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1-4話 学園へ1


「あの人の出征の姿を見て、多くの人が戦いに赴く勇ましい表情とか凛々しいお顔とか言うけど、そんな事露ほども考えていないしそんな恰好の良い表情なんて取ってないわ。貴方の言う通り、あの人はただ退屈なのよ」

 メリア王妃がうんうんと頷きながらそう言葉にし、プランは首を傾げる。

「退屈って……これからの戦いがですか? 相手が誰かわかりませんが単身特攻で退屈になるような事――」

「ああ違うわ。戦いの時は本当に真剣になるから。あの人が退屈なのはこういった仰々しい行進とか人の目があるとこで馬車に乗る時とかよ。貴女の見た旦那様は無理やり檻に閉じ込められて拗ねた犬、みたいな気分だった王様よ。王様なのに実はかたっ苦しい事が苦手なのよね、あの人」

 そう言って、メリア王妃はふふと微笑んだ後、指をそっと自分の唇に触り内緒だとジェスチャーを取った

「がんばって外聞を整えているから言わないであげてね?」

 その言葉にプランは微笑みながら頷き、店長は深く頭を下げ同意した。

「ええ。でも気持ちはわかります。規則とか決まり事とか礼節とかばかりだとのびのびと自由に出来ませんもんね」

「あら? プランちゃん貴族の人なの? 苗字言わなかったからてっきり……」

 その言葉にプランは慌てて手を横に振った。

「い、いえいえ! 平民で一般的な、ただの農家の生まれですはい! すいません庶民如きが思いつきでそんな事言って」

「そかー。まあ気にしなくて良いしあんまかしこまらなくても良いわよ。私も本当はあの人と同じであんまり偉そうにするの好きじゃないし。……あ、そろそろ私戻らないと。大騒ぎになっちゃう」

