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2-14話 決して心の折れないただの少女


 荷物整理という簡単な依頼を終えてから昼食を食べた後、プラン、サリス、エージュの三人は三時から始まる授業まで時間を潰す為、まったりと食堂で過ごしていた。

「いやー。にしても妙に長かったな。もっと早くにする予定だったんじゃないか?」

 サリスの言葉にプランは首を傾げた。

「何の話?」

「部屋割だよ。プランはまだそのままなのか?」

「あ、それか。ううん。私も新しい鍵貰ったよ」

「だろ? ……流石に男女同室って事はないよな?」

 サリスの言葉にエージュは苦笑いを浮かべる。

「ええ。それは私も確認しました。絶対にありえないそうです。……本人達が希望しない限り」

「つー事はだ……クラスも一緒にされたし俺達同じ部屋の可能性も低くないって事だよな?」

 そうサリスが呟くと三人共神妙な面持ちとなり、そして祈るような気持ちで三人は同時に四桁の番号がついた鍵をテーブルの上に置いた。


 そこにある鍵は見事なまでに、三つともバラバラな数字が描かれていた。


「……残念」

 しゅんとするプランにサリスは笑った。

「お前なら誰と一緒でも大丈夫だろうが。ま、俺も割と大丈夫なタイプだしな。それより俺はエージュの方が心配だ」

「そ、そんな事ありませんわ。誰と一緒でも私は大丈夫ですから」

 そう言いながらでもエージュが若干寂しそうなのはプランにすら理解出来るほどで、サリスが心配する気持ちもプランは良く理解出来た。


 そんな話をしていると、横からにゅっと番号のついた鍵を持つ手が現れた。

 しかもその番号はプランと同じ数字だった。


「……おや。どちら様――」

 そう言いながらプランはその方角に顔を向けると、やけにドヤッとした態度のミグがその場に立っていた。

「えへん。……部屋は、私と一緒……」

 顔は無表情のままなのに、ドヤ顔をしているような雰囲気を醸しだしながらミグはそうプランに言葉を投げかける。

「そか。ミグちゃんと一緒なのは安心だね。よろしくミグちゃん」

「ん」

 ミグは軽く返事をしいかにも当然のようにプランの横に椅子を運び座った。


「ちなみに二人部屋だから」

「そかそか」

「おいミグ。どうしてそんな事知ってるんだ? 部屋の移動は今日の夜だろ? もう見てきたのか」

 サリスにそう尋ねられ、ミグはそっぽを向きながら頷いた。

「え、うんそう。そんな感じ……」

 その様子はミグの事を良く知らずともどこか怪しいと思うに十分な不審な動作だった。

「……おいミグ。お前プランと部屋一緒になる為に何かしたな」

「ウウン。シラナイヨ」

「……プランは俺達と一緒だったとか」

「え? いや全然知らない違うクラスの子と一緒だったよ?」

「……おい。それ知ってるって事は……」

 ミグはそっと顔を反らし口笛を吹く動作を取る。

 しかし口笛を吹く事が出来ないらしく音は出ていなかった。


「ミグちゃんにはミグちゃんのコネというか何かがあるんだね。まあ私も知らない人よりミグちゃんの方が安心だし、これからよろしく」

 そんなプランの言葉に、ミグはプランの胸元に転がり込む、猫のように頬を擦りつけてきた。




「あ、それとこれ……」

 そう言いながらミグは一枚の紙をテーブルに置いた。

「ん? おいミグ。これは何だ?」

「依頼」

 ミグが短くそう呟くと、プランは慌ててその紙を取り中を見る。


 それは、教会からのプランへの名指しの依頼、昨日夜夢として出てきた例の依頼だった。

「……おいプラン。顔色悪いけど大丈夫か?」

 サリスが心配そうにしているのを見て、プランは自分の顔が強張っていたのだと気が付いた。

「……。サリス、エージュ。その……」

「やるぞ」

「ええ。私も」

 プランが何も言う前に、二人はそう言葉にした。


「……いや、この依頼は……」

「危険なんだろ?」

 サリスの言葉にプランはそっと頷いた。

「そして事情は話せないけど受けないといけない依頼なんですよね?」

 エージュの言葉にプランは更に頷いた。

 サリスはひょいとその依頼用紙を受け取り、エージュと共に軽く流し読む。


「ま、俺はどんな依頼であってもダチとして手を貸すつもりでいたけどな」

「……盗賊に困ってる町があるそうですね。ええ、困ってる市民を助けるのでしたら私の使命にも当てはまります。我ら貴族は民の剣であるからこそ尊き者なのですから」

