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6-13話 二人の怪盗4


 ナイトメアが逃走してすぐにプラン達は当主であるフラウにその事態について報告するとフラウは目を丸くしてあからさまと言えるほどの驚きを見せた。

「まさか……いえ。正直色々と予想外で驚いています。すいませんがまた明日改めて報告を頂けないかしら?」

 深夜帯だという事もあり上手く考えがまとまらないのか、フラウはそう三人に告げ三人はそれに頷き了承した。

「ありがとう。ついでにトレスを呼んで下さるかしら? このままだとうまく眠れそうにないし湯あみでもしておきたいの」

 そうフラウに言われ、三人は言われるがままにトレスを呼び、そのまま寝て朝を待った。


 そして特に何事もなく翌朝となり、三人は改めて客間の方にフラウから呼び出された。

 昨夜の様な困惑した姿はそこになく、フラウは横にトレスを従え優雅に紅茶を飲んでいた。

「おはようございます。昨夜はすいませんでした。お詫びという訳ではないのですが……朝食はまだでしたよね? どうぞ召し上がっていってください」

 そうフラウが言うと同時に、トレスはサービスワゴンに詰んだ皿を各自の椅子の前に並び始めた。

 しっかりと、サリスの分は他二人よりも多めに。


「ありがとうございますフラウさん。それとありがとうトレス。でもサリスはこれじゃあ足りないよ?」

 そうプランが言うとトレスはサリスの前に並べた食事の量とサリスを見比べながら驚いた表情を浮かべる。

「まさかそんな……男性二人分はありますよ? 正直残してもらうつもりで余分に……」

「俺が本気になればわずか五秒で皿は全て真っ白になるぜ?」

 そんな自慢にもならない事を言うとフラウはニコニコと孫を見るお祖母ちゃんの様な顔になった。

「あら。ではその特技を見せていただけるかしら?」

「味わう分のお代わりをくれるなら」

「当主の名において約束しましょう」

 そう言葉にすると、サリスは言われた通り五つある皿を五秒と言わず、二、三秒でまるで洗ったかのように綺麗で真っ白な皿に戻した。

 その様子を見たフラウは驚きの表情の後、くすくすと楽しそうに微笑む。

 トレスは目を大きく見開き、何度もサリスの前にある空の皿を信じられない物を見るかのような目で見続けた。




「こほん。さて、皆お腹も満ちた事ですし……満ちましたよね?」

 あのあと都合六度お代わりをしたサリスにフラウはおそるおそるそう尋ねた。

「ああ。五分目位には満ちたな」

「それは良かっ――あれで五分目なのですか……気持ちの良い食べっぷりですわね」

 フラウはそう言葉にして優しく微笑んだ。

 ちなみに何度も往復して食事を用意したトレスはまだ目を見開き驚愕した表情のまま固まっていた。


「こほん!」

 フラウがわざとらしい咳払いをするとトレスは慌ててワゴンに皿を片してその場を離れ、全員の前に紅茶を用意した。

「さて、それでは冒険者の方々。昨夜の事を詳しく報告してもらえますか?」

 フラウの言葉に三人が頷き、プランが中心となってエージュが細くするという形で昨夜の事を報告した。


 プランがノアレがどこか怪しいからとりあえず調べようと思い商店から望遠鏡を借りて見張っていた。

 そうすると夜突然動き出し、確認に向かうと宝物庫の見張りを気絶させた仮面の男がいた。

 それがノアレだった。


 応援の為にプランは犬笛を使いサリスを呼び、サリスは数度殴られたが気絶しなかった為諦めてノアレはその場を去っていった。

 そうプランは報告し横でサリスは頷いた。


「えっと……色々ツッコミどころあるんだけど……これだけは聞きたいの。良い?」

 露骨なほどの困り顔を混ぜた愛想笑いをするフラウ。

 その言葉に三人が頷くとフラウはおずおずと、サリスの方を見ながら言葉を紡いだ。

「……サリスさん。あなた本当に人間?」

 犬笛の音を聞き分けられ、歴戦の兵士すら気絶された記録のある怪盗ナイトメアの攻撃を耐える新人女冒険者。

 どこに突っ込めば良いかわからかったからかとんでもなく失礼な言葉をフラウは困惑しながら尋ねた。

「おう。ゴリラ扱いされるけどたぶん人間だぞ」

「……ゴリラ? ってあの大きなあの?」

「ああ。どこで生息してるか知らんがあの」

 混乱を加速させるゴリラ分が追加され、フラウは微笑みながらその事には二度と触れない事に決めた。


「とりあえず……ありがとうね。ちょっと実感ないからうまく言葉に出来ないし……屋敷はこんな状況だから私からも報酬は払えない。でも……本当に感謝してるのよ? 今は驚きの方が強いけど」

