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2-15話 絶対仲良くなるガールホラー風味


 プランが頭を怪我した翌日、プランは皆にこう伝えた。

『ごめん。私やらないといけない事が出来たから依頼の情報収集お願い。ちゃんと埋め合わせもするから』

 プランから始まった依頼である為それはあまり良くない事なのだが、五人は全員特に考えもなくそんなプランのお願いに了承した。

 それはプランが稼いできた信頼という理由もあるにはあるのだが、一番の理由は情報収集という分野でプランが役立つとは思えなかったという理由が強かった。

『この子に情報収集させるくらいなら別の事をしてもらった方が良いだろう』

 それは全員が同時に思った事であった。


 そして埋め合わせの内容はプランの用事が終わるまで毎日昼三時、五人におやつのパンを用意するという事に決まった。

 というかミグが勝手にそう決めた。

 女の子の手作りパンが食べられるヴェインハットに食べるの大好きミグはともかくテオはそんな事を埋め合わせにするのはと文句たらたらだったが、一口そのパンを食べた瞬間文句は一切言わなくなった。




 そしてその日から三日ほど経過した。

 たった三日しか経っていないのだが……新入生クラスメイトのプランに対する印象はがらっと変わった。

 サリスとエージュ、テオ、ヴェインハットは今までプランの事を出来る事が多く人付き合いが得意な子だと思っていた。

 決してその評価がなくなったわけではないのだが……今四人のプランに対する一番の印象は出来る事が多い事やその愛嬌よりも、目的を見つけたらまっすぐしかいけないその性格に強い印象を覚えていた。

