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6-16話 二人の怪盗6


 その可能性を考えていなかったわけでは決してない。

 黒幕最有力候補のトレスだが一人で全部出来るわけがなく、きっと誰か協力者がいる。

 そしてその可能性が最も高いのは誰かと言えば……やはり現最高権力者である当主以外にいないだろう。

 だがその考えは考慮に入れなかった。


 理由は単純で、もしそうだったらもうどうしようもないからだ。

 この屋敷の現当主が黒幕側であるのなら、探索権限をその当主に貰っているプラン達に出来る事など何もない。

 そして現に、プラン達はフラウを前にしてトレスを追いかける事も出来ずフラウの前に立つ事しか出来なかった。

 ただ、三人がこの先に行けなかったのは権限の問題だけではなかった。

 とてもではないが……フラウを放置して先に進めない。

 それほどにフラウの様子は切羽つまる物となっていた。


「……えっと……その……怒ってないので……そんな泣きそうな顔で見ないで下さい……ね?」

 そう言いながらプランはおたおたと慌てながらフラウに優しく語り掛ける。


 しっかりした女主で、何時も凛々しくて。

 そんなフラウはどこにもおらず、目の前にいる女性はいかにもという程か弱くて、今にも倒れてしまいそうで。

 そんなフラウは……つーと静かに、頬に涙を滑らせた。


「……ごめん……なさい……」

「いえだから気にしませんから。ですから泣き止みましょ? ね? 大丈夫ですから」

 そう言葉にしながらプランはとんとんとフラウの背を優しく叩く。

 それを自然に出来る事がプランの一番の強みであると横から見ていた二人は思った。


「ああ。俺もぶっちゃけ怒りはな……いや。あいつは次あったらぶん殴る。絶対殴る。その位の怒りしかない」

 散々馬鹿にされた事を思い出しサリスがわなわなと拳を握りながらそう言葉にした。

「大丈夫。あれ本気で言ってなくてただからかっただけだから」

 そうプランが言うとサリスは顔を顰めた。

「それがわかるから腹立つんだよ。だから当主様。あんたにゃ一切恨みないさ。そしてこいつも……」

 そう言いサリスはエージュの方を見た。

「ええまあ。ただ……宜しければ色々と事情を……いえ、もうここまで来たら事情と呼ぶよりも、これまでの答え合わせをしていただけませんか? 正直巻き込まれたのはわかりますが何が何やらさっぱりですので」

 その言葉にフラウは震えながら、小さくこくりと頷いた。




「申し訳ありません。取り乱してしまい……皆様の前に立つとどうしても感情が我慢出来なくなって……」

 フラウはそう言葉にした。

 プランに用意してもらった椅子に座りプランに用意してもらった紅茶を片手にプランの焼いたクッキーを食べながら。

 逆に言えば、そこまでしなければフラウは取り乱し()()()()と泣き続ける事しか出来なかった。


「おう。まあもうそれは良いから色々教えてくれ。ぶっちゃけあいつが怪しいあいつが怪しいって思って突っ走っただけで何もわからんからな」

 そう言いながらサリスは乱暴にクッキーを掴み上げ、一気に口に突っ込んだ。

「ああ。私のクッキー……」

 そう言葉にするフラウにエージュは苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。

「まだ沢山あるよ」

 そう言ってプランが皿をテーブルに並べるとフラウはほっと安堵の息を漏らした。


「では……ただ……実は私もわかる事はあまり多くありません。代わりに知る事は全てお話しましょう。あのトレスの……いえ、怪盗メロウについて……」

 そうフラウが言うとエージュとサリスは頷き……プランは首を傾げた。

「え? トレスが怪盗メロウだったの?」

 そう言葉にするプランを見てフラウは目を丸くした。

「……な? 俺らこの程度なんだよ。まじで何もわからないから色々教えてくれ」

 その言葉にフラウは微笑み、しっかりと頷いた。


「ですが、最初に言った通り私にも全部がわかるわけではありません。ですので……まず、私の事情からお話しても宜しいでしょうか? どうしてメロウと共犯となったかを……」

