7-9話 みぞうのきき(バナナ味)
「だからさぁ……私の後継者に私はキーラちゃんを推薦したいんだよー。ほら、成果ももう十分でしょー?」
そうプランはキーラの行って来た功績の資料を持ちながら自分の部下に声をかける。
その内容は孤児院を含めたボランティアから旧組織の危険物の処理など多義に渡り、またプランのしたかった本当の事をキーラは行って来ている。
右往左往して戸惑い、何が起きるのかわからないプランよりもよほど頼りになるだろう。
「ですが……あの様な小者ではプラン様の崇高な目的が理解出来るとは……」
キーラ達の積み上げて来た功績は否定する事が出来ず、部下は苦し紛れにそう言葉にした。
だがその言葉も決して嘘ではない。
小者臭い話し方をする癖に喧嘩は極力避け、面倒事の時は気づけばいなくなっている。
また、普段は適当に酒飲んで飯食っており行動パターンもわかりやすい。
そんなどこからどう見ても役立たずの食い詰め者にしか見えない三人が組織の頂点に立つと考えているのはプラン位だった。
「小者で小市民の私でも出来るから大丈夫だよ」
「はっ。何を戯言を。今や貴女様は万を超える組織の最頂点。それは非凡であり代えがたき才でございますよ」
「……管理出来ない私に才能ねぇ」
「何かおっしゃりました?」
「んーん。何も。でもそろそろ私の後釜を考える時期だと思うんだよね」
ぶっちゃけた話、早く辞めてしまいたい。
あらゆる意味で想定外であり今組織の長である事は不本意以外の何ものでもなかった。
だが、作りあげてしまった以上投げ出す事も許されない。
だからこそ、何とか後継者という名目で押し付けられる相手を探していた。
「……辞めるかどうかは置いておきまして……彼女達を幹部に取り上げないのですか?」
そう言葉にして、部下の男は二人の書類を見せた。
サイサリス・ハワードとミグ・キューブ。
この二人がプランの友人であると知り男はそう尋ねた。
「んー。現状私のご飯食べに来ただけっぽいし向こうから接触してこないからこのままで良いかなと」
「そうですか……」
組織に引き留める楔として利用しようと考えた男は少しだけ落胆した様子でそう呟いた。
ちなみにサリスとミグがプランに接触していないのはプランが接触してこない以上きっと邪魔になると考え遠慮しただけである。
つまり、お互いにお互いが遠慮してすれ違う形となっていた。
「何にしても、本気なら幹部会でそう声をかけてみてください。全員揃って反対するのが目に見えておりますけどね」
男はそう言葉にし退出した。
これ以上プランから辞めたいという言動を引き出さない為に。
「……ちぇー。私よりよほど向いてると思うけどなー」
少なくとも、現時点で二人の部下……彼女曰く子分がいる時点で自分よりは優れているとプランは思っていた。
「……んー。でもさ、そう考えると……あの子の事……色々と気になって来たな」
どうしてキーラに二人の部下がいるのか。
そしてどうしてたった三人でこれだけの成果をあげてきたのか。
それ以前に、普段はどんな事をしているのだろうか。
それを考え出し、プランの好奇心はむくむくと刺激される。
この組織ではプランは神聖視されており、誰も本当のプランを見ていない。
ありのままの情けないプランを見ているのはリーゼ位だろう。
本当のプランは多少優れた部分はあれどその精神は普通であり、紛れもなくごく一般的な少女である。
そして今まで自分を抑えて組織の長としてあろうなどという無駄な努力の所為で一般的なメンタルであるプランは相当以上に我慢しており……そして今、それが野次馬的好奇心という悪い方向性で解き放たれてしまった。
小心者ではあるがビビリではない。
勇気はあるが臆病者でもある。
そう心掛ける事がキーラ達三人の生き方だった。
大規模な戦争も、小規模の小競り合いも、全く食事が取れない程の貧困も経験した三人は臆病者の強さを知っている。
同時に、動くべき時に動かないと未来がない事も知っている。
だからこそ、三人は持ち前の前のめりな性格をあまり出さず臆病である様に生きる癖が付いていた。
