8-11話 盾仲間達
アルスマグナ冒険者学園は国内一の巨大な学園にもかかわらず、盾を専属として扱うサークルは一つしかない。
サークル名『円盾の騎士』(Knights of the Round Shield)。
人気が集中しやすいはずの戦闘系サークルにもかかわらず在籍人数はわずか六人で、それぞれ年齢も実力も行動パターンもバラバラな為集まりは非常に悪い。
弱小であるからこそその日々は穏やかで、平穏そのもの。
そんな盾サークルに小さな事件が起きていた。
「……ねえ。うちってついに解散する事になったの?」
珍しく鎧を身に纏っていないまま、ソラはおどおどした様子でヴェルキスの方を見る。
「どうしてそう思った?」
「だって……ねぇ?」
そう言葉にし、ソラは外見年齢三、四十代中身若造のハンズの方を見て同意を求める。
それに対しハンズはこくりと頷いた。
「ああ。要するに……これは最後の晩餐という奴なのであろう?」
そう言ってハンズは狭い盾サークル会館に所狭しと並ぶ豪勢な食事を指差す。
二人が普段食べている食事よりも遥かに贅沢で、見た事もない料理ばかり。
二人がサークル解散前夜のイベントであると勘違いするのも無理はなかった。
「ああこれな、プランからの差し入れだ」
そうヴェルキスが言うと、二人は目を丸くした。
「……はい?」
「いつも世話になっているからのお礼だってさ」
「……参加する度に菓子やら飯やら持ってきて毎回掃除して帰る奴が……一体何の恩を感じると。俺らの方がむしろプランには世話になっているだろう」
プランがサークルに参加する頻度は多くなく、週に一回あるかないか位。
だが、参加した時は必ず少なくない手土産を持ち、終わると必ず丁寧に掃除をしていく。
流石にプラン一人に掃除をさせるなんてのは先輩として座りが悪く、三人も参加している時は手伝いをしようとはするものの……まともに手伝えた試しがない。
というよりも、掃除道具を準備し終わった時点で会館の半分が綺麗になっているのだ。
実力差がありすぎて手伝いにすらなれていなかった。
「ま。義理堅い子だからな。そのプランも後から来るぞ」
「そうか。ならば待とう。良くわからぬが主催者を待たぬのは薄情であろう」
その言葉にソラは涎を垂らしながら頷いた。
「……あー。そのプランだけどな、冷めない内に食べてて欲しいって伝言預かってるぞ?」
そうヴェルキスが言うと……ハンズとソラの二人は迷わずフォークを手に取り、頂きますと叫んで奪い合う様に料理を貪りだした。
「お前ら別に飢えるほど貧乏でないだろうに……」
そう呟いてヴェルキスは小さく溜息を吐き――ニヤリと笑った。
「そんでお前ら……食ったな?」
二人はヴェルキスの言葉に嫌な予感を覚え、口の中を料理で一杯にしながらぴたりと体の動きを止めてヴェルキスの方をゆっくりと見つめた。
その顔は企みに成功した事を喜ぶ邪悪な笑みだった。
「んぐっ。……えっとヴェル先輩? 一体何かこの料理にあるのでしょうか?」
「おいおいソラ。いつも呼び捨てじゃないか? どうしたそんなプランみたいに丁寧に先輩付けなんてして」
ニヤニヤしながらのヴェルキスに二人は顔を青ざめさせていく。
嫌な予感がするというか、嫌な予感を確信せざるを得ない笑みだった。
「ところで二人共。この料理を作った我々の後輩がちょいと助けを求めているんだが……そういう時俺達先輩はどうすべきだったかな?」
「……つまりはヴェルキス。この料理は面倒な依頼の先払い、という事か?」
「良くわかってるじゃないか」
そうヴェルキスが答えると、二人は迷う事なく料理を食べる事に戻った。
「それなら……もぐもぐ。どうでも良いや。どうせプランには返すべき恩が溜まってるし。主に料理と掃除で」
「俺なんて……むぐ……。叔父に恩を売っておけと言われている。それ抜きにしても、世話になっているからな。もぐもぐ。……にしても美味いな」
食べながら話す二人を見てヴェルキスは苦笑いを浮かべた。
