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1-16話 割と忙しい自由時間9


「というわけで、昨日私は盾専門のサークルに入る事に決めたよー」

 朝食の時間、プランは相席の二人、サリスとエージュにそう説明した。

「……盾……ですか。いえ、悪いわけではないですが戦闘という意味ではやはりメインの武器を決めた方が……」

 言い辛そうにそう忠告するエージュ。

「そうか? 俺は逆に有りだと思うぞ?」

 サリスの言葉にエージュは少し怒った顔を向けた。

「ハワードさん……。戦闘において攻撃を蔑ろにするというのは……」

「まあそうだな。防御よりも攻撃。確かにそれは基本の考え方だろう」

「ですから。いえ、盾を主体にするのも決して間違いではないです。ですが、戦闘初心者であるプランさんには何か主体となる武具を持った方が……」

「まあ待て。エージュは前提を間違えている。俺達は何だ?」

 そんなサリスの言葉にエージュだけでなく、プランも首を傾げた。


「良いか? 俺達は授業が始まる前、開始する以前にこれからやっていく事に金なり冒険なりに危機感を覚えた。だからこそ、俺達はパーティーを組む事を誓い合った仲となったわけだ。……つまりは、一蓮托生だ。間違ってないだろ?」

 その言葉に二人は頷いた。

「んでさ、まずエージュは魔法と軽い剣を利用した超攻撃特化の戦闘スタイルだ」

「はい。貴族として、私は誰かの背を見るのではなく誰かに背を見せる立場となりたい。それこそがバーナードブルー……いえ、ワタクシという存在証明ですから」

 一点の曇りなくそう言い切るエージュの姿。

 それは、プランが子供の頃夢見た理想の姿であった。

 領主の才能がなく、戦う事に怯え傷つける事を怯えた幼少時。

 同時に領主として、貴族として以外の才能ばかり伸びていった。

 そんな自分ではとても出来ないその姿勢は、眩くて、格好良く見えて、そして少しだけ羨ましかった。


「そして俺は力自慢の体力自慢。んで使える武器も武芸百般……とまでは行かなくともそれなりの数の武具が使える」

「剣、槍、槌、弓が使えるのは知ってますね。個人的にはあのトゲトゲの付いた鎖付きハンマーを使うのが似合っていると思いますけどね」

「そんな武器使った事ないぞ」

 エージュの言葉にサリスは否定も肯定もせず、ジト目で見つめた。


「ま、そんなわけで俺達の方は多少戦える。だからプランに戦闘の事は求めていない。というか無理に戦うより戦いに慣れるまでは俺達が助ける。そう考えると……身を護る盾って選択肢は大いにありだろ?」

 そんなサリスの言葉にエージュは少し考え、そして納得したような表情で頷いた。

「山猿に説かれたのは癪ですが……プランさんがいつか戦えるようになるまで、私達が守れば良い。それは全くその通りだと思います」

「ま、これでも戦闘経験は豊富なんでね。というわけでプランはその方向で構わないぞ。強くなる事も無理に急がなくても良い。その代わり、戦闘以外で困った時は俺達の事を助けてくれ」