 三人が頷くのを見て、フラウはゆっくりと話し出した。

 その罪を誰かに懺悔する様に……。




 オルシュタイン家先代の悪行によって得られた資産の大半は王国に没収された。

 つまり残された物は全て綺麗で悪行とかかわりがない……であれば良かったのだがそうではなく、悪行とかかわりがないと国が判断した物である。

 どう違うのかと言えば、バダフガンナが法を破り得た物であるという証拠のない物。

 それが返された物達である。


 正義をモットーとしている王国は異常なほどその制約が厳しく、絶対の証拠がない限り没収をせず、限りなくブラックに近くてもグレーなら返される。

 そしてその悪行によって得られた物の可能性が非常に高い……というよりもフラウが確証を持って悪行その物であると断定しているのが、宝物庫に納められていた五品だった。


「私が何度も国に『これは悪事によって得た物』だと伝えても国は受け取ってくれませんでした……。むしろ『これから大変でしょう。貴女は家の事と自分の事を考えて下さい』なんて同情される始末だった……」

 そう言葉にするフラウの目には涙は見えず、誰か見てもわかるほど烈火の如く怒りに震えていた。

 ふるふると震えるその手をプランはそっと握り、そして微笑んだ。

「何を怒っているのか。私にも教えて。一人で抱えないでさ」

 その言葉に何を感じたのか、フラウは手から力を抜き、代わりにティーカップを手に取った。

「紅茶をもう一杯頂けるかしら? クッキーを食べ過ぎて喉が渇いてしまったわ」

「はいはい。どうぞー」

 そう言葉にし、プランはカップを受け取り紅茶を注ぎ直した。


「……プランさん。ウチでメイドになりません? 給料安いですけど」

「魅力的ですけどすいません。私冒険者見習いですので」

「……残念です。冒険者を雇うほどのお金が我が家にはもうない事がとても」

 そう言葉にしてからフラウは紅茶を口に含み、ゆっくりと香りを楽しむ様喉に流した。


「……あまり気持ちの良い話では……いえ。あまりに不愉快すぎるお話ですが……聞いてもらえますか。我が家の許されざる罪の一つを……」

 その言葉の後、フラウは宝物庫の宝の内の一つ、あの絵画について話しだした。

「あの絵は『架け橋』という名前の絵でして。繊細なタッチであり、それでいて大胆かつ大らかで、最高峰の名画に並ぶ……とまでは言いませんが代わりにどの名画にも負けない独自の魅力がございました。その独自性の理由は単純でして、描いた方は若く芸術を学んでいない方だったのですよ。既存の技術を知らない。だからこその傑作。宝と呼ぶに相応しい絵画でしたわ」

「……そんなに素晴らしい物でしたら、見れなかったのが残念ですわね」

 そうエージュがぽつりと漏らすとフラウはエージュの方を見つめた。

「エージュさんは、伯爵家の方でしたよね?」

「はい。ですのでそれなりにその手の事は……」

「では一つ尋ねて宜しいでしょうか? もし、絵の価値を上げるならどうすれば一番てっとり早いでしょう?」

 その質問にエージュは少し考え、こう答えた。

「やはり皆に見てもらうのが一番かと。名のある方が社交界で展示し誰かに自慢すれば一気にその方の名声が広がりますわ」

「ええ。やはり貴女は本当に立派で……素晴らしい人ですのね」

 そう言葉にして微笑むフラウの笑顔にはどこか蔭があり、それが正解でない事だけはエージュも理解出来た。


「……ああ。言いたい事わかっちまった。そう言う事かよ……クソが……」

 サリスは唐突にそう呟き不機嫌そうな表情となった。

「……はい。そう言う事です。一番手っ取り早い絵の価値の高め方は……画家の方がいなくなる事ですわ」

 画家は名前も年齢も不明。

 ただ十代の若い女性だったという事しか記録されていない。


 ただし、その若い女性に先代、バダフガンナ・オルシュタインが何をしたかは記録に残されていた。

「……じゃあその人はもしかして……もう……」

 そうプランが言葉にするとフラウは首を横に振った。

「それすらもわかりませんわ。何しろ詳しい情報があまりに乏しいので。結果だけで見るなら……殺した方がマシでしたわ。……腕を切り落とし、売り払われるよりはきっと殺された方が……」


