2-11話 ライバルであればきっと素晴らしい相手だった
数日ほど経過したある日、プラン、サリス、エージュの三人はテオ、ヴェインハット、ミグの三人パーティーと合流し二度目の相談会が開かれた。
相談内容は前回と同じように課題について。
トップを取った者はクラスメイトに命令をして良い権利が出るらしいが、その権利を今仲良く出来ていないあちら側に渡すのは非常にまずい。
特に嫌われているプランには何をされるのかわかったものではない。
そう考えての相談会である。
「とりあえず、前回話した後で実際に依頼を受けお互いがどんな感じだったかについて話そう」
あちら側のまとめ役であるテオがそう言葉にする。
プランはそれに頷き、前回の相談会の後に行った事を説明しだした。
授業は小粒ながら身になるものを幾つか受け、依頼は学園内の依頼を先輩主導で一回、自分達主導で三回受けた。
先輩主導の依頼は料理の手伝いで、自分達主導の物は教会の掃除、授業に使う道具の運搬、猫探しだった。
授業に使う道具は全身鎧のレプリカなどかさばる物を幾つも教室から教室に運ぶというだけの引っ越し業者のような作業だった。
猫探しはそのまま単純に猫探しだったのだが途中で逃げ出してしまい、そのまま猫が飼い主の元に戻ってしまい依頼失敗となってしまった。
「とまあ大体こんな感じだったかな。そっちはどう?」
プランの言葉にテオは頷き、自分達の現状について説明しだした。
最初テオはクラスメイトとは言え自分のパーティーに恐ろしく不安だった。
どこでも帽子を被り恰好付ける良くわからない男ヴェインハットと、会話がほとんどなく本当の意味で全く理解出来ないミグ・キューブ。
正直このパーティーで上手く行くとは全く思っておらず、とっとと解散して別のクラスにいる昔のパーティーと合流しようか考えていたくらいである。
ただ、蓋を開けたら二人共良い意味で期待を裏切ってくれた。
その独特の見た目は決してカッコつけだけのものでなく、ヴェインは狩猟に関してスペシャリストと言っても良いほど優秀で技能だけでなく知識面でも相当なものだった。
学園内での狩猟依頼は数が少なく、また難易度が高いのだがそれでもヴェインを主軸にして作戦を練れば難なく成功したくらいである。
ミグは依頼中でも基本黙ったままぼーっとしていて、いつもよそ見をする。
当然のように何もしないのだが、行動した時の爆発力は桁外れだった。
具体的に言えば……畑の夜間警備の依頼を受けた時、本当に運が悪く……野菜泥棒の集団に出くわした。
見つからない自信があったのか、それとも辞める前最後にはっちゃけたのか。
理由はわからないが彼らはこの学園の先輩だった。
しかもその数は十人。
依頼を受けた時は害獣対策だと聞いていた為対人戦闘は予想しておらず装備は心もとない。
せめて野菜泥棒が来ると予想していれば罠に頼れたし、または人数が五人くらいならまだ何とかなっただろう。
だが、流石にこの突然の戦闘で人数差は無理だ。
そう思いテオは二人に撤退命令を出そうとした。
その次の瞬間には、ミグは十人全員を青い結界の中に閉じ込め拘束していた。
発動までのラグなしで十人を同時に怪我なく拘束するなんてのはもう学生のレベルではなく、ミグは本当の意味で一流の魔法使いと呼んで問題ない技量の持ち主だった。
ただし、普段はやる気がないからか何もしないが。
「そんなわけで狩猟や畑何かの依頼を中心にボチボチこなしてる。学園内の依頼でだが学園外での作業もこなしたぞ」
「こっちは外にはまだだな。まあ近いうちに学園外で依頼を受けにゃいかんから準備はしてるが」
テオの言葉にサリスはそう返した。
「んー。まあお互い順調そうで何よりだね。にしても畑か……。うん。そっちの依頼も今度受けよう」
プランがそう言葉にするとサリスとエージュはとたんに顔をしかめた。
