1-15話 割と忙しい自由時間8
「……退屈ですねぇ」
狭い部屋の中にいる少女は独り言のようにそう呟いた。
その背の低い可愛らしい少女の他には、三十代くらいに見えるやけに尊大そうな態度をした男しかいない為、少女は必然的にその男に話しかけた事になる。
「仕方なかろう。いつもの事だ」
そう男が返すと、少女は拗ねた口調になってじたばた……訂正、ガチャンガチャンと身に着けた鎧から金属音を鳴り響かせた。
「退屈ー」
「煩いし煩わしい。せめて鎧を脱げ」
「セクハラですよー」
「何がセクハラだ。貴様にセクハラするような奴はこの世界におらん」
男はとんでもないとしか表現できない鎧を身に纏った少女を見ながら呆れた口調でそう呟いた。
あらゆる意味で分不相応としか呼べない少女の鎧。
その最大の特徴は、恐ろしいほどに巨大な事である。
数十センチの厚みを持ちみっちりと金属のつまったソレは、フルプレートアーマーと呼ぶよりも分厚い金属の箱と呼ぶ方が近いくらいで、重たい全身鎧の重量が五十キロくらいであると考えるなら、その十倍はくだらない少女の装備は、五百キロは少なく見積もっても超えていた。
「可愛いくないです?」
少女はその鎧に合わせたフルフェイスヘルムを被り、きゃるんとした口調でそう尋ねる。
「……その美的センスだけは一生理解出来ないし理解したくない」
「……変人のあんたにだけは言われたくないわ」
そう言葉を返された男は首を傾げる。
「……俺の見た目が変なのは認めるが、俺は別に変な趣味や性癖はないぞ?」
そう答える男の手元には盾が抱えられていた。
男は会話中、ずっと盾を磨いていた。
別に道具の手入れをする事自体は悪い事ではなく、むしろ立派と言って良いだろう。
ただしこの男の場合はそれが度を越えており、その盾はまるで光を放つかの如く輝いていた。
「……あんたが磨くと武器というよりもなんか貴族のコレクションっぽくなるから使いにくいのよね。何か汚すのが悪い気がして」
「何を異な事を。盾は使ってこそだろう。手入れは俺がしてやるから俺に任せてどんどん使えば良いではないか」
その言葉に少女はメットを外しながら大きく溜息を吐いた。
そんないつもの退屈な時間を味わっている時に、ガチャっとサークル小屋のドアが開けられたのに気づき二人はドアに注目した。
「……ヴェルか。用事がないと来ない貴様がこんな時間に来るとは珍しいではないか。盾の手入れか、それとも修理か? どっちにしても俺に任せて構わんぞ」
「いえいえ。盾談義をしにきたんですよね? あ、盾講義でも構いませんし実戦式盾議論でも良いですよ?」
そんな事を二人はドアから入ってきた武骨な男に口走った。
「いや……今日は見学者の紹介に来た」
その言葉に二人は鋭い目となり立ち上がる。
「でかした! ソラ、菓子の用意をしろ!」
「うん! 私達だけで歓迎用のお菓子を食べずに済んだのって今日が初めてじゃない?」
そう言いながら、ソラと呼ばれた少女はガチャンガチャンと音を立てながらお菓子と飲み水の用意を始めた。
「えっと、今日は見学に来ましたプランと言います。どぞよろしく」
そう言って椅子に座ったプランはぺこりと頭を下げた。
隣の席にはソラと呼ばれた少女が、テーブルを挟んだ向こう側にはヴェルキスともう一人の男性がプランの方をじーっと見ていた。
「ふむ。とにかく菓子を食うが良い。遠慮するな。お代わりもあるぞ」
そう言いながら山ほどの、それもやけにお洒落で色々な種類のある菓子入れを男はプランの前に見せた。
「あ、ども。でも……こんな歓迎されても私まだ入るかわかりませんよ?」
その言葉に三人は目を丸くさせた。
「……え? 私何か変な事言いましたか?」
「……いや。そうだな。そう勘違いしても仕方ない。俺は……いや、俺達このサークルの皆は誰一人新入生が入ってくる事を期待していない。見学に来てくれただけで十分満足だ」
男は淡い笑みを浮かべながら、そう言葉にした。
「そそ。私達盾が好きだからやってるけど……ああヴェルは別に好きじゃなかったね。それでも、基本的にここは盾愛好家っていう変人の集いなんだ。だから私達は知らない人に盾の事が話せたらそれで満足なのさ」