 正門辺りで甲冑に身を纏った女性達は慌てた様子でメリア王妃の名前を叫んでいるのを見ながらメリア王妃はそう呟いた。

「もう大騒ぎよ……」

 店長の言葉にメリアは誤魔化すよう小さく微笑んだ。


「じゃ、プランちゃんと……そっちの店長さん?」

「ここだと『ムーンクラウン』ってお店をやっています。主に品入れだからお店にいない事多いけど」

「ああ。冒険者用の安い道具を販売している良心的なお店のとこじゃない。確かうちの武官も練習用の武具の調達をお世話になってるかしら」

「恐縮です」

 店長は深く頭を下げた。


「っていけないわ。本当に大事になっちゃう。じゃ、二人ともまたね」

 そう言ってメリア王妃は微笑んだ後、日傘を優雅に差したままゆったりと正門の方に歩き二人から離れていった。


 ――プランちゃん……ね。うん、後で調べてみないと。

 メリア王妃は己が小さい頃から今まで、自分が参加した全てのパーティーの参加者名を暗記している。

 だが、栗色の髪をしたプランという女の子を、メリア王妃は知らない。

 だからこそ、メリア王妃はプランに僅かな不信感を覚えた。


 悪人には決して見えず、むしろ善良な人物だと言う事はわかるのだが、それでもメリア王妃はわずかでも怪しい可能性があるなら必ず調べる。

 それが王妃である己の、国を守る者の使命だと思っているからだ。




 さきほどまで見ていた途方もないほどの巨大な門ではないが、プラン達が向かった門も十分に大きな門だった。

 そしてそこの前にはずらっと馬車が行列を作っており、皆門に入るのを今か今かを待ちわびていた。

「……店長、これに並ぶんです?」

 プランの言葉に店長は微笑み首を横に振った。

「ううん。私が通行許可証を持ってるから安心して。伊達に首都で商売をしてないわよ。あれは許可証を持ってない……首都への売り物を持って来た人達よ」

「ははー流石店長。……あれ? 私は?」

 プランがそう呟くと、店長はすっと小さな紙切れをプランに手渡した。

 そこには簡潔に、『王都アルス通行限定許可証』と『プラン』とだけ書かれていた。


「伊達に商売をしてないって言ったでしょ? これもプランちゃんががんばってくれた労働の対価の一つよ」

 そう言って店長はウィンクをしてみせた。

「うん! ありがと店長。んで、この限定ってどういう意味?」

「それは一回こっきりの許可証って事。次からは自分で調べて自分で許可証を用意してね? でないとあの列に並んだ挙句取り調べに数時間とかかっちゃうわよ?」

「なるほど……うん、そうだよね。次は店長に頼るわけにもいかないし……通行許可証の取り方も早いうちに調べておこう」

 店長は己の意図が正しく伝わったのを喜び、プランの方を優しい瞳で見つめた。


 プランが門前の兵士に許可証を手渡し、店長は首からかけていたプランの物と違うしっかりとした許可証を見せる。

 それだけで他の馬車達が並んで立ち止まっているのを後目に堂々と門を通る事が出来た。


 そして門をくぐった先は、プランが今まで見た事がない世界だった。



 見たこともないような形の建物が立ち並び、馬車と人が常に行き来して人々の喧騒があちらこちらから聞こえてくる。

 ブラウン子爵領も同様に活気が溢れているが、そのブラウン子爵領よりも人々がかなり大人しい。

 あちらは多少ガラの悪い人達も多くいる為喧騒には叫び声や怒声が混じっているのに対し、ここ王都は人の楽しそうな話し声が中心で、様々な声は聞こえるが決して煩くはなかった。

 むしろ皆が楽しそうな、嬉しそうな声を出しており、まるでお祭りのよう雰囲気となっていた。


 また、車道である事も兼用した通行用道路は馬車が横に六台は通れるほど広く、そしてずっと道は続いている。

 そして、道路を除くと何らかの建造物が隙間なく建てられていた。

 ブラウン子爵領はもう少し余裕があったし、何より海を感じる事が出来た。

 リフレストは、村の中でも自然と一体だった。

 だが、ここはプランの経験したそれらと全く違っていた。

 決して不快ではなく、むしろ楽しい気分にさせられるのだが、プランは少しだけ緊張し落ち着かない気分になっていた。


「凄いなぁ……」

 プランは思わずそう呟いていた。

「うんうん。私も色々な都市を移動したけど、やっぱり王都は色々な意味で別格よねぇ。技術も文化も芸術も、全てが王都から広がると言っても過言ではないわ」

「というか……人凄すぎて迷いそう……」

 そうプランが呟いた瞬間、店長はすっと右手を差し出した。

「では、お手を宜しいでしょうか?」

 その仕草は何時もの店長ではなく、貴族の男の人らしくてプランはくすりと笑った。

「ええ。お願い。私田舎者でこんな人込み初めてだから」

「ふふ。私に任せて頂戴。さ、行きましょう」

「うん! あ、ところで、店長馬車良いの?」

「あら大丈夫よ。もう他の従業員に任せちゃったから。学園に届けると言っても一端店の中で品の確認しないといけないからね。それよりプランちゃんの方よ。私は反対だけど……それでも、どうしても冒険者になるんでしょ?」

「他に凄く強くなれつつ権力とかお金とか手に入る可能性がある何かがあるならそっちでも良いんだけど……」

「……武官……にはプランちゃんは無理そうねぇ。兵士からだとそれら全部ってのはちょっと難しいわね。冒険者が全部得られるかと言えばそれもまた難しいけど」

「あら? わがままって言わないんだ。店長なら叱ると思ってたけど」

「馬鹿ねぇ。女の子がわがまま言わないで誰が言うのよ。それに、どうしてもそうしないといけない理由があるんでしょ? それくらいはわかるわよ」

「……ありがとう店長」

「良いのよ。ほら。遠いから少し急ぐわよ」

 そう言いながら店長に腕を引かれ、プランは慌てて足を動かし始めた。




 正直に言えば、舐めていた。

 確かに王都は凄いなと思っていたが、まさかここまでとは思っていなかった。

 王都という名前でわかるように、王都とは一つの都市である。

 その事に間違いはないのだが、これは都市と呼んでいい範囲では決してない。

 王都という名前ではあるが、この広さはもう領と言って何の間違いもなかった。

 王都にいれば何でも手に入る。

 それに偽りはなく、王都の中には自然地区もあればダンジョンすら存在する。


 王都の他所と違う特別な部分。

 それは発展具合でも交通網の集中でも中央政府を内包している事ではなく……単純にその規模だった。


 プランは王都の規模を侮っていた。


 人込みの中手を引かれながら相当の距離を歩き、到着したのは目的地ではなく、馬車だった。

 二、三十人が広く乗れる交通専用の巨大な馬車、街中を定期往復する為だけに用意された馬車である。

 これに乗らないと到着するのが翌日か、最悪翌々日になるらしい。


 その時プランは少し疑問に思い店長にこう尋ねた。

『馬車があるなら門の前で馬車に乗れば良かったんじゃ?』

 その時の店長はこう返した。

『大量の馬車を見たでしょ? あの中で馬車に乗れば渋滞待ったなしよ?』

 プランは人込みにぎゅうぎゅうされて移動した為それが痛いほど理解出来た。


 そして馬車に乗って――山二つと森を抜けた。

 正直意味がわからなかった。

 山とか森が街中にある事も理解出来ないが、それ以上に完全に人の手で管理され野生動物が無害なリスや鳥しかいない上に馬車が山も道も平然と通れるようになってる事が何よりも意味がわからなかった。


