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7-7話 プランがいなくなった日4


 一言で言おう。

『気に入らない』

 幹部の一人であり、過去暴力的であった組織からのメンバーだったキーラは今のトップであるプランについてそう思い憎んでいた。


 気に入らない理由など、言うまでもない。

 日陰者である自分達が()()を、あの太陽を好きになるわけがない。

 人によればきっと引き寄せられるだろうが、自分達は好んで身を焼くつもりはない。

 だからこそキーラは獅子身中の虫……いや、獅子を食い殺す獅子となるべく牙を研ぎ澄ませていた。


 キーラの人生は非常にわかりやすい。

 親に捨てられてスラム同然の地で育ち、ただ生きる為に強くなろうとした。

 ただそれだけ。

 元々それだけの人生でありそんな人生でもキーラは満足していたのだが……下手な盗みで捕まってしまい強制的に王都に連行され、その果てに行く場所がなくなり学園に行きついた。


 そしてこのまま冒険者に……なんてお綺麗な考えが出来るほどまっとうには生きていないし生きていけるわけがない。

 かと言って、ちんけな悪事で暮らすなんてつまらない事はしたくない。

 小悪党なんて呼ばれるのはまっぴらごめんだ。


 だからこそ何かでかい事をしようと思っていた矢先に……今の状況である。

 まさしく、都合の良い。


 気に入らないトップが、何を考えたのか自分の様なワルモノを幹部に引き上げた。

 ならば、やるべき事はもう決まっている。


 この組織を乗っ取り我が物とする事。

 その為にキーラは大人しく従うフリをしていた。


「んで、あたいは疑われてないわけね?」

 キーラの言葉に二人の男が頷いた。

「へい親分。疑うなんてもっての他で非常に良く働く良い子だってプラン様言ってました」

 その言葉にキーラはまんざらでもなさそうに笑った。

「そうかい。そりゃ良……ってそうじゃねぇ。あたいみたいな悪党に騙されるなんて馬鹿な奴だ。あはははは!」

 そう言ってキーラが高笑いを浮かべるのを見て二人の男は顔を見つめ合い、溜息を吐いた。


「おやぶーん。止めときましょうよー」

「あん? 何をだシム?」

「下剋上ですよ」

「はっ。そんな甘い事するわけがないだろうが。あたいがするのは乗っ取りよ乗っ取り。入れ替えるんじゃない。裏切るのさ」

 キーラの言葉にシムと呼ばれた男は困った顔をする。

「親分にゃ似合いませんよー」

「いいややる。……アント。あんたも同じ事思ってるのかい?」

 そう呼ばれアントと呼ばれた男はこくりと頷いた。

「はぁー。つまんないねぇ。あんたら私の子分なんだろ? もっと豪快に生きようと思わないのかい? こんな大きな組織まるまる得るチャンスなんてもう二度とこないかもしれないよ?」