「……そうなんですね。えっと、それでは色々サークルの事尋ねても良いでしょうか?」
プランの言葉にソラは微笑んだ。
「良いけど、私達が自己紹介をしてからで良い? 多分その方がわかりやすいから」
「あ、すいません。お願いします」
プランの言葉に頷き、煩い金属音をまき散らしながら少女は立ち上がった。
その音は煩いだけでなく、金属のこすれる甲高い音も混ざっている為相当神経に来る。
そんな音が響く中、プランは失礼だと思い耳を塞ぎたくなるのを必死に堪えた。
正面の男性二人は素直に耳を塞いでいた。
「私の名前はソラ。正しくは『ソーラ』の方が近いけど言語の問題とか色々ややこしいからソラって呼んで。そしたら間違いないから。よろしく」
そう言って微笑むソラに、プランは頷き微笑み返した。
「ちなみに私は盾だけじゃなくてでかくて大きくて硬い物が好きです」
そう言いながらソラは巨大な、鋼鉄製の盾を持って構えて見せた。
「なるほど……。ソラさんは力持ちなんですね……とてつもなく……」
プランの言葉にソラは微笑んだ。
「まね。あ、さん付けもいらないわよ。たぶん同い年だし。それと一応この幾つか力の秘密があるけど、それは内緒って事で」
「ん。よろしくソラ。私もプランで良いよ」
「うん。よろしくねプラン。んじゃ次は……紹介者は最後という事でハンズ、自己紹介」
そう言った後ソラはプランの横に煩く座った。
「では……。そいつに言われた通り俺の名はハンズという。盾の修繕くらいしか特技のない男だが、まあよろしくしてくれ」
「ん。よろしく……なんだけど、ちょっと聞いて良いです?」
「なんでも聞くと良い」
「じゃ……お幾つです?」
その言葉に、ハンズではなく周囲の二人が驚いた表情を見せた。
「――どうしてそんな事を聞く?」
「ただの好奇心。失礼な事でしたら謝ります」
そう言ってプランがぺこりと頭を下げると、ハンズはにやりと笑った。
「いや。構わない。俺も好奇心で聞こう。どうして俺の年齢が気になった?」
「だって――相当若いですよね? 私よりは上でしょうけど」
その言葉に、ハンズは楽しそうに笑った。
「ふははは! わかる奴がいるとは驚いた。やはり世界というのは広いものだ」
ハンズの言葉に合わせて、ソラは小さく拍手をしてみせた。
「ああ。やっぱり若いんだ」
ハンズの見た目は三十か四十かくらいで細身に鋭い目をした、出来る中年男性のような見た目をしているが、それは実年齢が伴っておらず、ついでに言えば実力も伴っていない。
「ああ。俺は十八だ。ま、この外見では実際に三十のヴェルより上に見られるのがしょっちゅうだがな」
そう言ってハンズは苦笑いを浮かべた。
「だからそんな尊大っぽいしゃべり方をしてるんだよね。歳相応に振舞う事を諦めてそれっぽく振舞う為に」
ソラの言葉にハンズは頷いた。
「うむ。そうしないと見た目とのギャップで気味悪がられてな。代わりにこの話し方にしたらチンピラに絡まれる事はなくなったぞ。良い事はそれくらいか」
そう言ってハンズは再度高笑いをしだした。
チンピラに絡まれなくなる理由もなんとなくわかる。
今のハンズは歴戦の強者にも似た雰囲気を持った……それこそヴェルキスと横に並ぶと一流冒険者コンビにしか見えない。
そんなハンズに自ら喧嘩を売るような人はいないだろう。
「んで最後に俺か。さっき言ったがヴェルキスだ。俺以外は皆盾という武器を好んでサークルに入っているが、俺は盾という武具が一番得意だから入ってる」
そうヴェルキスが言葉にした後、若干の沈黙が流れた。
「……ヴェル。それだけ? 締めなんだからもっと良い事言ってよ」
そんなソラの無茶ぶりに困った顔を見せた後、ヴェルキスはじっとプランの方を見つめた。
「……とりあえず。そこの菓子は俺が作った奴も入ってる。遠慮せず食ってくれ」
その言葉に二人のサークル員は苦笑いを浮かべ、プランは微笑んで頷いた。
「んでサークルの説明をする前に……もぐもぐ……ぶっちゃけさ、人少ないなって思わなかった?」
ソラがパン菓子を食べながらそう言葉にすると、リスの様に細長いクッキーを食べているプランは頷いた。
「ん。他の戦闘系サークルは……さくさくさくさく……沢山いたね……さくさくさくさく」
