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2-12話 アウター入門


 今までの授業と違い、今回の授業で使う教室は恐ろしいほどに広かった。

 教室を斜めにして生徒席を置かねば後ろの方からは何も見えないほどで、部屋に入れる人数はおそらく千の桁では足りない。

 にもかかわらず、教室は満員となり立ち見の生徒すらいる状況だった。


 そして、生徒の質が少々以上におかしい。

 それは生徒の質が良いとか悪いとか、礼儀が出来てるとか出来ないとかではなく、本当に意味で歪であった。

 基本的にアウトローのような感じではあるのだが、かと言って人生の落伍者や荒くれ者というわけでもない。

 近いところで言えば、荒々しい現役冒険者のような……そんな風貌の人が多かった。

 生徒達の中にはあのギャリシーとその一味も混じっていた。

 と言っても非常に離れた位置にいるのであちらからちょっかいを掛けられる事はないだろう。


 それと、何故かわからないがプランの隣にはミグがいた。

『二人共、受ける気がないって言ってたから』

 ミグはテオとヴェインハットについてそう言葉にしていた。


 要するに、アウターとは少々以上に特殊で知っていても授業を受けたいと思うのはよほどの事情があるか、手段を選ばない人間くらいなのだ。

 ちなみにサリスは後者で、強くなる為なら手段を選ばないタイプだからこそこの授業を受けたいと願っていた。



 

 授業開始の時間になると、豆粒にしか見えない距離だが先生が教卓の前に移動した。

「……あれ、ジョルト先生だ。良く見るねー」

「あー。ほんとだ。あの先生すげー堅物っぽかったしやっぱり優秀な先生なんだなー」

 プランとサリスがそう話していると、エージュがジト目で二人を見た。

「……山猿であるハワードさんは何時もの事ですが……プランさんもこの距離で見えるのですね」

「田舎者ですので」

 プランは何故か嬉しそうにそう言葉にした。


 そのあとジョルトはどうやってかはわからないが声のボリュームをあげ最後方まで聞こえるようにした。

「……ふむ。今日は何時もより少ないな」

 ぽつりと、ジョルトはそう言葉にした。

 ちなみに既に生徒同士の隙間はほとんどないほどで、その上後方には立ち見の生徒で埋まっている状況である。


「さて、アウターについての授業を始めるのだが、この授業は一種の免許試験のようなものも兼ねている。全三回のアウター授業を受け、最後に簡単なペーパーテストを受けてもらいそれに合格する事で他のアウター関連の授業への参加が解禁される。だからこれから話す事は大した内容ではなく、知っている事ばかりであろうが真面目に聞いてもらいたい。そしてアウターについて全く知らない者でも授業をしっかり聞けば問題ないのだが……最初に言っておこう。アウターという存在が便利である事に否定はしないが、デメリットも大いにある。具体的に言えば差別と呼んで良いほどに嫌われている。その事もリスクとして受け入れ、これから学ぶべきかどうか自分の頭でしっかりと判断してほしい」

 そう説明した後、ジョルトは青白く光る結晶体を用意した。

「知らない人の為に説明すればこれはムービーブックスの人工再現物で『ムービークリスタル』と言う。どんな物かはすぐにわかる。だから両端の生徒は協力してカーテンを閉めて欲しい」