 端的に言うなら、四人はプランの事を『イノシシのような何か』だと思うようになっていた。

 ちなみにミグにとってプランは大好きな『美味しいパンを作る人』である。


 印象が変わったのはこちら側の人員だけでなく、プランと敵対関係に等しいギャリシー達もだった。

 彼らの最初の印象はおそらくだが、見下すべき相手であり苦しめたい相手であったのだろう。

 現にプランに対しての嫌がらせだけ度を抜いて頻度が多かった。

 しかし、その頻度はこの三日で激変し、現在彼らはプランに一切かかわろうとしない。

 ギャリシー達四人はプランに対し『未知なる存在への恐怖』を覚えていた。

 それはを出来るだけ正確に表現するならば『こいつは普通じゃない』という畏怖となるだろう。




「……うまくいかにゃい」

 ミグとの相部屋の中でぐでーとした様子でプランがそう声を出すと、遊びに来ていたサリスとエージュが呆れたような表情を浮かべた。

「……いや、嫌がらせもなくなったんだしこれで良いだろ。何が不満なんだ」

「だって……仲良くなれてないじゃん」

 意味の分からない事を聞き慣れた二人はそれを適当に聞き流した。

「それにさ、何でか知らないけど私に対しての嫌がらせはなくなったけど、その分他の人に嫌がらせしてるじゃん。これむしろ悪化じゃないかな?」

 ギャリシー達はプランに対して嫌がらせをしなくなった代わりにエージュやミグなど女性らしい人や子供っぽい女の子に対しての嫌がらせを行うようになった。

 と言っても、今までのように露骨なものではなくセクハラ的なやじ飛ばしが精々で相当大人しくなっている。

 またそのヤジを飛ばしているのもギャリシーの取り巻きで、ギャリシー本人に至っては、ここ二日ほど姿すら見ていない。


「まあ私は別に気にしませんので。それよりも、どうして彼らの反応があんな変わったのか教えていただいてもよろしいでしょうか?」

 エージュの言葉にプランは困った顔を浮かべた。

「いや、私も良くわからなにゃい。初日に会ってからギャリシー君にも会えなくなったし」

「……一体何をしでかしたか教えていただいてもよろしいでしょうか?」

 その言葉にプランは首を傾げた後頷き、ここ三日の事を話し出した。




 まず、ギャリシーが一人でテーブルに座っている時に、プランは突撃し話しかけにいった。

『お友達になりましょう!』

 屈折のない笑顔でそう言葉にしたプランを見たギャリシーの顔は、歪なほど歪んでいた。

 それは怒りと恐怖と困惑を混ぜたような表情と言っても問題はないだろう。


 前日に頭に大怪我負わせた相手が、本気で友達になろうと笑顔で現れる。

 普通の場合なら痛みから恐怖に縛られるか、痛みを与えた相手を怒り怨む状況である。

 敵対していると言っても過言ではない相手に心の底から笑顔になり、本気で仲良くなろうとする行為はギャリシーの常識では考える事すら出来ない事だった。


 当然だが、ギャリシーは拒絶した。

 もう一度同じ事をしてやろうかと脅しも加え、恐怖を隠しプランを強く、今まで何人もの冒険者を怯えさせてきた恐ろしい目で睨みつけた。

 それでも、プランの笑顔は僅かたりとも曇らなかった。

『痛いのは嫌だから次は避けるね! それはそれとして貴方は何が好き? ギャリシー君の好きな事教えて』

 そんなプランに、ギャリシーは心から恐怖した。


 辛い事など何一つなかったような何も考えていない笑顔を、痛みを与えた相手の前で出来るその度胸強さ。

 目的のわからないその気持ち悪さ。

 元から女嫌いであるギャリシーだがここまで女相手に怯え鳥肌を立てた事はなかった。


 そして何より怖かったのは……。

 ギャリシーは自分が女嫌いであると強く自覚している。

 それなのに、ほんの一瞬だがプランに対しての嫌悪感がなくなった。

 それがギャリシーにとって何よりも恐ろしかった。

 その時を境にギャリシーはプランに対しての嫌がらせを止め、それどころか顔を合わせないようにプランから逃げた。




 二人目、ギャリシーの傍に細く背の低めな男性が一人でいる時にプランは突撃し話しかけた。

「こんにちは! 貴方の事を教えて! その髪型は趣味?」

 プランは真っ先に気になった魅惑のブラウンアフロヘア―についてそう尋ねた。

 その男はプランの突然の奇行に驚き目を丸くしたまま固まっていた。

 その後イライラしたり不満をぶつけたりはしたものの、自慢げにではあるが男は自分の事をプランに話した。


 男の名前はグルディ。

 アフロがトレードマークのギャリシー第一の部下。

 魔物を単身で殺した事もある剣使い。

 ただし、全て自称でありかなり高い下駄が履かされている。


 どんな話も興味深そうに聞くプランに対し男は次第に怒りを忘れ、ぺらぺらと、意味のない自慢話を長々と続けた。

 依頼報酬にもらった金貨を酒代として一日で使い果たしたとか、貴族と繋がりがあるから俺は強いコネ持ちだとか、女にモテて一晩で十人相手にしたとか。

 そう言ったどうでもただの見栄である自慢話を繰り返し、プランはそれを真剣に、楽しそうに聞いた。


 気づいた時にはグルディから怒りは消えており、ただただペラペラと自慢話を繰り返すオウムのようになっていた。


『俺はな、ギャリシーさんに認めてもらったんだ。それが嬉しくてな』

 そう言ってグルディは自慢話を止めギャリシーについての話を始めた。

 十人相手に対して拳のみで倒し、誰一人殺さず無力化したといった話を身振り手振りを交えつつグルディは大げさに話した。

 男が相手であるならギャリシーは極力人を殺さず、子供相手には優しいという側面もある。

 その反面女の事は嫌悪しており子供であっても追い払う為に蹴り飛ばし敵であるなら出来るだけ苦しむように殺す。


 それは過去の事が……とまで話した後、グルディは口を止め驚いた表情でプランの方を見つめた。

 それは最初の時と変わらずニコニコしたままで、人懐っこい笑顔のままだった。

