6-11話 二人の怪盗2
これは狙ってなのだろうか……。
サリスとエージュは友人の事ながらプランの事が少しだけ恐ろしくなった。
現在、プラン達三人が握っている情報を大きく二つに分けると怪盗についてとこの屋敷内についてとなる。
怪盗についての情報源は新聞記事になった内容をクコがまとめたものとメイドの噂話から。
ここまでなら理解出来るのだが、問題は屋敷内の情報の方である。
屋敷内を取りまとめる主要人物と大まかな人数。
その位が普通調べるのに精々なはずなのに……開幕プランはまず馴染む事を第一として動く様二人に頼んできた。
それを二人は無駄な事であり誰かの為に動くプランらしいなと思っていたのだがその結果は……屋敷内の全人員数だけでなくその構成の形式から成り立ち、そして完璧なる組織図と主要人物の大まかな日常の移動ルートまで把握出来ていた。
間違いなく、三人はこの手の事には素人である。
そう、ただの素人のはずなのにここまで来ると流石に気持ち悪いと言っても良い位だ。
これが狙ってであるのならプランという存在は相当な策士だろう。
だが……もし狙ってでなくこの結果であるのならそれはきっと相当な化け物という事になる。
そして……おそらく後者であろうなと二人は思い、プランに苦笑いを浮かべた。
その張本人であるプランは良くわかっておらず、首を傾げて不思議そうに親友二人を見つめていた。
「んで、情報は出そろった。だが一つ問題がある」
そうサリスが言うとエージュは頷いた。
「まあ冒険者としては都合が良い話ですが……こう……このまま終わると小骨が喉に刺さった様な気がしますよね……」
そんなもやもやした表情のエージュに二人は同意する様頷いた。
当然の話だが、依頼には日数期限がある。
学園に通っている者である為あまり長期間仕事を受ける事は出来ず、また依頼者は見習いメイドのトレスである為当然金額もたかが知れている。
つまり……あまり猶予は残されていなかった。
流石に希代の怪盗相手に捕まえるなどと驕った事は言えないのだが……このまま終わればただ屋敷内のお手伝いをして終わるだけとなってしまう。
少しは今回の事件にかかわる何かしらをこの家の為にしておきたい。
そう三人は考え頭を悩ましていた。
「……一旦さ、情報を整理しよう」
プランの言葉にサリスは首を傾げた。
「あん? 別に整理する様な情報はないだろ。だから後やる事は夜の番をするとか……」
「誰が怪盗かわからない状態だとそれは何の意味もないでしょ」
そう言い切るプランを見て、サリスは片眉を上げて怪訝な顔をしてみせた。
「おい。その言い方だとまるでこの屋敷の誰かが怪しいみたいな――」
「いや十中八九そうでしょ。私達がいる間でさ、この屋敷に訪れた人いた? いやそれ以前に石投げる以外でこの屋敷に近づく人すらいないじゃん。この状態で外からの侵入は逆に難しいでしょ」
そうプランが言葉にし、サリスは理解したらしいが納得出来ない様な困った表情を浮かべた。
「それはそうだが……それでもこの屋敷内の奴が怪しいとは俺は思えないぞ」
「うん。私もそう思いたい。だからさ、三人で考えてみよう」
そう言葉にした後、プランは二人に一枚ずつ紙を手渡す。
そこにはこの屋敷にいる全員の名前が書かれていた。
「んでこの名簿が何なんだ?」
「そこに三人でその人が怪しいなら『×』、怪しくないなら『〇』、嘘を付いてたり誤魔化したりした様子があれば『△』の印をつけていこう。あ、フィーリングで良いよ。嘘に関しても別に怪盗とか関連じゃなくても良いから」
そうプランが言葉にするとサリスは不承不承ながら、エージュは納得した表情で二人は紙に記号を書き記していく。
それを見てプランも同じ様に残った名簿に直感で記号を書きはじめた。
プラン自身内部犯行の可能性が高いとは思っている。
とは言え、そうと言い切れる程の情報は持っておらず、また同時に思考が乱され気味で上手く考えがまとまらなくなっている。
だからこそ、プランは二人の感性を信じ頼ろうという考えに至った。
自分とは違う武器を持つ二人に。
プランは人の嘘に敏感である。
それは天性の才能というわけではなく、むしろその手の才能がからっきしのプランを心配する父から叩き込まれた唯一の貴族らしい武器だった。
元々社交性と人懐っこさはあったのだが、それ故に危ういとプランの父ダードリーは考え、生き抜く事が出来る様プランに人の事を見る目を授けた。
だからプランはその手の嘘やちょっとした敵意、悪意を察知する事は出来るのだが、そこまででありそれ以上の事はわからない。
一方サリスはその手の才能が一切ない。
というよりも本人が興味ない。
楽しく騒げる奴と騒いで、嫌な奴とは喧嘩して、もっと嫌な奴とはかかわらない。
人との交流なんてその位シンプルに行きたいと願うサリスらしいと言えばらしい。
だがその代わり、サリスには天性の超自然的な勘がある。