 それを聞いても二人の男、シムとアントは嬉しくなさそうな顔のままだった。


「ふふん。ま、あんたらの意見なんか知ったこっちゃねぇ。私はあの小憎たらしいプランって奴にぎゃふんって言わせてやるのさ」

 その言葉を聞き、二人の男は再度顔を見合わせ困った顔をした。


『出来る訳がない』

 自分達の親分がそんな事出来るわけがないと二人の男は思って――いや、信じていた。

 だけどこうなった親分を止める事もまた不可能な事を知っている為、二人は溜息を吐く事しか出来なかった。


「さて、その為にも……作戦の成功率を上げる為にご機嫌取りにでも行きましょうかね。行くよあんたら!」

 そう言葉にし、二人は頷きキーラの後ろに付いて行った。


 高い身長に長い銀色の髪。

 本来なら美人であるだろうが……髪は手入れが行き届かずボロボロで、また黄色に近い瞳はやけに鋭く恐ろしい。

 当然肌の手入れ何かもしていないからいつも傷だらけ。

 その所為で美人というより野獣の様な印象が先に来る女性。

 それがキーラである。


 それに付き従う二人だけの子分、どちらも小柄ながらがっしりとした体格をしているシムとアント。

 彼らは……というかキーラだけだがキーラはプランを裏切ろうと常に陰謀を張り巡らせていた。




「ありゃキーラちゃん。それにシム君アント君。どしたのこんな場所で」

 山の下、学園の入場口で鉢合わせになった部下にプランはそう声をかけた。

「へい。何か手伝える事がないかと思って」

 そう言葉にするキーラにプランは微笑んだ。

「うん。それじゃあこれから行く場所に付いてきてくれる?」

「わかりやした。んで、どこに行くんですかい?」

「孤児院。パン配るから」

 そう言ってプランは微笑んだ。


 この名前すら安定しない組織が何をするのか考えたらいけない。

 むしろやってしまった事を有効利用しなければ。

 そう思っている際に起きたパン作りすぎ事件である。

 もうそれはこれでもかと言わんばかりに作りすぎ、学園中の食堂に配ってもまだ余った。


 そりゃあそうである。

 プランが配る傍から組織の誰かが作り続けているのだからなくなるわけがない。

 組織の誰かはプランが配ってるからパンを焼かないとと思い、プランはパンが余ってるから配らないと思う。

 悪い意味の永久運動はしばらく続き、三時間ほど配った後でプランは徒労感からおかしいとようやく気付き、そこでやっとパン製造がストップした。


 そして残った問題はパンの消費をどうするかという事で会議を開いたところ……周辺地区の孤児院に配ってしまおうという事となった。


「そんな訳で配るんだけど……子供が苦手なら無理しなくて良いけど大丈夫?」

 そんなプランの言葉にキーラは少し考えた。

「……あたいはこんな見た目だから怖がられるしガキの扱いはわからない。だけどさ……あたいも親がいなかったから寂しさはわかる。何かしてやりたいって気持ちはあるんだ。……迷惑かな?」

