7-10話 みぞうのきき(りんご味)
「あんた……こんなとこで一体何やってんだい?」
自分とこのトップにもかかわらずキーラは尊敬ゼロの呆れ顔でそう呟いた。
だが聞きたくなる程度には十分な状況であっただけでなく、プランは呆れるに十分な間抜け面を晒していた。
とは言え……間抜け面なのはキーラも同じだが……。
「ん? 何か色々と……こう……間違い? というか気になるから部屋の模様替えしてる」
「はぁ……」
キーラはそうとしか返せなかった。
「ねえねえアント君……は何か重そうな荷物持ってるからシム君。ちょっと手伝ってくれない?」
「はいプラン様。何でしょうか?」
あっさり素直に言う事を聞くシムをキーラは睨みつけた。
だがシムはいつもの事の為キーラをスルーした。
「えっとね……そこの大きな金属の部分。たぶん蓋になってるからそれ持ち上げてくれない? 結構重たいからちゃんと腰使ってね」
シムは頷き、両手でぐっと力を入れ八角形になった金属の塊を持ち上げる。
「プラン様。これどうしたら良いです?」
「ちょっとだけ待って」
そう言いながらプランは塊の下にあった場所に持って来た金属の板を設置した。
「もう良いよ。そっと戻して」
その言葉に頷き、シムはゆっくり元の位置に塊を戻す。
カチリ、と何かが音を立てた。
この時、キーラは頭の悪いガキが阿呆な事やってるな程度にしか思っていなかった。
どうせこの機械だらけの部屋でテンションが上がったのだろう。
その程度しか……次の言葉を聞くまでは思っていなかった。
「んー。これで良いかな……あとどこかなー。えっと……ゴーレムコアがこうだから……」
そう呟いた瞬間、キーラは目を丸くして驚きぞくりと嫌な予感を覚えた。
「は? あんた……なんでゴーレムの事……」
「んー? いやこの部屋さ、何でか知らないけどゴーレムの設計と良く似てるんだよね。部屋なのに。でも配置がちぐはぐでおかしい感じ。一体この部屋なんだろう。……あ、ここ繋がってないや」
そう言いながらプランは明確にわかっている様に、部屋にある機械を操作していた。
キーラの背筋に冷たい汗が一筋流れる。
「いやいや。ここにあるのは古代式のゴーレム製造の技術のはずだ。そんな物知ってる奴……」
「あ、そなの? でもこれ私の知ってるやり方にそっくりなんだよね。昔一度作っただけだから曖昧だけど……これで全部終わったかなー?」
そう言いながらプランは部屋の周りをぐるっと見渡し、そして矛盾がなくなり正しく作動する形になったの見て満足げにうんうんと頷いた。
キーラは慌てて資料に目を向け、起動してしまわないかを確認する。
ゴーレム起動に必要なキー。
それは残りは……。
「おいあんた! 魔法使いじゃないだろうね!?」
キーラの言葉にプランはそっと妖精石を見せた。
キーラの顔は真っ青になった。
「とは言え……ちょっと諸事情で魔法は使えないし魔力も消費しっぱなしだから持ってないのと同じだけどね。それがどしたの?」
その言葉にキーラは安堵の息を漏らした。
起動に必要なのはゴーレムコアと魔力。
コアに関しては良くわからないが魔力がないのなら動くわけがない。
そう考えた。
自分の持ってきた物を忘れて――。
「お、おやぶーん……」
やけに情けない声で、アントがそう言葉にする。
その顔は泣きそうな事になっていた。
「なんだいアント。そんな顔して。一体何が――」
「箱が……箱が軽くなってるんですよ……」
そう呟いたアントの言葉で、キーラは自分の致命的なミスに気が付いた。
危険でなく、またそこまで価値が高い訳じゃない。
だから自分達ガメても良いだろうか。
でも何だか盗みは悪い気がするからやっぱりプランに預けようか。
そんな思いで持って来た箱の中身。
その中身である魔石をキーラは慌てて確認した。
魔石はキラキラと光り輝き、何故か砂の様にサラサラと崩れ消えていっていた。
本来なら持ち主の意思なく魔石が使用させる事はない。
だからこそ、キーラも油断していた。
それがゴーレム用に調整された魔石だという事など知るわけがないのだから仕方がない事ではある。
だが、それでも結果は出てしまった。
つい偶然古代式のゴーレム製造の方法を知っている誰かが問題点を修正し、偶然専用に用意された燃料を誰かが持ってきて供給された。
その結果――起動するのは当然の事だった。
