2-1話 クラスメイトは変人だらけ
授業初日、事前に連絡があった部屋に三人で移動したプランとサリス、エージュ。
教室と思わしき部屋に移動した三人を待ち受けていたのは、誰もいない寂しい部屋だった。
少し早めに来る事に問題はないが、流石に一時間半早いのはやりすぎだったらしい。
第二エリアメイン施設に在するこの部屋に置かれているのは、巨大な黒板と十七の個人用机と椅子。
その机の並べ方はかなり変則的で、黒板を正面として右側、入り口側に縦十一列並び、その少し左に縦四列、そして更に左に縦二列と並んでいた。
そんな二、四、十一と縦に並ぶ奇妙なデスクには個別に名前が書かれて紙が置かれておりプランは十一の列で一番前の席、エージュはその三つ後ろでサリスはその後ろの席となっていた。
「この並びには一体どういう意図があるのでしょうかね」
エージュがぽつりと、不安そうにそう呟いた。
「横の意図はわからないけど、縦の意図ならわかるよ?」
そう答えるプランの表情は、少しだけしょんぼりしていた。
「教えていただけますかプランさん」
「うん。というかね、一目でわかるよ。私が先頭で、少し開いてエージュでその後ろにサリス。これさ、背の高さ順じゃん」
「……あー」
納得した後バツの悪そうな表情を浮かべるエージュと違い、サリスは豪快に笑いだした。
「あははははは! 良かったじゃん見やすい席で」
「席に文句はないけど、自分の背の低さに文句はあります」
そう言ってジト目で見るプランを、サリスは優しく、小動物を見るような目で見つめた。
エージュは何か慰めようとオロオロするが、事実な為何も言えずにオロオロするだけだった。
別にプランの背が極端に低いわけではなく、サリスとエージュが女性にしては高めなだけだから気にする必要はないとプランも理屈ではわかっている。
わかってはいるのだが……。
「私の知ってる女の人ってさー今も昔もみーんな背が高くてさー。ついでに言えば胸もおっきかったりウェストが細かったり……。特にこの背の高い人にウェスト負けてると自分がちんちくりんに見えてかなしい」
「ま、おっぱいのでかさは俺もさしてないから気にするな」
「でもサリス。ウェスト細いじゃん」
ジト目で見るプランにサリスは首を傾げた。
「太い方が強いから良いじゃん」
「……今、全女性を敵に回した」
その言葉にエージュはしっかりと、そして何度も頷いた。
「んな事言うがエージュはおっぱいでかいから良いじゃん」
そう言って両手を胸元に持ってきて下品なポーズをとるサリスを見てエージュは赤面する。
「はしたないから止めてください!」
「別にこのくらい良いじゃねーか。これからガラが悪い奴らがわんさか来るから今の内にセクハラ程度は慣れておいた方が良いぞ」
「……いえ。皆がそうとは限りませんわ。ここは冒険者の学び舎で最も素晴らしい場所です。立派な方が来るかもしれません」
「おいおい冒険者に夢見すぎだろ。人様に顔向け出来るギリギリの職業だぞ?」
「そんな事ありませんわ。彼らも立派に国や領に貢献する民ですもの」
そんな二人の言い合いを、どっちも間違っていないと知っているプランは微笑ましい目で見つめていた。
ただ、セクハラが多い事は事実である。
言葉のセクハラくらいは受け流せるようにならないようでは冒険者になれないというのは、残念ながら事実であると、これまでの旅とブラウン子爵領で良く知っていた。
「んじゃ賭けようぜ。次に来る奴がガラが悪いかそうじゃないか。ガラが悪ければ俺の勝ちでエージュはプランに夕飯奢る事」
「良いでしょう。ですがその条件では少々私が有利すぎます。品位を感じるような方でしたら私の勝ちでハワードさんがプランさんに夕食をご馳走する事。ただしどちらでもなく中間位なら次の人で再勝負、でどうでしょうか?」
「良いぜ。乗った」
そう言って二人で納得しあうのを見てプランは首を傾げる。
「……あれ? 何で私奢られる事になってるの?」
「そりゃいつものお返しだ」
「それは、いつものお礼ですわ」
