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8-5話 怪盗メロウの依頼報酬


 ダーナイムの巨大城塞VS超巨大熊型ゴーレムなんていう見世物要素百パーセントの対決は、館本体を二割ほどをぶち壊した後ゴーレムが破壊されて決着となった。

 ゴーレムは館の防衛能力こそ完全に上回っていたが、残念ながらダーナイム領主に使える武官数人の攻撃を耐えうる耐久力を持ち合わせていなかった。


 いや、むしろ武官数人がいた状態であっても館に二割ほどの損害を与えた事を考えるならむしろ快挙と言って良い。

 と言っても、その勝負は所詮見世物でしかなく、ダーナイム領主自体はその騒動のあとすぐにその館から離れる事になったが。

 メロウに狙われた領主。

 派手にゴーレムが暴れまわった。

 この状況で国や新聞社が放置するわけがなく、メロウの思惑通りダーナイム子爵は逮捕、拘束される事となりそれで本当の意味で決着となった。


 そして全てが終わった後、リーゼはしっかりと約束通り……いや、約束以上の報酬を四人に用意した。

 前回と今回の依頼料を合わせて倍にしてもまだ届かない様な額に加え、途中でプランに渡した懐中時計。

 更にはゴシック風の黒いドレス。

 ドレスはご丁寧にヘッドドレスも添えられてわざわざプランの元に宅配として送られてきた。


 何故かわからないが随分とサービスが良い。

 特に自分に対して。

 その事をプランは不思議に思っていた。


「んー。可愛いけどヘッドドレスは変えてみたいかなー。耳付きの帽子……はちょっと幼過ぎるかなぁ」

 そう呟きながら、プランは送られた服を自分の体に合わせ姿鏡を見る。

 幼い印象の服は悲しい程に良く似合っていた。

 ゴシック特有のダーク感はリーゼの様に出ていないが、服のイメージが先行し若干だが気品が生まれる。

 この恰好なら貴族の娘と言っても納得してもらえるだろう。

 実年齢よりも四、五年若く思われるだろうが……。


「うーん……もすこし大人びて……って、あら? これは?」

 どうやら服の間に挟まっていたらしく、ひらひらと何かの紙が舞い降りる。

 それを見たプランはその小さな紙を拾ってみた。

「これ……メロウの予告状だったっけ? んで……場所と日付と時間? ここに行けって事なのかな?」

 プランは首を傾げながらその紙をじっと見つめた。

 曖昧に書かれた学園外のある場所を示した地図と、今日と明日の間の時間。

 どういう意図なのかわからないプランだが、とりあえず時刻通りそこに行って見る事に決めた。




 学園の傍に設置された自然公園。

 見晴らしの良い森や山を内包した公園である為どちらかと言えば自然保護地区と呼ぶ方が適切かもしれない。

 その自然公園にプランは来ていた。

 既に時間は深夜であり、真っ暗で明かりとなる物は手に持っているランプのみ。

 そして当然の様に、人の気配は一切ない。

 動物らしい気配はそこかしこに感じるが、兎かそれより小さな何からしく危険は感じない。


 そんな中で待っていると……ぬるりと暗闇の奥から誰かが姿を現した。

 それは呼び出した張本人のリーゼだった。

「良くあれだけの情報でここに来ようと思ったわね」

 そう答えるリーゼの顔は見えないが、おそらく苦笑いを浮かべているのだろうと思えた。

「だって気になるじゃん。にしても、そっちも良くこんな場所灯りなしで歩けるね」

「私何してるか忘れてない? 闇に紛れる怪盗よ?」

「へー。良くわからないけど」

 そうプランが適当ない相槌を打つと、怒ったのかリーゼは近寄りプランの髪をぐりぐりした。

「あわわわわ」

 ぐるぐる頭を揺られるプランはじたばたともがく様に動く。

 だが、その手からは逃れられていなかった。

 それを見て、リーゼは小さく笑った。

「ふふ。全く……」

 そう笑うリーゼの服が自分と同じゴシック風の黒いドレスだとプランは気が付いた。

「ありゃ。どうしてその服着てるの? 気に入った?」

「はぁ……。この前お揃いにしようとか言ってたじゃない」

「なるほどなるほど。この姿なら姉妹に見えるかな? 身長的に私がお姉さん?」

「あははは寝言は寝ていえ。あんたと姉妹なんて絶対(やー)