がたがたと部屋が大きく揺れ、周囲から爆音が響き渡る。
室内からは揺れている事しか理解出来ない為何が起きているのかはわからない。
だが……何か大変な事が起きている事だけは四人全員が理解出来ていた。
「何してんだよこの馬鹿ー!」
キーラはプランの肩を掴み、これでもかと揺さぶった。
「ごーめーんーよー! だって何か部屋の中がゴーレムっぽいんだもん! 気になっちゃって!」
「……ちっ。まあ良い。ほれ。たぶんその資料だ」
そう言いながらキーラはプランに資料を押し付けようとするとプランはにっこりと微笑んだ。
「私理解力低いからキーラちゃん読んで教えて」
「ガキかお前は!?」
そう言いながらぐりぐりとプランの頭を回すキーラ。
何故かプランは少しだけ楽しそうだった。
「ちっ。二度言わないから良く聞けよ」
そう言った後、キーラは律儀にも資料の要点を纏め、わかりやすく説明した。
対学園用の秘密兵器の一つとして古代式ゴーレムが作られた事。
おそらくそれがここにあり、この部屋が関わっているらしい事。
元々不完全で失敗作だった物を何の因果かプランが修正し動かせる様にしてしまった事。
そうキーラは説明した。
その間も揺れは収まらない。
むしろ揺れ方がずどんずどんと定期的な速度で固定されていた。
何となくの浮遊感もある揺れが続くそんな中、プランは口を開いた。
「ねえキーラちゃん。質問良い?」
「何だ?」
「……そのゴーレムってさ、どこにあるの?」
「俺が知るかよ。お前は何かわからねーのか?」
「……すっごく嫌な予想は出来てる……」
プランは困った顔をしてから三人を部屋中央に移動させ、さきほど通って来た扉を開いた。
びゅうっと強い風が流れて三人の体を揺らす。
そしてその扉の先は……空だった。
「……あはははは」
困り果てた顔でプランは乾いた笑いを浮かべる事しか出来なかった。
王国と同様、アルスマグナ冒険者学園の歴史は長い。
その長い歴史は安定で平穏であったとは決して言い難く、むしろ戦いの連続でありその記録の数々は今でも残っている。
権力ある王都の中に生き残る学園という都合上様々な外敵と戦い、時代によっては王国と直接揉め争った事すら記録に残っている。
そんな学園であっても、この様な状況はこれまで起きた事がなく、そしてこれからも絶対に起きる事がないだろう。
そう学園の教師全員が言わしめるほどの珍事件が今発生していた。
突然の強烈な地響き。
地震にしてはおかしいほどの超局地的な揺れは最近出来た良くわからない組織の傍から発生する。
その傍にいた者達の感想は『ああ。またあそこが何かやらかしたか』だった。
そういった不可思議現象は全てその組織が行っているのだろうという強い説得力があった。
その直後……地面がひび割れ何かが姿を現す――。
大きさで言えば十メートルを超えるだろうか。
少なくとも、周囲にあるサークルハウスやそれに紛れた二階建ての宿屋は軽く超えていた。
その姿は大きさ以外生命体の様であり、骨格で言えば人には似ている。
だが決して人型であるとは言い切れない。
足よりも手の方が長く、四足歩行と二足歩行の中間点位の方法で移動する黒い巨体。
そのモチーフの名前を知る物は多く学園内でも七割以上の人間に聞き覚えがあるだろう。
その反面、名前が知れ渡った割に実際その姿を見た者はほとんどおらず、名前と姿が一致してそれであると理解出来た生徒は一割にも満たない。
その動物の名前は――ゴリラ。
アルスマグナ学園にて唐突に、巨大なゴリラ型の何かが地面から沸きあがった。
全体的で言えばその作りは割とリアルなゴリラなのだが……何故か顔だけは恐ろしく手抜きであり、目の部分に黒点が二つと口の部分に横棒が一つ付いているだけ。
他の部位がリアル的な事から、おそらく製作途中であったのだろう。
そんな巨大な怪奇現象ゴリラを真っ先に目の当たりにしたのは近場に組織の建造物がある組織内部の人間達だった。
ちなみに彼ら全員、一同がソレを見上げ、ただ茫然とする事しか出来ない。
幾ら色々な事が巻き起こる組織であるとは言え、この想像の斜め下な事態には流石にフリーズする事しか出来なかった。
サリスとミグすらも茫然としている、その後ろでリーゼは道端に突っ伏し腹をかかえ呼吸困難になりそうなほど笑った。
リーゼの笑い声と、歩き出すゴリラの音。
それだけが響き渡った。
