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6-17話 不満だらけの依頼の終わり


 フラウとの話を終えてそのままオルシュタイン家を去り、三人は学園に帰って来た。

 そしてすぐ日常に戻れる……かと言えば残念ながらそうはいかず、プラン達三人は学園に戻ったその日に中央政府直属の文官より出頭命令が下った。

 別にプラン達が何か悪さをしたわけではなければ逮捕されるという訳でもない。

 オルシュタイン家での事件の事情聴取。

 もっと言えば、怪盗関連についての事情説明である。


 既に新聞等の所為で正義の怪盗、悪を倒す偉人の様な扱いを受けているが怪盗は怪盗、相手がどれだけ悪人であれ好きにして良いなんて法律はない。

 だからこそ、一応だが彼ら二人の怪盗は王国の敵でもある為プラン達は話をする義務があった。


 そしてそこで、三人はどうして今まで怪盗が捕まらなかったのか、怪盗の顔が世間に流出していないのかを理解した。


 確かに三人は……特にプランは怪盗を贔屓目に見ていると言っても良い。

 ナイトメアの事は嫌いになれないどころか淡い熱の様な感情を持っている。

 それは愛情と呼ぶほど確固たるものでもないが間違いなく好意で、近い感情で表すならファンと呼ぶべきだろう。

 だが、それはそれとして王国民の義務として自分の知っている事を全て余すところなく報告するつもりではあった。

 誤魔化すつもりもなく、何があり、どの様な人柄で、そしてどの様な顔だったのか。

 プランは話すべき内容を纏め説明するつもりだった。

 だが、実際呼び出され、個室に通され三人別々とされて尋ねられたのはこれ。

『それで、怪盗を見ましたか?』

 それにプランが首を縦に振ると……。

『はいもう良いですよ。帰りに調査協力としての報酬を受け取って帰って下さいねー』

 それで終わってしまった。


『……そりゃ怪盗の顔割れないし捕まらないわ』

 プランはそう呟き苦笑いを浮かべた。

 ちなみに、サリスもエージュも似たような物だったらしく、エージュの方は詳しくしつこく尋ねられたがそれは調査の為というよりも怪盗の活躍が見たいからという様な感じだったらしい。

