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6-6話 こんな依頼であるからこそ誰かの気持ちを


 翌朝からプラン達三人は本格的な調査に乗り出す事となった。

 この屋敷はどういう構造になっていて何人ほどが生活しているのか。

 外部の人間はどれくらい訪れるのか。

 何時何処から来るのかわからない怪盗の妨害をする為にはとにかく情報が不足していた。

 オルシュタイン家現家長のフラウからは昨日以上の事は何も教えて貰えていない。

 それは決してフラウが非協力的な訳ではなく、ただ単純に情報がないからである。


 前当主である予告状を受け取ったバダフガンナとの婚姻関係にあるフラウは逮捕された件の人物と接触する事が出来ず、また詳しい事情を知っている人に聞く事すら許されない。

 その為二人いる怪盗のどちらに、何を狙われているのかすら判明していなかった。

 その上噂話などの情報すら嫌われ者となったオルシュタイン家には入ってこない。

 ノスガルドという国は正義を国是としている。

 故に、裏切りを行った者は記者、兵士、市民あらゆる立場を問わず皆が恐ろしいほどに冷たい目を向ける。

 そんな理由で今を生きるのにいっぱいいっぱいな現オルシュタイン家がわかっている情報は少なく、また調べる余裕すら最低限以下の人数で碌に掃除も行き届かないこの家には残されていなかった。


 だからこそ、フラウは代わりにプラン達にこの屋敷内でのあらゆる調査の自由を与えた。

 オルシュタイン家の内部であるならあらゆる場所を通行出来、仕事をしている人達から何でも聞いて良い。

 本来なら隠すべき金庫の中であろうとも、恥そのものである現在の帳簿も、全て余すところなくである。


 ただし一つだけ……何を調べても構わないがバダフガンナの罪状だけはフラウはプラン達に出来たら閲覧しないよう『お願い』をした。

 オススメはしないが隠しはしないので必要であるなら見ても良い。

 だが、若い女性が見るには少々以上に酷な内容が多く、そんな物を見て傷ついて欲しくない。

 そういう世界があると出来たら知らないで欲しい。

 そうフラウから懇願する様言われた以上、三人はそれを見る気もその事に触れる気もなかった。


「つーわけでさ……どこから調べる? 危険はないだろうから三人で手分けした方が良いだろうけどさ……仮にも貴族クラスのお屋敷だからな。場所に人にと調べる場所結構多いぞ」