 満面の笑みでの拒絶にプランはしょんぼりした。

「んで、あんたその帽子は一体何?」

 黒い帽子にぺたりと垂れた耳が付いているのを見てリーゼは耳をぴょこぴょこ触りながら尋ねた。

「どっぐいやーはっと。可愛いから買ったけどちょっと恥ずかしいから被る機会がなかった帽子です」

「んじゃ何で今付けてるのよ?」

「夜だからあんまり人がいないかなーと思って」

「……うーん。あんた中々に間が悪いタイプね」

 そう言葉にした後、リーゼはいつも以上に意地悪な笑みを浮かべた。

「どゆこと?」

「すぐにわかるわよ。……そろそろ、秋が来るわね」

 恐ろしい位に強引に話を続けるリーゼにプランは首を傾げた。


「正直大して暑くなかったから夏って気がしないんだけどなー」

「ちなみに冬はもっと凄いわよ。ほとんど雪降らないしあんま寒くもないから。雪が降っても一階から外出れる」

「まじで!? 王都すげぇ!」

「というか雪が酷いのは南部位なのよ。プラン。ちょっと後ろ向いてなさい」

「ん? どうしたの?」

「良いから」

 プランは首を傾げながら後ろを向くとリーゼはプランの帽子を取り、髪を櫛で綺麗に梳かし始めた。

「……あんたの髪、びっくりする位梳かし甲斐ないわね。あっという間に終わったしほとんど変わらないわ……」

「似た様な髪質じゃん……」

 むくれた顔でそう返すプランにリーゼはニヤリと笑った。

「これでも結構髪質良いのよ私」

「えー。ずっこい。んでどうやったの?」

「金かけた」

「……真似できにゃい」

「でしょうね」

 リーゼはプランの服の乱れを正し、最後にパンパンと埃を叩いて背中を叩いた。

「はいオッケー。んじゃ、せっかく来たし最後の報酬をあげましょう。リーゼ様と呼び崇めても良いのよ?」

「へへーリーゼ様ありがとーございますー。んで何をくれるの?」

「公園の方に行けばわかるわ」

「はーい」

「あんた……本当素直よねぇ。ま、今回だけはそれでも良いか。じゃ、おやすみ」

 そう言葉にするとリーゼはすっと夜の闇に消えていった。

「はーい。おやすみー」

 プランはニコニコ笑いながら虚空の方に手を振った。




 言われた通りにプランは公園に向かい、噴水の傍でプランは佇んでいた。

「うーん、夜の公園ってどことなく雰囲気あるなぁ」

 ランプに照らされるベンチに静かな夜にやけに響く噴水の水の音と鳥や虫の鳴き声。

 風情がありつつ、どこか不気味さもある。

 少し怖いけど、美しい。

 そんな夜だった。


 こんっと、小石を蹴る。

 ころころと転がる小さな音すら響く様に聞こえてきた。

 プランは空を見る。

 星が、まるで落ちてきそうなほど輝いていた。


 こっ……こっ……こっ。


 どこからともなく足音が響き、プランは空ではなく周囲を見回した。

 するとそこには、少しだけ懐かしい姿があった。


 黒いマントに顔を隠す仮面。

 少し前なら不審者として恐れられただろうが、今の王都ならその姿は好意的な黄色い悲鳴となるだろう。


 そしてそれは、メロウの方ではなくもう一人の――。


 白……いや、白銀に煌めく髪と燃える様に重苦しい赤の瞳。

 仮面越しであってもわかるほどの特徴的な姿を、プランが忘れる訳がなかった。


「あー……ノア君。久しぶり」

 その言葉を聞き、男は仮面を取った。

 中性的で優美な顔を露見させ、男は小さく溜息を吐いた。

「メロウの呼び出しがあったから何かと思ったが……君か」

「えへへ」

「それで、何の用?」

 その言葉にプランはもじもじと悩み、そして小さな声で呟いた。