 王国側でも真面目に捕まえる気は『まだ』ないらしい。

 それがわかる事情聴取の時間だった。


 そして出頭命令をこなし……本当の意味で今回の依頼が終了した。

 その事に安堵する気持ちはあるのだが、それよりもプランはどこか良くわからない寂しさを覚えていた。




「んじゃ、一応だけど依頼終了って事でおつかれー」

 食堂にてサリスがやる気なさそうにグラスを前に出し、二人もそれに合わせてグラスを重ねた。

「おつかれさまです。……まあ、終わりが何とも言えない感じですのでおめでとうという気持ちにはなりませんけどねぇ」

 エージュはそう言葉にして苦笑いを浮かべた。


 良くわからないまま屋敷をひっかきまわし、怪しそうな人に突撃をかけるだけの猪の様な立ち回りをし、挙句の果てに黒幕には逃げられる。

 しかも黒幕は依頼人のトレス。

 これにより一つ、大きな事件が発生した。

 そう、黒幕が依頼人のトレスであったという事は……逃げた黒幕だったという事は……三人は依頼の報酬を受け取りそびれたという事である。

 代わりにフラウが払うと言って来たのだが……現状のオルシュタイン家から金銭を受け取るのは心苦しいを通り越して辛過ぎる。

 だからこそ、最後の最後に政府から調査協力の謝礼金が出た事だけが救いだった。


 そんなわけで、三人は何とも締まらない終わりに対して困惑する様な気持ちとなっていた。

「最初から最後までもにょる様な依頼だったなー。なあプラン」

 サリスの言葉にプランはこくんと頷く。

 その様子は、いつもと比べて明らかなほど元気がなかった。


「……どしたよ?」

「……んー。何か寂しい感じ? 良くわからないけど」

「ああ。お前あいつ気に入ってたもんな。ナイトメア。だから――」

 サリスが茶化す様に離すのをエージュはサリスの頭を叩いて黙らせた。

「ってぇ! 何するんだよ!」

「もう、少し、空気を読みましょう。プランさんが本気だったらどうするんですか!?」

 エージュはサリスのすぐ傍により、小声で、脅す様にそう呟いた。

「あ……。わ、わりぃプラン。別にそんなつもりじゃ……」

 そんな二人を見てプランはくすりと笑い手を横に振った。


「あんまり気にしないで。確かにかっこいいなーとは思ったけどその程度だよ? 大した事ないない」

 そうプランは言葉にした。

 初めて男の人で良いなと思った事は内緒にして。

「そか……。んじゃどうして寂しいんだ?」

「わかんにゃい。何て言えば良いかなぁ……。こう……突然誰かがいなくなった時の様な寂しさが今胸にある感じ」

 それを例えるとすれば……ペットロス症候群だろうか。

 そんな胸に小さな穴が開いた様な感覚にプランは陥っていた。

「やはりノアレさんの事が……」

 そうエージュが言葉にするのをプランは再度手を横に振って否定した。

「やっぱりエージュ恋愛話好きなんだね」

「そんな事ありませんよ。あくまで貴族に連なる者としてのたしなみですわ」

 その何度目かの言葉を聞き、プランとサリスは顔を合わせ苦笑いをした。


 その後、一応祝賀会として開かれたはずなのに笑い声は響かず、静かで周囲の方が騒がしい状況が五分ほど続き……サリスの我慢が限界となった。

「あーもう! 辛気臭いのが移る! 飯食うぞ飯! そんでまだプランが笑えないならミグ連れて来る。それで駄目ならヴェイン連れて来て色々滅茶苦茶させるぞ!」

「あ、それ良いね」

 ペットロス症候群に近いからこそ、プランはミグの事を思い出し微笑んだ。

 それを見たサリスはプランの精神回復のとっかかりが見え、笑った。

「――いや、いっその事ミグのとこに押しかけようぜ。ただし飯食って元気になってからな。注文してくるけどお前らはどうする?」

「私は……んじゃサリスと同じのを一人前で」

(わたくし)もそれで」

「あいよ-。ちょっと待ってろ」

 そう言葉にしてからサリスは注文に向かい、そのまま戻って来た。