「ま、あれだ。お前らなら何もなしでプランに手を貸すだろうよ。だけどそれじゃあいつが気にする。だから俺がこういう形にしたって事だ」
「それなら納得だ。良くやったと褒めておこう」
「それにしても……お前らもう少し綺麗に食えよ。繰り返すがそんな飢える様な生活してないだろ?」
その言葉にハンズは片眉を上げて訝し気な顔をし、ソラは無表情となりヴェルキスの方を見つめた。
「……お前の様な一流冒険者と俺達を一緒にするな。特に俺は実力が乏しい事を知っておるではないか」
「いや、それでも指導役や論文、資料作成、写本等知識が必要な依頼で稼いでいるじゃないか」
「たわけ。知識で稼いだ金は知識に還元せんでどうする。俺の強みがなくなるではないか」
「ああ……お前はそういうとこストイックだよな……。んで、ソラは?」
ソラは現在壁にかけている超巨大な鎧を指差した。
「あれの整備代。それにあれ着てると狭い場所が通りにくいからダンジョンアタック出来ないし依頼も特定のしか受けられない。だから基本金欠。困るほどじゃないけど食べ物贅沢出来るほどは残らないかな-」
「……あれ使わないで依頼受けたら良いだろう」
「それは嫌。私あの鎧着たくて冒険者続けているフシあるから」
「わかったわかった。二人共好きに食え。でも、せめて先輩としての威厳が残る位にしてくれよ」
そう言葉にすると二人は頷き、ようやく自分の皿を用意して手元に置き食べるという蛮族ではなく人間らしい食事に戻った。
「ヴェルキス。貴様は食わないのか? 俺達だけで食べてしまうぞ?」
「ああハンズ。俺は――」
ヴェルキスが何か言い終わる前に、バタンと大きな音で入口の扉が開かれた。
「お待たせ! ヴェル先輩こんな感じで良いですか?」
そう言葉にして入って来たのはプランだった。
何故かフリフリを多用した飲み屋のウェイトレスみたいな恰好で。
「んー。ああ。完璧だ。ありがとう」
「えへへー。どういたしまして」
そう言葉にし、ヴェルキスの前に香ばしい香り漂う大きな鉄の皿を置いた。
「おいヴェルキス。貴様それは何だ?」
ハンズがそう尋ねると、横からプランが答えた。
「ヴェル先輩リクエストのガーリックステーキですね。肉持ち込みでこれで作ってくれっ言われまして」
「き――貴様。ズルいぞ自分だけリクエスト有りなんて!」
ハンズは心の底から怨む様に叫び、ヴェルキスを睨みつける。
「そーだそーだ。横暴だー」
それに合わせてソラも抗議の声を上げた。
「これでも俺はプランと一緒に何度も冒険に行った中なんでな。ちなみにこの肉はメリーピィ・スリーピィと言ってこの辺りにはいない種類の羊の肉だ」
そうヴェルキスが呟くと、ハンズとソラだけでなく、プランも羨ましそうにじゅーじゅと焼ける音のする鉄板を見つめた。
「……ああそうか。プランも食った事ないか」
「うん。初めて聞いた。美味しいの?」
「まだ口つけてないし食ってみるか?」
そう言われ、プランはぱーっと笑顔を輝かせながら頷き自分用のフォークを持ち、端の小さな一切れを口に運んだ。
「……思ったより肉厚で……あっさり目なのにコクと旨味が強い肉汁がぶわーって出て……新感覚だけどちょー旨い」
そう言って素直に喜ぶプランを見て、ヴェルキスは微笑んだ。
「そりゃ用意した甲斐があった。あっさり目で旨味が強いから女性に人気の肉なんだ。ほれ、お前らも取って良いぞ」
その言葉を待っていたらしくハンズとソラは迷わず大きな肉をフォークで遠慮なく獲り皿から強奪していく。
最終的には半分程度の量しか残らなかったが……ヴェルキスは満足そうに微笑んだ。
食後の一休みを済ませ、片付けも終わった後ハンズはプランの方に目を向けた。
「それで、俺達に何を頼みたいんだ?」
「えっと……そのですね……」
プランは困った顔でしどろもどろとなる。
そんな言い辛そうにしているプランにヴェルキスは微笑んだ。
「あんま気にせず好きに言って良いぞ。ここにいるのは偉そうにしている老け顔と食い意地はった浪漫娘、そして先輩風を吹かせるのだが大好きな俺だけなんだから」