『うん? どうしたの?』

 まるで友達との語らいのようにそう尋ねるプランに、グルディは恐怖した。


 飲み屋の女性相手であってもここまで気分良く話をした事はない。

 しかも、今話そうとした話はギャリシーにとってのタブー中のタブーで、話した場合は男であっても殺されかねないような内容である。

 そのタブーを口が滑った程度で言いかけたのだ。

 それはもう恐怖でしかなかった。


 グルディは目の前にいる女は人ではなく、強く恐ろしいギャリシーに匹敵するような、そんな化け物であると思えた。

 そう気づいた時には、その笑顔すらもおぞましく感じるようになり、グルディは慌てて逃げ出した。


 さっきまで楽しく話を聞いていたのに突然走り出したグルディにプランは小首を傾げ少しだけ寂しそうにした。




 プランは続いて三人目の四人の中で一番大きな男性に歩きながら話しかけた。

 男は今までと違いプランに対して否定的な姿や怒りを見せなかったが……代わりにプランの体を舐めまわすように見つめ下卑た笑みを見せていた。

 それでもプランは変わらず、屈託のない笑顔を見せていた。


 男の名前はゲーナ、ギャリシー第一の子分だそうだ。

 頭に毛がないのは剃っているからでハゲというわけでなく、ついでにアソコの毛も剃っていると厭らしい笑みを浮かべながらプランに説明した。

 それでもプランは笑顔のままだった。


 見ての通り体格と力が自慢で武器は大盾と鎖付きの鉄球。

 基本盾で殴りつつチャンスがあれば鉄球でぶん殴るスタイルらしい。

 子供の頃から勉強が嫌いで、体格を生かせる何かで大成したく冒険者になる道を選んだそうだ。


 そんな話をしながら、ゲーナはプランを人気のないところに誘い出そうとしていた。

 ゲーナは女であれば若かろうと肉付きが悪かろうが別に良いという考えがあり、同時にギャリシーの敵であるプランには何かしても問題にならないだろうと思い込んでいた。

 そんな下卑た笑みを浮かべ、今にも牙を剥こうとするゲーナをプランはまったくと真剣な瞳で見つめた。

『それが冒険者になってまでしたかった事なの?』

 その問いに、ゲーナは返す事が出来なかった。


 さっきまでニコニコと能天気に笑っていた何も考えてないはずの馬鹿女だったはずなのに……。

 今のプランのしているその目は、まるで自分の内側までも全て見通して曝け出さされているいるような、そんな目だった。


 ゲーナはその場から立ち去った。

 萎えたとかそんな気分じゃなくなったとかそういった理由を付け、自分の内面を隠す為にプランから逃げ出した。


 プランはまたしても置き去りにされしょんぼりとした顔を浮かべた。




「そんなわけで探して突撃してお友達になる作戦は見事に失敗しました」

 プランがそう言葉にすると、サリスとエージュは何とも言えない表情を浮かべた。

 もし、その表情に題名を付けるとすれば『ドン引き』となるだろう。

「……プランお前そんなやべぇ奴だったんだな。正直あいつらにちょっとだけ同情したわ」

「えー。仲良くなろうとしただけじゃん。お話聞いて、相手の事知ろうとして。何も悪い事してないよ? 本当に悪い事しようとしたら止めるし危なくなった逃げるし、ほら何の問題もない」

「ああうん。それを本気で言ってるんだからお前は怖いんだよ」

 プランはギャリシー達が怯えている事も見栄の為に法螺を吹いた事もプランを襲おうとした事も理解していた。

 その上で、仲良くなろうと本気で思っているのだ。

 その精神はもはや常人のそれとはかけ離れ逸脱していると言っても過言ではなかった。


 自分の感情は全て度外視し、目的の為なら敵であっても手を取り合おうとする。

 それはまるで、為政者の考え方のようで――。

「いえ、そんなわけないですわよね」

 エージュは自分の考えがあり得ないと思いそう呟いて首を横に振った。


「……プラン、次、行く?」

 横でベッドに転がり枕を抱えているミグがプランにそう尋ね、プランは笑顔になって大きく頷いた。

「もちろん! 私は何があっても諦めないよ。そりゃギャリシーさん達とずっと一緒のクラスになりたいって目的もあるけど、それとは別に単純に仲良くなりたいし」

「そか。……じゃ、行こ」

 そう言ってミグはプランの手を引っ張り、部屋の外に連れ出そうとした。

「ミグ。プランをどこに連れてこうとしてるんだ?」

「……ギャリシー達は四人組。んで、残りは……」

「ああわかった。つかお前が糸引いてたんだな。そして相手の恐怖体験は続行と……。ま、悪い事はしてないし悪い結果にもならないだろう。行ってら」

 サリスがそう言うとプランとミグは手を大きく振ってから部屋を出て行った。


「あ……」

 エージュはある事に気づき小さく声を漏らした。

「どしたエージュ。何か伝え忘れたか?」

「いえ……部屋主のお二人鍵も掛けずに出ていかれたのでどうしたら良いかなと……」

 テーブルの上に転がった二つの鍵と堂々と隠さず置かれた金貨袋を見て、エージュは困ったような顔でそう呟いた。

「ま、あいつらが戻って来るまで待ってたら良いだろ。そんな時間かからないだろうしついでに今する事も特にないし。あ、エージュに何か用事あるなら俺一人で待ってるぞ?」

 そうサリスが言うとエージュは小さく微笑んだ。

「いえ。私も暇です。せっかくですので一緒に待ちましょう」

「そか。んじゃそうするか。ああ、誰か待ってないといけないけど何か軽く食いたい。後でジャンケンして飲み物と食い物持ってくる担当決めようぜ」

 何故かウキウキしているサリスにエージュは苦笑いを浮かべながら頷いた。

「はいはい」

 しょうがないという風な態度を取っているが、エージュの口角は常にあがったままとなっていた。


ありがとうございました。

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