「……サリス……もしかして知り合い?」
ミグの言葉にサリスは首を横に振った。
「いや……大きさ的にも見た目的にも知らんなぁ……。んで……あれどこに向かってるんだ?」
「……さあ?」
二人はまるで他愛無い日常の様に気楽に会話をし、突如として移動を始めたゴリラ型ゴーレムをそっと見送った。
がたん、がたん。
定期的な揺れと同時に移り変わる窓の外の世界。
そこからようやく、この部屋が移動しているという事をプランは理解した。
そして移動しているという事は……。
「ああーそっかー。なるほどなー。そういう方法もあるのかー」
プランは納得した様な表情でうんうんと頷いた。
「あん? 何かわかったのか?」
「うん。えっとね。ゴーレムってやって欲しい命令をコアに書き込むんだけどさ、そのコアって制限がめちゃくちゃ厳しいんだ」
「例えば?」
「コアに記す命令は自分が得意な事、自信のある事しか書き記せない。だから戦闘用ゴーレムって少ないの。他にも条件があるけどゴーレム作る人って職人とかそっちの方が多いんじゃない?」
「ほう。んで、何に気づいたんだ?」
「だからさ、役に立つゴーレムを作るのって難しいの。でも、ただ歩くだけなら多くの人が得意じゃん?」
「ああ。そうだな。……それで何を言いたいんだ?」
若干イライラした様子でキーラはそう尋ねた。
「いやーゴーレムを何に使うのか悩んだけど、歩くだけで兵器にするって発想は出てこなかったよー」
「……もう少し、わかりやすく言え」
「んー高さ的にここは建物三階相当かな。その位の大きさのゴーレムに、私達が入っているという状況です」
「……は?」
それはキーラにとって理解の範疇から掛け離れた言葉だった。
そしてそのタイミングで、少しだけ部屋に傾斜が生まれた。
「……おいプラン」
「お。ちゃんと名前呼んでくれた」
「それはどうでも良い。……今どこに向かっているんだこれ」
「えっとね。んーと、色々と旧組織の事を調べて来たキーラちゃんの方が詳しくない?」
「最悪じゃねーか……」
キーラは頭を乱暴に掻きむしり、絞り出す様にそう呟いた。
旧組織の目標を纏めるとテロである。
そう考えると、このゴーレムが向かっている場所は学園のメイン施設、またはその中枢に違いないだろう。
「……おいプラン。起動出来たんだから止める事は出来ないのか?」
その言葉に、プランはそっと首を横に振った。
「ううん。私が起動したんじゃなくて、ずっと起動していたの。ただ動いてなかっただけで。所有者でも製造者でもない私じゃ何の操作も受け付けない。命令自体を止める事は出来るけど……」
「けど、何だ?」
「どうなるかわからない。そのまま停止してくれる可能性も確かにあるけど……ぶっちゃけ私は嫌な予感しかしない」
「オーケー止めた方が良いってのはわかった。……あんたら! 何かないか探るよ! プラン。あんたも探せ」
「あいあい」
プランは何故か嬉しそうにキーラの命令を聞き、四人で操作室らしき中を探る。
だが……特にゴーレムの挙動にかかわりそうな物は見つける事が出来なかった。
「……んで、部屋中探って見つかったのはこれだけか」
木や石、鉄の棒やそれぞれの素材の残骸らしきゴミ。
そして大きな白い布。
その程度しか落ちていなかった。
「……どうする? 白旗でも作って外に見える様振る?」
そんなプランの提案にキーラはこんと頭を叩いた。
「馬鹿な事言ってないで真面目に考えな。……プラン。ちょいと無茶やって良いかい?」
「ん? もちろん良いよ。何するの?」
「こうするんだよ!」
キーラは残骸であろう鉄の塊や棒を適当に壁から露見している歯車に突っ込んでいく。
それに合わせてガタガタやギィギィといった耳に残る不快音が響き渡っていく。
そして、今までとの定期的な揺れとは異なる大きな揺れを四人は感じた。
さっきまでの歩行の揺れとは明らかに異なる揺れ。
さっきまで以上に上下に揺れる感覚。
もしかして……と思ったが動きが止まる事はなかった。
「……ちっ。だがまだ何かあるはずだ。あんたら、出来る事を探すよ! 何なら壊せそうな場所を全部壊しても良い! 最悪自壊するだけだ」
そう言葉にしてから探索を初めて数分後、シムとアントは外に落ちない様ギリギリの位置に立ち、外に見える様白旗を出し仲良く振り回した。
ありがとうございました。




