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1-13話 割と忙しい自由時間6


 昼食の後、サリスと共に戦闘系と思われるサークルが集まっている場所に向かい、幾つか巡ってみた。

 一部見学禁止、または女性参加禁止のサークルもあったがそれ以外のサークルは概ね歓迎してくれ、見学を許可してくれた。

 ダンジョン攻略を中心としたサークルや狩猟を中心としたサークル、魔物退治という名誉と経験を求めたサークルといった特定の目的を持った集い。

 剣や槍、槌など特定の武具を好む人が集まり情報交換と技術共有を目的とした集い。

 その他戦闘という行為に比重を置いたサークルにいくつか顔を出したが、プランがどこかに所属する事はなかった。

 わがままを言っている自覚はあるのだが、それでも……どれもしっくりとこないのだ。

 今の自分に足りない物を補ってくれるようなサークル。

 それをプランは探し続けていた。


 翌日、午前中のうちにサリス、エージュと共に地図を見ながらトレーニング施設等を見回り、昼食を食べた後全員バラバラに動く事になった。

 サリスはちょっと一人で体を動かしたいからと言ってトレーニング施設に行き、エージュは早い内に乗馬と馬自体に慣れたくて昨日に引き続き乗馬サークルに向かった。

 とたんに知り合いのいなくなったプランはどうしようか考え、もう少し一人ででもサークルを探す事とした。




 昨日と同じ馬車の待合所に向かったプランはそこにいる馬車の馭者に話しかけてみた。

「ねね。第四エリアって行ったら危ないような物騒な場所ある?」

「あー。そうだな……。その物騒ってのは治安が悪いって意味でか?」

「うん。喧嘩が多いとか女性が一人でいるといなくなるとか」

「あーないない。街そっくりだけど基本学校だからな」

「でも、入学試験もなければ入学金もないじゃん。危ない奴とか入ってこないの?」

「入って来るぞ。それでも新入生より基本長く滞在する者の方が強いし警邏の人も大勢いる。問題になる事はほとんどないな」

「ほー。んじゃ、どこに行っても大丈夫だね?」

「絶対大丈夫とは言えないが基本問題ないと思う。それでも用心の為に暗くなる前に帰る事をオススメするがね」

「はーい。それじゃよろしくお願いしまーす」

 そう言って、プランは馭者の乗った馬に繋がれた馬車の中に乗り込んだ。

「別に良いけど、嬢ちゃんこの馬車がどこに行くのか知ってるのか?」

 その言葉にプランは微笑んだ。

「ううん。知らないよ。でも、知らないから良いかなと思って」

 その言葉に男は微笑んだ。

「……なるほどねぇ。嬢ちゃん。あんた良い冒険者になれるよ?」

「へ? 何で?」

「知らない場所に行くことを楽しめて、それでいて事前に俺に聞く慎重さも併せ持つ。ま、古き良き冒険者って奴の基本だな」

「ほほー。そんな言葉があるんだ。ねね、他にも古き良き冒険者について教えてよ」

「ああ良いぞ。出発時間だが他に誰も乗らないようだし……走りながらゆっくりと話してやろう」

 馭者はそう言いながら、ゆっくりと馬を走らせ始めた。




 馭者の人との楽しい会話の時間はあっという間に過ぎ去り、馬車は目的の場所にたどり着きプランはお礼を言ってから馬車から移動し、待合所に置かれた案内図を眺めた。

 どうやらこの辺りは衣服やアクセサリーなど商売的な施設が多くあるらしい。

 周辺の街並みに赤い屋根の家だったり模様の描かれた壁だったりと今まで巡った施設のような実用さ中心でなくお洒落さ中心となっている。

 また、所々で簡易テントが見かけられるがそのテントすらやけに煌びやかな装飾が施されていた。


「へー、露天市場があるんだ。へー……。そうかー。露店市場かー」

 目的とはかけ離れているが、もしかしたら何か強くなるヒントがあるかもしれない。

 そんな自分でも少々苦しいと思う説得を自分にかけながらプランは軽快なステップでその方角に足をび、大体二十分位移動したくらいで、露店市場と思われる場所にたどり着いた。