 そのおかげで、呆れるほど長い時間馬車に乗っていても一切飽きる事がなく、景色が移り変わるのに驚いている間にプランは目的の場所に到着する事が出来た。

 少しだけ、未来に()隣領に移動した時の事をプランは思い出した。


「はい到着。どう? 目的の学び舎に来た感想は」

 馬車を降りた後、店長にそう尋ねられ、プランは首を傾げた。

「えっと……どこからどこまでが、学校?」

「え? 全部?」

 その言葉に、プランは再度首を傾げた。

 そこにあるのは学校ではなく、発展しきった街にしか見えなかったからだ。


 まず、見える範囲の中最も巨大で明らかに他の建造物よりも作りが良い横長い建物。

 お城のような貴族の館のような、または教会の神殿のような雰囲気もある少し不思議な建造物。

 何やら像のような物も入り口傍に見えるからプランは最初それが学校だと思っていた。

 数万人くらいは入れそうな巨大なその貴族学校のような建物。

 それが、数キロ先にある山の、更にその山頂に聳え立っていた。


 そしてその周りを、建造物が囲うように作られていた。

 領主の館にも似た建造物が縦に幾つも連なり、四角い枠のようになっている。

 山の裏側は見えないが、今の景色と対比する形になっているとすればその枠は長方形状になっているだろう。

 そんな城壁のような建造物の枠が、更にその外側にもう二周分作られていた。


 中央の何かカッコいい建物。

 その外側には真ん中の建物を囲む枠のようになった謎の建築が三重に築かれている。

 山にある建造物だけでこんな巨大な複合建築物が建っており、更に山の麓付近からプラン達のいる数キロ範囲にもぽつぽつと独立した建造物が幾つも存在している。

 それは店のような物もある為、プランが街と勘違いしても決しておかしくはなかった。


「えっとねぇ……目の前にある大きな……白くて屋根の上に刺々しい飾りがついている建物があるでしょ? あそこで入学者の受付をしているからそこで話を聞いて頂戴。あ、住む所は寮があるから安心して良いわよ。ほら、あの山の一番外側の建造物。あれ全部寮だから」

「うわすっご。何百万人入るんだろうあそこ」

「んーそんなに入らないんじゃないかしらねぇ。ぎゅうぎゅう詰めにでもしないと。んでプランちゃん。何か今のうちに私に伝えたい事ある?」

 その言葉で、プランはこれで店長とお別れである事を思い出した。

 最初からお別れは決まっていたのに、何故かプランはずっと一緒にいられると思っていた。


「ああ……そっか。うん。そうだよね……。何か聞きたい事……店長のお店って『ムーンクラウン』ってお店だったよね?」

「そうよ。ただあっちこっちに店持ってるし私品入れが主な仕事だから店にいるのは月に五日もないけどねぇ。でも連絡そこで残してくれたら私がプランちゃんに会いにくるわよ」

「そっか。ありがと店長。あ、一つだけ聞きたい事があった」

「なあに?」

「店長、名前教えて。従業員じゃないから店長じゃなくて名前で呼ばないと」

「あれ? 言ってなかったかしら?」

「言ってないよ」

「ごめんなさい。言ったつもりになっていたわ。『ジュール』よ。好きに呼んで頂戴」

「ん。ジュール店長。これまでありがとうございました。そして、良かったらこれからも宜しくお願いします」

「ええもちろん! 頑張る気になってるとこに水を差すみたいで悪いけど、諦めたならすぐに言って頂戴。私が雇ってあげるから。それくらいは貴方の事気に入ってるし買ってるのよ私も……あの店の皆も」

「ん。ありがと。そうならないように頑張るね」

「ええ。後……プランちゃんが冒険者を続けるにしても続けないにしても、三か月後には必ず、何があっても会いに行くわ」

「どうして三か月後?」

「そこが最初の壁だからよ。すぐにわかる事だけど、三か月過ぎてここに残れるのって三割程度よ。だから……本気なら三か月後に残れる事を意識して頑張りなさい」

 ジュールはそんな言葉を残し、くるっと後ろを向いてプランから離れていく。

 プランはそんなジュールに深く頭を下げた。

 ジュールからは見えないはずだが、ジュールはそんなプランにエールを送るようプランの方に手を向けひらひらと手を振った。


ありがとうございました。


表現力が足りない……建造物の参考資料をアウトプットしたいけど画力はもっと足りない……。

うぐぐ……申し訳ないけどやけにファンタジー学園ぽい雰囲気を醸し出したすげー学校って脳内補完をおねげーします_(._.)_

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