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2-7話 盾びぎとれーにんぐ

遅くなってしまい申し訳ありませんでした。

またまだ治り切っておらず病み上がりですので更新頻度が落ちるかもしれません。

そうなったらごめんなさい(´・ω・`)



 先輩の受けた依頼である為課題のクリアとはならないが、それでも初依頼を達成した三人。

 その成果と稼いだ金額は十分以上なものであり、プランだけではなく三人に次も依頼を受けて欲しいと願われる程度は活躍出来ていた。

 ただ、サリスとエージュの二人は、この依頼をもう一度受ける気は正直なかった。

 恐ろしくしんどかったからだ。


 これはこの二人が未熟だからというわけではなく、何度か経験がある依頼受注者で先輩冒険者のヴェルキスですら依頼終了時は疲れきるほどの依頼であるにもかかわらず平然としているプランがただ異常なだけである。

 サリスは慣れない作業により、体力こそ余裕はあるものの両腕の筋肉痛に悩まされ夕食時フォークを持つのもだるく感じるほど。

エージュに至っては単純な疲労で食事中にもかかわらず気だるげ。

 ヴェルキス奢りのそこそこグレードの高い食事であっても、その時元気なのはプランだけだった。


『流石にその状態で次の依頼を受けるのはあまりオススメ出来ない。休める時に休むのも大切だぞ』

 そんな眠たそうなヴェルキスの言葉を聞き、課題の為の依頼一回達成の挑戦は翌々日にしようと三人は決めた。


 依頼を受けた翌日の朝、自分達の依頼は明日にしようと決めたが……流石に今日という時間をごろごろするだけで過ごすのはもったいないと感じ、三人は受付の人におすすめの授業を尋ねてみた。

 そしてその結果『植物学』の授業を習う事に三人は決めた。

『薬草学』や『自然植物』などと比べて学問的な指導が少なく、その内容はむしろ冒険者見習いにとっては便利で実用的なことばかりで、しかも直接儲けに繋がる話だと聞いたら他に選択の余地はないと言って良いだろう。


 そしてその植物学の授業は受付の言った通りで、数は多い割にそこそこの値で売れる山菜や薬草の見つけ方や類似した植物との見分け方、他には薬草採取の依頼はどんな依頼がオススメかなど冒険者になろうとしている人が今欲しいと思えるような知識のオンパレードだった。

 人という物は即物的な生き物であり、その授業の時は受けている生徒皆の目は真剣そのもので、普段メモすら取らないサリスですら紙とペンを用意して必死に覚えた事を書き込んでいた。