それは畑作業が嫌だからではなく、まだプランの引き出しがある事に対して驚きを通り越して何かと疲れを感じたからだ。
「……おいプラン。お前、畑仕事得意なのか?」
「あら? 私田舎の農村近くの生まれよ? しかもそっちだと私沢山のお家の奥様から嫁に来いって言われてたくらいなんだから」
そう言ってプランはドヤ顔をしてみせた。
なお男性から嫁に来いと言われた事は一度もなかった。
「……お前がどんな生活をしてどうしてそうなったのかさっぱりわからないわ俺」
サリスは盛大に溜息を吐いた。
「うちもめちゃくちゃだが、何だ? そっちもめちゃくちゃなのか?」
テオがニヤニヤした口調でそう呟くと、サリスとエージュはわざとらしく頷いてプランの方を見つめた。
「俺とエージュもまあ有能な部類だと自負はある。だが、こいつは色々な意味で別格だった」
「ほほー。前に料理が旨くて商会とコネがあるとは聞いたが……他にどんなところがやばいんだ?」
「オールワークメイド……と言ってもピンときませんよね。皆様が思うメイドの仕事を全部思い返してみてください。出来ました? プランさんはそれを全て一流以上の技能でこなせます」
そんなエージュの言葉にヴェインハットはくわっと目を見開いた。
「なん……だと……つまり夜の奉仕も――」
サリスとテオは同時にヴェインハットを蹴飛ばし強制的に黙らせた。
「んで今の話だと畑仕事も出来ると。冒険者ってのは何でも屋と同意義だが……それにしてもすげぇな。近場での依頼が受け放題で羨ましいぜ」
テオの言葉にサリスとエージュは頷いた。
「えへへ。と言っても私戦闘能力皆無だしちょっち欠点も多いけどね」
「欠点って何だ? ああ言いたくないなら言わなくて良いが」
その言葉にプランはエージュに縋るような目線を送った。
「……プランさんの欠点は少々言葉にし辛くて……。えと、マクロな目線での行動になるととたんに……その……」
「……ふむ。もう少し詳しく言えるか?」
「例えば、街や学園の地図より大きな地図を見るととたんにわからなくなります」
「……ん?」
エージュが実例を持って説明しても良くわからずテオは首を傾げた。
「売り子や帳簿付けは得意なのに一定以上の金額計算とか、他にも大量の仕入れとかになると一気に何も出来なくなる」
サリスが追加でそう言葉にするが、テオは全く良くわからなかった。
「……すまん。さっぱりわからん。どうしてそうなるんだ?」
「俺もわからん。ただ、傾向から考えた結果、権力が関係すると本人の資質や気持ちに一切関係なく無能になるっぽい。ちなみに呪いとかそういうのではなく、単純にそういう才能に欠けているらしい」
サリスはわからないなりに解明出来た事実を明かしそう言葉にした。
「まあ欠点のない奴なんてこの世にいないし。な?」
ヴェインハットは顔を隠していてもわかるほどのドヤ顔をしながら皆にそう言葉をかけ、テオは盛大に溜息を吐いた。
「ああ。死ぬほど同意出来る。俺のパーティーは俺以外依頼人とまともに会話出来ないから」
「失礼な。依頼人が美人のお姉さんの時は任せろと言っているだろうが」
ヴェインハットはそう言葉にする。
だが、いざ実際にそうなった場合ヴェインハットがまともに会話が出来るとは誰も思っていなかった。
「まあお互い依頼は普通にこなせてるし、このまま現状を続けていけば問題ない感じかな?」
プランがそう言葉にすると、皆が頷いている中突然ヴェインハットが立ち上がった。
そしてしっかりと皆の注目が集めた上で、ハンガーにかけていたコートをかっこつけて着込み……そしてドヤ顔となった。
「本当にそう思うのか?」
決め顔、決めポーズでそう言葉にするヴェインハットは一言で言ってうざかった。
「……ヴェインさんは何か知ってるのですか?」
若干引いたような様子でプランがそう尋ねるとヴェインは頷き、コートをハンガーに掛け椅子に座り直した。
「ああ。まず――」
「いや、さっきコート着た理由は何だ?」
