8-12話 壁は乗り越えても問題は山積み
「うーん……」
プランはサリス、エージュと共に一枚の紙を見つめ、悩ましい表情を浮かべていた。
きっかけはサリスからだった。
あの戦いの後、サリスは自分の体におかしな点を発見した。
それを聞いてプランとエージュは心臓が飛び出る程心配したのだが、実際は二人が想像した事態とは逆の事態となっていた。
つまり、前よりも悪いのではなく、良い方。
何故かサリスの肉体性能はこの数日で跳ね上がっていた。
命の危機を経験したからか、それとも一気に回復したからか。
理由はわからないがサリスの肉体のスペックが高くなっている事だけは純然たる事実だった。
その話を聞き、危機感を覚えたのがエージュだった。
強かったが問題があり十全に実力を出せなかったプランはその壁を乗り越えた。
そのおまけで元々身体能力の高かったサリスの肉体は成長を果たした。
自分だけは変わっていない。
このままでは置いて行かれる。
それに気づいたからだ。
とは言え、エージュもエージュで自らの成長の方向性自体は既に見出してはいる。
剣技は鋭いがプランの様な天稟はなく秀才どまりで、運動神経も優れてはいるがサリスほどではない。
二人よりも魔法は優れているが、エージュは既に予想していた。
近い未来、プランは魔法も成長し下手すれば追い抜かれると。
本人は自分に魔法の才能はないと言っているが、エージュは才能とか関係なくプランは魔法も巧みに使える様になると確信していた。
そうなると、エージュはプランの完全劣化となり肉体特化のサリスと異なりプランの影に埋もれる事となるだろう。
じゃあ魔法に特化するか?
それは違う。
じゃあ剣技に特化するか?
それもまた違う。
持って生まれた物や今までの経験を捨てたところでたかが知れており、その程度で二人に追いつける訳がない。
エージュ・バーナードブルーはその民の為に立つという精神を除けば秀才止まりのただの凡人であり、二人と並び立つ様な才能は秘めていない。
じゃあ諦めるのか?
それだけは、何があっても決してありえない。
二人の友として生きた自分をエージュが否定する訳がなかった。
じゃあどうするかと言えば……最初にある通り、成長方針の答えは既に見えている。
もし、もしとある人物がいなければきっとエージュはプラン、サリスに対して劣等感を覚えもがき苦しんでいただろう。
だが、その人物のお陰で光明が見え、そんな心の闇に囚われる事はなくなった。
むしろ二人に比べて圧倒的に才能が足りないからこそ、多くの磨く時間が必要になる。
それを教えてくれたのは、他の誰でもなくヴェインハットという存在、その在り方だった。
個人的に親しい訳ではなく、接点はアップルツリーでの少しの会話位で後は友人の友人程度の付き合い。
だが、そのアップルツリーの時こそがエージュにとって転機だった。
アップルツリーでヴェインハットに僅かだが指示を受け、エージュは魔法で小ズルい手段を実行した。
貴族である自分では、絶対思いつかない様なせこくてしょぼい小さな手段を。
エージュは元々威力を絞る、範囲を調整するといった魔法の微調整が苦手だった。
だが、その時は威力を絞るなどの微調整を一切行わず、それでいて最小限の消費で目的を達成出来た。
確かに外聞は悪い行動だろう。
魔法を使って罠を作るというのは正面から戦う貴族らしくない。
だが、おそろしく効果的であるのは間違いなかった。
だからこそ、エージュは自らの成長方針を決定付けた。
何に特化しても二人には絶対追いつけない。
頼りがいのありすぎる二人の友の才は遥か高みにある。
だからこそ、エージュは泥臭くしつこく、二人が出来ない敵の足を引っ張る様な戦い方を身に付ける事に決めた。
どれほど地味で、ちっぽけで、人に後ろ指を刺され嘲笑われそうな行動であっても、それが効果的であるなら民の為に、友の為に実行しよう。
