2-6話 最初の依頼は恩返しでした
一旦組んだパーティー同士で依頼を受け、その後にお互いに情報を交換しようという事で話は決まった翌日――プラン、サリス、エージュは予定通り学園内で依頼を受けられる所に向かった。
学園自体が大型都市と同等の機能を持っている為、依頼を受注出来る場所も複数存在しているのだが……現在プラン達の知識ではどこに向かうべきなのかわからない。
受注所ごとに何か特色があるとは思うのだが残念ながらその知識はなく、また毎回受付や担任に尋ねるのも成長に繋がらないと考えた三人はとりあえず地図を片手に近場の依頼受付所に向かってみた。
向かった瞬間に三人は少しだけ後悔した。
そこは冒険者の酒場風の依頼受付所だった。
どうして風が付いているのかと言えば、入り口の看板にでかでかと『飲酒禁止』と書かれていたからだ。
本当の冒険者の宿を雰囲気だけでも経験する為にこのような形式となっているのだろう。
ちなみに二十ほどあるテーブルと数か所のカウンター席は満杯となっている上に、依頼を受けられるであろう場所は人がごった返しており依頼を受ける場所がどんな風になっているのかすら見る事が出来ないほどとなっていた。
冒険者セットの悪夢再びである。
「俺が先陣を切ってここを切り開いて先に行くのと、別の場所に行くの。どっちが早いかな?」
「……絶対後者ですわ」
サリスの言葉にエージュは無表情のままぽつりと呟いた。
「あはは……だよねー。……どうしよっか?」
プランがそう呟くと、その声を聴いてか何者かがプランの方に近寄ってきた。
「よう。依頼受注か?」
そう言って笑いながら声をかけてきたのは、質実剛健でごつめの容姿ながらどこか爽やかな青年、盾部サークルの先輩であるヴェルキスだった。
「あらヴェル先輩。先輩も依頼です?」
「ああ。そっちは……もしかして課題か?」
その言葉に三人はこくりと頷いた。
「あちゃー。じゃあ駄目かー」
そう言いながらヴェルキスは困った顔をして後頭部を掻いた。
「どしたんです先輩?」
「いや、俺の受ける依頼を手伝ってもらおうと思ったんだが……俺が受けた依頼を手伝っても課題達成にはならないから駄目だなと思ってな。まあ別の人を探すさ。ああそうそう。ここは非戦闘で割の良い課題が多いから行列はしばらく解消されないから、課題用の依頼受けるなら別の場所行った方が良いぜ」
そう言ってヴェルキスは立ち去ろうとすると、プランは慌ててサリスとエージュにぺこりと頭を下げた。
「ごめん。私先輩に助けてもらった恩があるから行ってくる。二人は依頼を――」
そこまで言うと、二人はプランの口に手を当て黙らせた。
「待ちな先輩。それ四人で分けて儲けが出るような依頼かい?」
サリスの言葉にヴェルキスは足を止め振り向いて頷いた。
「ああ。人数分だけ報酬が別で支払われるし、達成した成果次第では十二分に色も付く」
「なら決まりだな。先輩。俺達三人にも手伝わせてくれよ。旨い依頼なんだろ?」
サリスはそう言ってニヤリと笑った。
「全く。勝手に決めないで下さいまし。……まあ、同意見なのは事実ですけどね。先輩の元で依頼の流れを実際に経験出来るというのは新入生である私達には貴重な経験となるでしょう」
エージュは溜息を付いた後、微笑みながらそう言葉を紡いだ。
「二人共……。ありがとね」
プランの言葉に二人は頷くと、サリスはプランの頭をわちゃわちゃと撫でまわした。
「三人共悪いな。助かる。終わったら旨い飯でも奢るわ。んじゃ付いてきてくれ」
その言葉にサリスはガッツポーズを取りてプランは嬉しそうに微笑んだ。
そんな二人をエージュは微笑ましく見つめ、三人はヴェルキスに追従した。
ヴェルキスと三人が向かった先はそこそこ繁盛している冒険者の店だった。
そこには武具の類は一切おいておらず、その代わり包帯や簡易式の砥石、マントや毛布に革袋、高価である為滅多に見ない簡易治癒ポーションや聖水、果てには爆弾や登山道具などが売られていた。