 そうサリスに言われ、二人に見つめられたプランは……しっかりと頷いた。

「うん。ごめんね頼りなくて。追いつく……は無理でも、がんばって強くなるから」

 その言葉に二人は微笑みを見せた。


 正直に言えば、サリスもエージュもプランが戦う必要ないと思っている。

 その会話能力と多くの人が認める料理の能力……。

 この二つでパーティーのサポート要員として十分だからだ。

 だけど、二人共それだけは言わないよう決めていた。

 プラン自身が強くなりたいと、そう強く願っている事を知っているからだ。

 そして同時に、そう遠くない未来にプランが強くなると二人は信じていた。




 食事も終わり、食器を片付けた後プランはそっと一枚の紙をテーブルに置いた。

 朝起きた時に、部屋のドア下から入れられた紙。

 その紙と全く同じ事が書かれた紙を、サリスとエージュ同じ方法で受け取っている。


「これが……受付のおねーさんが言っていた購買は三日目行った方が良いって理由なんだねぇ」

 その紙には、翌日から始まる学園生活の為に用意すべき物がリストアップされていた。

「まあペンとか紙とか着替えとかその辺の雑貨は何とかなるとして……問題はこの二つだよな」

 そう言ってサリスはリストの項目から二点、『食料品を除く冒険者セット』と『武具』を指差した。


「……二人は武具とか何か持ってないの? 私はない」

「俺もないな。と言っても俺はその辺にある物で戦えるし最悪拳でもいけるから」

「私も残念ながら何も。こっちで買おうと思ってましたから」

「……んじゃ、二人共一緒に揃えるって事で良いんだね?」

 その言葉に二人は頷いた。


「んじゃ、この冒険者セットは……どしよか?」

 プランの言葉に二人は難しい顔をした。


 そのリストには追記があり、冒険者セットも武具も無料の物も用意してあるが、予算によって内容量、質共に変化すると書かれていた。

「俺は最低限で良いと思う。つか後から必要になった物を買いそろえていった方が良いと思う」

「なるほど。エージュは?」

「……私も同じ意見ですわね。最低単価が無料である以上それを頂き、使った上でまた後から考えるという形で良いと思います」

「んじゃこれは無料の物を三つ揃えるという事で! 次に武具だけど――」

 そうプランが話している途中で、その女性三人が座るテーブルに男性が一人近づいてきた。


 その人物にプランは見覚えがあった。

 端正で武骨な顔立ちの、生徒というより先生に見える三十代くらいの男性。

 それは盾サークルの先輩ヴェルキスだった。


「あらヴェル先輩。おはようございます」

「ああ。おはよう。……ヴェル先輩か」

「あれ? 駄目でした? 副会長の方が良いです?」

「いや。呼び方なんて気にせんから好きに呼んでくれ。それよりちょっと良いか? 忙しいなら後でも良い事だが……」

「んー。二人共ちょっと良いかな?」

 その言葉にサリスとエージュは頷いた。

「私達は席を立った方がよろしいでしょうか?」

 エージュの言葉にヴェルキスは首を横に振った。


「いや構わない。それに用事はすぐ終わる」

 そう言って、ヴェルキスはテーブルの上にラッピングされた箱を置いた。

「あーこれは……もしかして……」

 顔が緩むのを堪えようとして頬を引きつらせながら、嬉しそうにプランはヴェルキスの方を見つめた。

「ああ。サークル入会のお礼とお祝いだ」

 その言葉にプランは子犬のような笑顔を見せた。


 プランを口説けという手紙を送られたハンズだが、それは不可能な依頼だった。

 ハンズは見た目こそ三十代から四十代の渋い男性ではあるが、その中身は十八の若者で……しかもハンズは人付き合いが得意な方でない。

 要するに、ハンズはあらゆる意味でピュアであり、そしてチキンぼうやだった。

 だからと言って何もしないというのは叔父にもプランにも義理に欠けるのではないだろうか。

 そう思ったハンズとその手紙を読んだ二人は、残りのサークルメンバーと相談し……その結果サークル一同でプレゼントを贈り、とりあえず程度の縁を繋ごうという結論に達した。

