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2-番外編 守りたいもの


 ギャリシー達が教師に連行され、プランはどこに抗議する事も出来ず、なあなあにされたまま時間だけが過ぎ夜となった。


 夕飯の時、サリスもエージュも安堵したような表情を浮かべていた。

 問題が解決したような、すっきりした空気。

 それが、プランには何よりも悲しかった。


 仲良くなれれば良かった。

 それが無理でも、せめて一緒にいて不快にならない位の気持ちでいたかった。

 決して……決して誰かを排除して納得したかったわけではなかったのだ。


「……今日は……いないのか」

 プランはルームメイトであるミグのベッドが空な事を確認し、小さく溜息を吐いた。

 何となくだが、誰かと話をしたかった気分だった。

 他愛無い話でも良いから、誰かと……。


「ああ、そっか。私、寂しいのか」

 そう呟き、プランは一人ベッドの上で未だ目覚めぬ友達(妖精石)を抱きしめた。




「何か……わかんなくなってきちゃった」

 自分は何が出来て、何をしたいのか。

 そもそも、自分は何をすべきなのだろうか。


 何もかも、プランはわからなくなっていた。


 寂しさと悲しさにより感情が沈み、憂鬱な気持ちとなり自信が霧散していく。

 自分は何も出来ない駄目な奴なんだという気持ちが生じ、それが感情を更に沈ませる。

 プランはそんな負のループに包まれていた。


「……都会暮らしって、難しいね」

 プランは南の方角をじっと見つめぽつりと呟いた。

 別に深い意味はない。

 単純に、ホームシックになっているだけである。


 ただしその方角にある故郷は……絶対に戻る事が出来ない、自分の場所がない故郷だが。


 例え自分の生きた証が消えていたとしても、プランにとって最も大切なものは間違いなく故郷である。

 その故郷を護る為にプランは生きていると言っても過言ではない。


 遥か遠くにある最愛の故郷。

 自分が生きた証は消え、過去も現在も自分という存在を一切映さなくなった我が故郷。

 それでも……プランは一切その愛情を陰らせることはなく、むしろより深く故郷を護りたいと願うようになっていた。


「……ああそうか。だから私は苦しんでるのか……。そか……増えちゃったからか……」

 プランはそう呟き、苦笑いを浮かべた。


 今までは、守りたいものが増える事はなかった。

 その全てが故郷を中心に形成されていたからだ。


 ヨルンやハルトと言った家族のような友達。

 ミハイルという優しすぎる兄。

 亡くなった父と良く知らない母。


 わざわざ来てくれた武官のリオとアイン。

 私の事を好きだと本気で言ってくれるリカルド。


 その他、兵士も民も、皆プランは大切に思っていた。

 それでも、その事を重たいと思った事はなかった。

 何故ならば、その全てが領主として護るべき一つの物、領地に重なるからだ。


 領主として護っていれば、守りたい者を皆守れていた。

 領主であった時は、守りたいものがたった一つだった。




 そして、プランは領主でなくなり、領地から離れた生活が始まった。


 その生活が――とても楽しかった。

 友達が増えた。

 友達になりたい人が出来た。

 皆、良い人だった。


 いつしか、この生活が守りたいと思えるようになっていた。

 大きな荷物が一つ、二つ、沢山と増えていた。

 それをプランは、自分では背負え切れないと思えるほどに重く感じていた。


「私、どうしたら良いんだろうね」

 手に握られた妖精石にそう問いかけるが、当然だが返事は返ってこなかった。

 何となく程度だが、感じられるワイスの魔力は一割程度かそれより下くらい。

 最低でも後九か月は目覚めないだろう。


「……荷物を下ろせないなら……頑張るしかないよね」

 とても頑張れるような顔でないプランは、そう呟き、無理やり笑った。

 その顔は、ただただ痛々しいだけだった。




 こん。


 窓の方から小さな音が聞こえたがプランは気にせず、ベッドの上で沈んだ気持ちのままぼーっとしていた。


 こん……こん……。

 流石に二度も聞こえればプランは違和感を覚えた。

「……虫かな?」

 ごん!