 その言葉に合わせ、生徒達はもたもたとしながらカーテンを閉め切り部屋に入る明かりをごくわずかにする。

 その瞬間、ムービークリスタルと呼ばれた結晶体は輝き、天井に一枚の風景を映し出した。


 大きな防衛用の城と街並みのある、そこそこに発展しつつも自然の多い領地。

 ごくごく平凡的で一般的な貴族領の主都のようだった。

 空を除いて――。


 青空の広がる中、その一部に恐ろしく巨大な渦が浮き上がっていた。

 紫と赤ので着色されたどす黒い巨大な渦は奇妙にうねり、まるで空を飲み込もうとするほどに蠢いていた。


 プランが茫然とした様子でそれを見ていたら、すぐに映像は消え去った。

 たぶんだが、三秒くらいだろう。



「見せたい物はこれだけだから生徒達はまたカーテンを開けて欲しい」

 そうジョルトが呟き、部屋に光が戻ると授業を再開した。

「さきほど見てもらったのがアウターゲート。アウター始まりの場所である」

 ジョルトは淡々とした様子で一つずつわかりやすく説明を開始した。


 アウターとはこの世界より外にある世界の事であり、同時にこの世界に入り込んだ道具の事であり。

 そして、それが訪れるのがさきほど見せたアウターゲートからだ。

 突如として生まれたアウターゲートは何の前触れもなく唐突に何かを落としていく。

 それは本当の意味で何が出て来るかわからない。

 ただし、これまで生きた存在だけは一度たりとも出てきた事がない。


 国の賢人は今アウターゲートについて二説唱えている。

 一つは異界よりの我らへの、もっと言えば文明後退国への贈り物。

 もう一つは、異界からのゴミ箱。

 この二説がある通り、送られて来る物は玉石混交となっていた。


 錆びた金属缶が送られてきたと思えば、見た事もない片刃の剣が送られてきたり、また見た事もない技術本が送られてきたと思えば、近寄った物を死に至らしめる毒が送られてきたり。

 本当の意味で何が起こるのかわからない。

 それがアウターである。


 現在ノスガルドにアウターゲートは五か所ほど存在し、それらは全てのその土地を持つ領主が管理、保護を行っている。

 彼らは領主ではあるものの貴族ではなく、アウターより国を守る役割を担っている。

 ちなみに貴族でない領主は彼らだけの特例である。


 そして、そのような役割を持つ為彼らは守護者ガーディアンと国に名付けられている。

「と言うものの、アウターゲートによる危機は滅多に起こらない為ガーディアンの主な仕事は外敵に対しての防衛と唐突に表れるアウターの研究、解読にある。ここまでは付いてこれているかな?」

 そう言いながら生徒達をぐるっと見回した後、ジョルトは授業を再開した。


 アウターはそれそのものだけでなくアウターとして訪れた道具を研究した事により派生し生まれた技術も多々存在している。

 ただし、それらはアウター同様一部の人達から蛇蝎の如く嫌われていた。

 そしてその嫌っている存在の一部には、貴族も多く含まれている。


 理由は単純で、アウター関連には一切六神が関わっていないからだ。

 この世界に存在するものは全て余す事なくあらゆる物に神の叡智と愛が宿っている。

 だがアウターにはそれがなく、場合によっては他所の神の力が宿っている可能性すらある。

 それらなんて六神の事を考えれば使うべきでなく破棄すべきだ。

 そういう主張からの拒絶感である。


 ガーディアンが領主でありつつも貴族でないのはそんな貴族達の主張に巻き込まれたが故の理由でもあった。


 現に正式名称はガーディアンだが、彼らは一般的にアウター貴族と呼ばれている。

 貴族ではないのに貴族扱いである事を馬鹿にし、貴族のようで貴族でない何かと詐称するような背景があるのだが、一般の人達にはとってはどうでも良く、ただわかりやすいからそう呼ばれるようになりまたアウター貴族もその方がわかりやすいという理由で今では一般的な呼び名でさえもあった。


 ちなみに、他にもゴミ処理管理者やゴミの親玉、異端者、裏切り者などの蔑称がアウター貴族には存在している。

 それだけ彼らとアウターは嫌われている為、アウター技能を身に着けた者も同様に差別の対象とされる。


「だから学ぶな。と言いたいわけでは決してない。リスクとリターンを考慮すべきだと思っている。……今日はここまでとする。次の授業は具体的に使われているアウター技術について話そう」

 そう言い残しジョルトが出て行くと、ざわざわとした空気となり教室から生徒達が徐々に消えていった。




 昼食を食べる為食堂に移動した三人……と付いてきたミグ。

 四人は無料のメニューを注文し食事を始めた。


「んでさ、三人はアウターについてどう思ってるの? 私はそもそも知らなかったくらいだからぶっちゃけ良くわからないし嫌う理由もない」

 というよりも、プランは消えてしまった未来に一人、アウターとかかわりが深そうな人に心当たりがあった。

 自分が領主だった時に来てくれた、堅物ながら優しい騎士。

 おそらくだが、彼はそれと強いかかわりがあるのだろう。

 何となくだがプランはそう思っていた。

 だからこそ、プランはアウターに対して忌避感は一切ない。


 プランの言葉にまず、アウター授業を受けようと言い出しサリスが答えた。

「俺は学べるなら是非学ぶべきだって思ってる。冒険者なんて手段を選ばないでなんぼだしな。幾つか実際に見た事あるんだが……いやマジで意味がわからねー。あれ出来る気もしないがもし出来るようになるなら絶対に学ぶべきだと思う」