 元々何か新人に送ろうと考えていた状態で、更に手紙と恩義分質を引き上げた物。

 それがこのプレゼントである。


「開けて良いです?」

 その言葉にヴェルキスが頷いたのを見て、プランは包装をいそいそと解いた。

 そこに入っていたの丸い盾だった。

 非常に小さなラウンドシールドで、黄色と茶色を合わせたような、または鈍い金色のような黄銅色の金属で出来ている小盾。

 色合いの割には表面は銅のような柔らかい金属の感触はなく、むしろ鋼鉄のように硬い。

 それでいてまるで木のように軽いその盾は、まるで魔法のようであった。

 しかも持ち手はやけに良い革を使っているのか恐ろしいほど手に馴染む。


 それは武具の知識がないプランであっても、決して安物ではないとわかる代物であった。


「……わー。初心者が持つに恐れ多いなー。良いのかなー」

 プランはそう呟いた。

 横で目を丸くしているエージュを見る限り、おそらく今プランのしている予想よりも数段上の値段がする代物なのだろう。

「構わんさ。というか死蔵していた一品だ。それなりに良い代物だから手入れをすれば年単位で保つだろう。手入れはハンズから聞いてくれ」

「……では、ありがたく受け取ります。このお礼はどうしたら良いか……」

「こまめにサークルに来てくれたらそれで良い。人が少ないサークルで、自慢話が大好きな馬鹿野郎共だからな」

「はい! 話を聞くのは大好きです」

 そう答えるプランに、ヴェルキスは苦笑いを含めた笑みを見せた。


「というわけで武具の方、片方何とかなっちゃった」

 そう言ってプランは二人に微笑んだ。

「ああ。そうだな」

 サリスの同意を聞いて、ヴェルキスは言葉を挟んだ。

「ああ……。授業用の武具を用意する段階か。懐かしいな」

「ヴェル先輩はどうしたんです?」

「あん? 俺は……その時は大剣を使ったな。力で振り回せば下手くそでも何とかなると思って」

「今は使わないんですか?」

「俺には向いてなかったからな」

 そう言ってヴェルキスは苦笑を浮かべた。


「――せっかくの縁だし何かアドバイス出来るかもしれん。どうしようか決めているなら話してくれないか? ああそれとも余計なお世話だったか?」

 その言葉に三人は同時に首を横に振った。

 目の為の男性がどの位の実力かわからないが、それなり以上に経験のありそうな人物で、プランを助けた恩人である。

 選択肢は知識も情報も足りていない学園新入生の三人に頼らないという選択肢はなかった。


「まず私ですが……魔法と剣の併用ですので軽い突剣でもと思っています」

「ふむ。突剣が良いのか?」

「いえ。出来たら突剣の方が良いかな程度です。私は機動力重視ですので軽い方が」

「無料の武器を買うなら突剣は止めた方が良い。恐ろしいほどに脆い。どうしてもというならある程度予算を吐き出すべきだろうな。それでも折れる時は折れるから新入生にはオススメし辛いがな」

「……なるほど。折れやすさなどは考えていなかったですわね……」

「無料の武具に頼るのは悪くないんだ。だが、物によっては外れが多い。脆い物などその典型だ」

「助言ありがとうございます。では、一番軽いオススメの剣はどのような物が良いでしょうか?」

「店で売れ行きの良い片手専用の剣を選べば外れはないだろうな。ついでに直刃の物を選べば良い。突剣としても十分に使える」

「はい。ではそのようにさせていだきます」

 そう答えた後、エージュは貴族らしい会釈をして敬意を示した。


「んで俺だが……んー今回は鈍器系を選ぼうと思っている。エージュと被らない方が何かあった時都合が良いかなと思うからな。後攻撃の要であるエージュの代わりにプランを守りたいから……。そうなると機動力が確保出来てかつ俺の馬鹿力が生かせる片手用の鈍器かなと」

 その言葉にヴェルキスは少し困った表情を見せた。

「あー。その考え方は間違っていないが。鈍器か……」

「何かいけなかったか?」

「いや……さっきも言ったが無料は脆い武器ってのが多いんだ。んで片手用の鈍器って言ったら選択肢がほとんどなくてな……間違いなく金属補強しただけの木のこん棒……ウッドクラブになると思うんだわ」

「……んでそれは微妙って事か」

「武器としてみれば悪くないが、力自慢なんだろ?」

「ああ。たぶん先輩と腕相撲しても良い勝負出来ると思うぜ?」

「……負けそうだから止めておく。そんな力自慢ならまず間違いなくウッドクラブでは武器が耐えられず割れる。更に言えば、ウッドクラブは外から見てもわからない壊れ方をするときもあるんだ。だから判断が出来ない初心者にはオススメし辛い」

「んじゃ、先輩的に殴る系の武器でオススメは?」

「アイアンクラブ、つまり金属のこん棒だ。硬い相手であっても破損し辛いから全力で振り回せる。更に道具の良し悪しも金属の質さえ見れば良いから判断も容易い。ただし無料の道具ではない。それが新入生には大きなネックだな」

「……あー。じゃ諦めて武器を変え――」

「いえ。私がそのお金を出しましょう」

 エージュが話に割り込みそう言葉にした。


「お? 良いのかエージュ?」

「はい。ハワードさんは魔法が使える私と違い武具での戦いが主体となります。ですのでそこを節約するのは良くないと思いますから」

「んじゃ頼むわ。というわけで俺も買う物決まったぜ」

 そう言ってサリスがプランの方を見ると、エージュとヴェルキスもプランの方に注目した。


「実は私も武器決めてるんだよね。それは――」

 プランが三人に使う予定の武具を説明すると、エージュは目を丸くして驚き、ヴェルはいつものように苦笑いを浮かべ、サリスは感心したようにニヤリとした笑みを見せた。


ありがとうございました。

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