「ぶっちゃけ盾サークルって超不人気なのよ。それもぶっちぎりで」
「さくさく……でも、盾ってかなりの人が使ってるし兵士さんなんかも必須じゃん?」
「そうね。でも、兵士志望の人は集団戦関連のサークルに行くし兵士のような装備をする冒険者なら槍のサークルに行くわ。槍と盾のセット運用だから。他の武器でもそう。盾と何かを持つ人はその何かの武器のサークルに行けば間違いないから」
「さくさく……じゃ、このサークルの意味は?」
「んー強いて言えば盾主体だから武器を選ばない事かな。守りの知識もサークルで蓄積してるからその辺りもあるかも。本音で言えば盾好きが集まってるだけだけどね」
「なるほどー」
「というわけで、このサークルの本格的な説明をしましょうか――ハンズが」
その言葉にハンズは立ち上がった。
「よかろう。サークル『円盾の騎士』(Knights of the Round Shield)について説明してやろう」
やけにノリノリでそう答えるハンズ。
それに対してプランは首を傾げた。
「えん……たて?」
「うむ。えんたて。俺もよくわからんがそういうサークル名だ。名付けられたのは昔の事だから詳しく知らんが、何か似たような恰好良い言葉をもじって付けたらしいぞ」
「へー。んじゃ、詳しい内容をお願いねハンズ」
そう言ってプランは微笑むと、ハンズは少しだけ頬を赤らめた。
「う、うむ。それは良いが、女性に微笑まれると何故か照れるな」
その言葉にソラはハンズをジト目で見つめる。
「……私の時と対応違くない?」
「貴様は女性カテゴリーに入らんわ阿呆」
そう言った後、ハンズは『円盾の騎士』通称シールド愛好会の説明を始めた。
盾を使う者は多くあれど、盾を愛する者はいない。
そんな理由で作られたサークル。
他の武器サークルでも盾の講習を行う為加入するメリットが非常に薄く、強いて言えばハンズが受け持つ盾の有料修理を無料で出来るくらいしかメリットはない。
盾に対する愛と知識だけならどこよりも優れているが、そのメリットは全くないと言っても良く、むしろ盾に拘っている分マイナスとも言える。
何故なら、冒険者としての行動であっても、対獣、対人戦闘で考えても防御よりも攻撃に比重を置いた方が強いという一種の定石が学園内に存在しているからだ。
戦闘という行為が攻撃を行い相手を行動不能にすることが達成目的な以上、攻撃の技術に比重を置くのは道理である。
それは防御を疎かにして良いという事ではないが、それでも攻撃を疎かにして防御に比重を置いた者より防御を疎かにした奴の方がまだマシだ。
また防御行動とセットでよく使われるカウンター攻撃についてだが、カウンターに必要な技量はかなり高く、結局攻撃に比重を置いて学ぶ必要があった。
そう言った理由で、各種武器サークルでは攻撃七防御三くらいで学ぶ為セットで盾の習得訓練も行われる。
その為、盾サークルが存在するメリットは相当に薄い。
つまり、必要であるから存在する他所の武器サークルと違い盾サークルは趣味、同士の集いに近かった。
「そういった理由がある為、このサークルは武器種サークルという人気種にもかかわらず、計五人しかいない弱小サークルとなっている。だから入れと言うつもりはない。菓子食って、盾自慢でも聞いてくれたらそれだけで満足だ」
ハンズはそう言った後、そっと自分の盾をプランに見せる。
銀色の金属で補強され、中央に金の細工が施されたその盾は、恐ろしいまでに光り輝いていた。
「何この……えと……勇者の盾?」
「ふははははは! うむ! 良い誉め言葉をありがとう。それはケチりにケチって二小銀貨で買ってやった盾を塗って磨いただけだ。ああ我が才能が恐ろしい」
「……うん。木の盾をここまでピカピカに光らせるその才能は確かに恐ろしいね」
プランは苦笑いを浮かべながらそう呟いた。
「私の自慢は見ての通りこの特注の鎧と盾で……ヴェルは今日自慢の武具持って来てなかったね。残念」
ソラの言葉にヴェルは苦笑いを浮かべる。
「俺は別に自慢する趣味はないから良いさ」
「そかそか。んでプラン。楽しい時間は過ごせた?」
空になったお菓子と、おしゃべりした若干の疲労感の後に聞かれたその言葉に、プランは笑顔のまま頷いた。
