表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/334

3-1話 まるで英雄譚の始まりのような


 プラン、サリス、エージュ、テオ、ヴェインハット、ミグの六人は教室に集まり、テオの集めた情報について話し始めた。

「まず、今回の依頼はぶっちゃけめちゃくちゃ怪しかった。それこそ誰が悪いのかわからないくらいにな」

 テオはそう言った。

「怪しかった? どの辺りが?」

 そのプランの言葉に、テオは困った顔で返事を始める。

「全部だよ。……依頼内容は当然、これを正規の依頼とする教会も、それを受けざるを得なかったであろうプランも。何もかもが怪しく見えていた」

 その言葉にプランは小さくなって俯いた。

 何も言い返せないからだ。


「過去形って事は……調べは付いたのか?」

 ヴェインの言葉にテオは頷いた。

「ああ。まず、プランに関してはこの人格と行動パターンでクロである可能性はないだろ? んで教会も……ホワイト寄りのグレーって感じだったな?」

「ホワイト寄りのグレー? どういう事だ?」

 サリスがそう尋ねると、テオはゆっくりと説明を始めた。


 今回の教会側の役割は依頼主と冒険者ギルドの仲介人……なのだが、正直な話教会はこの依頼を出したくはなかった。

 意図的な情報の欠損が見られるからだ。

 どのような人数で行動し、何をしたかは一切語らず被害だけを語る依頼願いからは、詐欺依頼である可能性すら感じられた。

 最悪でも裏を取ってもう少し煮詰めてから冒険者ギルドに提出するべきだ。

 そう考えていたのだが……そうもいかなった。

 依頼を即座に用意する事が枢機卿直属の、しかも神の従者としての命令だったからだ。


「というわけで怪しく感じていた教会側の依頼担当者の人が色々調べてて、俺もそっちに乗っかって一緒に調べて、何となくだがどうしてこんな依頼になったのか見えてきた」

「ほうほう。んで結局依頼が怪しいのは誰の所為だったんだ?」

 サリスがそう尋ねるとテオは少しだけ難しい顔をした。

「色々ややこしいんだが、教会ではない仲介人、つまり依頼人側の仲介人が悪さをしていたっぽいな」

 そう言った後、再度テオは説明に移った。


 アップルツリーという山に盗賊が住み着いた事により被害を受けた者は多かった。

 元々この山で生活をしていた者は仕事と住み家を失った。

 交通ルートとして近くを通っていた商人は荷物を奪われただけでなく今後通行出来なくなった。

 近隣の住宅地は農作物や家畜が強奪され、他に被害が出ないか怯える日々を過ごしている。


 そして、わざとか偶然かわからないが死者が出ていない為、領主はこの盗賊問題の優先順位を低めに設定していた為すぐに救援が来る事はない。

 とは言え、領主が動くまでじっと待っているなんて事が出来るわけがない住民達は、皆で協力し金銭を集め、冒険者ギルドに依頼を出した。


 つまり、この依頼の依頼主は盗賊被害者の会全員である。

 

「んでここまでなら話はこじれなかったんだが……一人馬鹿がいてな……」

 一人の男が立候補し、ギルドに依頼を申し込む代表役となった。

 男は盗賊の被害が比較的少ない町の長で、他の長が皆盗賊対応にひぃこら言っていた為代表となる事に誰も反対しなかった。


 男は長として生きてきた為学があった。

 それが、今回は悪い風に働いた。

『これ、依頼金を安くすれば差額を懐に入れられるのではないだろうか』

 そう思った男は、依頼内容を若干温く変更し、報酬をごっそり減らしてから依頼を申し込んだ。


「つーわけで、今回の依頼がおかしかったのは依頼人代表が馬鹿をやったのと、冒険者ギルドへの依頼に無理やり介入し依頼を即発注しなければならなくした教会の落ち度だったという訳だ」