どうやら冒険に出る直前に客が来る事を想定しての店らしい。
「んで先輩よ。ここで俺達は何をすれば良いんだ? 専門知識がないから売り子くらいしか出来ねーぞ」
サリスの言葉にヴェルキスは首を横に振り、ぽつりと呟いた。
「ぶっちゃけるとな、お弁当作りだ」
「……は?」
三人の声がハモった瞬間だった。
「いやいや。これが大切なんだよ。ハンガーノックって知ってるか?」
その言葉に三人は首を横に振った。
「飯食わない状態で長い事体を動かすと考える力が低下して体に力が入らなくなり、最終的には動けなくなるんだ」
「ああ。それならわかるぜ。冒険初心者が緊張で体力使うからか時々ぶっ倒れる奴だな。その時は先輩冒険者を見習ってとにかくカロリーの高い物を無理やり食わせてた」
サリスの言葉にヴェルキスは頷いた。
「そうそれだ。高山などの作業だと起こりやすいし、長期の戦闘などでも発生する。そうなるとマジで命にかかわるな。まあ、胃の中に食べ物が入っているとそれはそれで腹斬られた時危険なんだが……対人でない限りはハンガーノック予防の方に重視して良いと俺は思う」
冒険に置いて保存食はハンガーノック対策というだけでなく、迷った場合なども含めあらゆる意味での命綱の役割も兼ねている。
だからこそ、日持ちのする食料は長期の冒険になればなるほど重宝されていた。
「干し肉ってのも悪くはないんだが……味はともかく消化の問題がな……。ハンガーノックになりかけの奴に硬い肉無理やりぶち込んでも胃がやられるし最悪吐く。つーわけでこの店はそんな保存食にかなり力を入れてるんだよ」
そうヴェルキスは話を締めくくった。
「あの、ヴェル先輩。直接は関係ない事ですけど長期の冒険に向かった場合課題ってどうなるんです? 一番短い課題って週一で出されてますよね?」
その言葉にヴェルキスは頷いた。
「ああ。その場合は……その冒険と兼ねて出来る課題があれば同時に受ける事になるのだが、もしない場合は戻ってきた後溜まった課題を消化するという形になる。月一の課題が二週間かかる依頼の事もあるしある程度は考慮してくれるから心配すんな。疑問が溶けたか?」
プランは微笑みヴェルキスにペコリと頭を下げた。
「……ところで目下最大の問題があるんだが」
サリスがそう呟くとヴェルキスは眉をしかめサリスの方を向いた。
「何か困った事があったか?」
「ああ。すげー困った。……俺、料理出来ねーぞ」
その言葉にヴェルキスは微笑んだ。
「安心しろ。皿洗いとかがメインになるしそれも怖いなら……ポテトを潰し続けるという地味に体力の消費がきつくて払いの良い仕事もあるぞ」
「ああ。それなら安心した。そんなら何か俺にも出来る事があるな」
そう言ってサリスはにししと笑ってみせた。
「逆に私達はそれなりに料理が出来ますがどうしましょうか?」
その言葉にヴェルキスは少し驚き、少し待てと言い残しどこかに去っていった。
そして五分ほどして微笑みながら戻ってきた。
「店長に相談してきた。料理側も人手が足りてないみたいだから、良かったらあっちを手伝ってきてくれ。何をすれば良いかは現場で聞いて欲しい」
その言葉に頷きながら、二人はヴェルキスが指で差す方角に歩いて行った。
「さて、サリスだったか。俺達はこっちだ」
そう言いながら歩き出すヴェルキス。
「……。先輩も料理が出来ない側か」
その言葉にヴェルキスはドヤ顔となった。
「何時だって俺の担当は皿洗いと製粉だ」
そんなヴェルキスにサリスは苦笑いを浮かべ、ほんの少しだけ料理を勉強しようという気持ちとなった。
およそ九時間後、仕事を終えた二組は合流した。
プラン以外の全員が疲れた顔をしていた。
「おつかれさん。飯食う体力あるか?」
ヴェルキスの言葉に三人ははっきりと頷いて見せた。
「正直……格の違いを思い知らされましたわ……」
エージュはプランを見ながら、ぽつりとそう呟いた。
「ああ。やっぱりプランはやばかったか。いやそうか。今も疲れた様子ないもんな。休みありとは言え九時間料理でピンピンしてるってのはやばいわ」