 同じ作者の次の絵がない。

 それこそが最も価値の上がる瞬間。

 だからこそ、バダフガンナは直々に女の子の腕という希望を切り落とし、そしてその後も小銭程度でその子を売り払った。


 それがオルシュタイン家の罪。

 許されざる呪われた家の宿業。

 その怒りや恨みを正当に受ける為、誰かの為に死ぬ為にフラウは当主となりオルシュタイン家の名前を存続させようと決意した。

 誰かに殺される、ただその為だけに。


「……言い訳ですが……当主となった後その方の事を全力で探しましたわ。ですが見つかりませんでした」

 元からオルシュタイン家に備えられた裏の繋がりは全てバダフガンナが利用しており、既に全て王国により潰れている。

 故にその手の伝手などない現オルシュタイン家では誰かを探すといった事は非常に難しい。

 そうでなくても名前すらわからない相手である。

 見つかる可能性は零に等しかった。


 絵画の女性が最も酷いのだが、それでも宝物庫に置かれた他の宝物四つも似たような物である。

 バダフガンナが悪行の限りを尽くし掠め取った宝物。

 それを正当な持ち主の元にいつか届ける為、その為にフラウはまず国にこの宝物を返したい。

 それがフラウの心からの望みだった。


 だが、その為には一つ大きな問題がある。

 当たり前の話だが、正当な持ち主ではないオルシュタイン家がこの宝物により利益を受ける訳にはいかない。

 誰かを苦しめた名を持つからこそ、フラウはそれだけは譲るわけにはいかなかった。

 だが、フラウがもしこの五つの宝をそのまま寄贈すればフラウは国から決して少なくない金銭が渡される。

 五つの宝の所有権は現在オルシュタインにあり、そして国に寄贈する場合は報酬が発生するという風に法律が決まっているからだ。


「ええ……多くの人を殺し、苦しめ、犠牲にしてきたこの家が……その犠牲にした人の宝で国から褒美を貰う? そんな事……私は絶対に認めないっ! 認めて良い訳ないじゃない……」

 ドンっ! と強くテーブルを叩き、血が出るほど拳を握り、フラウは慟哭する様に声を絞り出した。


 それがフラウという女性の中心、今のフラウを構成する全て。


 自分が犠牲になる。

 子供達にこの呪いを継がせない為に、そして犠牲にした人達の恨みを集める為に。

 そういう生き方を、フラウは自ら選択した。


 だからこそ、この宝を自分達が一銭も利益を得ず安全に国に返す事こそがフラウの命題となっていた。

 そんな時に声をかけて来たのが……トレスこと怪盗メロウだった。


『私が盗んでタイミングを見計らって国に返してあげましょうか? この家の名前を出さず私の名前で。私の名声は知ってるでしょ。それに安心しなさい。そもそもここにある宝その物に私は興味ないから』

 色々と堪え耐えて来たがフラウの心はとうに限界を迎えており、ひび割れた今にも砕けそうなフラウにとってメロウという義賊としての名声とその言葉に耐える事など出来るわけがなく……フラウはそんな悪魔の提案に乗っかった。




「そしてメロウの言う通り貴方達を呼んで好きに調査をさせた……というのが私から見た今日までの事実よ。正直、メロウが何をしたかったのか、何が目的だったのか私にもわからない。ただ……ついさっき、私との約束を果たして宝を盗み出してくれた事だけは確か。だから……間違いなく、私は彼女の共犯。貴女達にも私を断罪する権利があるわ。衛兵に突き出しても、私は一向に……」