特に理由も兆候もなくとも唐突に『怪しい』と理解する様な、そんな野性じみた勘を持っていた。
また、エージュは生まれ持っての伯爵令嬢であり、今日この日までその様に生きる鍛錬を重ねて来た。
だからこそ、人との付き合い、人との交流がいかに大切で、それがいかに武器となるかを理解している。
社交界が戦場であると理解する正しい意味での貴族だった。
その三人が独自の視点で人物チェックを行う。
これで何かヒントが出れば……または自分の考えが否定されれば……。
そうプランは心から願っていた。
「というわけで準備も終わってー少しでも怪し気な部分のある人を語っていきましょう」
変に明るいテンションのプランに首を傾げながら二人は自分の記述した紙をプランの前に出す。
プランも自分で書いたものを出し、三人でその紙を見比べた。
「最初は全員『×』にしたオルシュタイン家の家長フラウさんだけど……語る事ある?」
プランの言葉に二人は首を横に振った。
明らかに何か隠している様で、それでいて少々疑わしい部分が残る。
確かにそう三人は感じていた。
だがそれは家長として、準とは言え貴族的立ち位置にいる者としては当たり前な話である。
むしろ隠し事のない貴族なんていればそれこそ怪しい事この上ない存在と言えるだろう。
「じゃあフラウさんは飛ばしてー。次はーあれ。サリスはガドガラさん怪しいと思ったの?」
「おう。何か隠し事してる気がする。とは言え大した事ない隠し事だと思うから飛ばして構わないぞ。正直に書いただけでこの人が悪い人とはとても思えないしそもそも何か悪事を働けるほど器用な人には見えない」
少しだけプランは考え、それが何のことか思い当たった。
おそらくだがサリスの勘づいた事はフラウの事を異性として好んでいるという部分なのだろう。
「あいあい。んじゃ続いて……二人とも自分の担当した子供に『△』つけてるんだね」
サリスはソラスに、エージュはクラウに『△』を付けている事に気づきプランはそう言葉にした。
「……んー。何と言うか……良くわからん。何か隠している様な気がするんだけど……大した事ない様な気もするし大した事なのかもしれん……」
いまいち要領のつかめない言葉の後、サリスはちらっとエージュの方を見た。
「私の方は単純でして……隠し事が大分上手くなってしまったので読み切れなくなってしまいました。何と言うか……クラウさんを相手にする時は貴族を相手にしてると思って良いと思います」
「……そんなに?」
プランの言葉に困った顔半分嬉しそうな顔半分でエージュは頷いた。
自分が教えた生徒が伸びて、そして子供が夢を掴む為の才能を見せたのだ。
嬉しくないわけがないだろう。
だが、それはそれとして嘘を上手に付ける様になったのはこの場ではあまり好ましい事ではなかった。
「まあその手の相手はプランさんが得意ですのでまたあとでクラウさんとお話してみてください」
「え? 私が? どして?」
「貴族的な礼儀と社交を学び、嘘を付き慣れただけの人でしたらプランさんに弱いので。自分を一切取り繕えなくなった私がその証明ですわ」
そう言って苦笑いをするエージュにプランは笑って良いのか謝って良いのかわからず半笑いのまま頷いた。
その後も三人はこれまで屋敷で出会った人達の事をどの位怪しい部分があるかで話し合った。
この人はこういう部分が怪しい。
この人はこういうところで嘘が見える。
そんな会話をするのだが……最終的な結論は大体皆『でも悪い人じゃないし怪盗とは関係なさそう』で終わってしまう。
このオルシュタイン家という滅びかかった家で働く者に何か悪さをする余裕がある人などいるわけがなかった。
そんな不毛でありつつも大切な語り合いは数時間に及び、そして出た結論はほぼ全ての人が怪しくないというものだった。
そしてそれはプランにとって、余り好ましい状況とはとても言えなかった。
「あれ? プラン。お前そいつにどうしてマークつけなかったのか? 書き忘れか?」
サリスはそう言ってプランの紙を指差した。
その人物の評価はサリスは『×』を付け、エージュは『〇』を付けている。
そしてプランはその人物にサリスから言われ……『☆』の記述を付けた。
「……おい。お前それ……」
「うん。……これはさ……私のただの思い込みなんだと思う。だけど……うん……やっぱりもしかしてって思っちゃうんだよね」
そう言って寂しそうに笑うプランに二人は無言となった。
サリスやエージュと比べると、その人物とプランは仲良かった。
そのプランがそう評価したという事は何かあると二人は理解した。
「……んじゃ、最後にこいつの事を探って終わろうぜ。合っていても違っていても……依頼の期限的にそこまでで後は大した事出来ないだろ」
サリスがプランの背をぽんぽんと叩きながらそう言葉にすると、プランは力なく頷いた。
ありがとうございました。