 そうサリスが言うと横でエージュも頷いた。

「ええ。同時に外部の情報も必要かと思います。怪盗についての詳しい情報やオルシュタイン家の外からの事も詳しく調べた方が良いかと」

 そんなエージュの言葉にプランは頷いた。

「そうだね。でもさ、一つ良いかな?」

 そうプランが言うと二人はプランの方に注目した。


「いやさ……そりゃ当主様直々の調査権だからさ、皆言う事聞くよね?」

「ああ。そりゃそうだ。一番偉い人がそう認めたからな。それがどうしたんだ?」

「でもさ、そんな理由で外部の人が調査に来て根掘り葉掘り聞きに来て……ここの人達良い気がする?」

 その言葉に二人は黙り込んだ。

 外部の人間がしゃしゃり出てきて、ただでさえ仕事の邪魔なのに興味本位程度で家の恥をほじくり返してくる。

 良い気がする訳がない事など考えるまでもない。


「……言いたい事はわかりました。では、出来るだけオルシュタイン家内を調査しない方向で……」

 そうエージュが言うとプランは首を横に振った。

「ううん。逆。むしろこの家の人に色々聞かないと話が始まらないよ。調べるのならこの屋敷を中心にして良いと思う。だからこそ……まずは馴染まない?」

 笑顔でプランがそう言葉にしてもその意図が上手く伝わらず、サリスとエージュの二人は首を傾げた。


「はぁ。まあた意味わからない事しようとしてやがるな。……ま、お前のソレは嫌いじゃない。ほれ。考えてる事早く言え。俺らに何して欲しい?」

 そんな諦め半分期待半分でサリスが言うとプランはえへへと笑い、何をすべきかを二人に伝えた。




 清掃の手が足りず埃が見え隠れするオルシュタイン家であっても、内部にある庭園だけは今も昔の栄えていた頃と変わらず美しいままだった。

 年中花が咲くこの美しい世界は今の衰退しつつあるオルシュタイン家の内部とはとても思えず、まるで隔離された空間の様だった。

 当然この庭園を管理するには多くの手と相応の予算がかかる。

 だから今のオルシュタイン家では本来維持できるものではなかった。 

 それでもこの空間が残されているのは、ほぼ無給となりそれどころか自費で資材を買い足している職人達がいるからに他ならない。

 ではどうしてその様な事をしているのかと言えば……話は単純である。

 ここしか居場所がない子供達がいるからだ。


 オルシュタイン家の責任を負わされてしまい、外部から隔離し護る為この庭園位しか遊び場のない……そんな子供達が……。




 オルシュタイン家として生まれた……いや、生まれてしまった子供、長女クラウと長男ソラス。

 そんな二人の内の一人、オルシュタイン家長男のソラスは今、キラキラした目をしてヤンチャ盛りとはとても思えない程に真剣に、素直に動かず話を聞いていた。

 子供の目からすれば父親が悪者で連れていかれて二度と会えないなんてどれだけマイルドにして聞かされたとしても絶望し悲しみの余りに泣き喚いてもしょうがない状況である。

 実際ほんの少し前までは大人しくしていたり変にイライラしていたり、意味もなく泣いていたりと心配になる様な症状が多く出ていた。


 だが、今は笑っていた。

 心の底から、本当に久しぶりに。

 そのソラスに話を聞かせているのは乱暴者の荒くれ者、山猿だのゴリラだのと言われ続けるサリスだった。

「というわけで冒険後の酒場でセクハラしてきた仲間の腕へし折ってから俺は冒険者学園に行ったってわけだ」

 そう自分の他人に聞かせるには宜しくない武勇伝を語るとソラスはぶんぶんと何度も首を縦に振った。

「サリスは強いんだね!」

「おう。腕力はボチボチ、体力ならかなり自信あるぜ結局最後に物を言うのは体力だ」

 そう言って自分をびしっと指差すサリスはやけに男気に溢れていた。

「サリスはおっぱい大きくてなんかエロいのにめっちゃ男らしいね」

「あははははは誉め言葉として受け取ってやるよ」

 そう答え、サリスはソラスの頭をぐりぐりと撫でまわした。


「にしてもソラス。お前どしてまた冒険者の話なんて聞きたいと思ったんだ? 冒険者になりたいとか?」

 その言葉にソラスは少し考え、そして微笑んだ。

 少し寂しそうに、それでいて深い思慮が見える、そんなとても少年が浮かべるに似つかわしくない笑み。

 それを見てサリスはソラスも強く苦しんでいるんだと理解した。

「確かにそれもあるけど……僕んち貴族じゃなくなるんでしょ?」

「……ああ。お前の母ちゃんはそう言ってたな。名誉貴族返上するって」