「うん。楽しかったよ。というか美味しかった。さくっさくのパイ生地にクリームの入ったあのお菓子が一番美味しかった。」
その言葉にヴェルはニヤリとした笑顔を見せソラが悔しそうな表情を浮かべる。
「だー。わかってる事だけど悔しい」
そう言ってソラはやたら煩い地団駄を踏んだ。
どうやらあの作ったお菓子の中にソラの作った物もあって、そしてプランの言ったお菓子はヴェルの作った物だったようだ。
「ところでも一個質問して良いです?」
そんなプランの言葉にハンズは頷いた。
「うむ。このサークルと盾の事であるなら、いかなる疑問にも答えよう」
「えっと、今まで戦った事がなくて、戦うのが怖くて、しかも盾を持った事がない。そんな子がいたとしましょう」
それが自分の事を言っているのはすぐに理解し、ソラとヴェルキスは黙りハンズは頷いた。
「それで、その子はもし戦うとすれば、盾を持つべきかなって思ったの」
「ふむ。その理由は」
「戦うのが怖いから。とてもとても怖いから怯える自分を守りたいなと。それで……怖い子はわがままだから自分の身だけでなく他の子も守りたいなって考えたの。だから……うん。だから私は盾を持つべきだと思った」
「そうか。その考えは尊重しよう。勇気ある行為で、そして誰にも間違いとは言わせない。他の誰が認めずとも、我ら円盾の騎士はその気持ちを正しいと肯定する」
その言葉に、盾の大切さを誰よりも理解している二人も頷いた。
「うん。というわけで質問だけど、そんな盾持った事ない私ですがこのサークル入れます?」
その言葉に、三人が目を丸くした。
「……正気か?」
ハンズがそう尋ね。
「……大丈夫? 他に初心者用の戦闘サークルは沢山ありますよ」
ソラはそう慰め。
「……入らなくても盾の事なら何時でも聞きに来て良いんだぞ」
ヴェルキスはそんな折衷案を提案した。
「……自分のとこなのになんでそんな卑屈なの」
プランはそう言って苦笑いを浮かべた。
「たった五人しかいないからな。サークルにおいての人数とは力そのものだ。だから大きなサークルに入った方がメリットが多い。ちなみに当然このサークルは弱小で掛け持ちも可能だが……ぶっちゃけて言えば掛け持ちするほどのメリットすらここにはない」
ハンズは自虐的な笑みを見せた。
「もう一個、入ろうと思った理由があるけど……」
「ふむ。聞かせてくれ」
ハンズの言葉にプランは頷き、そしてヴェルキスの方をじっと見た。
「戦うのは怖い。だから自分を守りたいし、出来たら皆を守りたい。そう思っていた私の前でね、私を助けてくれた人がいたんだ」
じーっとヴェルキスを見るプランの瞳を見れば、それが誰かは言うまでもなかった。
「変な人に絡まれて困った人がいた時、沢山の人がその人を助ける為に、問題解決の為に動いてた。色々なサークルが動いていた。でも、皆自分の欲の為でその人を守る為じゃなかった。そんな変に人助けが熱狂していた時に、冷静な状態でいて、事故で怪我しそうだった私を助けてくれた人がいたの。その場では、その人だけだった。誰かを助ける為に動いていたのは」
「……偶然だ」
「じゃ、その素敵な偶然に感謝しないとね」
そう言って笑うプランに対して、ヴェルキスはバツの悪そうな表情を浮かべた。
「その時にね、思ったの。私という誰かの為に動いてくれた……あの時のヴェルキスだけがあの場での本当の人助けをしていて、そして私はそれを見習うべきなんだって。だから私はここに入りたいなって思ったけど、駄目?」
その言葉にヴェルキスは顔を歪ませながら手を当て、後ろを振り向いた。
「勝手にしろ」
そう呟くヴェルキスからは照れのような感情が見え、プランは微笑んだ。
「……そういう理由なら喜んで認めよう。サークル『円盾の騎士』はプランを歓迎する」
ハンズがそう言葉にすると、ソラは横で六人目と言いながらジャンプをしてはしゃいでいた。
「入会を認めるって事は、ハンズが会長?」
「いや。俺は違うぞ。会長はまだ来ていない。そして副会長からさっき許可が出たから俺はそれを繰り返しただけだ」
「副会長?」
「『勝手にしろ』って言っただろう」
その言葉にプランはぽんと手鼓を叩いた。