「ごめん……言われて来ただけで特に用事は……」

「……はぁ。メロウらしい。だが、君も僕に用事があるはずだ」

 その言葉に、プランは驚いた顔を浮かべた。

「え? どして?」

「この前の時、僕の事を王国兵士達に告げなかったじゃないか。聞かれても黙っていたという事は……何か僕に用があるという事だ」

 その言葉にプランは硬直し、そして必死に思い出した。

 正直そんな記憶はない。

 同時に兵士達にメロウの事を告げた記憶もない。

 そして……プランは何があったのかを思い出しにっこりと笑った。


「あれ私が黙ってたいたからじゃなく兵士さんがナイトメアのファンだったから聞かれなかっただけだよ?」

 その言葉に、さっきまで無表情だったメロウの目が点となり口が半開きとなっていた。

「じゃあ君は、僕に用事は……」

「うん。特にない!」

「……はぁ。盛大に時間を無駄にした気分だ」

 そう呟き、男は力なくベンチに腰掛けた。


 プランはちゃっかりその隣に座った。


「でもちょっとした質問なら沢山あるよ。例えば……どうして最近大人しいのとか」

 メロウの記事は毎日の様に出るが、ナイトメアの記事は前回以来一度も出ていない。

 そんな疑問を持つプランの言葉に男は答えたくなさそうに顔を顰める。

 だが……観念したように小さな声で答えた。

「君達の誰かが僕の事話したと思ってたから用心してたんだよ。メロウの罠でもあったし。……無駄だったけど」

「……そか。何かごめんね。んじゃ次の質問。と言っても……目的は教えてくれないよね?」

 男は肯定を表す様沈黙を貫いた。


「んじゃ、名前教えて。何時までもノア君かっこ仮名ってのは何か嫌だし」

「……メロウは君と会ってるみたいだけど君はメロウの本名知らないだろ? つまりそういう――」

「知ってるよ? というかあの人隠してもいないよ?」

 その言葉に男はしまったという顔をして眉を顰めた。

「これだからあの人は苦手だ。……悪いけど本名は隠してるんだ」

「だから秘密にしとくから教えて?」

 キラキラとした目でそう告げられ、男はそっと顔を反らし溜息を吐いた。

「嫌だ」

「ちぇー。んじゃ最後の質問。どうしてさ、今素直に質問に答えてくれてるの?」

 普通に考えたら無視して帰ったら良い。

 なのにわざわざ付き合ってくれる事に疑問を感じ、プランはそう尋ねた。

 その言葉に男は驚いた様な表情を浮かべ、そのままベンチから立ち上がった。


「本当に、どうして僕は素直に君のしかもメロウ側の人間とおしゃべりしてるんだろうか……」

 自己嫌悪に陥った様な震える声のまま男がそう呟くと、プランはくすっと笑った。

「相性が良いんじゃない?」

「それはない。僕子供苦手だし」

「えー。子供扱い? 歳どうせそんなに変わらないでしょ」

「……さて、どうだろうね。……もう良いかい?」

「やだ」

 即答するプランに男は綺麗な顔を歪まれるほど顰める。

 それを見てプランは笑った。

「ごめん冗談。良いよ。ありがとね色々と話してくれて。それとお話しくれて。楽しかったよ」

 そう言って微笑むプラン。

 それを見て、男は苦笑いを浮かべた。

「君はやはり……苦手だ。もう会わない事を祈るよ」

 そう言葉にしてから、男はそのまま振り向かず去っていった。

「じゃ、私はまた会う事を祈るよ」

 そう言葉にして、プランはその後ろ姿に小さく手を振った。



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