例え貴族として恥だとしても、それが自分らしい在り方だと受け入れよう。
そう決め、エージュはヴェインハットから薫陶を受ける事に決めた。
そんな風にゲリラ的戦法をヴェインハットから学ぶとエージュが二人に告げると、サリスも自分の悩みを明かした。
サリスはそこそこ手広い武器が使える。
近接方面はおよそほとんどの有名武具が、遠距離でも弓位ならそれなりに。
そんなサリスはそろそろどれかの武をにメインに据えようと考えていた。
広く万能的に戦える様にした方が冒険者として生きやすいからこの様に手広くやっていたが、プランとの戦いでサリスは逆に一つの武具に特化した強さを知った。
だからサリスは手広く使える今までの自分を下地として、メインとなる武具を伸ばすと決めた。
そしてその為に武具を買うから何にしようかサリスが相談したその瞬間、プランは重大かつ緊急性のある問題に気が付いた。
『……あのさ、私、トーナメントに何持って行こう』
サリスとの戦いで前準備した木の剣は完全に破損した。
だから冒険では今はその辺の枝や木の棒を拾って戦っていたが「……流石にトーナメント本戦でそれはまずすぎる」
そんなプランの一言に二人は顔を青ざめさせ、自分達の成長何かほったらかして慌ててプランの武器選びを始めた。
そしてコネを使いまくって用意した武器リストを、三人は顔を顰め見つめ合っていた。
「……二人はどれが良いと思う?」
プランが紙を見せながらそう尋ねるとが、二人は答えが出せなかった。
「ハワードさん。実際プランさんと戦った貴方ならどれが良いと思いますか?」
エージュに尋ねられても明確な答えが足せずサリスは顔を顰める。
いや、答えは既に決まっていた。
プランに適した武器は、この中にはない。
残念な事にそれだけは間違いなかった。
ハンズの用意したプランの戦闘データとサリスの経験、そしてプランの自分の能力の把握。
その全てが同じ答えを示している。
『絶対的に筋力が足りない』というどうしようもない答えを。
才能のみであるプランだからこその欠点、その技量を持ちながらも根本的な事、剣を振るどころか握り支える為の筋力すらプランにはない。
それは巨大な剣やロングソードという長物ではなく、ショートソードですらプランにはまだ重い位だった。
現在ハンズの指示により鉄の棒で素振りをしているが、トーナメントまでという短期間に筋力が劇的に伸びる事はないだろう。
つまり、適した武器ではなくマシな武器を選択するという後ろ向きな改善が求められていた。
だからこそ、サリスもエージュも顔を顰め、プランは困っていた。
「……んー。とりあえずショートソード持っておけば良いかなぁ」
「しかないか……。エージュはどう思う?」
「そうですね。何でも出来るのならレイピアというのはどうでしょうか? ちょっとした範囲ならお教え出来ますし」
「……ん。んじゃその二つを試して――」
そう三人が話していると、横から誰かが乱入してきた。
乱入者は当たり前の様に三人の横に座り、プランから紙を取り上げた。
「何? 何か面白い相談? ……武器リスト? 買い替え?」
そう言葉にしながら乱入してきたのはリーゼだった。
「あ。うん。壊れちゃったし……大会に出る事になったし」
その言葉にリーゼはプランの方を見つめた。
「ふーん。……ま、応援してあげるわよ。んで、何か問題があるんでしょ? 話してよ。聞くだけ聞いてあげるから」
そのいつも通りの唯我独尊っぷりに三人は感情が一周し好感すら覚え三人揃って苦笑を浮かべた。
「……お前は変わらねぇなぁ本当。あれだよ。筋力ないから適した武器がなくてな。相談してたんだ」
サリスの言葉にリーゼはぽつりと呟いた。
「ナイフ使えば良いじゃん」
「いやいや。流石にナイフじゃ戦えないよ」
そうプランが言葉にすると、リーゼは溜息を吐いた。