 そんな実りしかなかった時間はあっという間に過ぎ去り、昼食を取った後三人は各自バラバラに行動する事となった。

 プランは三人で行動をしたかったのだが、エージュもサリスも何か忙しそうだったので、少し寂しいというその気持ちをプランは飲み込んだ。




 そんなわけでプランは微妙な人恋しさを解消する為、盾サークルに向かってみた。

 最悪誰もいなくても施錠されていないなら本でも読んで時間を潰せば良いだろう。

 植物学の授業でもらった『治療に使える薬草とその加工法について』という子供でも読めそうなほど簡単な文章でかつページ数の少ない本を見ながらプランはそう考えた。


「というわけでお邪魔しまーす。誰かいますかー?」

 そう声をかけながらプランが部屋に入る。

 部屋の中には壮年の容姿をした男性が二人いた。


 一人は見た目だけなら三十は超えてそうなのに実年齢は十八歳という悲しい容姿を持つハンズ。

 もう一人は昨日も一緒にいたヴェルキスである。

 ハンズは盾を丁寧に研磨しており、ヴェルキスはソファで静かに眠っていた。


「ああ。良く来た新入生」

 ハンズは手を止めず、プランに顔を向けそう言葉にした。

「あ、お邪魔します。……お邪魔じゃないです?」

「ああ。別に邪魔とは思わないし、そもそも貴様もサークルの一員だ。堂々とすれば良い」

「いや、それもですけどヴェル先輩が……」

 そう呟くとヴェルキスは寝転がった体を起こしてソファに座り直し目を開けた。


「気にすんな。ごろごろしていただけだ」

「先輩も疲れているから寝ていたんじゃ?」

 昨日相当疲れた顔をしていたためそう尋ねるプランにヴェルキスは苦笑いを向けた。

「まあ、二十代過ぎてから疲れが取れにくくなったのは確かだなぁ。ただ、昼寝はただの趣味で動けないほど疲れちゃいないさ」

「そですか。じゃあ遠慮なく」

 そう言いながらプランは空いていた椅子に座り込んだ。


「ま、日にちが悪いのは確かだな。今日は俺達以外誰も来ない。すまんな。せっかく来てくれたのに」

「いえいえ。ああ、そいえばサークルの人って五人いるんでしたっけ? えと、ソラ、ハンズ先輩、ヴェル先輩と会ったからあと二人で、片方が会長さんですよね?」

「うむ。二人とも会いたい会いたいと首を長くして待ってるからまた暇な時寄ってくれ」

 ハンズは苦笑いをしながらそう言葉にする。

「はーい!」

 それをプランは微笑みながら元気よく返事をし手を上げた。


「うむ。というわけでせっかく来たんだ。盾の使い方でも覚えてみる気はないか?」

「あー。迷惑でないならご指導お願いしても宜しいでしょうか?」

「もちろんだ。なあヴェルキス」

 その言葉にヴェルキスは笑顔で頷く。

「ハンズは実力こそ微妙だが教導役として見ればかなり良くて下手すりゃそこらの先生より巧い。安心して良いぞ」

 その言葉にハンズは複雑そうに眉をひそめた。


「指導だけならトレーニングルームで良いだろう」

 そう言ってハンズは立ち上がり、部屋奥の扉を開く。

 そこに見えたのは、部屋として見れば悪くない広さだが、トレーニングルームとして見れば限りなくギリギリの広さをした部屋だった。


 ヴェルキスは部屋の隅にある二メートル近くあるハンマーを担ぎ、部屋の中央付近に移動した。

「見た目は派手だがヘッド部分は布で出来て中身も綿しか入ってない。直撃してもふっ飛ぶ程度で怪我はしないから安心してくれ」

 そう言いながらヴェルキスはハンマーのヘッド部分をもふもふした。

「……枕にしたら気持ちよさそうですねそれ」

「……それ良いな。今度してみるわ」

 その発想はなかったらしくヴェルキスは至極まじめな表情でハンマーを見つめた。

「止めい。それじゃあ新入生。構えろ」

 その言葉にプランは頷き、貰った盾をリフレストの(昔見た)兵士のように構えた。


「……あー。新入生。ちょっと指導したいから……、体に触れても良いだろうか?」

 ハンズが恐ろしく言い辛そうにそう言葉にし、プランはそれを見てくすっと小さく微笑んだ。

「セクハラしたと思った時に蹴って良いならどうぞ」

「ではそうならぬよう気をつけようか」

 そう言いながら、ハンズは体に触れるのを最小限にしながらプランの構えを変えていく。

 その手の触れ方は非常に紳士的で、それはまるで貴族のダンス作法のようであった。


 ハンズの教えた構えはプランの知っている構えとは全く異なっていた。

盾を両手で持ち、しっかりと中央で構えつつ足を開いて重心を落とす。

 その上で背筋を伸ばし盾は地面と直角になるように気をつけ続ける。

 どうやってこれで戦うのかわからない、そんな構えだった。


「見ての通り実戦では使えない構えだ。だが、それがある種理想の構えで、そして基本の構えと言って良い。所詮基礎の基礎でしかない構えなのだが、逆に言えばその基礎が出来れば他にも応用が利くという事でもある」

「それは良いのですが……一つ良いでしょうか?」

 プランはぷるぷるしながらそう言葉にした。

「なんだ?」

「あの、ちょっとこの恰好きついのですけど……特に腕と足がぷるぷるとして」

「慣れろ」

 そんな身も蓋もないハンズの返事に、プランは無表情のまま頷く事しか出来なかった。


「しっかり構えられたか? んじゃ行くぞ」

 そう言いながらヴェルキスはハンマーを全力で横に振りかぶり、そのまま全力でプランの構える盾に叩きつけた――。


 パシン!


 そんな乾いた音と共に綿とは思えないような衝撃がプランに駆け巡り、後ろに引っ張られるように重心を崩しプランは尻もちを付きそうになる。

 それをハンズは予測していたのか、プランの両肩を後ろからそっと受け止め支えた。


「先輩。全く受け止められる気がしません」

 プランは後ろにいるハンズの方に顔を向け、そう尋ねた。

 少々顔が近いからかハンズの顔は困惑し目があちらこちらと移動し挙動不審な様子になっていた。

「う、うむ。まあそういうものだ。ああ嘘はついておらんぞ。その構えは間違いなく基本の形であり、理想の構えである。ではどうしてそのようになってしまったのか、わかるか?」