 そう言葉にするキーラを見てプランは首を横に振り、キーラをぎゅっと抱きしめた。

「ちょ!? 何するんだい!」

「大丈夫だよキーラちゃん。こんなに可愛いんだもん。誰も怖がらないよ」

 そう言葉にしてプランは自分よりも背が高いキーラの頭をよしよしと撫でた。

 キーラは赤面しつつ嫌そうな顔を浮かべていた。


 そんな二人を見て、シムとアントは頷きながら自分達の考えが間違っていないと再確認した。

 我らが親分であるキーラに乗っ取りとか裏切りとか不可能であると……。

 というよりも……人の良さという意味でなら我らが親分はプランにすら引けを取っていないと二人は理解していた。


 三人は戦地難民が多く蔓延る貧しい土地で生まれた。

 スラムというよりは町中スラムの様な状況で、国がどれだけ支援をしても焼け石に水という状態の悲惨な場所。

 そんな場所が三人の生まれた故郷である。

 生まれた時から三人に親はおらず、代わりに三人はずっと一緒だった。

 だからこそ知っている。


 キーラは生まれてから悪事と呼ばれる事を働いたのはたった一度だけ。

 そしてそのたった一度盗みが見つかった盗みである。

 ちなみに盗んだ者は薬であり、流行り病になったシムとアントを助ける為の盗みだった。

 下手な盗みに決まっている。

 今までやった事もなく、罪悪感に溢れながらの泥棒なんて見つからないわけがない。


 だからこそ二人はいつか邪魔になるまで、それまでは一生キーラに尽くす事を誓っていた。

 いつかの恩返しの為に、いつかのお詫びの為に、そして自分達が心から偉大だと思う人に尽くす為に……。


「……そう。我らが親分は完全無敵。……たった一つの悪癖さえなければねぇ……」

 アントの小言の呟きにシムは頷いた。


 キーラの悪癖……それは善良な存在であるキーラが悪い環境の中で育ったが故に生まれたものだろう。

 悪い人が多いから『自分も悪ぶらないといけない様な気がする』と思い込み、それと同時に『悪い事って何かかっこいいじゃん』と思う気持ち。

 だからこそキーラは悪ぶってしまうという悪癖を身に宿してしまっていた。

 気質も内面も善良そのものなのに口と態度が悪く、そしていつも何か悪い事をしようとする。

 どうせ失敗するのに……。

 その悪癖さえなければきっと今頃良い仕事に就けて良い旦那さん見つけられただろうに……。

 そう思う二人であるのだが……言っても無駄である事も理解している為二人は何も言わなかった。


 ちなみに二人共キーラの事を偉大だと思い同時に尊敬し崇拝し敬ってはいるが……結婚相手にするのだけはごめんだとも考えている。

 尊敬は理解に最も遠い感情とも言うが……それ以前の問題である。

 二人共結婚するならお淑やかで大人しい子が良いなと考えていた。




 目的の孤児院に到着し、連絡事項を終えてから四人は中に入りパンを配る準備をした。

「はいはーい。美味しいパンですよー。子供達よ食べて良いんですよー」

 そう言葉にしてプランは元気良く明るく笑うのだが……子供達の反応はあまり芳しくない。

 まるで警戒している様に山ほどの食べ物を持つプランの方を見ていた。


 院長には話を付ける段階では特に問題はなく、更についさっきまで、パンを見せるまでは子供達の反応も悪くはなかった。

 つまり……それはプランの何かが気に入らないという事である。


「うーん。今までこんな事なかったんだけどなぁ……いらない……という事はないと思うし……」

 その子供達の変化の理由がわからずプランは首を傾げた。

「あんた……いらないとかそんな言葉使うな」

 キーラが子供達に聞こえない様小さな声でそう呟いた。

 その目は怒りに満ちており、またその声は鋭かった

「あっ。ごめん。そうだよね。ここはそういう……」

「そうじゃねぇ。そんなこたあ言わなくても皆わかってる。目の前で食い物ぶら下げられて戸惑っている時に、捨てるとか言われたら失う怖さを感じるに決まってるだろ」

 そこまで考えていなかったプランは少し驚いた顔をし、その後キーラの方をじっと見つめた。

「……ごめん。私じゃ無理みたい。この場を任せて良いかな?」

 その言葉にキーラは笑った。

「しゃあねぇなあ」

「うん。お願い。手伝える事があったら言って」

「んじゃ、とりあえずパン配る準備してな。シム、アント。そいつに俺らのやり方教えてやんな」

「あいあいさー。んじゃプラン様とりあえずその箱持って端に詰めて詰めて。もっと広く場所取っておきましょう」

 やけにてきぱき動く二人の男に従いプランは言われるがままに動いた。


 キーラはパンを一つだけ手に取り子供達の前に歩み寄った。

 それでも子供達は怯え、部屋の隅に移動し小さくなる。

 そんな子供達をキーラは優しく微笑み、そのまましゃがみ子供達に目線を合わせた。

「大丈夫だ。美味いぞ?」

 そう言いながらキーラはパンを半分に折って片方をかじり、もう片方を子供達の方に向けた。

 子供達は反応しない。

 それでも、キーラはずっと手を伸ばし、子供達の目を見ながら微笑みかけた。


 それから数十秒……お互いじっと見つめ合うだけだった。

 それでもキーラは微笑み続け、手を伸ばし続ける。

 その効果があったのか……一人の女の子がおずおずとキーラに近づき……キーラの顔を見つめた。

「……食べて良いの?」

「もちろんだ。何ならこの半分じゃなくて一個まるまるでも、いや二個でも三個でも良いぞ。食えるだけ食って良い」

「……何で? 私達は代わりに何をしたら良いの?」

 ――言うと思った。

 正しく、しっかりと教育している孤児院ほどこういう事になりやすい。

 何か仕事をしないと食事を貰ってはいけない、孤児院の人以外から何かを受け取ってはいけない。

 そう思ってしまう子供は決して少なくない事を孤児院にちょくちょく支援しているキーラは良く知っていた。

「何もしなくて良いさ」

「何で?」

「……ひもじいのは辛いよな。あたいはめっちゃ辛かった。お腹空いて、誰かが食べ物持ってるだけで憎いと思う位辛かった。だからさ」

「だから?」

「ああ。腹減ってイライラするのは嫌だろ? あたいは嫌だ。そしてそんなガキを見るとその嫌だった頃を思い出す。だからお前らはあたいの為に腹一杯食えば良いのさ!」

 そう言ってにかっと笑うキーラに少女はくすりと笑った。

「変なお姉ちゃん」

「おう。変だぞ。だから食え」

 少女はしっかりと頷いて、キーラから半分のパンを受け取った。


 きっかけが一つあれば…その後は驚く程に早かった。

 遠慮がなくなり、奪い合う様にプラン達に群がる子供達。

 それを順番に慌ただしく四人でパンを子供達に配った。

 当たり前の話だが……食べ盛りの子供達である。

 余分に持って来たはずなのに箱の中身は空となっていた。




「今日はありがとね。私だけだったらあの場にパン置いて帰るしか出来なかった」

 帰り道、プランがそう言葉にして微笑むとキーラは眉を顰めた。

「それはそれで良いんじゃねーか。どうせ後になったらあいつらも勝手に食うさ。逞しいぞガキってのはな」

「ううん。あんなに子供達が喜んだんだもん。ただあげただけじゃない。子供達は皆受け取った。それは大きな違いだよ。そしてそれはキーラのお陰。だからありがとう」

「……は、はん。あたいはあたいの目的の為に動いてやっただけだ。今回であたいの子分はきっと増える。あたいはもっと偉くなるからな!」

 そう言ってぷいっとそっぽを向きキーラは早足で歩きプランから離れていった。


「親分照れてるだけなんで気にしないでください」

 そんなシムの言葉にプランは微笑み頷いた。

「うん。見てわかる。……偉くなりたいならこの組織のトップの座とかあげたら喜ぶかな?」

 おそらく本気であろうそんなプランの言葉にシムは真顔のまま首を横に振った。

「……親分大人数を管理するのに向いてないんで止めた方が良いと思いますよ。……人が良いんで」

 その言葉にプランはくすっと笑った。

「そか。残念。せっかく楽出来ると思ったのに」

 そんな二人の会話など聞いておらず、キーラは満足そうな笑みを浮かべ自信満々に歩いていた。

 出来もしない悪い事をしてやろうなんて考えながら……。


ありがとうございました。

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