「どんなのを見たの?」

「魔法を使わずに身体強化してた。あと技術で言えばゆっくりしか移動してないのにめちゃくちゃ早く移動してたりする歩法とか素手で剣を掴んで叩き折ったりとか」

「まじで異世界ならではの技術だね。確かに意味わからないわ。エージュは?」

「私は……というよりも、私バーナードブルー家はガーディアンの方々……ここでは一般的なようにアウター貴族と呼ばせていただきます。アウター貴族の方々と深い交流がこざいます。ですのでスタンスで言えば反差別派ですわね。共に国を守る領主であり、しかも彼らは我ら一般的貴族の仕事に加え独自の役割を担っている。それを尊敬こそすれど差別するなんてもっての外! そう思っておりますわ」

「差別意識はないというよりも、差別されている事に憤慨してる立場って事」

「はい。我が一族はずっと昔よりアウター貴族を正式な貴族階級にすべきという立場を取らせていただいております」

 そうエージュが堂々と言い切った後、サリスがぽんと手鼓を打った。


「ああそうか。俺やエージュは子供の頃から貴族だったからアウターについて知ってたけどそうでないならアウターって知らないのも普通なのか」

 そう言われ、エージュもはっとしてプランに頭を下げた。

「そうでしたわね。申し訳ありません。自分の立場でしか考えられずアウターを知らない事に驚いてしまい……」

「いやいいよ。あはは……はは……」

 余計知らなかった自分が惨めになりプランは乾いた笑いをする事しか出来なかった。


「それでミグちゃんはアウターについてどう思ってる?」

 その言葉にフォークを口から放し、一言呟いた。

「……ぶっちゃけどうでも。一緒に授業受けたかっただけだし」

「え? そうなの?」

 ミグはこくんと頷きまたフォークを口に運んだ。


「……大物なのか考えなしなのか……良くわからねーがプランが気に入っているって事はわかった」

 サリスの言葉にミグはドヤっとした態度のまま頷いた。

「でも、サリスもエージュもテオも皆好きだよ?」

 敢えて一人外れている事に苦笑いを浮かべながらプランは頷いた。

「そうだね。私も皆良い人だと思ってるよ」

「ん。そだね。……ほんと、皆良い人……」

 ミグはどこか寂しそうにそう呟いた。




 午後は基礎冒険者学という授業を受けに行った。

 授業内容はおそろしくシンプルで、説明は一行程度で終了した。

 曰く、『冒険者としてのあらゆる行動に必要な物は走り回る体力である』というものだった。

 戦闘は当然として逃げる時にも、何かを探す時にも、もっと言えば依頼を受ける時ですら足で探す必要がある。

 そして冒険は一度で終わるが人生は一度の冒険で終わらず、その先がある。

 だからこそ、次の冒険の為に、次の仕事の為にも体力があるほど良い。

 活動時間が増え、多く稼げ冒険者として成功しやすいからだ。


 至極道理であるとプランもサリスも思った。

 だからこそ、基礎冒険者学の授業内容もまたシンプルである。

『とりあえず走れ』

 それだけだった。

 渡されたマップを見ながら、ついでにアルスマグナ学園の道を覚えながら外を駆けまわり規定タイム内に走り切る。

 途中で歩いても休んでも良いが、魔法や道具、薬を使用する事は一切禁じる。

 食事は自由で水分補給所はかなりの数が用意してあった。


 ちなみに結果は、プランは三十三位でサリスは八位。

 二人共文句なしの合格基準で基礎冒険者としての体力はあると判断され授業はもう受けなくても良いという墨付きがもらえた。

 エージュは三百位で平均よりは大幅に早かったものの、もう少し体力を上げるべきだと評価された。


 ミグは途中でリタイアしたらしい。

 体力がない……というよりも、どうも走る事自体に飽きたかららしく途中からどこに行ったのかもわからなくなっていた。

 なのに夕飯の時にはしれっと、何食わぬ顔でプランの横に混じってきた。

 らしいっちゃらしいからか叱る気も起きず、三人とも苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。


ありがとうございました。

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