「気に食わないが尤もな意見だ。好きに言うと良い。こちらも食事分の借り位は返さないと気持ちが落ち着かんしな」
「そうそう。美味しいご飯を食べさせてくれたんだから何でもするよ?」
そんな三人にプランは頷き、あまり言いたくない、認めたくない自分をはっきり晒した。
「実は私、結構強いんです」
そんなふざけた言葉を三人は黙って聞いた。
その顔は自慢している風には見えず、むしろ悔やんでいる様だったからだ。
「それで力を持て余していたし逃げ続けて来たんだけど……この前大切な友達のお陰でようやく受け入れられて。それで……その色々あって強くなる必要が出てきて……その……」
何を言えば良いのか、どうすれば伝わるだろうか。
自分が特異な状況である為何をどう説明すれば良いかわからず言葉に詰まるプラン。
それを見てハンズは――。
「別に背景を説明する必要はない。俺達にどうして欲しい? それだけ言えば力になってやる」
その言葉に頷き、プランは短く自分の願いを伝えた。
「強くなりたいんです。嫌いな剣を使って。だから……手伝ってください」
「それで良い。貴様は後輩らしく甘えていれば良いんだ。ソラ。相手をしてやれ」
その言葉にソラは頷いた。
「そこで自分で戦わないあたりがハンズだよね」
「馬鹿を言うな。俺が相手すれば大変な事になるだろうが。……俺が」
自分自身とても弱く、冒険者として貧弱過ぎる事を知っているハンズはそう言葉にする。
それを聞いてソラは指を差してハンズを笑った。
「さて、いつでも来て良いですよ!」
トレーニングルームで小さく丸い盾を持ったソラはそう言葉にした。
それにプランは刃こそ潰しているものの鉄のショートソードを握り対峙している。
剣を持って震える様な事はなくなったものの、それでもやはりその重さはプランにとってとても怖い物だった。
「ああ。ちょっと待て」
ヴェルキスは二人を止め、ソラの方を向いた。
「鎧付けた方が良いぞ」
「へ? これ練習用の剣と盾じゃん。どして?」
「良いから。アレ使っとけ」
そう言ってヴェルキスはソラが普段使っている超重量級の巨大な鎧を指差した。
「……はぁ? 鎧って私のアレを? 流石にアレは駄目でしょ。練習とかそういう以前の話だし。珍しいねヴェルキスが冗談言うなんて」
そう言ってソラは楽しそうに笑った。
「……ま、そうなるわな。んじゃ、頼むわ。俺とハンズは横からアドバイス飛ばせるよう見とくから」
そう言って戻るヴェルキスにソラは手を振った。
「……お前がそこまで言う程なのか?」
ハンズがそう言葉にすると、ヴェルキスはしっかりと頷いた。
「どの位かはわからん。だけど、魔剣なしの俺だと相手にならないだろうな」
「……は? そんな馬鹿な。まだ一年も経っていないし……剣の持ち方や立ち振る舞い、纏う空気を見る限り剣自体ほぼ未経験であろう? それなのに……」
ハンズはヴェルキスの事を良く知っている。
どれだけの修羅場を潜り続けて来たか、また魔剣ありきと言われ続け生まれたコンプレックスを解消する為どれだけ努力したかを、ハンズは良く理解している。
だからこそ、ヴェルキスは魔剣がなくとも一流と呼んで良い戦闘能力を持っている。
だからこそ、プランの方が上だなんて信じられなかった。
そんな事、ある訳がない。
そう思っていた。
「すいませーん。始まりの合図くださーい。いつでも良いよって言われても行きにくくて」
そうプランが言うのを聞き、ヴェルキスは頷いて手を腕に上げる。
「じゃあ……よーい……はじめ!」
そう叫び、ヴェルキスは手を振り下ろす。
プランの剣は、ソラの喉元に張り付いていた。
「……え? あれ?」
現状が理解出来ず、ソラは茫然とする事しか出来ていなかった。
手を抜いたつもりもなければ油断したつもりもない。
だが、相手を侮っていたのだけは間違いない。
ソラは目の前にいる同い年位の少女があちら側である事をようやく理解した。