 広い公園のような敷地には百人を超える人数が敷物や屋台を使って商売をしており、そこを大勢の客が行き来をして楽しそうに物色していた。

 ちょっとした市場を想像していたプランにとって現実の露天市場は想像よりも更に上で、この光景には感動さえ覚えるほどだった。

 いつか、こういう光景をリフレストで見れたら……。

 そう思わずにはいられなかった。


「……。うん。心配はあるけど……楽しめそうではあるわね」

 さっそく興味が惹かれた屋台に向かいながらプランはそう呟いた。

 プランの心配はただ一つ……お金を使いすぎないか。

 ただそれだけだった。


「お姉さーん。一つくーださい」

 そんな心配をしながらも、さっそくプランはアイスクリームを売っている屋台に元気良く声をかけた。

 暑いわけではないが、やはりアイスの露店など見てしまえば欲しくなるのが乙女心……訂正、人の心というものだろう。

「はーい。五シーよー」

「……は? 安くない?」

 シーというのは銅貨の略称である。

 つまり、最低位に位置する通貨という事だ。

「ふふーん。お姉さんこれでも魔法が使えるからねー。自前で用意出来るからこの値段なのだ」

 そう言って女性はプランにウィンクをしてみせた。

「え? え? 自前? どゆこと? ……そいや食堂でもアイス安かったな」

「ははーん。キミ新入生ね?」

「うん。二日目です」

「そか。そして魔法もあんまり知らないっと」

「うん。知らない」

「なるほどねー。だからアイスが高価だと思ってるのね」

「というか実際に超高かったし」

「んじゃ、お姉さんとちょっと商売の勉強をしよっか」

 勉強という言葉を聞いた瞬間、プランの顔が一瞬で険しくなった。


「あはは。うん、私そんな顔する子良くみてきたわ。でも、冒険者になるなら少しがんばろ? 終わったらアイス一個あげるから」

「とたんにやる気が湧いてきました」

 きりっとした表情のプランを見て、女性は優しく微笑んだ。


「んじゃさっそくだけど、どうしてアイスって高いと思う?」

「え? ……原材料の中で砂糖が少々高価だけど……それでも高級品と言われるほどにはならないよね?」

「うん。学園は例外だけど、アイスはかなり高価な部類に入るね」

「だったら原因は、まあ作るにしても保存するにしても氷が必須な事かな?」

「正解。南の方は豪雪地帯で、冬に降った雪をがんばって保存して売る人もいるくらいは冷たい物って貴重よ」

「その手があったか……」

 プランはリフレストの数か月通行できなくなる雪を思い出しながらそう呟いた。


「んじゃここから次の質問。どうして学園のアイスは安いでしょう」

「……ま、これだけヒント貰ったら簡単だよね」

「お? んじゃ言ってみて?」

 女性は最初の方で自前の魔法と言っていた。

 つまり、そういう事なのだろう。

「氷を直接、と思ったけどそれだけだと相当手間がかかる。魔法で氷を作るだけじゃなくて、アイスを作るのをサポートするような魔法が……更に言えばアイスを冷凍保存する方法も魔法にあるんだよね」

