7-4話 誰にとっても想定外
そりゃあ最初の予定よりは非常に良い方向に向かっているだろう。
本当に最初はどれだけ酷い状況で、そして一歩間違えば大勢の人が死ぬ様な事態になってもおかしくなかった。
それほどひどい状況から脱却したのだからきっと今も悪い方には進んでいないはずである。
だが……それでも……。
「どうしてこうなった……」
プランは部屋で一人、頭を抱えていた。
誰も予想出来ない流れに進み、暴力とかデモとかそういう次元を通り越して本当の意味で何が起こるか分からない集団を従えるプランは困り果ててしまっていた。
始まりは神からの命令だった。
二つ目の神の命令、豊穣神ルインからの依頼だったのだが……その内容は絶望が色濃く含んでいた。
新しく生まれた反学園集団に取り入れ。
このまま放置すると学園内で殺し合いが始まり、それに巻き込まれ多くの者が死に学園が傾き世界のバランスが崩れる。
だからその流れをコントロールし被害を減らしつつ黒幕を二人特定しろ。
一人は組織内にいる重役以上の誰か。
一人は学園側の裏切り者である。
また、それは自分一人で行え。
そういった意味合いの命令が、直接脳に叩きつけられた。
プランはその命令に従った。
従うしかなかった。
そして事前に聞いたその反学園組織と呼ばれる場所に向かい、あっさりと内部に潜り込む事には成功した。
だが、そこは思った以上に酷い事となっていた。
大量の魔石や妖精使いを抱え、学園内に魔法陣トラップを仕掛け、内部から学園を食い破る。
そんな計画を下っ端新入りのプランが聞く程度には。
プランという人間は他人から変な奴とはよく思われる。
だが、決して異常者であるとは思われる事はない。
何故ならばプランという人間は行動はともかく考え方は非常にわかりやすいからだ。
お人よしで、いつも一生懸命で。
そういう人間であると誰もがすぐにわかる。
それこそがプランという人間の長所と言って良いだろう。
その誰もがわかる事をわからない者がいた。
神自身である。
神は人の心がわからないという通り、神は人間の心を理解出来ないししようとはしない。
ただ、その働きを見る。
だから今回この様な潜入任務をプランに任せたのだが……向いているかどうかと言えば、はっきり言って非常に向いていない。
実際、プランは組織内部に入った初日で神様から依頼があったという事を忘れていた。
一生懸命でひた向きだが、プランは割とおっちょこちょいでシンプルな人間である。
それがプランの魅力である事は間違いない。
だからこそ潜入任務なんてプランに出来るわけがなかった。
そしてその結果……大事故が起きた。
プランが組織を乗っ取るという斜め上な大事故が……。
「んでーどうすんのー?」
ノックもなしに部屋に来訪者が訪れる。
そんなマナーの悪い人間だが、今この状況だけはプランにとってとてもありがたい人物である事に間違いはなかった。
何故ならこの良くわからない謎の組織内部で唯一、プランに普通に話しかけて来る人間だからだ。
彼女の名前はリーゼ。
プランに似た顔、似た背ながらその表情はどことなく棘がある。
そんなリーゼはプランに対して呆れた顔でそう呟いた。
「……どうしよう」
「ま、私は面白いからどうでも良いけどね」
「……た、助けて……」
「別に助けるのは良いよ。それもそれで面白そうだし。でもどうやって助けて欲しいの? というかどうしたいの? 目的は」
「……わかんにゃい……目的なんてないよ……」
「どうして欲しいかもわからなかったら助けようがないわねー」
そうニヤニヤしながら言葉にするリーゼをプランは縋るような目を向けた。
「何か知恵をお貸し下さいませんかね?」
「嫌よ。面倒だもん。そもそも私貴女の仲間じゃないし」
そうリーゼは決してプランの仲間ではない。
だからこそこの場にいても特に問題がなく、そしてこの場で好き放題動いていた。
プランの意図に反して。