「いやーまさかうちに新しい人が来るなんて……。しかも同性で盾ビギナー。いやーテンションあがるあがる」
プランの帰った後ソラは部屋を片付けながらそう言葉にした。
「うむ。そうだな。さすがは副会長だ」
「だから偶然だって言ってるだろうハンズ。というかもうお前が副会長になれよ。見た目も説明の上手さも態度も含めて俺よりよほど向いてる」
「はっ。俺がハリボテだって知っているだろう。このサークルで俺は誰よりも弱いぞ」
「くそが。もう少しお前が強ければお前が副会長なのに」
「ふはははは。がんばって俺を強くしてください」
そう言いながらハンズはぺこりとヴェルキスに頭を下げた。
「ああ。根が真面目なのはお前の大きな長所だよな」
そう言ってヴェルキスは微笑んだ。
「ねねハンズ。そう言えば今思い出したけどあれ開けなくて良いの?」
ソラは部屋の隅の白い封筒を指差した。
「ああ。プランが来た驚きによりすっかり忘れていた。大切な手紙かもしれんから今読んでしまおう」
そう言ってハンズはその封筒を取り、丁寧に封を切った。
「確か……叔父からの手紙だったか?」
ヴェルキスの言葉にハンズは頷いた。
「ああ。俺を育ててくれて今も俺を支援してくれている立派なお方だ。父の亡くなった俺にとっては第二の父のような存在でもある」
「言い方は悪いが結構な立場の人なんだっけ?」
「ああ。少々変わった組織形態の為説明し辛いのだが、支店を任せてもらっている身分だ。だからかなり優秀な人だぞ」
ハンズがそう言うと、ソラは話に入り込んできた。
「それ知ってる。ムーンクラウンの話でしょ? 店は沢山あるけど店長はたった一人で、支店は副店長が管理するってスタイルの」
この学園にいる者ならムーンクラウンという商会を知らない者はいない。
何しろ学園内で安価な冒険者用の武具が買えるのはここくらいしかないからだ。
「ああそうだ。そして俺にとって自慢の叔父だ」
そう呟いた後ハンズは手紙を読み始めた。
序盤は嬉しそうな顔で読んでいたが、その顔はすぐに変貌した。
困惑した顔で首を傾げながら読み、わなわなと震え……そして本日もう何度目かわからない驚愕の表情を浮かべる。
そんな百面相をするハンズに二人は驚き心配そうな顔を向けた。
「……どした? 何かあったか?」
ヴェルキスは不穏な空気を感じてそう尋ねると、困った顔でハンズは手紙をそっと指差した。
「読んで良いんだな。わかった……じゃあ読むぞ」
そう言って手紙を持つヴェルキスの横でソラも顔を覗かせ、その手紙を読み始めた。
ハンズ・バーバルトへ。
過半数が脱落する学園生活一年を無事乗り越えた事、家族として誇りに思う。
お前が何を目指しているかわからないが、応援はしたいと思っている。
必要な物があったら何でも言いなさい。
それと、もしプランという明るい茶色の髪をした小さな女の子をみかけたら良くしてやってほしい。
その子はうちの元従業員で、うちの店の看板娘で……その他もろもろだった子だ。
間違いなく良い子なので何か困ったら出来たら立派な先輩として助けてやってくれ。
それでここからが本題になる。
大切は話になるから良く覚えておいてくれ。
正直に言えば、プランが冒険者をやっていけるなんて俺は思えない。
もっと言えば、冒険者をやる必要がないような子だと思っている。
だから、もしプランの心が折れたか冒険者ではなく他の事がしたいと言い出した時には、お前の取れるありとあらゆる手段を取ってプランをウチの店に入るよう説得してくれ。
出来るのならな、お前が嫁にしても良い……というかしてくれ。
その子は一握りの、店長と同じような本物という奴だ。
具体的に言えば、その子はわずか一月でウチの店の売り上げを五割上げ、労働環境を改善した。
つまり最低でもうちの店半分と同じ価値があるという事だ。
ちなみに、プランの事はどうやら店長も狙っているらしい。
だからこれは店長にも極秘の話だ。
店長に見つからないように、それでいて店長より先にあの子を引き込め。
じゃあ、頼んだぞ。
追伸、あの子がお前の嫁になれば俺は嬉しい。死ぬほど嬉しい。
ロブ・バーバルトより。
三人は無言となり、何も言葉にする事が出来なかった。
ありがとうございました。