二人が声をハモらせてそう答えた。
「……そんな良い事した?」
「いや……お前が厨房いる時に俺らが飯食いに行くとお前毎回何か付けてくれるだろ。ぶっちゃけ俺お前に胃袋握られてるわ」
その言葉にエージュも頷いた。
「ええ……。他の方とは安心感が違います」
「ええー。そんな特別な事はしてないけどなぁ……とても貴族の人が喜ぶほどの技量とは……」
「俺は馬鹿舌だから論外だが、エージュは結構良い物食い慣れてる。そんなエージュが旨いって言うんだから自信持って良いだろ」
「ええ。うちの御屋敷で働いて欲しいくらいと本気で考えるくらいには気に入っております」
そんな二人を見て、プランは後頭部を掻いた。
「あはは。少し恥ずかしいね」
恥ずかしがっているプランが少し珍しくて、ついでに少し面白かった為更に褒めちぎって揶揄う為二人が何か言おうとしたその時、部屋のドアが開かれた。
賭けの事を思い出した三人はじゃれるのを止め、ドアの方を見つめる。
そこにいたのは……、驚くほどに場違いな人物であった。
エージュと同じようなドレス風の衣装に身を包んでおり、髪はプランよりも更に明るく金髪に近いブラウン色のセミロング。
ワンポイントに小さな白いリボンが頭頂部右側に結ばれている。
くるぶしまで隠したロングスカートのドレスは青いものだが清楚や大人しいと言った印象は薄く、落ち着いた色合いのはずなのに少々子供っぽい印象が残る。
またドレス以外にもお洒落の為の衣装もしっかりと揃えており、つま先が丸っこくて可愛いお洒落な革靴を履き、黒いチョーカーを首に巻いて、親指には赤い宝石のついた指輪が付けられていた。
貴族らしい気品と、子供のようなニコニコした笑みを見せ愛嬌は二重丸。
その人物は、まるでプランに気品とファッションセンスを足して貧乏属性を抜いたようであった。
「こんちわわー。君達がクラスメート? 三人共可愛いね。よろしく!」
その人物はニコニコしたまま顔や服装も劣らないような綺麗な声を発し、返事も聞かず軽い足取りで部屋の中に入ってデスクを見て回り、自分の席である左奥、二つしかない列の前席に座った。
「……エージュ。お前の勝ちだな」
「……いえ。ちょっと想定外で……ええ。確かに品位あるお方ですが……」
ただし、その品位は貴族のような生まれ持っての品位とは感じられず、むしろ近いのは商人のような、必要であるが故に覚えた後付けの品位のようであった。
「……いや、でも冒険者志望でこれより上っていないだろ……」
「ううーん。ですが……何か思っていたのと少々以上に異なりが……冒険者に全く見えないというか……」
そんなひそひそ話を二人がしていると、当の本人であるその人物が二人に話しかけて来た。
「ねね。君達ってもしかして新入生?」
その言葉にサリスとエージュ、プランは頷いた。
「はいその通りです。……その言い方をなされたという事は貴方は違うのでしょうか?」
エージュの言葉にニコニコ顔のままその人物は頷いた。
「うん。僕は入学して一年経過したとこだね。にしても珍しいな。新入生と一緒なんて……。まそういう事もあるかな? あ、僕の事は……クリスって呼んでね」
そう言って美しい人物、クリスは優しく微笑んだ。
「あ、プランです。ただのプラン」
「うん。栗色の髪とくりっとしたおめめが可愛いプランちゃん。よろしくね」
「俺はサリスだ。先輩よろしく」
「おー慣れてる感じだね。うん。よろしくサリス」
「私はエージュと申します。以後お見知りおきを……」
「うん。エージュちゃんもよろしくね! 三人共僕は学園を一年間乗り切った後だからさ、何かあったら相談してね? 可愛い後輩を助けるのも先輩の役目だから」
そう言ってふんすと胸を張るクリスは、先輩らしい姿ではなく見栄を張る子供のようであったが、同時に何故か頼もしい姿にも見えていた。
そんな善良で、頼れる先輩冒険者のはずなのに……何故かプランはこのクリスという人物に強烈な違和感を覚え続けていた。
美人で、品位と愛嬌があり、悪意も感じない。