「難しい事言わなくてプランを助けたいからで良いんだぜ?」

 サリスの言葉にエージュは頬を染め、そっと顔を反らした。


「……テオとヴェインにも誘ってくるね」

 そう言って立ち去ろうとするミグを、プランは止めた。

「いや、危ないし悪いよ」

 そんな遠慮するプランを心配させないようにか、ミグは自分の両人差し指で口角を吊り上げ笑ったような顔をしてみせた。

「判断するのは個人の自由。私は誘うだけ」

 そう言った後、ミグはテオとヴェインを半ば強制的に拉致してきた。




 王都より二十キロほど離れた位置にあるフィルス山脈の端に位置する自然豊かな山。

 その名前は『アップルツリー』。

 そこに盗賊が住み着いた。

 近隣に幾つか街があるが既に農作物や追剥などの被害が出ている。

 死者は出ていないが時間の問題であろうと思われる。


 依頼は盗賊達の捕縛と拠点の確保。

 そこで見つけた物は全て報告してこちらに提出して欲しい。

 問題ないものであれば所有権はそちらに渡すが盗品であった場合や個人での所有が禁止されたものならその分報酬金額を上乗せするという形で支払う事となる。


 基本報酬は二十金貨(ガルド)で消耗した物資はこちら持ちで構わない。




 依頼用紙にはそう書かれていた。

「……またえらくぶっ飛んだ依頼を見つけて来れたな。いや確かにこれをこなせば課題トップも間違いなしだろうが……」

 ヴェインにしては珍しく困惑した感情を見せ、冷や汗をかきながらそう呟いた。

「しかも教会直々の依頼か……。何かあるな」

 テオの言葉にプランは申し訳なさそうに頷いた。

「うん。何かあったの。……何も言えないけどね」

「いや、プランに対してじゃなくて教会の方に怪しい動きが見える。意図的に遮断した情報が多すぎるんだ」

「そうなのか?」

 サリスがそう尋ねるとテオは頷いた。

「ああ。盗賊の規模や背景、武装内容が一切書かれていない盗賊討伐ってありえないだろ」

「確かに、そりゃそうだ」

「……調べる事も依頼の内ってか……。はぁ、ヴェインはどうする?」

 テオに尋ねられたヴェインハットは当然のように首を横に振った。


「俺はやらんぞ。危険すぎる。命をかけるに値する理由がない」

 その言葉に、誰も文句は言えなかった。

「ま、そりゃそうだな。誰もその判断を責める事は出来ん。俺もプランへの依頼でないなら同じ判断をしたしな」

 サリスがそう言って微笑むとヴェインハットは少し押し黙り、そして言い辛そうに口を開いた。

「あのさ……。もし参加するから終わったらデートしてくれって言ったらどうする?」

「あん? そうだな。全員無事で帰った後ならさ、阿呆みたいに金あるだろ。それぱーっと使ってデートってのも楽しそうだ。ま、男みたいな俺何かで良いならだがな」

 そうサリスが答えると、ヴェインハットは帽子をかぶり直し変に気取ったポーズを取り出した。

「今命を賭けるに値する理由が出来た。俺も参加しよう。ボウガンと罠に爆弾が俺の武器だ。対人であってもそれなりに役立つ」

 ころっと切り替えて変に気取るヴェインハットに、さっきと違う馬鹿馬鹿しい空気で誰も何も言えなくなっていた。


「……それを本気で言ってるから俺はお前が嫌いじゃないぜ」

 ヴェインに指を差しながらサリスはゲラゲラと豪快に笑っていた。

「……えと、ヴェインハットさんはハワードさんに、その、本気で……」

 エージュが困った顔と焦った顔でそう尋ねると、ヴェインハットは頷いた。

「ああ。本気でデートがしたい! とてもしたい!」

 その言葉は間違いなく事実であると思うほど、力が込められていた。

「いえ、そうではなく異性として好んでいるとか……」

「ぶっちゃけちゃんとデートしてくれるなら誰でも良い! ミグちゃんでももちろんエージュ様でも! 誰でも!」

「だろうな!」

 何故か嬉しそうにサリスが頷いていた。

 それを見たエージュはとても困った顔をした。


「おいそこの帽子男。どして私の名前はそこで出てこない……」

 プランはジト目でヴェインハットの方を見つめ、ヴェインハットはそっと顔を反らした。

「おい。いやわかるよ? 私こんなちんまりしてるし。でもさ、私よりちんまりしたミグちゃんがいて私がいないのは納得できないのだが? だが?」

「いえ……その……ミグちゃんはこうミステリアスな色気がありますが……その、プラン様は……こう……ちょっと野を駆ける子供のような雰囲気で……流石に対象外と言いますが」