サリスがそう尋ねるとヴェインハットはサリスの方をちらっと見て、ふっと意味深な笑みを浮かべ、スルーした。
「まず、主犯格のギャリシー。こいつはどうもプランが嫌いというよりは女が嫌いらしい。……あ、ゲイって事ではないらしいぞ。……一応怖いから近寄らんようにしてるが……」
そう言葉にした後、ヴェインハットは彼らについて説明を始めた。
主犯格のギャリシーと彼に追従するクラスメイト三人、グルディ、ゲーナ、クコ。
基本的に全員ガラの悪い冒険者であると考えたら間違いはない。
ただし、ギャリシーはガラの悪い冒険者の中でもかなり腕の良い部類だ。
性格上仕事を非常に選びはするが戦闘力だけなら随一で、一流冒険者に片足突っ込んでいるレベルである。
そしてその粗暴で女を舐め腐った性格の割に人員掌握が上手く、クラスメイト以外でも多く仲間を作って活動している。
そんな彼は仲間内に頼り昨日までにこなした依頼の数は様々で、数だけでも既に二十を超えていた。
「そんなわけで多ければ良いと言う訳でもないらしいが……評価基準が何であれあまり良くない状況であると言って良いだろう」
ヴェインハットの言葉に一同は静かに黙り込んだ。
「というわけで提案だ。多少ではあるが妨害出来る手段を持っている。学生としての活動で考えればグレーゾーンだが……たぶん目こぼしされるだろう」
ヴェインがそう言葉をかけるとサリスは至極まじめな表情でヴェインハットを見据えた。
「それで、その条件は何だ? 無償ってわけじゃなくて何か要求があるんだろう?」
その言葉にヴェインはふっと小さく笑い、サリスの方を向き呟いた。
「デート一回」
「いや。冗談じゃなくてだな……」
その言葉にヴェインは露骨にしょんぼりした雰囲気を出し、三角座りをして拗ねだした。
「……おい。もしかして、本気で言ってるのか?」
そんなサリスの呆れた言葉にヴェインはこくりと小さく頷いた。
「はぁ……。おいプランどうする?」
「ん? どうするって?」
「俺としては別にこいつとデートしても良いと思ってる。ウザイ奴だが嫌いじゃない。だからプラン次第だ。どっちが良い?」
その言葉にヴェインは目をキラキラと輝かせる。
「なあヴェイン。あんた、弓持って馬に乗って二人で狩りに行って、獲った獲物その場で解体して食うってデートに入るか?」
「二人でならそんなデートも素敵だと思います!」
サリスの言葉にノータイムで同意したヴェインにサリスは微笑んだ。
「つーわけで俺としては悪くないデートが出来そうって考えてるから遠慮はいらんぞ。プランどうする?」
そう尋ねられたプランは少し困り、エージュの方をちらっと見た。
そこには般若がいた。
「反対ですわ! デートなんていけません! 仮にも領主なのですからそのように気軽に行動するなんて……」
久々にぐちぐちぐちぐちとサリスに説教するエージュを見てプランとサリスは共に苦笑いを浮かべる。
「うん。私としても反対かな」
その言葉にエージュは当然のように頷き、ヴェインは死んだ目をした。
「どしてだプラン? 俺への遠慮じゃないんだろ?」
「うん。やっぱり……その……ね。確かに手段を選んでいられない状況なのはわかっているんだけど……それでも」
その先は言わなくとも皆が理解出来た。
プランの性格を考えたら当然の結果とも言えた。
ヴェインは死んだ目をしていた。
「つーわけですまんなヴェイン。デートはまた今度な」
その言葉にヴェインの死んだ目は生き返り、ヴェインはカッコつけて椅子に座り直した。
「プラン。このタイミングで伝えるのは良くないかもしれんが……ダルクへの協力要請は失敗した。彼にも何か事情があるらしい」
テオの言葉にプランは頷いた。
「じゃあ他の手段を考えないとね。……ま、評価の高そうな難しい依頼に特攻するしかないか……」
プランがそう呟くと、とんとんとミグがプランの肩を叩いた。
「……手伝う」
