐いた。
冷静に考え行動する事に主軸に置きはするが、テオは決して調査能力が高いわけではない。
そんなテオにとってクコという存在は最も相性の良い存在だった。
――違う出会いだったら、相棒になれたものを……。
テオはそう思わずにはいられなかった。
「そんで二点ほど質問があるんだが良いか?
テオの言葉にクコは頷いた。
「ああ。何だ?」
「この、ミグの情報欄に唯一書かれている『新月の悪魔』って一体何だ?」
「……その言葉を調べたらわかる」
「……ミグの情報は少なかったのか?」
「いや、その逆で、情報が多すぎて書ききれなかった。そしてミグの情報を一言で表すなら……その単語になる。後は誰でも調べられるほど有名だから調べてみてくれ。すぐにわかる」
恐らく、ミグに尋ねたらきっと教えてくれるだろう。
だが、聞かれたくない事な可能性もないわけではない。
そう考えたテオはミグの前でその言葉は口に出さず、後で内密に調べる事に決めた。
「オーケー。じゃあ次の質問だ。ヴェルキス先輩についてもう少し教えて欲しい。そして、単刀直入に聞くが信用出来る人か?」
多少はテオも知っているしここに詳細なデータもある。
その上プランの様子からも問題はないだろう。
だが、敢えて直接口から聞きたいテオはクコにそう尋ねた。
「んー。ああ、今回のという意味なら信用出来るだろう。『死にたがり』の名前は伊達じゃない」
「……なんだその物騒かつ不遇そうなあだ名は」
「ヴェルキス先輩は格安や、場合によっては無給で危険な依頼を引き受ける。まあ条件があるにはあるが、それでもその状況は善人という言葉すら似合わない程だ。だからそんな名前が付いた」
「……プランですらそんな危険な事……たぶんしないぞ」
そこでたぶんが付く辺りプランも相当なあれではあるが……。
「まあ理由があるんだがな」
「……呪いか」
そう呟き、クコに渡された資料をちらっと見た。
魔剣『擬似英雄詩』
その両刃の片手剣は魔剣という名前とは裏腹に武器としての性能は並である。
別に恐ろしい切れ味を持っているわけでもなければ炎や光が出るわけでもない。
何故ならば……その剣の能力は剣自体にではなく、人の方を変化させるものだからだ。
『人を英雄に変える』
それがその剣の能力だった。
具体的に言えば、その剣を持つだけで恐ろしいほどの技量を身に付けられる。
本来なら数年はかかるであろう修行期間も、死地を乗り越えて身に着ける技術も、全て何の努力もなく剣の所有者となった瞬間に得られるという事だ。
そんな風に、能力がわかりやすく他人の努力を無下にするものだからこそ、ヴェルキスは嫉妬に塗れ影口を叩かれる人生を送らざるを得なくなってしまっていた。
そして当然だが、魔剣という名前の通りデメリットも存在する。
定期的に人の生き血と恐怖を捧げ続けなければならない事だ。
それを効率良くこなす為に、ヴェルキスは厳しいとしか言えない依頼を多く受けていた。
「なあ。魔剣って捨てたり出来ないのか? または盗まれたらどうなるんだ?」
テオは気になりそう尋ねた。
「ん? ああ。魔剣によるが、ほぼ全ての魔剣は所有者登録というものがある。どうなるかは剣によって異なるが、大体の場合は持ち主の元に剣が戻るようになっているな」
「どんな風に?」
「この擬似英雄詩の場合は、売り払っても勝手に持ち主の枕元に戻るそうだ。……血に染まった姿で」
「こわっ!」
「大体は一定の距離が離れると騒音が鳴り響くと言った音での対策なのだが、偶にこんな異質な防犯機能がついてくる。盗まれた場合も当然作動するぞ」
「……へー」
「ちなみに。持ち主が死んだ場合は魔剣はどこかに消えていく。一説によれば再びどこかのダンジョンに入り持ち主を待つそうだ」
「……そうか。じゃあ殺して盗むって事はないんだな」
「ないな」
「そうか。悪いな言い辛い事言わせて」
「良いさ。他に質問はないか?」
淡々とではあるが、お互い気を使いながら手探りで会話を続けていくこの空気がテオは楽しく感じていた。