「わかります。……犬笛を聞き分ける人類ですもんね……」

「いやそっちじゃないから。そっちもだけどナイトメアの方だからもう少しだけだから真面目な話にさせて」

 プランの斜め上な上に話をゴリラに戻そうとする動きにフラウは慌てて待ったをかけ、強引に話を押し切った。


「こほんこほん……。本当はもう少し早くに見せたかったけど少し遅かったわね。ごめんなさい」

 そう言葉にし、フラウは三人の前に小さなカードを見せた。


 紫の模様が描かれた少し気障ったらしいカードであり、書かれた文字は『ナイトメア』という文字だけの空欄しかないそれは今回オルシュタイン家に送られた予告状だった。

「一応頑張ってね、伝手を使って回収してみたの。まあもう終わったからどうでも良いけど……せっかくだから三人ともしっかり見て行って。ああでも国に返さないといけないから悪いけどあげられないわ。ごめんなさいね」

 そう言ってフラウは小さく微笑んだ。

「あの……でも私達今素手で……」

 流石に証拠品をそのまま触るのはどうかと思いそうエージュが言うとフラウはふふと笑ってカードを指差した。

「良いのよその程度。汚したってちょっとお小言言われる位だし。ついでに言えばほら。私なんて紅つけちゃった」

 そう言って楽しそうに笑うフラウは今までの気品溢れる姿とは少し違い、どこかおてんばなところがあった。

 おそらくだが……こちらの方が素のフラウなのだろう。


 先代の、元旦那の罪を背負いオルシュタイン家という家を背負ったが故に重すぎる責任にのしかかられ続けるフラウ・オルシュタインしか知らないプランはそう思った。


「じゃ、記念に」

 そう言葉にして、プランはカードを持ってくるくると回し両面をじっくりと見た。

 出来るだけ厳密に、忘れない様脳に刻み付ける様に……。

「サリスとエージュは良い?」

 二人が首を横に振るのを見て、プランは丁寧にそのカードをフラウに返した。

「はい。ありがとうございました」

「いいえ。むしろ遅くてごめんなさい。もう少し早ければ役に立ったかもしれないのに」

「いえ。むしろ私達の方が少しでも役に立ててほっとしています」

「そう。なら良かったわ……。ところで……これは追い出したいから言うんじゃないの。本当よ? もう終わったけど……何日までいるつもりか聞いて良いかしら。出来たら依頼の終わる日までいて欲しいけど学生だし忙しいのよね?」