「ちくせう」

 正論過ぎて何も言い返せないプランはそっと机に突っ伏した。

 それを見たミグはぽんぽんとプランの頭を撫で慰めようとした。



 その後、一同は無理やり真面目な空気に戻して視線をテオに集中させた。

 この中でまだどうするか答えていないテオに――。

「山分けしてもちょっとした年収相当の報酬は魅力的だ。……今週は情報集めに走る。依頼に何らかの厄介な裏が隠されていた場合や情報が秘匿され集まらなかった場合は途中で抜ける。その条件で良ければ参加する。どうだ?」

 その言葉に、プランは頷いた。

「うん。ごめんねとも言わない。遠慮もしない。お願い、手を貸して」

 そんなプランの言葉に、全員がしっかりと頷き、皆がその手をテーブルの上に乗せる。

 プランはそれを見て、皆の手の上にそっと自分の両手を重ねた――。




「んー? 皆揃って何してるのー?」

 テーブルに集まった六人が気になってか、クラスメイトで先輩であるクリスがとことこと近寄ってきた。

「あー先輩。こんにちは。相変わらず凄い恰好っすね」

 サリスは頭と同じくらい大きなリボンをしてフリフリのドレスを着たその姿を見ながら困った顔でそう呟いた。

「可愛いでしょ?」

 その言葉に否定する気はないのだがプランは何も言えず愛想笑いを浮かべるだけだった。


 女性関係では食い付きの良いヴェインですら何も言わず下を向いていた。


「んで何してるのプランちゃん?」

「あ、ちょっと月課題の依頼について……」

「ふんふん。ちょい貸ーして」

 そう言いながらクリスは依頼用紙を受け取り、笑顔を凍らせた。

「……ね? 今から断りに行こ? 僕も付き合うしもし罰金が出るようなら僕が出すからさ」

 いつもぽわんとしたクリスだが、これだけは本気で言っているのだとその真剣な表情で理解出来る。

 それでも、プランは首を横に振った。

「いえ、事情は言えませんが受けないといけない理由がありまして……」

「……僕の仲間紹介しようか?」

「いえ。上級生は一人しか参加したらいけないというルールがありまして……」

 その言葉に怪訝な表情を見せた後、クリスはプランに同情するような笑みを浮かべた。


「月課題であの男集団に負けない為にそんな無茶してるわけじゃないよね? それならそんな無茶しなくともたぶん何とかなるよ」

「いえ、別件ですね」

「……よほどやっかいな事情を抱えてるんだねぇ。ごめんねその日は僕手伝えないや」

「いえ、気にかけてくれて嬉しいです。ありがとう」

 そう言ってプランが微笑むとクリスは優しく微笑み返した。


「出来る事があったら言ってね? 先輩として出来るだけ手伝いたいってのは本音だから」

 その言葉にプランは頷いた。

「はい。これから情報を集めるのでそこを手伝ってもらえたら」

 直接依頼を受けるのでなければ大丈夫だろうと思いプランがそう尋ね、クリスは満面の笑みで親指を上に立てて了承を示した。


 そんな頼れる先輩であるクリスを見ているとプランはある事に気が付き……それは即座に疑問へと変化した。

「あ、クリス先輩。一つ質問なのですが……」

「ん? 何何? 何でも聞いて」

「えと、どうして私を心配してないんです?」

 その言葉にクリスはむっとした表情を浮かべる。

「すごく心配してるよ! 事情がなければ参加するなって言いたいくらいだよ! 大切な後輩が潰れるのなんて見たくないよ……」

「いえ、そっちではなく、課題の方です。先輩課題で私が課題競争で負けても酷い目に遭うって欠片も思ってませんよね?」

 その言葉にクリスは少し黙り、そして『しまった!』という表情を浮かべた。

「あちゃー。やっちゃったかな?」

 その言葉と顔でプランは――確信した。


 一月課題終了時に評価が一位になった新入生は同クラスの他の新入生に命令を出せる。

 ギャリシーの一味はプランにあまり良い印象を持っていない為、彼らが一位を取るとプランが何等かのよろしくない事に巻き込まれる可能性は高いと見て良いだろう。

 にもかかわらず、クリスはそれを全く心配していない。

 更にクリスの態度は、ギャリシー達に呆れだけでなく、若干だが同情を感じてい様子があった。


 その情報を纏めると……。

 プランは()()()()に気づき、青ざめた。


「……これまずいじゃん。早く止めないと」

 プランは慌ててその場を立ち去り、風になったかのような速度でどこかに飛びだしていった。


 状況がさっぱりわからない五人は当然として、状況がある程度わかっているはずのクリスですらプランの突然の行動に理解出来ず、唖然とした表情のままその場を動けずにいた。