「あんたねぇ。もしかして剥ぎ取り用のナイフとかちっちゃいダガーとか想像してるんじゃないでしょうね?」
「え? 違うの?」
「違うわよ。片手用でショートソードより短く軽い剣をナイフって言うの。色々あるから試しに調べてみなさい。ショートソードより向いてるのもあるかもしれんじゃん」
「へー。詳しいんだね」
「あんた私が何なのか忘れてない?」
ジト目でそうリーゼに言われ、プランはそういえば怪盗だったという事を今更思い出した。
「他にもさ、あんた専属の武器作って貰えば良いじゃない。軽くて長い剣とか」
「作ってって……誰に?」
「あれ? あんたの知り合いに鍛冶職人いなかったっけ?」
そうリーゼに言われ、こういう時一番頼りになる人を三人は今更に思い出した。
「遅いよ! そう言う事ならもっと早く言ってよ!」
事情を説明され、ぷんぷんと怒りながらマキアは三人の方をジト目で見つめた。
「ごめんまきちー。何でだろうね。まきちーが鍛冶職人だってすっかり忘れていた。
「んー許す! そしてあんまり時間ないしサクサク行くよ。つまり私は適した武器を探せば良いんだね?」
「うん。ちゃんと買うからまきちーの武器を売って――あれ?」
「え? 私の武器使うの? 私は適した武器見つけたらちゃんとした職人に買う物だと……」
「え? 私としてはここにあるリストかまきちーの武器かどっちかを買って用意する予定だったんだけど……」
そうプランに言われ、マキアは頭の中で計算を始めた。
友達の手伝いである事は変わらないのだが、もしプランがマキアの武器を持ってくれるならマキアとしてはこれ以上ないほどのメリットが、二つも発生する。
一つは多くのデータが取れる事。
知り合いが少なく他の職人との繋がりが薄いマキアにとって武器使用データというのは喉から手が出る程必要な物である。
それが手に入るだけでも大きいのだが、その上で大きなトーナメントで自分の武器を使ってくれる。
それは名誉という意味でも職人としての満足感という意味でも、抗う事が出来ない程の魅力があった。
そんな職人冥利に尽きる状況、鍛冶師として生きているマキアが見逃せる訳がない。
だが、自分の武器に絶対の自信があるかと言えばそんな事はなく、むしろ他の職人より劣っている部分が多いというのがマキアの偽らざる本音である。
そんな武器を大切な友達に持たせて良いのか。
それらを考慮した上で……マキアは答えを出した。
「とりあえず色々試してまずプランちゃんに適した剣を見つけましょう。そこから後私が自信をもって渡せる武器があれば用意するしなければ他職人の住所教えてあげるからそっちで相談して」
「はーい! 宜しくね」
プランは一切迷わず、絶対の自信をもって選択をマキアに委ねた。
「とりあえずリーゼさん? だっけ? その人の言う様にショートソードよりも軽くダガーよりも長いナイフ種の武器を五種類用意したわ。使い比べてみて。……あ、アウター武器だけど問題ないよね?」
「アウター武器って……アウターから発掘した武器って事?」
「ううん。アウター技術を調べて作った武器。派閥に入れない私が得られる知識って鍛冶の共有知識とアウター知識だけだから。駄目なら他の――」
「ううん。私は気にしないよ。ありがとう。全部試してみる」
そう言葉にしてから、鞘に入った五本のナイフを持ちプランはトレーニングルームに向かった。
「……ねえサリス、エージュ。プランちゃんって本当にそんなに強いの? 筋力だけ見ると正直あんまり……」
その言葉に二人は苦笑いを浮かべ、そして実際に体感したサリスはマキアに一つ忠告を出した。
「ダミー人形の在庫確認しとけ」
サリスの言葉にマキアは首を傾げた。
プランは一つ目の武器を手に取った。
ククリナイフ。
部族の祭事にも使い、また狩猟にも解体にも使う多機能ナイフで実戦能力も高い。
そうメモに書かれていた。