ぐっと握りこぶしを作りながらきりっとした顔でミグはそう言葉にした。
「俺も超手伝う」
同じくきりっとした顔でヴェインハットもそう言葉にした。
「……ヴェインの理由はわかるから良いが……どしてミグまで俺のパーティーなのにプランへの好感度がこんな高いんだろうか……」
その言葉にミグは首を傾げた。
「……? だって、プランだもん」
そう言いならミグはプランにぎゅっと抱き着いた。
「ふふ。ありがと」
そう言いながらプランもミグをぎゅっと抱きしめると、ミグは嬉しそうに喉を鳴らした。
「……先輩。楽園はここにありましたよ……」
ヴェインがいつもの病気を発症していると思い皆無視をした。
「ところでさ、ヴェインさんどしてギャリシーの事情に詳しいの?」
プランがそう尋ねるとヴェインは頷き答えた。
「ああ。情報屋に依頼した。女性に迷惑をかけるというだけで俺にとっても仮想敵となるからな。つかクラスメイトが何をするかわからんってのはちょっと怖い」
「何かごめんね? そしてありがとう。そこまでしてくれて」
その言葉にヴェインは帽子を直し、決めポーズを取った。
「なに。気にするな。気にするならサリスとのデートで――」
「それは自分で頑張って」
「……はい」
素直に頷くヴェインにプランとサリスは小さく微笑んだ。
――見る限り目がないわけじゃなさそうだけどねー。
プランはそう思いながらも、邪魔をしないようそこには触れない事にした。
「ところで情報屋って平然と出て来たけど、そういうのってどこにいるの?」
「普通に学生が兼用してやってるぞ。ちょいと探せば出て来るし場合によってはあっちから声がかかる」
「ほーん。他に情報屋とかに頼ってる人っている?」
そうプランが声をかけると皆が顔を合わせ、そしてプランとエージュ以外の全員が手を上げた。
「……まじで? え? サリスまで?」
「ああ。今冒険者ギルドとかその辺りについて調査してもらってるとこだな。まあプランとエージュは……うん。気にするな!」
どうせ無理だろうという空気を出しながらサリスは笑顔でプランとエージュの背中をパンパンと叩いた。
「ミグちゃんもかぁ……。うーん。ちょっと予想外」
「……伝手、いる?」
「ううん。私そういうの向いてなさそうだし困ったら誰かに尋ねるよ」
「困ったら……言ってね?」
ふんすとやる気を見せながらミグがそう言葉にすると、プランは微笑みながらミグの頭を撫でた。
ミグは嬉しそうに喉を鳴らしていた。
その様子はまるで猫のようだった。
「んじゃ相談はこんなもんか。とりあえず方針としては、依頼の数や種類ではもうどうやっても勝てないからあと三週間以内に高難易度の依頼を目指す感じで。その為に授業を多めに受けて能力を高めよう。地味な手段ではあるが……他に手がないしな。何か思いついたら俺かプランに連絡する……って事でどうだ?」
テオの言葉にプランは頷き、それに揃えて皆頷いた。
テオのパーティーと別れた後、唐突にサリスが酷く言いにくそうにプランとエージュに声をかけてきた。
「あー。その、ちょっと良いか?」
「んー? 何サリス。そんな改まって」
「いやさ、ちょうど時期なのかそろそろ重要な授業が始まりだすだろ?」
その言葉に二人は頷いた。
確かにサリスの言う通り、そろそろ基礎戦闘講座やダンジョン学、錬金術や魔法入門等明らかに初歩向けの重要な授業が多く始まる。
おそらくだが、この時期に入学する生徒が多いのだろう。
「んでさ、二人が嫌でないって言うなら……出来たら取りたい授業があるんだ」
「何ですのハワードさんらしくない。遠慮せずに行ってくださいまし」
「ん。あ、ああ……。それがな……『アウター入門』って授業なんだ……」
その言葉に、プランは首を傾げた。
「あう……たー?」
その言葉を聞き、二人は信じられない物を見るような目でプランを見た。
ありがとうございました。