「出来たら持ってくるってさ。何か今忙しいみたい」

「あいあい。んじゃ時間潰しも兼ねて、少し依頼の事考えてみない?」

 プランの言葉にサリスは顔を顰めた。

「何をだ? つーか俺に考え事させるなんて犬が空飛ぶ位無茶だぞ?」

「いやいやそんな大層なもんじゃないよ。たださ、最後に探偵ごっこしてみない?」

 その言葉にエージュはぴくっと反応を見せ嬉しそうな笑みを浮かべた。


「何を言いたいのかわかりましたわ。ええ私は賛成ですわ」

「……何の話だよ」

「怪盗メロウの目的が何だったのか考えてみない? ぶっちゃけこれさえ解けたらたぶん今回の騒動全部繋がるから」

「……あー。そう言う事か。……まあ良いぜ。飯前の時間潰しとして付き合ってやるよ」

 そうサリスが言葉にしてから、三人は今回の騒動を纏めだした。


 家にある絵画等の宝物を自分は一切利益なく国に納めたいオルシュタイン家当主。

 それを利用したのが新人メイドトレスこと怪盗メロウである。


 ただ、フラウの申し出に応えるだけならばメロウが宝物庫に入って持ち出せばそれで話は全て終わる。

 だがメロウはわざわざ新人メイドとなって屋敷に潜り込み、プラン達をわざわざ依頼として呼び出した。

 つまり、そこに何か理由があるという事なのだろう。


「……とりあえず、トレスさんがした事を考えてみましょうか」

 やけに乗り気なエージュの言葉に二人は頷き、プランは紙を出してメモの用意をした。

 決して安物の紙でもないのに、こういったどうでも良い事に使える位にはお金に余裕が出来た自分にプランは少しだけ驚き、そして改めて話に集中した。


 メロウがした事は依頼としてプラン達を呼びつけた事。

 直接で言えばそれだけである。

 それ以外でのアクションと言えば……『毎回予告状を出す怪盗メロウが怪しい』と他人事の様に言った位だろう。


「良く良く考えたらこれだけしか俺らに言って来てないのか……。思ったよりヒント少ないな」

「んじゃ次点、協力者であるフラウさんが私達にした事を考えようか」

 プランはそう言葉にしてからメモの方に目を向けペンを走らせた。


 フラウがした事はプラン達に屋敷内を自由に調べて良い権利を与えた事。

 そして最後メロウ捕縛の妨害をした事。

 大きな物はこの二つであり、メロウの目的を考察するに足るほどの情報は出てこなかった。


「……ヒント足りねーわ。これ無理だろ」

 そう言葉にするとエージュは目をきらんと輝かせ、何故か椅子から立ち上がり自信満々に言葉を紡いだ。

「いいえ。そんな事ありません。逆に考えましょう」

「え、あ、うん。……お前生き生きとしてるな」

「希代の怪盗との対決を行い、その目的を探るなんて知識欲満たされる事そうありませんわよ」

「……俺らが冒険に心躍る様なもんか。んでエージュ。ご高説はよ」

「まあそう焦らせないで下さいまし。怪盗メロウ及びその協力者フラウさんがこちらを誘導する要素は少なかった。つまり逆に言えば誘導する必要がなかったという事になります。ですから怪盗メロウの目的は依頼を私達に受けさせる事。その時点で私たちは目的に沿う様動かされていたのですよ」

「……おおー。何か探偵っぽい」

 プランの言葉にエージュは何故か自慢げに微笑んだ。


「……んで、その肝心の目的、俺達に依頼を受けさせて何をさせたかったんだ?」

 サリスの言葉にエージュは自信満々に微笑み、そして両手を横に広げた。

「さっぱりわかりませんわ。あの希代の怪盗、どのような深い思慮の元動いているのか。ですがそれを突き止めた時、きっと――」

「はーいお待たせしましたー。シーフードパスタでーす」

 そのぴったりのタイミング、エージュが決め言葉を言おうとするタイミングでどんとテーブルの前にパスタが並べられ、魚介の香ばしさにそのエージュの作っていた独特でシリアスな雰囲気がへし折られた。