「……ハンズ。見えたか?」
ヴェルキスの言葉を聞いてか聞かずか、ハンズはぽつりと呟いた。
「……美しい」
「おいハンズ。大丈夫か?」
「ん? あ、ああ。何でもない。見てたぞ」
「そうか。悪いが俺も油断して余り見てなかった。説明してくれ」
「ああ。と言っても、大した事はしていないぞ。意識の隙間を縫ったりする類の技術とかではなく、また限界を超えた速度を出した訳でもない。ただ、効率的なだけだ」
「もう少しわかりやすく」
「効率的に踏み込み、効率的に剣を握り、効率的に体を捻り、効率的に剣を振る。ただそれしか行っておらん。ただ、まるで機械であるかの様に最効率で、一流と呼ぶ技術よりも更に高い水準で行っていたがな。良かったなヴェルキス。魔剣持ちのお前よりも鋭く理想的な、教科書通りどころかそれ以上の剣技だぞあれ」
「はっきり言ってくれ。俺とどっちが強い?」
「魔剣を握ったばかりならともかく、今のお前なら圧倒的にお前だ。狭い中剣のみというあちらにとって有利な条件でもな。と言っても、十回やれば一回位負けるかもしれん。理想的かつ最効率であるからこそ爆発力が非常に高い」
「……そんなに褒められると何か恥ずかしくなるね」
曇った顔のままプランはそう言葉にした。
「……の、割にはあまり嬉しそうではないな」
「あはは……剣を使うのってやはり苦手で……」
怖いのは大分減った。
だけど、果たせぬ約束というトラウマがプランの中には依然残ったままになっていた。
「そうか。ま、そう言う事もあるだろう。望む才能と求める才能が一致するとは限らぬからな」
「んでハンズ。お前から見て欠点とか伸びしろとかはどう感じた?」
「伸びしろに関しては語る事すら出来ないな」
「既に限界だからないって事か?」
そうヴェルキスが言うと、ハンズは高笑いを上げた。
「あはははは!そうか。そう聞こえたか!」
「……違うのか?」
「実力で見なければな、こやつはようやく剣の振り方を覚えたひよっこだ。だから伸びしろしか残っておらん。才能はあれどそれ以外は何も持たぬ。はっきり言えば盆暗以下よ」
そんなハンズの言葉に、プランは笑った。
凄いとか、強いとか、そうじゃなくて、正しく自分を認識してくれる人がいた事がこれほど嬉しい事だとは、プランは知らなかった。
「それで、私はどうしたら強くなれるの?」
「たわけ、さっきのを聞いていただろうが。何もかもが足りぬわ。最効率で剣を振るえるという事は常に一定の速度しか出せぬという事にほかならぬ。そんな剣はいざと言う時に振る事など出来ずぐだぐだになり、そして見抜かれた段階で負けが決まる。他にも相手を見ておらぬし剣を振っている最中以外は呼吸が乱れすぎだ。ヴェルキス程を求めるのは酷とは言えもう少し訓練しろ」
「どうやって?」
「……そうか。相手がおらんか。才能があるというのは考え物よな。ヴェルキス。魔剣がなくともお前ならいけるだろう。それで……」
そう言葉にした瞬間、ドスンと地面に振動が響き轟く。
その震源地には……巨大な鎧を身にまとったソラの姿があった。
「もう一回! 今度は本気出す。同い年の子に負けるのは何か悔しいの!」
そう言葉にし、ソラはまるで壁の様な巨大な盾を持ちじたんだを踏みながら叫んだ。
「ハンズ。あれとプランならどう見る?」
「……わからん。だが、良い勝負をすると思うぞ。プラン。いけるか?」
「うん。ソラ。もう一回お願いね」
「今度はこっちが挑む番だし。ちゃんと本気出すからそっちも本気出してよ!」
そう言葉にして、ソラはプランに向かって突っ込んでいった。
鈍重な鎧を身に纏っているとは思えないほどの速度の乗った突進。
それをプランは剣をレーンの様にして軽やかに受け流す。
あまりの突進の威力にギャリギャリと剣が削れる様な音が響き火花が散る。
そして剣を抜けて通り抜け、プランが後ろに移動したその瞬間にソラはくるっと半回転し、プランの方を向く。