決して悪い人物ではないはずなのに、何か引っかかる部分がある。
それが何なのかわからず、プランはもやもやした気持ちを抱えていた。
「……おいプラン。聞いてるか?」
プランはサリスにひそひそ声で話しかけられた事に気づき、違和感に集中していた意識を引き戻した。
「ごめん。聞いてなかった」
「珍しいな。まあそういう事もあるか。さっきの賭けな、俺の負けで良いと思うが何故かエージュが認めないんだよ。どう考えてもお上品なお嬢様タイプじゃねーか。なのに何度言っても頑なに認めなくて……だからお前が決めてくれ。お前の決定ならエージュも文句言わん」
クリスがお上品なお嬢様であるか、粗雑なよくある冒険者か。
外見だけで言えば間違いなく前者であるのだが……プランは違和感の為かどうしてもそうは思えなかった。
「……んじゃ、サリスには悪いけど保留、どっちでもないという事で。次の人で決めよう」
「えー。……まあプランがそう言うなら……」
納得出来ない様子でサリスは自分の席に戻り、エージュとひそひそ話を始めた。
そして数分、ニコニコしたまま大人しく席に付いているクリスを横目に賭けの話題で時間を潰していると、乱暴にドアが開かれた。
そこにいたのは、ここまで揃う事など考えられないほどに完璧な、悪い意味で冒険者らしい冒険者だった。
靴を含めて全てボロボロになった服装は、冒険者というよりは盗賊のそれに近い。
しかも、胸元からは、もっさりと胸毛が見えている。
本来の冒険者ならもう少し身だしなみを整えるのだが……そういう事に意識が回らないのもある意味冒険者らしかった。
怠惰にしか見えない無精髭に塗れた顔は丸く、鼻も丸鼻。
ただし、その目は人を射殺せそうなほどに鋭い。
全身筋肉隆々で、腕だけでもプランの胴よりもはるかに太く、そして傷がほとんどない。
足には傷が見えるが、腕には一切傷が見えない辺り拳に自信があるのだろう。
そんな同じ人間とは思えないような人物は、その鷹のような瞳で室内にいる四人を睨み、地の底から響くような声で呟いた。
「……部屋、間違えたか?」
恐ろしく低い声でそう呟く大男。
その声には困惑が大いに含まれていた。
「……おい。ここは女だけの部屋か?」
大男がそう尋ねると、全員揃って首を横にふるふると振った。
クリスはニコニコ顔のままだった。
「……女が多いだけか。ちっ。面倒だ……」
そう呟いた後、十一列、プラン達の列一番後ろの椅子にドカッと腰を下ろし足をデスクもかけて目を閉じた。
「……賭けはハワードさんの勝ちですわね」
「……おう。文句なしで……あそこまでひでーのは俺も初めてみるぜ……。でも、正直センパイの事があって勝った気がしないから二人でプランに飯奢ろうぜ」
「ええ。悪くない提案ですわ。それならお受けしましょう」
二人はひそひそ声でそう言葉にし、少しだけ小さくなって後ろに意識を向けないよう黒板に集中した。
それからしばらく、無言のまま待機していると部屋にある席が全て埋まった。
合計十七人。
色々な服装、外見、年齢の人はいるが、若い人が多かった。
十一列の席は一番後ろから来る大男のプレッシャーの所為か全員が無言のまま前を見ていた。
四列の席は皆が最初から知り合いらしく冒険の話をしている。
二人の席も十一人と同じ様に無言ではあるが、少々様子が異なる。
というのも、クリスの後ろにいる人物はクリスに見劣りしないほど顔の良い男性だったからだ。
顔だけでなく服装に冒険者らしくない吟遊詩人の恰好で、プランでさえ恰好良いなと思うほどである。
ニコニコ愛嬌溢れる笑顔で微笑むクリスと、その後ろでどことなく淡い雰囲気で微笑む男性。
そんな二人の様子はまるで絵画がそのまま出て来たような、そんな美しさがあった。
ガラッ。
「全員揃ってるな。んじゃ始めるかー」
突然男性が入ってきて、そのまま黒板の前に移動する。
そんな、おそらくこのクラスを受け持つであろう教師がここに現れたのは、約束の時間から三十分が過ぎた後であった。
ありがとうございました。