「ま、本当にやばかったら命位は助けてあげるからがんばりなさい。……ぷっ。もっと面白くしても良いのよ……。まさかガッチガチでイカれた暴力革命集団が突然ご飯の品質向上委員会になるなんて……くっ」
そう笑いを堪えた様子で、リーゼはその場を去っていった。
「……あうー」
プランはそう呟く事しか出来なかった。
ちなみに最初の依頼である神の要請だが……。
危険度は既に低くなり、現段階で国は当然学園を傾ける可能性は皆無。
黒幕は組織転換の際にあぶりだされ全員御用。
ついでとばかりに犯罪者は王国兵士に直接輸送。
偶然ではあるが、神から言われた事は実はもう既に全部終わってしまっていた。
そんな訳で現在このご飯を美味しくする為にデモをしようなんて頭のおかしい集団は頭がおかしい事に完全クリーンな組織に生まれ変わってしまっていた。
だからこそ、今プランは大きな問題を抱えていた。
依頼達成お疲れ様でした。
そんなニュアンスを夢で言った後、神は出て来ていない。
つまり……この状況は全て丸投げという事である。
どうやら神様は大雑把な性格らしく細かいところは本当にどうでも良いらしい。
「いや本当どうしよこれ……」
毎日数十回は呟く『どうしよう』だが、未だに一度も答えは出ていない。
完全クリーンだが武闘派テロ集団が前組織である為ある程度以上の戦力を保持しており、またプランが完全に放置すると何故か話が乱暴な方向に進んでしまう。
かと言ってプランが話を混ぜ返すと何故か面白とんでも方向にしか舵が切れない。
今日なんてプランはとりあえず学園側に要請してお互いに妥協点を探ろうと言っただけなのに、なぜかご飯は美味しい方が良いなんてデモを行うハメになってしまった。
しかもプラン直々に。
もう意味がわからない。
本当久方ぶりに、自分は人を率い纏める才能は全くないのだとプランは思い知った。
「プラン様。会議で少々問題が起き参加要請が……」
ノックと共にそんな女性の言葉を聞き、プランはげんなりした顔をした。
「……理由は?」
「はい。食料問題解決の為動きを見せない学園に報復として爆破するか武装決起するかで――」
プランは慌てて立ち上がった。
「なんでご飯を美味しくしないからってそんな乱暴な方向に行くのよ……。はいすぐ行きますから出来るだけ落ち着かせといて」
「了解です。私が戻り次第プラン様を待ち一言も発さない様厳命させて頂きます」
そう言葉にすると女性の気配がどこかに去っていった。
「何で私崇められているの? 何で私宗教団体の教祖みたいになってるの……。どうしてこうなったの……」
そう考えながらも、プランは根が真面目である。
彼らの気持ちを理解しつつ、誰も不幸にならない道をプランは探った。
探った上でプランの出した結論は……とりあえず組織の専属調理場に足を運んだ。
総勢三十人。
その全員は沈黙し身動き一つ取らず一時間という時間を過ごしていた。
大きな一つのテーブルに並んだ椅子に座り、一つの空席が埋まるのを待ち続ける。
ただその為だけに、一時間身じろぎ一つしていなかった。
彼らはこの組織の、デモ集団の幹部の中の極一部である。
組織の長の命により会議は自由参加。
その為参加しない者の方が多い。
逆に言えばこの三十人はこの定例会議に自主的に参加した熱意ある者達という事だった。
その熱意の方向性はそれぞれ異なるが……。
彼ら三十人は、決して仲が良い訳ではない。
過去のテロ集団だった頃のメンバーもいれば最近入った新入りもいる。
男も女も力自慢も知識派も、前組織に忠誠を誓った人もいれば純粋に美味しいご飯の方が良いからという人もいる。
そんな本来なら絶対に交わらない様な人が集っているのだから仲が良い訳がなかった。
そんな考え方が違う皆でも、一つだけ共通している事があった。
プランに対して一定の敬意を払っているという事だ。
前組織の悪事を暴き、膿を吐き出しつつも組織を盤石にしここまで巨大な集団にした。