本来重装備の苦手な分野である対後方行動であるのだが、ソラの場合は例外であり機動力、旋回能力だけなら低下は問題ないと呼ぶレベルにまで収まっていた。
横ステップを繰り返して相手のサイドから剣を振るプランと、相手のステップを見てから体を回し常に相手の正面に向き全力で防ぎ隙を狙うソラ。
それは確かに、外見からは良い勝負をしている様に見えた。
それを見ながら、ハンズはレポートを書き記しだした。
プランの欠点、悪い癖を書き記し、それを修復する為の練習を考える。
それはハンズの得意分野の一つだった。
自分の得意な事が生かせる。
恩を返せる。
叔父の言う通りプランに恩を売れる。
そういう思惑がないという訳ではないのだが、今のハンズはそれを一切考えていない。
今ハンズが考えている事は一つ、プランが成長したらどれほどの物になるかだけである。
ただそれを見たいが為だけに、ハンズは何枚にも、何十枚にも今の戦闘の詳細なデータを書き記していっていた。
一方もう一人の見学者であるヴェルキスはその光景に、その戦いの美しさに目を奪われていた。
魔剣を持ったヴェルキスが普段経験する戦いよりも数段落ちるが、それでもこれは間違いなく一流どころの戦闘である。
そしてそれは、ヴェルキスが経験していない技量での戦いでもあった。
魔剣のお陰で一歩で頂点に達したヴェルキスにとってこれは未知の光景であり、同時に心から羨ましいと思う光景となっていた。
既に強くなってしまったヴェルキスには絶対に経験出来ない、強者同士の戦い。
それは目を奪う程美しくもあり……だからこそ、歯を食いしばるほど羨ましいものだった。
「鎧を身に纏いあの領域にいったソラ。才能でのみ至ったプラン。魔剣で上り詰めたヴェルキス。その三者に大した違いはないと思うぞ」
ヴェルキスの悔しさを知ってか知らずかハンズはそう言葉にする。
それを聞いて、ヴェルキスは溜息を吐いた。
「本当に良く見てるな。じゃあ……何に違いがあると思う?」
「道具や才能を得た後どうするか。それは違うだろうな。お前は努力をして遥かに成長した。魔剣に負けないほどにな。だがあの二人はまだで、そしてこれから成長する。それだけの違いだろう」
「……あいつらなら……俺に、俺達みたいに化け物と言われるところまで来れるかな?」
「俺から見たら三者共皆化け物だ。だが……これだけは言っておこう。油断していると二人にすら置いて行かれるぞ。あいつらの才能、実力、運がある事もそうだが、……努力は人を裏切らんからな」
誰よりも弱いからこそ、誰よりも皆を見て来たハンズはそう言葉にする。
その言葉だけは、ヴェルキスは心から信じる事が出来た。
「……そうか。じゃ、俺もしっかり鍛えないとな。愚痴ってばっかいないで」
そう言ってヴェルキスは微笑んだ。
その笑みが今までの様な作り物でない事に気づき、ハンズはレポート作成を再開し集中しだした。
プランとソラの戦いは拮抗した実力故に苛烈を極め――そして結果は――。
「引き分け……。いや、これは建物が負けたと呼ぶべきであろう。うむ。悪くない結果だ」
ハンズはふっと鼻で笑い、この惨状に目を向ける。
鉄板で補強していたとは言え、ただの小屋ではトン単位の重量であるソラとそれに対峙し激しく暴れるプランの戦闘に耐える事など出来るわけがなく、見事なまでに瓦解した。
屋根は飛び、壁は外側に倒れ、まるで立方体が展開したようになったトレーニングルーム。
そんな中でもハンズは満足そうにレポートを書き記していく。
そして張本人の二人は……ハンズとヴェルキスの二人に向かって激しく息切れしたまま地面に蹲り、土下座をしていた。
プランはそっと武器を前に置き、ソラは鎧を脱いで二人仲良く横並びにする綺麗な土下座。
それを見てヴェルキスは困惑したまま引きつった笑みを浮かべる。
あまりにどうしようもない状況で、笑う事しか出来なかった。
それはヴェルキスの汚名に『若い女性二人に土下座させる男』が追加された瞬間だった。
ありがとうございました。