 状況が飲み込めないまでも、このままプランを放置したら良くないと思った皆は分かれてプランを探しに出た。

 そして数十分ほど後、サリスとエージュがプランを見つけた。

 その状況は、最悪よりも更に下と言って良いほどの絶望的なものであった。


 ギャリシー達四人に囲まれたプランは、その場に跪き頭を地面にこすりつけるように低く下げていた。

 その様子をギャリシーはニヤニヤした見下した視線のまま楽しそうに見つめ、そして何かを呟いた後、プランの頭を思いっきり踏みつけた。

 ガゴッと嫌な音が響いた後、ぽたっぽたっと水音をさせながらプランはそっと顔を上げる。

 その顔は後方にいるサリスとエージュには見えない。

 その顔を見たのはたった一人、ギャリシーだけ。

 ギャリシーはニヤニヤしたままプランの顔を見て、表情を凍り付かせた。

 その顔に張り付いていたのは人を見下す目ではなく、恐怖に怯える顔であった。


「……ちっ。下らねぇ。もう一回同じ事言ってみろ。もう一回同じ事してやる! おいお前ら行くぞ!」

 そう言いながらギャリシーはその場を去っていった。

 それは勝ち誇って去っていく姿というよりも、逃げて去っていく姿のようであった。


 想定外の事態が繰り返されあっけに取られていたサリスとエージュは我に返り、慌ててプランの傍に駆け寄った。

 頭から盛大に血を流しながらプランは――悲しそうな顔で笑っていた。

「……えへへ。失敗しちゃった」

「一体何にだよ!」

 サリスは心配と怒りを混ぜながらそう叫ぶ。

「仲直り」

「どうしてそんな結論が出て、今そんな事の為に動いてるんだよ!」

「だって……急がないと、時間がないから……」

「わかんねーよ! 俺にはお前の考えも、お前の目的も全然わかんねーよ!」

 半ば泣きそうな声でそう叫ぶサリスに、プランは困った顔をした。


「うーん。エージュ。もしさ、何でも良いけど何等かの集団を纏め気持ちを合わせないといけない時にさ、少々悪い手段を使って良いならどうやって纏める?」

 貴族としてある程度の経験を蓄積していたエージュはプランの言いたい事が理解出来た。


 要するに、全員の共通の敵を作れば良い。

 それだけで危機感と連帯感が生まれ自然と仲良くなっていく。

 つまりそういう事だとプランは思ったのだろう。


 エージュはプランの言いたい事を理解した上で、今回のプランの行動が全く理解出来なかった。


「言いたい事はわかりました。彼らを晒し者として冒険者の悪い部分を見せ、反面教師としつつ同時に他集団で連携を取り合うようになる。そしてクリス先輩が課題について心配していなかったという事は、彼らがいなくなるのはそう遠くないという事でしょう」

 その言葉にプランは頷いた。

「それは正しいかわかりませんがその可能性が高いと言うのは理解しました。しかし、学園も彼らに悪役となるよう強制したわけではない。彼らは進んで悪役となっているのです。そんな彼らにプランさんが何かする必要があるとは思えません」

 エージュの言葉にサリスも頷く。

 他はわからなくとも、プランが何かをする必要がないほどあいつらが腐っている事だけはサリスもわかった。


 そう、プランに彼らを助ける義務も義理もない。

 だからこそプランの行動が二人には全く理解出来なかった。


「だって、せっかく学園で出会って同級生になったんだから、仲良く出来た方が良いじゃん?」

 徹頭徹尾馬鹿にされ、今もその人物に攻撃されて頭に傷を負って血を流しているにもかかわらずその当事者の事を敵と見ず友人になろうと試みる。

 二人はほんの少しだけ、プランの異様な本質が理解出来た。


 怨みや怒りなどで敵を決めてはならないという領主としての教育に加え元からある敵以外には人懐っこく愛されるその性格により、プランが敵と判断する事はよほどの時を除いてあり得ない事であった。


「はぁ。ダチとして付き合うのも苦労しそうだ。だが……その苦労も悪いものじゃないがね」

「私としてはそのように他人の為に血を流す行為を否定したいのですが……説得出来る気がしません。全くもってこれからも苦労しそうです」

 ニヤニヤした笑いを浮かべながら二人はそう呟き、プランに肩を貸し医務室に運んだ。


 幸いにも傷は見た目ほど深くなく薬を塗るだけでプランの治療は終わった。


ありがとうございました。

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