それでも、怖い事を幾分も経験してきた三人にはあまり怖がる事はない。
三人が一緒なら恐怖という感情はほとんど停止する。
それは間違いなく三人の武器である。
だが……今キーラ達三人は珍しく恐怖を覚えていた。
自分達が思った以上にヤバイ何かを引き当ててしまった事に対して……。
「こりゃ当たりを引いたな」
やけに反響する通路でキーラはそう呟きニヤリと笑う。
だが、その笑みはどこかぎこちなかった。
「親分……ここ、どこに繋がってるんですかねぇ」
「知るもんか。ま、とんでもないもん隠してるのは間違いないだろうさね」
そう言葉にし、キーラは止まらず足を進める。
ただし、いつもよりも何倍も慎重にだが……。
さきほどまでキーラ達は何時もの様に旧組織の遺したお宝を探っていた。
何度引き当てても危険物しか出てこないが、それでもきっと何か凄いものが秘めていると……魔剣とかそういう類があると思っていた。
その結果見つかったのが……この隠し通路である。
部屋の衣装棚の後ろに隠されていた洞穴を通り、階段を降り……着いたのはただただ真っ白い一直線の狭い通路だった。
しかもこの通路、どこから明りを取り入れている訳でもなくそこそこ明るいのだ。
どうやら一面真っ白なこの色は光っている様には見えないが何故か明り代わりになっているらしい。
当然の話だがこんな道は組織内では当然三人は生まれてこのかた見た事がなかった。
もう怪しいという言葉すら生ぬるいほど怪しくて、たとえ三人でなくとも危険であると考えるだろう。
「あんたら、あたいの後ろから出て来るんじゃないよ」
その言葉にシムとアントは頷き、キーラの後ろに隠れる様に並ぶ。
言われた事を素直に聞いた方が長生き出来るし、キーラの間違いで死ぬなら納得出来る。
その程度はシムとアントはキーラに信を預けていた。
そろりそろりと歩く事およそ三キロ。
怪し気な白い通路は冷たい石で出来た扉というゴールを迎えた。
キーラは慎重にその扉を叩いた。
ごん、ごんと音がする辺り普通の石であり、また偽者や模造品ではなく正しく扉の機能は残っている様に見えた。
「……あたいの力じゃ動きそうもないね。シム、アント、警戒はあたいがするから二人がかりで開けな」
その言葉に二人は頷き、その石の扉を掴み力一杯動かそうとする。
だが扉はびくともしなかった。
「……もう良い。これ以上は意味がない」
そうキーラに言われ、二人は力を抜き扉から手を離す。
「親分。何か仕掛けがいるっぽいですね」
「そうだなシム。……んー。鍵……いや、文字通り仕掛けだな。何か怪し気なもんはないかい?」
「どんなのですかい親分」
「何でもさ、明らかにギミックがありそうだったり魔法的な仕掛けがされてそうだったりとか」
そう言葉にしながら三人は扉を探ってみるが特にそれらしい物は見当たらなかった。
「はぁ……まあこんなもんよね。この部屋を上に報告して後は……」
そう言葉にしようとして、キーラは押し黙った。
「どしました親分。何か見つけましたか?」
そうアントが尋ねるとキーラは扉ではなく、壁を指差した。
「あんたら。アレどう思う?」
そう言われても特にぴんと来ず、二人は首を傾げた。
「良くわかりません。何かありましたかい?」
「あそこ。ほれ。あの辺りだけ何か色が違うんだよ。白は白だけどちょっと光が弱いって言うか……」
そう言いながらキーラはその辺りの壁を叩いた。
ごん……ごん……こん……。
明らかに向こう側から反響音が響くのを聞き、キーラはにやりと笑った。
「付近に空きそうな何か……はなさそうね。でもこれくらいなら……」
そう言葉にした後、キーラは何を思ったのかその付近の壁を思いっきり蹴飛ばし、蹴破った。
その奥には明りがない真っ暗な隠し通路となっていた。
「……ビンゴってね」
そう言葉にしながらキーラは剣の鞘にスクロールを巻きつけてから発動させ、擬似松明を作った。
「ほら行くよあんたら」
そう言葉にして勇ましく進むキーラの後ろを二人は付いて歩いた。