「…………食べましょうか」

 他の誰でもなく一番楽しんでいたエージュが香りと空腹に耐えきれず、椅子に座り直しそう言葉にした。

「さんせー」

 そうプランが言葉にした時には既にサリスはフォークを持ち口をもぐもぐ動かしていた。




「うん。やっぱり食堂は美味しいねぇ。安心して食べられる場所ってのは貴重だよ」

 プランのそんな言葉に二人は頷いた。

「ですわね。ハワードさんも感謝してくださいよ? それだけの量を用意して下さる場所そうそうないのですから」

 軽く五人前位の量のパスタを食べるサリスは幸せそうな顔でパスタをすすりながら首を縦に振る。

 そしてその五人前も、わずか一分ほどで空になった。


「よし次。すいませんお代わ――は、はぁ!?」

 手を上げそう叫ぶサリスは何故か言葉を失い固まっていた。

 その様子を怪訝に思いプランとエージュもサリスの方を見て、その後サリスの目線の先を見た。


「どしたのサリス? 何かあっ――ごふっけほっ。き、器官に入……」

「何をしてるのですかプランさん。ほら。お水……って……え――」

 プランが咽ながら水を飲み、固まるサリスとエージュを見て目線の先の主、食堂の制服を身にまとったトレスはくすくすと笑っていた。

「やっと気づいた。ちょっと遅くない?」

 三人のテーブルに皿を運んだトレスはそう言葉にする。

 そのトレスの顔は昨日までと同じく、意地悪そうな笑みのままだった。


「なんでここに……」

 そうサリスが唖然としたまま言うとトレスは珍しく真面目な表情となった。

「別にその質問に答えるのは良いんだけどその前に良い。あんた大丈夫?」

「……何がだよ?」

「いや、あんた貝の殻ごと食ってるじゃない。お腹痛くならない?」

 トレスは普通に心配して海老の殻も貝の殻も残っていない綺麗で真っ白な皿を指差した。

「ん? ああ。すすってたら口に入って来た奴か。面倒だから噛み砕いた。固いだけなんだし食っても問題ないだろ。むしろ骨とかが丈夫になるんじゃね?」

「……初めてあんたを凄いと思ったわ。尊敬も憧れもしないけど」

「……馬鹿にしてるのか?」

「ううん。馬鹿だと思ってる」

 そう言葉にするトレスにサリスがわなわなと拳を震わせる。

 それを見てトレスはケラケラとからかう様にサリスを嘲笑った。


「はいはいどうどう。あーやっと落ち着いた。んでトレスさんや。どしたここに?」

「答えるって言ったし教えてあげるわよ。ここ王国の兵士いないから追手もいないの」

「……でもさ、この学園はこの学園で色々あるけど大丈夫なの?」

「あら? 私を心配してくれるの? 貴女達の敵だったのに?」

「うん。もう敵じゃないし追い掛けないよ私達……私とエージュは」

「……それは?」

 トレスはサリスを指差し尋ねた。

「たぶんいつか我慢出来ずぶん殴りに行くと思う」

「まあ怖い。あんまり怖くて泣いてしまいそう」

 そう言葉にするがその顔は完全にサリスを馬鹿にした顔になっていた。


「ま、そんな訳でこの学園も私の隠れ蓑の一つってわけ」

「ほえー。そかそか」

「そゆ事。んであんたら。張本人の私が横にいるのにその目的を考察するって……ずいぶん陳腐で間抜けな時間を過ごしているわねぇ……」

 そう言葉にした後トレスはプランからペンを奪い、さらさらーっとメモに殴り書きをしてからサリスの大皿を手に取った。

「次もこの位? もっと大盛?」

「……は?」

「お代わりでしょ? 早く言ってよ」

「……もっともっとって感じで」

「はーいっと。あんた自分の体重と同じ位食べてるんじゃないの全く……」

 そう言葉にするトレスの顔はいつもと同じく意地悪だったが、どこか優しかった。


 そして大皿を持って厨房に向かう途中一旦立ち止まり、くるっと振り向き三人の方を見た。

「……リーゼよ」

「……ん? 何が?」

 プランがそう尋ねるとトレスは一瞬だけ眉を顰め、そして改めて言い直した。

「私の名前。トレスはあの場の偽名だから。安心なさい。これは本当の名前だから。じゃね」

 そう言葉にしてリーゼはそのまま去っていき、次サリスのお代わり分の大皿を持って来たのは別の人だった。




「……何だったんだ一体……」

 そう言葉にしながらパスタを食べるサリスは二人が熱心に何かを見ている事に気が付いた。

「お前ら何見てんの?」

「……さっきトレ……じゃない。リーゼさんが書いていった文章」

「何て書いてったんだあの腹黒」

「えっとね。『エージュは難しく考えすぎ』『怪盗メロウは自己顕示欲の塊』『決して正義の味方なんかじゃなくて所謂ただのちんけなコソ泥』だって」

「……話してわかったけど……あいつ相当のひねくれ者だな」

 サリスは苦笑いを浮かべそう呟いた。

 他の誰でもなく自分の事をここまで言えるのだから相当に性根がひねくれているのだろう。

 散々からかわれていた為サリスはなおそう思っていた。


「……考えすぎ……だとすれば……思った以上にシンプルな理由だったのかもしれませんわね」

「ありゃ。エージュわかったの?」

「はい。明日の新聞を読めば確実なのですが……たぶんメロウの目的は……ライバルのナイトメアを蹴落とす事、もっと言えばナイトメアが失敗する様に仕組んだのだと思いますわ」

「……えぇ……そんな下らない事なのか……」

 サリスは呆れきった顔になりそう呟く事しか出来なかった。


 ナイトメアの予告状を騙り、ナイトメアをおびき出し、盗む気のないナイトメアと新人冒険者を戦わせてナイトメアが盗みを行わず帰る。

 結果どうあれ外から見れば、ナイトメアが盗みを失敗した様に見えるだろう。


 自分の他にいる怪盗の評判を落として自分の評価を上げる。

 ただそれだけの理由。

 エージュはそう推測した。


 そして翌朝、その推測を裏付ける様に多くの新聞はナイトメアが盗みに失敗した事とそれをメロウが盗んだ事を記事にした。

 いかにも二人が直接対決をしてメロウが勝ったかの様に――。



ありがとうございました。

これをエピローグとして六話が終わりになります。


この段階でプロットは二部だけでも中盤手前位。

そしてその段階で八十万を超えるというとんでもない事に……。

終わる時には一体何文字になっている事だろう……。


そんな長い世界にここまでお付き合い頂きありがとうございます。

そしてもしお時間が許すのなら、これからもお読み下さり是非最後までお付き合い下さい。

皆様が読んだ時間が無駄じゃなかったのだと思える様、誠心誠意努力していきます。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 名探偵シーズンも怒濤の展開で面白かったです。 ナイトメアとメロウのお二方は、ナイスキャラでしたので、また物語に絡んできて欲しいですね。 |д゜)チラッ
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