「あら? キミ勉強嫌いなのに頭の回転は速いのね。正解よ。お好きなアイスをどうぞ」

 プランは嬉しさから両手をあげてぴょんと高く跳んだ。


「……あの、高い奴選んでも良い?」

「もちろん。何でもどうぞ」

「んじゃ高い方って書いてあるとこの……このベリーのアイスを一つくーださい」

「どーうぞ」

 そう言って女性はカップに木のスプーンを付けてプランに赤と白のマーブル模様になったアイスを手渡した。

「わー……。ありがとうお姉さん」

「良いのよ。キミ何だか施したくなる顔してるから?」

 その言葉にプランは微笑んだ。

「何ですそれ。捨て犬みたいな顔って事です?」

「いや、どっちかと言えばエサをあげると飛び跳ねるように喜ぶ子犬。何かあげたくなるって奴」

「あー。でも言いたい事は少しわかります。私食べる事大好きで美味しそうに食べるって良く言われるので」

「でしょうね」

 頬を緩ませアイスを食べるプランを見て、女性はそう呟いた。


「でも良いの? その値段だとほとんど利益出ないんじゃないです? しかも私にタダでくれて……」

 プランの言葉に女性は微笑んだ。

「良いのよ。お金目当てじゃないから」

「お金目当てじゃない?」

「んじゃここでもう一つ勉強しましょうか。私はどうして露店を開いているでしょう。先に言っておくけど誰かに食べて欲しいって献身的な理由じゃないわよ。私料理苦手な方だしぶっちゃけ作らなくて良いなら作りたくない。アイスは実験っぽいからまだ良いけど……それでも他人の為にずっと作るのって結構めんどいのよね」

 そう言って女性は溜息を吐いた。

「……んー。安いお金でアイスを振舞う。……儲けの為ではない……。だったら……コネ集め?」

「五十点。半分正解よ。どんなコネかまで踏み込んでこれたらもっと良かったけど……少し難しかったかな。はい、残念賞」

 そう言って女性はクッキーを一枚プランの食べているアイスの上に乗せた。

「ありがとー。んで残りの答えは?」

「秘密。ゆっくり自分で考えてみて頂戴」

「ちぇー」

 プランは少しだけ拗ねた顔真似をすると、女性は微笑んだ。

 それに微笑み返しながらプランは美味しそうにアイスの残りを食べた。




「……はー。アイスのお姉さんほどじゃないけど……色々な物が安く売られているなぁ」

 皆が皆というわけではないが、プランの見かけた露店の内五割くらいはプランが今まで街で見て来た相場よりも相当安い値段となっていた。

 その所為でついうっかりプランは服を二着ほど購入してしまったくらいである。


「うーん。節約しないと……。ああでも、そろそろ靴も買っておきたいな。持ってる靴は少ないし、どれもボロっちくなってきたし……。にしても、色々な物が売ってるなぁ」

 中には詐欺にしか見えない物も幾つかあった。

 ちょっと大きなだけの卵をドラゴンの卵と言って売っていたり、何かの宝石を妖精石と言って売っていたり……。

 安く買える分だけ詐欺の可能性も増えるのだから、その辺りも気をつけないと酷い事になるだろう。


「お嬢ちゃん! 靴が欲しいならウチで買っていかないかい?」

 プランは張り上げた男の声を聴き、人込みをかき分けてその声の傍に移動する。

 そこに行くと、屋台を構えた三十歳くらいと思われる男性がプランの方を見つめていた。

「はいはい商品みーせて。というか良くこの騒めきの中私の声を聴き分けられたね」

「おう。耳には自信があるんでな。んで、商品の前に嬢ちゃんの足先を見せてくれ。それに合う靴を見繕う」

 男からは性的ないやらしさも詐欺を行う者特有の見下すような視線も感じなかった。

「……うん。貴方からは変な感じがしないし良いよ」

 そう言ってプランは靴を脱いで足の裏を男性に向けた。

「これで良い?」

「いや、反対もだ。両足が一緒の人ってのはいないんだよ」

「なるほど……。はい」

 反対の足も向け、それを見て男性は頷いた後靴を四足ほどプランの前に見せた。

 それらはどれもお洒落というわけではないが、恐ろしいくらいに丁寧に作られたような、まるで高級品のようであった。


「こんなもんだな。後で細かい調整を足に合わせてするから、この中で欲しいのがあったら言ってくれ」

「ほほー。ところで、買う前に気になるんだけどお値段はおいくらくらい?」

「あー。そうか。……うーん。嬢ちゃんは幾らが良い?」

「作った人が困らない金額」

「……逆に困るな」

「いや、客の私に値段聞かれても私も困るし。というか値段決めてないの」

「ああ。俺の靴を履いて欲しいって人に声かけてるだけだし」

「……何で? そういうフェチズム?」

「俺は別に変態じゃない。ただ、靴が合ってない奴を見るとイライラするんだよ」

 そう言って男は溜息を吐いた。


「靴が合ってないって? 私合ってないかな? 一応大きさはぴったりだけど」

「だろうな。足に合わせてる。丁寧に合わせすぎてギリギリなんだよ。もう少し隙間がないと足に負荷がかかる。普通の人なら良いが……。嬢ちゃん、あんた結構運動するタイプだろ?」