「……もう一つ、足りなくないか?」

 ヴェインハットはテオに向かってそう呟いた。

「え、え? な、何の事だ?」

「……お前は慎重な男だ。そんなお前が『プランちゃんは良い子なので怪しくありません』なんて言う訳がないだろう。……何か他に情報があるな?」

 その言葉にテオは笑い首を横に振った。

「そんなわけないだろう。何もなかったさ」

「……嘘だな」

 ヴェインハットははっきりそう言い切ると、テオは渋い顔を浮かべた。


「……もしかして……本当の意味での依頼人について知っちゃった?」

 プランがそう尋ねると、テオは慌てて顔を反らした。

 それはどう見ても、知ってはいけない事を知ってしまった人間の反応だった。


 今回の依頼は、盗賊に困った住民からの依頼であるのも間違いないのだが……プランに直接依頼をしたのは別の存在である。

 創造神クリア。

 この世界にいる六神の一柱、世界を守護する神。

 そんな大いなる存在こそが、今回の依頼人だった。


「……プラン、詳しく話せないのか?」

 サリスにそう尋ねられるが、プランは首を横に振った。

「言えないんだ。ごめん。信頼とか信用とかそういう話じゃなくて……その……機密的な……」

「……身分を隠したい、すごーく偉い人からの依頼って……事だと思う」

 ミグがそう助け船を出すと、事情を知らないサリス、エージュ、ヴェインハットは納得したような表情を浮かべた。

「あー。悪かった。そりゃプランちゃんはシロだし詳しくは言えないわな」

 ヴェインは頷きながらプランとテオに頭を下げ口を閉ざした。


「ま、まあこの話はここまでにして、とりあえず俺と教会側の人とで合同調査した正しい依頼内容について話して良いか?」

「良いけどよ、その馬鹿やった依頼代表はどうなったんだ?」

「え? 教会と、冒険者ギルドと、近隣住民全員を敵に回して今生きているとでも?」

 テオの言葉にサリスは手を横に広げ小さく溜息を吐いた。


 ちなみに、教会が介入し全ての報酬を教会側が用意する為、村人側が支払う金銭は零となる。

 もうこの初期段階で依頼代表の男の目論見は完全に崩れ去っていた。




 依頼内容は概ね報告書と同じだった。

 アップルツリーという名前の山に盗賊が住み着いたからそれを捕縛し、彼らが盗んだ物資を出来るだけ回収して欲しい。

 ただ一つ違うのは、盗賊の根城が洞窟ではなく、洞窟を内包している山脈用の砦であるという点である。

 老朽化と治安改善により遥か昔に廃墟とされた監視塔付きの軍事拠点。

 それを、盗賊は復旧され使用していた。

 これがどういう事なのかと言うと……良くて高い技能を持つ土木従事者がいるという事であり、最悪の場合は土木建築特化の元工兵が盗賊にいるという事になる。


 盗賊の人数は単独行動が多く不明だが最低でも三十人はいるだろう。


 軍事拠点に軍事経験者が絡むという明らかに危険度が跳ね上がった状況となった為、基本報酬は五十金貨と上乗せされた。

 冒険者の見習いが得られる金額をはるかに超え、正直眩暈がするほどの大金だが欲に目が眩むような気分には決してなれなかった。


「これがどういう事かわかるか? 旧式とは言え軍事拠点を正しく運用している盗賊だぜ。軍事経験者の可能性が高い。そりゃ生かして捕縛しないと駄目だわ」

「どうしてだ?」

 テオの言葉にサリスが疑問を挟んだ。

「もし本当に裏切った軍人だったなら、見せしめも兼ねて処刑しなければいけないんだよ。兵士という本来国、領地を護る者がそんな事したらどうなるかってな」

 最悪の場合、兵士ではなく武官が盗賊メンバーにいる可能性もあるが、それをテオは敢えて言わなかった。

 言ったところでどうしようもない事だからだ。


「俺は命を賭ける理由があるから引けないが……テオはどうするんだ? ここで引いても報酬は貰って良い位仕事しただろ?」

 ヴェインハットがそう言葉にし、プランは横で頷いた。

 これらの情報だけで、十分報酬を受け取って良い資格がある。

 だが、テオはヴェインの言葉に酷く困った顔を浮かべた。


「……いやな、色々知ってしまったら引けなくなってしまったんだよ……」

「引けなく?」

 プランは少しだけその言葉が気になり首を傾げた。

「子供の頃な、父が重体になった時願った事があるんだ。『クリア神様……。どうか父をお助け下さい』ってな。んで、その時一瞬だけ神々しい気配を感じたんだよ。幻か偶然か、それとも本当にいらっしゃったのかはわからないがね。そして、その後父は恐ろしい速度で回復した。……クリア教信者ではないが、まあ裏切れない恩があるんだわ」

 そう言ってテオは苦笑いを浮かべた。


 そう、これはクリア神直属の依頼である。

 それを幼少時とは言え、願いを聞いてもらい親の命を助けてもらったテオは断る事など出来るわけがなかった。


「というわけで、残念ながら俺も最後まで付き合う。だから……気合入れろよ? 命が残らなきゃ何にもならんからな」

 そんなテオの言葉に、全員が頷いた。


「というわけでー。テオが私達に最後まで協力してくれる訳になったし今回の指揮はこのままテオで良いよね? 私より絶対頼れるし」

 そうプランが言うと全員が頷き、最後にテオも頷いた。

「ま、一応冒険者として暮らしてたし、器用貧乏な存在だが……受けよう。素人よりはマシなはずだ。というわけで最初の話なんだが……まだ何かあるだろ? 依頼に書かれていた頼み事が」