 その直後にさきほどより強い音が聞こえ、流石におかしいと思ったプランは慌ててベッドを下り窓を開けた。

「一体何事……?」

「……て」

 何か小さい音が聞こえ、その声の方角である下の方をプランは見つめた。


 こつん。

「あいたっ。……なんだこれ?」

 プランは自分の頭に当たった小石のようなものを床から広い見つめた。

 殻をむいたクルミだった。


「……ん? んん?」

 良くわからずプランは地上にいるクルミを投げたであろう人物、ミグを見つめた。

 両手を合わせて何やら謝罪するポーズを取っていた。




「んでさ、どしてクルミ投げてたの?」

 プランは窓からジャンプして入ってきたミグにそう問いかけた。

 ちなみに、この部屋は三階相当でミグは魔法を使っていない。

 どうやらミグは身体能力も相当に凄まじいらしい。


「小石投げたら……ガラス割れるかなって」

「あー。でも何でクルミ?」

「おやつに、持ってたから……」

 そんな小動物みたいな事を呟くミグに、プランは小さく微笑んだ。

「何この可愛い生き物。持って帰りたい」

 そう言ってプランはミグをぎゅっと抱きしめると、にゃーと鳴き声が聞こえた。


「おー。今のミグちゃんの声? 猫の真似上手だね」

 そうプランが呟くと、ミグを無言のまま、自分のローブ内をがさがさと漁り、中から真っ黒い猫を取り出した。

「にゃー」

 その猫は、間の抜けた声でそう答えた。


「……へ? ぬいぐるみ?」

 その言葉にミグは首をぶんぶんと振る。

 それと同時に、猫は尻尾をパタパタと動かし地面に下ろせと体をじたばたさせていた。


「どうしたのその子?」

 プランがそう尋ねると、グミは首を傾げた。

「拾った」

「……寮は動物飼うの禁止でしょ? どうするの?」

「……どうしよう」

 そうミグは呟きながら猫をそっと下ろすと、猫は一目散に走りプランの膝の上に座り丸くなった。


「……どうしよう?」

「……どうしよう?」

 困った声でそう呟く二人だが、その顔は緩み切っていた。

「ミグちゃんってそんな風な表情も出来るのね」

「……ん。動物、好きだから」

「……そか」


 人間嫌いなんだろうなとは思ったが、プランはそれを口には出さなかった。

 口出しして良い部分の事じゃないと感じたからだ。


「……手があるから手伝って、って言ったら怒る?」

 しょんぼりした口調でミグがそう尋ねると、プランは首を横に振った。

「その手が誰かを犠牲にする手ではないなら、私はむしろ強引にでも手伝いに行くよ。ミグちゃんとこの子が一緒にいるって事は、必然的に私とこの子も一緒にいられるって事だからね」

「ん。……だからプラン好き」

 そう言ってミグは猫のように、プランの肩に頬を擦りつけた。

 それを見た猫もまた真似をし、プランに顔を擦りつけた。


 こそばゆい気分だが、決して嫌ではなかった。


「んで、どんな手段?」

「この子を……鍛える?」

「はい?」

「超……鍛える」

「何故に?」

「……この寮は戦闘関連なら、武器でも動物でも持ち込みが許可されているから」

「なるほど……。でも、私に手伝える事ある? 私自身戦えないのに」

「……近いうちに動物育成の本を取り寄せる。そしたら、教育するの……手伝って。単純に人手が足りない」

「オッケー。……他の人は……内緒にした方が良いよね。それまで見つかるわけにはいかないから」

 その言葉にミグは頷いた。

 友達達を信じていないわけではない。

 知っている人が多くなればなるほど、見つかる危険度が増えるからという判断である。


「だから、プランしか頼れない」

「ん。じゃあ、頼ってよかったて思えるよう頑張りましょうかね」

 そうプランが答えると、ミグと猫はにゃーと鳴きプランに甘えた。


 気づけば猫もミグもそのままプランのベッドの上で寝入っていた。

 そんな一人と一匹を見つつ、プランは微笑みながら毛布をかぶり目を閉じた。


 何一つ改善されたわけではないが、気持ちだけは元に戻りプランは自然と笑えるようになっていた。



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