 その言葉にプランは頷いた。

「だから靴は気をつけないといけないんだよ。足に変な癖付いてからじゃ遅いから」

「……凄く職人っぽい」

「ぽいというか靴職人だぞ。結構偉いんだぞー。うやまえー」

 男は冗談めいた口調でそう答えると、プランは微笑み頭をゆっくり下げた。

「へへー。んでそんな職人様が自分の靴の値段を決めてないってどゆこと?」

「ま、半人前でも職人名乗って良い世界だしな」

 そう言って男が笑うと、プランもつられるように笑顔になった。


「と言っても、物には自信ある。出来たら持ってってくれ。値段は……大銀貨ジン一枚だ。足りないなら新入生って事で割り引くぜ」

「あれ? 新入生ってどしてわかったの?」

「慣れてなさそうだからな。靴の話じゃなくて露店にだ」

「なるほど。……んー。悪いけど値引きって出来る?」

「ふむ。別に構わないぞ。どうせ値段なんてどうでも良いし。足りなかったか」

「いえ。足りるだんけど、どうせならもう一足予備が欲しいから。『腕の良い職人の靴と巡り合ったなら、絶対に買い逃すな』という古き良き冒険者の教えがあるって聞いたばっかだし」

 そのプランの足を見て判断した能力と、作った靴。それとこの男性の雰囲気。

 総合してプランは、ここで買わないと絶対に後悔すると判断した。


「――オーケー。そういう事ならあんたを下ではなく、対等な冒険者として扱おう。んで、値引きする為に何を出せる?」

「次来る時に貴族のお客さん連れて来て紹介するよ? 買うか買わないかはそっちの腕次第だけど」

 そう言ってプランはニヤリと笑った。

 ようするに、職人としての技量があるなら受けるよなという挑発である。

「ほう……。爵位は?」

「二人いて、片方は知らない。けどおっちゃんの好きそうなタイプだよ。数十キロの山を軽々と笑いながら全力疾走するくらい運動神経良いし。もう片方は伯爵令嬢って言ってたわ」

「……オーライ。交渉成立だ。あんたの挑発に乗ってやろう」

「腕には自信あるんでしょ?」

「当然だ」

 そう言って男性は挑発的な笑みを浮かべた。


「んで、二足でおいくらにしてもらえるでしょうか?」

「あんたはこの四足のうちどれが二足欲しいんだ?」

 その言葉に、プランは申し訳なさそうに端の、一番小さく軽そうな靴を選んだ。

「これ……をもう一足欲しい」

「――ああ。二足って二種類ではなく同じものもう一つって事か」

「うん。初見でこれは良い、絶対に私の足に合うなって思ったから。そう思うと交互に使う為に予備が欲しいなーって欲張りさんになっちゃって」

「良いぜ。その判断は正しい。んじゃ、この靴二足で……五割引きの大銀貨一枚だ。代わりに約束は守れよ?」

「もちろん」

 そう言って二人は握手をした。


 その握手した瞬間、背後から何やら悲鳴にも似た叫び声が響き渡った。

「何事!?」

 慌てるプランと違い、男な後頭部を掻きながら面倒そうな表情を浮かべた。

「あー。喧嘩っぽいな。時々あるんだよ……。どうしても素人が物の売り買いをするからトラブルってのは避けられないからさ」

「私ちょっと行ってくる。待っててね!」

 そう言ってプランは男が止める間もないほど速やかに、声がした方角にまっすぐ突っ込んでいった。


ありがとうございました。

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