 テオはプランの方に近寄り、耳打ちするように内緒話を始めた。


 周囲は怪訝に思うが、『まあプランだししょうがないか』みたいな雰囲気で流す事にした。

「え? え?」

「依頼人があのお方なんだ。まだ何かあるんだろ? 良いから言っとけ。もうわかってるから」

「え、あうん。前言った通り先輩の参加は一人だけ。んで、そこにある何かの道具を絶対に回収しろって言われた」

「それは何かはわからないんだな?」

「うん。教えてもらってない」

「その回収ってのはこっちで内密に回収するのか?」

「ううん。ギルドにそのまま返せば良いらしい」

「……他にないな?」

「うん。たぶん」

 その言葉を聞くとテオはプランから離れた。


「よっし。というわけで、俺と教会側の情報はこんなもんだ。他に情報持ってる奴いるか? 例えば近隣にこんな施設があるとか、こんな伝説の武具があるとか」

 テオの言葉に、ヴェインハットがやけに気取った仕草で手を上げた。

「ああ。少々離れているがアップルツリーの近くに錬金術に特化した変わった村があったな。確か――」

「……エメスの村」

 ミグがぽつりとそう呟き、ヴェインハットは自分の役割を奪われしょんぼりした雰囲気を出し黙り込んだ。


「小さな農村に巨大な錬金術の研究施設があるという変わった村。理由は……研究に失敗しても最低限の被害で済むようにと、機密保持の為」

「ミグちゃんはどうしてそれを知ってるの? 今回調べたの?」

 プランの言葉にミグは首を横に振った。

「ううん。知り合いがいるの」

「へー。流石妖精使いさん。魔法とかも詳しいしそう言う伝手が強いんだねー」

 そう言ってプランはミグの頭を撫でると、ミグは嬉しそうに喉を鳴らした。


「あー。ミグ。邪魔して悪いが、その施設についてもう少し詳しく説明してくれないか? 後、何か事件があったとか」

「ん。その研究施設の名前は『エメスの水銀』。国家直属で錬金術の未来技術について研究する施設。知り合いはいるけど機密がしっかりしてるから詳しい研究内容は知らない。んで……ここ数か月で盗難事件が起きたって聞いた。何が盗まれたか知らないけど」

 その言葉にテオは顔を顰めた。

「あー。不安要素というかある種予定調和というか……。いやまだ確定でないから何も言えないな。とりあえず、全員にやる事を指示して良いか?」

 テオの言葉に全員は揃って頷いた。


 お互いの事を詳しく知っているわけではないが、それでも短い学園生活でお互いに背中を預けて良い位には信頼が生まれていた。


「ミグはその盗まれた物について調べられたら調べてくれ。期限は出発の三日後までにだ。他にも盗賊とかかわりがありそうな怪しい情報も頼む」

「ん。わかった」

 そう答えた後ミグは眉を上げやる気出ましたポーズを取り、とてとてとどこかに去っていった。

「ヴェインは俺と情報収集を続けるぞ。三日しかないが、少しでも不安要素は減らしたい。……まあ不安要素しかないんだけどな」

「ああ。ちょっと兵士向けの罠を準備しないといけないからそれと併用で良ければな」

「そっちも俺が手伝う。んで、サリスとエージュは道具類や馬車の手配などといったものの手配を頼む。食料は現地確保出来るから少な目でも構わないが水は多めに頼む」

「分かった。プラン。悪いが全力でお前のコネ使わせてもらうからな」

 そう言ってサリスとエージュはムーンクラウン商店学園に向かって早足で移動を開始した。


「それで、私はどうしたら良いの?」

 プランがそう尋ねると、テオは神妙な顔で頷いた。

「ああ。今回の依頼ってな。マジで命がけだ。これは俺達新入りだけでなく、そこそこの冒険者であっても軽々と命を落とすだろう。それこそ、武官クラスの人間が受けるような依頼と言って良い」

「うん。ごめんね巻き込んで」

「おう。報酬は多めに貰うからな」

「それはもう当然」

「ま、そこはどうでも良いんだ。その命がけの依頼の成功率を少しでも上げる為に、一枠を余らせるわけにはいかない。誰でも良いから、優秀そうな先輩を依頼に巻き込んでくれ」

「……うん。そうだね。それが私の役目だよね」

「やるべき事でもあり、適材適所でもある。期限は三日だ。頼むぞ」

 そう口に出した後、テオはヴェインハットとどこかに歩いて行った。


「……そう……だよね。危険な依頼でも、頼らないといけないよね……」

 そう呟き、プランは誰を巻きんだら良いだろうか……沈んだ気持ちのまま考え始めた。


ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