サリスの言葉にプランは首を横に振った。
「いやいや。大した事ないよ。たださ、料理ってそっち側でやってた単純な力作業を除ければさ、慣れると疲れずこなせる事が多いんだ。というわけで別に私が体力凄いわけでもないし料理もただ慣れてるだけで別に凄い料理が出来るわけではないからね」
そうプランは謙遜するがサリスは一切信じず、エージュの方を見た。
「んでエージュ。実際にこいつはどんなだったんだ?」
その言葉にエージュは頷いた。
「最初は私と一緒にお肉や野菜を切っていたのですが、三十分もしない内に料理班に移りました。んでそこでもてきぱきと仕事をこなしていくからどんどんと難しい担当に移っていき、最後は店長らしき男性の横で二人だけで何か特別な作業をしておりました」
「やばい」
「やばい」
サリスとヴェルキスはそう呟いた。
「そんな事ないと思うんだけどなぁ。周りの人の方が私より料理上手だったし」
実際、料理技術だけで言えばプランよりも他の従業員の方が遥かに高かった。
「……店長に直々に学園止めて副店長になれってスカウトされる人が凄くないなら誰が凄いんですか……」
エージュは溜息を吐くとプランは照れくさそうに笑った。
「まあ、今回は得意科目が被ったってのもあるかな」
そんなプランの呟きにサリスは首を傾げた。
「あん? お前の得意って何だ? つーか店長と一緒に何を作ってたんだ?」
その言葉にプランは、包装紙に包まれた細長い棒状の物をサリスに手渡した。
それをサリスは受け取り包装紙を乱暴に向いて、良く見もせずにその棒にかじりついた。
「むぐむぐ……。うんうまい。……やけに硬いパンのような……パンとビスケットの間みたいな食感で……甘しょっぱくて美味いけど……これ飯っつーか菓子って感じだな」
その言葉にプランは頷いた。
「うん。ショートブレッドって言うお菓子なんだけど、加工次第で日持ちをさせたりドライフルーツなんか入れて栄養足したりも出来るんだ。消化も干し肉ほど悪くないし味も保存食として見たら十二分。という事でこの店の主力商品なんだって」
そう言葉にするプランは、やけに楽しそうで嬉しそうな顔をしていた。
「……何か良い事あった?」
サリスの言葉にプランは大きく頷いて見せた。
「うん! ショートブレッドの作り方教えてもらったの! 日持ちの秘訣とかコツとかも色々教えてもらえたからね。私の好きなパン作りにも生かせそうだし。何よりショートブレッド店長と作るの楽しかったし良い事しかなかったよ!」
そう言って満面の笑みで微笑むプランを見て、疲れ切った三人は一種の尊敬を覚えた。
「……俺、絶対にプランのようにはなれねーわ。料理を楽しく楽々出来る気がしない」
「……そんなハードル上げないで下さい。今回はそこそこ活躍出来た私ですが、それでもプランさんのようになるのは無理ですわ……」
サリスの言葉を被せるようにエージュはそう愚痴を漏らした。
「……絆された俺らが言うのもアレだが、やっぱりコイツの会話能力やばないか? 何か行く人全員に気に入られてる気がするぞ」
サリスの言葉にエージュは苦笑いを浮かべた。
「しかもその気持ちが私達もわかるのですがら本当恐ろしいですわ。もしプランさんが領主でしたらきっとその領は恐ろしく発展して皆に愛されるような、そんな領になるでしょうね」
その言葉にプランは首を横に振った。
「いいや。私が領主だったらきっと凄く貧乏で食べ物にも困るほどで、それでもとってもあったかくて……まったりした領地になるよ」
そう答えた後、プランは今まで見せた事もないくらい満面の笑みを二人に向けた。
「とりあえず、飯奢るから後輩共はついてこいやー」
ヴェルキスのやる気ない言葉に三人は頷き、力なく歩くヴェルキスの後ろを疲れた顔で着いて歩いた。
プランだけは相変わらず、楽しそうにニコニコしたまま元気よく歩いていた。
ありがとうございました。