 そうフラウが尋ねると三人は顔を合わせ、先に決めていた答えを出した。


「そちらがよろしければ依頼の終わる一週間後までいたいと私達は願っております」

 エージュの言葉にフラウは微笑み嬉しそうに頷いた。

「もちろんよ。貴女達には本当に良くしてもらったもの。何でしたらお別れにパーティーでも開こうと思ってるくらいよ……ああ食料は人数の倍用意すればたぶん大丈夫よね?」

 フラウは心配そうな顔でサリスにそう尋ねた。


「……食料持ち込み許可してくれ。流石にいたたまれない」

 そんなサリスの言葉を聞いてフラウは無言となり、そのあと震えだし我慢出来ずくすくすと笑いだした。

 その顔が本当に楽しそうだったから……三人も釣られて笑ってしまっていた。




 後の時間はゆっくりとした時間を客として過ごして欲しいとフラウに言われ、そのまま話し合いは終わりとなった。

 そのまま三人は各自自分達の部屋に戻らず……三人でプランの部屋に移動した。


「……はーい。残り少ないですが各自心残りとか気になる事あげていってー」

 プランが眉を顰め、眠っている様に見えるほど目を細くしてそう呟くとエージュが言葉を紡いだ。

「……とりあえず……何と言うか……終わりという気が全くしませんわ。何がとは具体的に言えませんがこう……心残りが……ですが何と言えば……」

「もにょる。だろ?」

 サリスの言葉にエージュは苦笑いを浮かべた。

「……その様な言葉遣いしたくありませんが……適切ではあります」

「はは。まあしゃあないわな。何もわからんまま終わるんだから。そ……ノアレの野郎……じゃなくてナイトメアの野郎も何か言ってる事がおかしかったしな」

 その言葉にエージュは頷いた。


 まるで自分はハメられたのだと言う様な言い方だったのだが……それでも言いたい事はさっぱりわからなかった。

 元々言葉が多い方ではない上にこちら側に対してコミュニケーションを取ろうとしない相手な為伝える意思が欠片もない。

 あれはただの独り言に過ぎなかった。


「なあ。お前はどうなんだ? あいつとはお前が一番接点多かっただろ? あいつが何考えてるかわかんねーか?」

 サリスにそう言われ、プランは首を横に振った。

「ううん。ノア君の事はさっぱり。ただ……嘘は付いてる様子はなかったね。それ以前に何かに興味持ってるように見えた事の方が少ないから良くわかんにゃい」

「そうかい……。だがあの様子を考えると……やっぱり何かこの屋敷で見逃しというか何かそれっぽいものがあるって事だよな……ああやっぱりもにょるぜ! 意味わかんねー」

 そう言葉にしてサリスは自分の頭を乱暴に掻いた。


「……プランさん。何か思う事があるのですか?」

 エージュにそう言われプランは首を傾げた。

「どうして?」

「いえ……さきほどからこう……目が細くなって凄く微妙な……何というか嬉しくないけどとっかかりが見つかった様な顔をしておりますので……」

「……エージュってもしかして人の心とか読めたりするの?」

「……いや、お前がわかりやすすぎるだけだから」

 敢えて触れなかったサリスがそう言うと苦笑いを浮かべながらエージュは頷いた。


「……というわけでこれを見てください」

 そう言葉にし、プランは一枚のカードを出した。

 白いカードに赤い模様が描かれた、非常におどろおどろしい印象の小さなカード。

 角の生えた化け物の絵が隅に書かれているそのカードを見てサリスは首を傾げた。

「なんだこりゃ?」

「レプリカだよ」

「何の?」

「ナイトメアの予告状の」

「……は?」

「クコ君に用意してもらった資料に混じってた」

「さっき見たのと全然違うじゃねーか!」

「うん。違うね。ついでにエージュに聞きたいんだけど良い?」

 エージュは冷や汗を掻き緊張した様子で頷いた。

「何でしょうか?」

「口紅ってさ、時間が経って色って変わる?」

「どの様な条件ででしょうか?」

「皮膚以外に付着して一日とか二日とか経って」

「多少は変わりますけど……」

「より鮮やかな赤とかになる?」

「それはありえませんわ。赤の場合は茶色が混じった様な色になったり暗くなったりはする可能性はありますが」

「うん……フラウさんが見せてくれた予告状についた紅……真っ赤だったんだよね……。ちなみに私達が来てからそれに類似する色の口紅をフラウさんが付けた日はないよ」

「……お前良く見てるな」

「女性の仕草や服装をしっかりと見て意識を高めるのが女子力のコツってジュールさんに聞いたから。まあ私は化粧っけないままだけど」

 そう言ってプランは微笑んだ。


「いらねーだろお前には……ってまた話流れそうになったな。んでプラン。はっきり言いたい事を言ってくれ」

「うん。あの口紅付けたの昨日今日どころか最近ですらない。だからフラウさん嘘付いてるね。昨日届いたって事なのか、自分が付けたって言った事か。どっちかはわからないけどどっちかは明らかに、それも故意で嘘ついてる」

 そうプランがはっきりと言葉にするとサリスは目を細めてさきほどのプランの様な表情となり、エージュは頭を抱えだした。


「解決策が見えるどころか……余計謎が広がったのですが……」

「さて、黒幕は誰でしょう? あはは……わかるわけないじゃん探偵でも何でもない私達が」

 プランは諦めた様子でそう言葉にした。

 ナイトメアの時なんてちょっとカッコイイなと思ったからの疑いを持ったに過ぎず、それは運と力の合わせ技でしかない。

 そんな自分達がかっこよく黒幕を追い詰めるなんて出来るわけがなかった。


「……こういう時いつものお前なら誰かに頼るんだけど……誰かいるか?」

 サリスの言葉にプランはうーんと頭を捻る様に悩みだした。

「一応依頼だしこの家にあんまり凄い人呼びたくないし……呼んだら絶対揉めるよね?」

「例えば誰を呼ぼうとお考えに?」

「フィーネ」

 サリスとエージュは無表情のまま迷わず手を横に振った。


「んじゃ頼る人は……ああ。そいやエージュって本とか良く読むんだよね。んで怪盗とか出たりする推理ものも読んでたよね?」

「ええまあ……たしなみ程度で私の趣味ではありませんが……」

「趣味は甘い恋愛ものだもんね」

「違いますわ。あれは付き合いの為ですから」

「あ、はい。まあそれは置いといて……エージュの読んだ推理小説でさ、最後のオチとか黒幕ってどんな感じになる?」

「……もしかしてプランさん……。作り物のお話を参考にしようと?」

「うん。藁にもすがるって感じで。というわけでどんな感じ?」

 その言葉にエージュは呆れ顔のまま溜息を吐いた。


「はぁ……。そうですわね……。まあ王道なのは……一番怪しくない人物が黒幕でしたーというのが物語的には多いですわね……」

「なるほどなるほど。逆の発想だねー。んじゃやってみようか。二人は一番怪しく感じないのは誰?」

 そう言葉にしながらプランはこの前用意したこの屋敷内全員の名簿を取り出し三人の間に置いた。


「ま。ネタにはなるわな。せーの!」

 サリスの音頭に合わせ、全員は指を差す。

 その人物は、奇しくも……いや、必然的に同じ人物だった。


「……あのさ……今思ったけど……なんでこの人怪しくないと思ったの?」

「いや……そりゃ……俺の勘でも怪しく感じなかったし……」

 サリスはプランに言われてその理由を告げる。

 だが、今になって思えばその言葉にも自信が持てない。

 それどころか、思い返すと怪しいと感じる部分さえあった。


「ちなみに、私もこの人が嘘ついているって風に見えなかったんだよね。だから怪しくないと思ってたけど……これ…もしかして……」

「はは……俺らなんでこんな下らない方法で黒幕捜しなんてしてるんだろうな。こんなふざけた方法当たるわけないじゃん」

 そう言ってサリスはその考えを払拭する為笑おうとするのだがうまく笑えず……引きつった笑みを浮かべる事しか出来なかった。



ありがとうございました。

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