特に、良い意味でも悪い意味でもめちゃくちゃな同級生が多い為テオは特にそう感じていた。
「んじゃもう一点。博物館とか国宝とかで保管されている魔剣はどうやって保管してるんだ?」
「ああ。ダンジョンで発見した後誰も持ち手に握られなかったらユーザー登録されないんだ。その場合は防犯も作動しない。それと……ユーザー登録を抹消する方法もあるらしい。俺は知らないが」
「そうか。……ああ。情報収集という意味だけで十分有能な事がわかった。この依頼への参加を感謝する」
そう言ってテオはクコに深く頭を下げた。
「良いさ。俺の為でもあるからな。じゃ、何かあったら呼んでくれ」
「ふむ。何か用事か?」
次は今回の依頼について話したかった為少し残念そうにテオがそう尋ねると、クコは後ろの方を向いた。
「俺のではないが、用事だな」
そこにはヴェルキスが立ってこちらの方を見ていた。
「あー。とりあえず、プランのサークルの先輩であるヴェルキスだ。戦闘面では任せて欲しい。囮役とか騒ぐ役とか、そんな感じに使ってくれ。逆に集団戦闘は不慣れだから出来たら避けたい。後、作戦立案とかも不慣れだから口出しもしない。マジで好きに使ってくれ。俺ならそうそう死なないから」
開幕そんな奴隷宣言を有名な冒険者にされ、テオは冷や汗を流した。
「え、あ、はい。よろしくお願いします」
そう言葉にする事しか出来なかった。
「おう。何か聞いておきたい事はあるか?」
その言葉にテオは首を横に振った。
「いえ。情報屋からそれなりに情報を入手してますので」
正しくはクコからだが、情報の出どころを明かすなんて事はせずテオはぼやかせながらそう言葉にした。
そして相手の事を事前に調べるというのはマナー違反ではあるのだが、知っているのに言わないのも失礼だと考えたからそう言葉にした。
「ふむ。俺が参加するって決めたのは昨日なのにもう俺の情報を入手してるのか。めっちゃ早いじゃないか」
「ええ。優秀な人がいまして」
「そうかそうか。情報屋もだが即座に情報屋を活用するってのもまた……。うむ、入ったばっかなのに優秀だな。んじゃ、俺の方から質問良いか?」
「あ、はい。何でしょうか?」
「詳しい依頼内容教えてくれないか? プランから口で何となくしか聞かされていないんだ」
その言葉にテオはプランとヴェルキス両方に呆れて溜息を吐き、そっと依頼の概要をまとめた紙をヴェルキスに差し出した。
「悪いな。……あー旧式とは言え軍事拠点に少人数で突っ込むのか。新入生なのに大変だな。……なあ、この消耗品等の保証ってどのくらい保証してもらえる?」
「わかりません。鎧や剣の数打ちくらいなら余裕ですが、流石に魔剣クラスはちょっと無理だと……」
「ああいや、これはどうでも良い。そうではなくて、薬とかはどうかなって。くっそ高いけど即効性のある回復薬とかクリア教聖水とかあるからさ。それの保証があれば相当楽だなと」
「……相談しておきます。ちなみにその回復薬っていくらくらいでしょうか?」
「そうだな……拾った物だから良く知らないが……たしか相場だと八十金貨くらいだったかな?」
依頼報酬よりも多いその額には笑う事しか出来なかった。
「聖水くらいなら大丈夫だと思いますがその薬は取っといてください」
「いや、まあ薬なんて使ってなんぼだからな。使う時になったら誰にでも使う。重傷者が出たらすぐに言ってくれ。持ち物惜しんで見殺しにするほど腐っちゃいない」
八十金貨なんて人が変わりそうな額でさえも、微笑みながらあっさりとそう言い放つヴェルキス。
それで、テオは何となくヴェルキスの人柄がわかったような気がした。
「同類なのか……」
「ん? 誰とだ?」
「プランと」
「……あの子はそんなに危ないのか。ちょっと気をつけてあげないとな」
自分の行動が危ないとわかっているような口ぶりをするヴェルキスに、テオは苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。
ありがとうございました。