学園内で言えば、サークルを除くと生徒だけでこれほど大きな組織が出来た事など今まであったであろうか。
どれほどの能力、どれほどの才能、どれほどの熱意。
一体どれほどの力を秘めているのか。
そう思い、彼ら幹部はプランに感謝し、怯え、恐れ、敬意を払っていた。
例え一時間遅刻しても、誰も席を立たず文句の一つも言わない程度には。
「ごめんおまたせ!」
慌てた様子でプランが走って来ると全員が席を立ちプランの着席を待った。
しかし、プランは自らの席、この組織のトップである場所に座らず、何かを置きながらぐるっと円卓を一周した。
「……プラン様、一体何を?」
プランは、プランが自分の席の前に何かを置くのを見たその人物の事を見ながらにっこり微笑んだ。
「お弁当。お腹空いたでしょ。まあ三時だからおやつの方が良かったかもしれないけど……ほら、冒険者は体が資本って言うし男の人が多いし……甘い物よりもこっちの方が良いかなと思って」
そう言葉にしてからプランは全員、三十人に対して弁当を置き、自分の席に座ってから手をパンと叩いた。
「はい。とりあえず休憩してお弁当食べて。多かったら残してね。飲み物はもう少ししたら水が配られるから。あ、ジュースは良いけどお酒は会議が終わってからね」
そんなプランの命令に断る事は出来ず、全員がその弁当に手を伸ばした。
小さなハンバーグが二つ乗ったタマネギと人参の色付きパスタ。
ブロッコリーを中心とした緑黄色野菜の盛り合わせやポテトサラダなんかも添えられている。
お弁当と言っても作りたてで冷めておらず、それでいてあまり匂いが気にならないもの。
そして野菜が多めという冒険者というよりも母親の手料理の様な弁当に皆で手を付けた。
プランの事を蹴落としたい人もいる。
プランの事を崇めている者もいる。
色々な人がこの場にいるが、その弁当を残す者だけは何故かいなかった。
皆が食べ終わり、一休みをしたのを見てプランは弁当を片し始めた。
「……お腹空いていたら良い考えも出ないもんね。さ、会議をやり直しましょう。皆が納得できる方法があるはずだから」
そうプランは言った。
お腹が満ちたら乱暴な事は言わなくなるだろう。
イライラはなくなるから落ち着いて冷静に話せるだろう。
確かに元々乱暴な人は多いが、乱暴だからこそ暴力の怖さを知っている人が多い。
だからきっと大丈夫。
そう思ってプランは弁当を用意した。
確かにその効果はあったが……プランの予想とは少々以上に異なる効果となっていた。
「いえ。もう話す必要はありません。そうだろう同士達よ」
一人の男性の言葉に全員が頷いた。
「おっ。わかってくれたんだね。もう暴力なんて……」
「はい。プラン様のお考え。痛いほどに理解しました。食事情を改善しようとする者が暴力をふるう様ではいけません。殴りつけるよりも施す。美味しい物を食べる事こそが幸せなのに不幸を振りまくのは良くない。そう言う事ですよね」
その言葉にプランはぱーっと笑顔となった。
「そう! 美味しい物を食べて不幸だと思う人はいないもん! だから皆で……」
「はい。我ら皆で学食よりもレベルの高い食堂を用意し学園に挑戦状を叩きつける。そう言う事ですね」
「……はい?」
「場合によっては学園のライフラインである食料を握れる。ええ。権力掌握としても悪くない手です」
別の男性が混乱するプランを無視しそう話を進めた。
「食事のグレードを下げる事は難しい。単純にコストを下げた美食を用意するだけで学園に痛手を負わせられるはず。そしてこちらが弾圧され潰れたら他の生徒も我らの味方に自然になると。さすがプラン様。一手どころか三手以上先をお考えだ」
そう皆でプランを褒め称え、三十人全員が勘違いし謎の拍手をプランに送った。
三手先どころか一手先も、それどころか明日すらどうすれば良いのかわからないプランは半泣きになり、とりあえず頷いてみせた。
ありがとうございました。