 言われてプランは少しだけ考え込み、そしてこう答えた。

「良くわからないのでもう一回お願いします」

 その言葉にハンズとヴェルキスは優しく微笑み頷いた。


 数度の綿ハンマーの打ち込みを受け、全く同じように倒れそうになるのをハンズに支えてもらった結果、プランは気が付いた。

 同じ事を何度繰り返したとして、絶対受け切れるようにならないという事を。

 確かにこの体勢は非常に衝撃に強く、衝撃は全て盾から後方に流れていく為ダメージらしいダメージは負っていない。

 しかし、そのまるで後ろに引っ張られるような流れる衝撃に巻き込まれ、足だけで支えきれなくなってしまう。

 確かにふんばりの利く恰好ではあるのだが、多少ふんばった程度でどうにかなるようなレベルの衝撃ではない。

 という事は……。


「もう一度お願いします」

 今までと違い何か思いついたようなプランの表情。

 それを見てヴェルキスは頷き、ハンマーを構えた。

 そしてハンズはプランの背後から少し離れ、様子を見だした。


「……ほぅ」

 ハンズがプランの様子を見て感心したかのように呟きをあげる。

 プランの体勢は今までと変化なくそのままではあるが、その重心は今までと違いしっかり前方に持ってきていたからだ。

 受け止める事を重視してか臆病だからかはわからないがプランは無意識に重心を後ろに運んでいた。

 へっぴり腰にこそなっていないものの、重心が後ろに向けばその分後ろに倒れやすくなるのは自然の摂理である。

 ただそれはプランだけが特別そうなのではなく、盾を持った初心者が皆行ってしまう一種の通過儀礼のようなものだった。


 ヴェルキスもプランの変化に気づき、小さく微笑みながらハンマーをプラン目掛けて打ち放つ。

 それを見て、プランは更に重心を前に傾けた。

 自分でバランスを取るのが不可能なほど前に加重をかけながら両足で地面を蹴るようにし――プランはハンマーの一撃を受けた。


 ドンと強い音と同時にプランは攻撃を受け止め、若干浮いた。

 そのままずさーっと後ろに滑ったものの倒れる事はなく、プランは確かに攻撃を受け止め切っていた。


 プランはキラキラした瞳をさせつつハンズとヴェルキスの方を交互に見つめる。

 それはまるで褒められるのを期待する犬のようだった。

 それを見たハンズはニヒルな笑みを浮かべながら、小さく拍手をした。


「そう。盾を使う際で最も重要となるのは足となる。インパクトタイミングをずらして受け止める。攻撃を避ける。受け流す、と盾を持った状態で取れる防御行動は多いが、その全てに足の運び方がかかわるからだ。……そして俺があまり巧くない部分でもある」

 そう言いながらハンズはヴェルキスから布と綿ハンマーを受け取る。

 そしてハンマーを渡したヴェルキスはきょろきょろと部屋の中を探しだした。

「あー。これで良いか」

 そう言いながらヴェルキスはそこらへんに投げられていた赤い表紙の本を手に取り、部屋の中央に移動する。


 それを見たハンズは全力で、しかも助走をつけてヴェルキスにハンマーでぶん殴った。

 ヴェルキスはその布と綿とは言え強い衝撃の出るハンマーを本で、しかも片手で受け止めた。


 当たった瞬間に、一切の音はなかった。


 しっかりと見ていたはずなのに、プランには何が起こったのかわからなかった。

 確かにハンマーが直撃したはずなのに、ヴェルキスが最初の位置から一歩ほど下がっている事以外は殴られる前と何も変わっていない。

 それは本当に殴られたのか疑いたくなるほどの光景だった。


「極めたらこのような事も可能になる。さきほどヴェルキスが行ったのは衝撃とダメージの受け流しだが、それもまた足捌きが非常に重要となる。だからまずは足での細かな動作を覚えていけ。実戦的な盾の使い方はその後でも遅くなかろう?」

 ハンズの言葉にプランは頷いた。

 プランは目的がある為少しでも早く強くならないといけなかった。

 しかし、それは本当の意味での力、強さが必要なのであり、決して付け焼刃ではない。

 だからこそ、焦って近道に逃げてはいけないのだとプランは理解していた。


「さて、次は基本となる足捌きの練習の仕方を教えよう。これは武器を使う時だけでなく姿勢を良くするのにも使うからあらゆる意味で覚えて損はないぞ。……せっかくだしトレーニングルームに行こうか。サークル部屋では狭すぎる」

 ハンズの言葉にプランとヴェルキスは頷いた。

「うむ。サークル共通室内トレーニングルーム四がこの近くにある。着いて来い」

 ハンズの言葉にプランは再度頷き、プランとヴェルキスはハンズを先頭にサークル部屋を退出し移動を始めた。


「あ、先輩お二人に聞きたい事あるんですけど良いです?」

 プランの言葉に二人は歩きながら後ろを振り向いた。

「なんだ?」

「えっとですね、私って飲み込みの早さとかどんな感じです?」

「あー。……割と言い辛いが、並だ」

 ハンズがそう言葉にして、ヴェルキスも頷いて見せた。

「ああ。普通だな。ヴェルキスの指導が巧いから伸びは良いが、ぶっちゃけ普通。ただ悪くはないのは確かだぞ」

 そう、プランは盾を使う才能は特に可もなく不可もなくという程度だった。


「そか……。そっか……。普通かー。えへへ……」

 何故か嬉しそうなプランに二人の男は首を横に傾げる。


 誰かを傷つけ苦しめるような特別な才能があるわけでも、伸びが異常に早いわけでもなく、また恐ろしいほどに才能がないわけではない。

 だから努力して伸ばさないといけない。

 それはプランにとって初めての事であり、とても嬉しい事だった。


ありがとうございました。

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