そのしばらく後ろから……三人に見つからない様に付いて歩いていたプランはそっと顔を出し隠し通路を見る。
通路の方に明りが一切見えない。
どうやらもう相当奥に移動したらしい。
「にしても……あの三人……下手な冒険者より冒険してるなぁ。ちょっと羨ましい」
自分が謎の料理勝負をしている時も吟遊詩人とコラボしている時も冒険をしている事を考えるとプランはそう思わずにはいられなかった。
「んで……これが開かないって言ってた扉かー。不思議だなー。何でこんなものあるんだろうなー」
そう言いながらプランがペタペタ扉を触っていると……ぷしゅーと音を立て扉は唐突に煙を発し始めた。
「な、何事!? 火事!?」
そうプランが慌て距離を取っている内に、扉は自動的にスライドし道を作る。
それを見て……プランの好奇心は更に刺激されてしまった。
本来のプランは小心者で臆病な方であり、またここは進まない方が賢い事もきちんと理解している。
だが……最近の行動が地味にストレスとなっていたプランは自分の欲求に我慢が出来ず、つい奥に進んでしまった。
キーラ達三人は奥の隠し部屋から戻り、元の明るい通路の方まで戻って来た。
先の部屋で見つけた物はアントが両腕に抱えるほどの大きな箱一つとキーラの手元にある一束の資料だけ。
その位しか奥の部屋にはなかった。
だが、その資料は旧組織の遺物の中でも一際危険であり、キーラが見て来たどんな物よりも脅威となる物が隠されていると記されていた。
そしてその資料に記述された何かが隠されている場所があるならば、あの石で出来た扉の奥以外にはないだろう。
「いや……つーってもなぁ……正直眉唾だわこんなん。……いやあり得るっちゃあり得るのか。と言ってもなぁ……ぶっちゃけ無駄としか思えないんだよなぁ」
「親分。考えても仕方ないですよ。どうせあの扉開きませんでしたし」
「そうだな。まあこの箱の中身も悪いもんじゃないからこれを持って――」
「お、親分! 扉!」
アントが慌てた様子で叫び、そして通路の方を指差した。
そこには開かずの石の扉であった場所に道が出来ていた。
「……あたいらが倉庫に行ったから開いたのか……それとも何かあったのか……。何にせよ……行ってみるしかないね」
その言葉に二人は頷き、相変わらずキーラの後ろをコバンザメの様にくっ付き歩いた。
キーラが見つけた資料に書かれていた事は荒唐無稽としか言い表せなかった。
題名から『古代兵器の復元とその使用法の研究』というまともに信じるのは馬鹿としか言えない様なものである。
だが、内容を読めばある程度は理解出来る範囲であった。。
古代兵器と書かれているが実際はそこまで凄い物ではなく、ただのゴーレムについてである。
現代の製造法ではない古代のゴーレム製造法を用いて作られたゴーレム。
昔の物を作るのではなく、昔の製法を復元しつつ作ったいわばレプリカだ。
しかもそのレプリカは現代のゴーレムと比べて別に特別優秀というものでもないのだ。
要するに、古代兵器と銘打ってはいるが誇大広告に過ぎなかった。
というよりも、むしろ本来のゴーレムと製造法が違うという事がネックになり研究が進まず、試作したは良いが稼働に失敗し、原因もわからずそのままお蔵入りとなった。
知識が足りず復元を失敗した。
そんな失敗話でしかなかった。
だが……それでも気になる部分は幾つも残っている。
確かにゴーレムというのは希少であり、それが戦力になるとすれば助かりはするだろう。
だがこの様な専属の部屋を作って研究するほどの内容ではない。
同じ金額で戦力を増強するなら適当に食いはぐれたならず者を金で雇った方がよほど効率が良い位だ。
だからこそ……何か大きな秘密があるのだとキーラは考えていた。
「さて……何が出て来るかねぇ……」
そう言葉にして……キーラは通路奥の扉を勢い良く開ける。
そこは木製の歯車や石の棒、鉄のプレートといった機械的な物が壁代わりとなった異質な部屋だった。
そんな部屋の中央辺りで、何か六角形の物を持つプランが何故か間抜け面でキーラの方を見ていた。
ありがとうございました。