「……変わった形だなぁ」
ブーメランの様に『く』の字になっている刀身を見ながらそう呟き、プランは軽く握り振ってみる。
重たくはない。
だが、強い違和感が手に残る。
首を傾げながら、プランは木製のダミー人形に向けてナイフを振ってみた。
金属と木がこすれ合う独特の切断音の後が鳴り響き、ダミー人形の胴体は真横に真っ二つになる。
それを見てプランは溜息を吐いた。
「……ねぇ。なんで軽いナイフで綺麗に切断面が出来てるの? そして何であの子駄目だみたいな顔しているの」
マキアの言葉にサリスは真理を投げつけた。
「プランだからな」
「あーうん。色々理解した」
そう呟き、マキアはプランの様子をじっと見つめ続けた。
二本目のナイフはバロングという名前だった。
アウター世界の原住民が使うナイフで、僅かな丸みを帯びた形状は優雅さや合理性は一切見当たらない
その代わり、丸みによる厚みにより切断能力と頑丈性が高められ、また作りやすいという外見とは裏腹に合理性の塊の様な武器だった。
振ってみた感じで言えばさきほどよりも使いやすい。
ただ、片手でしか持てない割に重めである為手首の負荷が少しだけ気になった。
三本目、サクス。
ヴァイキングという名前の種族が使っていたナイフで、それはナイフの割には大きめでショートソードに近く、綺麗に斬るというよりも重さと力で無理やり断ち切る方が得意な武器。
使ってみた感想で言えば、包丁に近い外見の所為かシンプルで割と使いやすくはあるのだが、明らかに重すぎて腕が辛い。
せめて両手で持てれば良いのだがナイフである以上片手に限定されている事がネックとなっていた。
四本目、ボウイナイフ。
ダブルヒルトと呼ばれる特徴的な鍔がある事を除けば一般的なダガーに良く似ている。
使い勝手もダガーその物であり、今までと違い全く重量には困らないが代わりに短すぎて上手く振る事が出来ず、今までで一番酷い有様となっていた。
そして最後、ケペシュ。
ヤギの脚というアウター言語でその名前らしく剣の刀身が半ばから急に半月状に反るという非常に特徴的な形をしている。
軽く、刺突も出来、また半月で引っ掛けられるから相手の盾を強引に剥がせると非常に便利で優秀な反面、特徴的な形状である為恐ろしく使いにくい。
その上に特徴的な形状に軽さもある為脆く、プランはぺきりとケペシュをへし折ってしまった。
都合五本、全てのナイフを使ってみたプランはトレーニングルームから出る。
トレーニングルームにあるダミー人形は全て破壊されているものの、その顔は芳しくない結果だと如実に物語っていた。
「とりあえず一番使いやすかったのと使いにくかったの教えて。その理由も添えて」
マキアの言葉にプランは頷いた。
「使いやすかったのはバロング。でも少し重い。逆に無理だったのはボウイナイフ。短すぎて無理」
「なるほど……バロングって言う事はやはり長さが欲しいって事だね」
「でも……重たいんだよねぇ。サクスがもう少し軽くて両手で持てたら良いんだけど……」
「それ、たぶんただのショートソードになると思うよ」
マキアに言われてプランはそうだと気付き、溜息を吐く。
一周回ってしまい、結局一番良いのはショートソードだという事を理解しただけ。
そんな徒労感に打ちひしがれるプランを見て、マキアは少しだけ考え込んだ。
「プランちゃんの希望ってさ、長くて軽いだよね?」
「え? うん。たぶんそう」
「んで、ショートソードよりも軽い方が良いんだよね」
「うん。重たいとすぐ手首痛くなるし」
「……とりあえず……軽くて丈夫なショートソード作れる職人の名前を幾つか上げとくからそこでショートソード一本買っといて。それで……間に合うかわからないけどプランちゃんの為に……ちょっと打ってみるよ」
何かを思いついたらしくマキアは真剣な表情でそう呟いた。
ありがとうございました。