「お前ら―何か聞こえたかー?」

 サリスがそう言葉にするとプランは首を横に振った。

「ううん。私耳に小麦粉つまってたからわかんにゃい」

「そうか。じゃ、俺は耳にクッキー詰まってたわ。エージュお前は?」

「私都合が悪い事は聞こえなくなる都合の良い病気がございますので。何かおっしゃいましたか?」

「つー事で俺ら三人何も聞いてないし知らんぞ。ただ二人の怪盗に同時に狙われて哀れだなーとは思ったがね」

 そう言ってサリスは笑ってみせ、プランとエージュも同じ様に微笑んだ。


「どこから見つけて来たのか……貴女達を見つけたメロウの目は確かだったのねぇ……」

「んー本当にどうして私達だったんだろうねぇ。不思議だなぁ。ああ、それはそれとしてフラウさん。一つ聞いて良い? ノア君……じゃなくて、ナイトメアが来るのは予定通りだったの?」

 その言葉にフラウは大げさに手を横に振り否定した。

「まさか! 少なくとも私はあの時本当に驚いたわよ。メロウから渡した予告状は私の作った偽者だったって告げられたのよ? だからナイトメアはここに来ないと思ってたし。……まさか普通に潜入してたなんて……どうしてかしら? やっぱり名前を騙るのが許せなかったのかしら」

「さあねぇ。もしかしたらこの家が心配になったからかもねぇー」

 ニヤニヤしながらプランはそんな事を言葉にし、三人は首を傾げた。


「うん。んじゃもう良いね。正直さっぱりわからないままだけど……怪盗は二人共ここに悪い事しにきた訳じゃなかったから良しとしよう。ね、二人共!」

 そうプランが言葉にして、エージュは微笑み頷いた。

 サリスはどうしても納得が出来ないらしく、握りこぶしを作った。

「……メロウにゃ次あったら一発ゲンコツ。それが譲れないラインだな」

 そんなサリスを見てもし次見かけてもまた茶化されて顔を赤くして怒るサリスが想像出来、プランは小さく噴き出す様に笑った。


「あ、最後にこれ。たぶん今のフラウさんに一番必要な物」

 そう言葉にして、プランは十数人の名前が書かれた紙をフラウに手渡した。

「あら。これは……うちに住んでくれている人達の……男性の方かしら。これは何?」

「そこにいる人は皆フラウさんの助けに心からなりたいって人達だよ。……結婚を視野に入れた上で」

 その言葉にフラウは理解出来ず目を丸くし、そして正しく理解した瞬間ぼふっと音を立て、湯気が立った様に見えるほど顔を赤らめた。

「え、えと……あわ……私二人も子供産んでしかもこんな呪われた家と名前を……」

「その上で、フラウさんと子供の幸せを願った人しか載せてないよ」

 そう言葉にするプランを前に、フラウはどんな顔をしたら良いかわからず真っ赤なままおたおたと慌て続けた。




「……ま、この程度で良いか。あまあまなあの子達の割にはまあ頑張った方でしょ。そう思わない?」

 屋敷のすぐ外からフラウ達の様子を観察し、甘い空気になったのを見て渋い顔をしながらメロウはそう呟いた。

 その瞬間、どこからともなく仮面を被った男が姿を見せる。

 ナイトメア。

 そう呼ばれている男は興味なさそうにメロウの方を見つめていた。

「……どうでも良い」

「そう。んで、どうでも良いならどうして、わざわざ私の前に出て来たのかしら?」

 そう楽し気にメロウが話すとナイトメアは淡々とした口調のまま、ぽつりと呟いた。

「……次、僕のフリをしたら殺す」

 それだけ宣言して、ナイトメアはその場から姿を消した。


「……まあ怖い。ただの小娘な私は怖くて怖くて……足が震えちゃいそう」

 そう言葉にして、メロウはくすくすと怪しく笑い続けた。


ありがとうございました。



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