「お金もたぶんあんまない、人もいっぱいいなくなった。僕の世話係だったメイドさんもう一人もいないもん。もしかしたらここを出ていくかもしれない。でしょ?」

 サリスは何も言えなかった。

 気軽に答えて良い問題ではない上にどう考えても悪い風になるとしか思えない問題だったからだ。

 それでも、ソラスは曖昧ながら微笑んで見せた。

「だから僕はお金を稼がないと。嫌われ者の我が家が出来る仕事なんてそんなないでしょ? そしてお母さんとクラウを助けてあげるんだ」

 そう言葉にするソラス。

 気軽な、子供らしい言葉。

 背負えない責任を軽く背負えると思っている夢見がちな言葉。

 だがそれでも、その心は尊く気高いものだとサリスは感じた。


「……稼ぐだけなら他にも方法ある。色々考えてみろ。冒険者ってのは簡単に大金稼げる職業ってわけじゃないからな」

「そうなの? 当たれば一攫千金みたいな風に考えてたけど」

「どっちかと言えば安月給のその日暮らしの方が近いぞ。……俺らは割と恵まれている方だがな」

 そう、新人冒険者など本来金に苦しむのが当然である。

 だが、サリスはそんな事なく苦労は多くとも金に困った事は学園に入ってから一度もなかった。

「へー。どうして? やっぱり強いから?」

「いんや。俺だけならまあ生きていくのは余裕だがその程度だっただろうな。単純に……ダチに恵まれたんだよ」

「ふーん。……ズルいや。僕もそういう友達がいたらな……。そしたら家族を守れるのに」

 そう言葉にするソラスの頭をサリスは撫でた。

 今度は優しく、慈しむ様に……。


「ま。そのダチに頼ってやるさ。お前が本気で何とかしたいなら助けてくれるよ。家族を養える位給料が貰えて危険のない仕事を紹介してもらえる様に……。俺のダチはマジで凄くて……そんで眩しいからな」

 そう言ってサリスはにかっと満面の笑みをソラスに向けた。

 ソラスに取ってみれば、その笑顔こそが眩しくて……恥ずかしくてずっと見ている事が出来なかった。




 庭園で自分の弟が他所から来た女性に剣を習う姿を自称淑女であるクラウは紅茶を片手に優雅に見つめていた。

 剣遊びをする弟を微笑ましく、子供を見る様な目で見つめる紅茶の似合う素敵なレディ。

 そんな自分にクラウは酔いしれている。


 実際の話で言えば、そもそもソラスは完全なる双子でありクラウにとって弟というわけではない。

 ただお姉ちゃんぶりたいから弟扱いしているだけである。

 むしろ必死に背伸びし自分を立派な淑女(レディ)扱いするクラウの方が幼いと言っても良いだろう。

 クラウが大人びているというのは純粋な事実ではあるのだが、やはりそういった背伸びを頑張る辺りが微笑ましい子供であった。


「美味しいですわね」

 そう言葉にする対面のエージュにクラウは微笑み頷いた。

「はい。もちろんですお姉さま」

 クラウはそう答えた。


 当然だがエージュが姉というわけではなく、そう呼びたいだけである。

 ソラスが冒険者に憧れを抱く様に、フラウもまたハイソサエティな世界、要するに貴族の世界に憧れを抱いていた。

 そこに現れたのが実際に伯爵令嬢な上外見も貴族令嬢らしさ抜群でお淑やかなエージュである。

 その姿はフラウにとって正しく理想の姿であった。


「ええ。まあ私が淹れた訳ではないので私が言うのも変な話ですけどね。それでもやはり美味しいですわ」

 そう言ってエージュは苦笑を浮かべ、自分の紅茶を傾けそのクオリティの高さに苦笑いを浮かべる。

 そんな姿もまた様になっており、フラウはほうっと溜息の様な声を漏らし羨望の眼差しをエージュに向けた。


「それでクラウさんは社交会について教えて欲しいという事でしたか?」

 エージュの言葉にクラウは何度も首を縦に動かした。

 その姿は完全に散歩前の犬である。

「はい! 貴族の付き合い方とかどういう生活を送っているのとかそう言う事が知りたいです」

「ええ。良いですよ。確かに綺麗な世界ですから。でも……正直綺麗なだけという訳でも……」

「あ、それはわかってます。ママの様子見てたら大体は。だってパーティーの次の日大体眉間がこんなんになってましたもん」

 そう言ってクラウは自分の眉間を指でこれでもかと寄せしかめっ面を作ってみせた。

「くすっ。それをご当主様の前ではしない様にしましょうね。流石に悲しみますから。それで……それを知ってもまだ貴族に憧れるのですか?」

 その言葉にクラウは頷いた。

「はい。綺麗な世界、優雅な世界を維持するその裏にある陰謀渦巻くドロドロした世界。それをふまえてもやはり私の憧れは止まりません」

 ただ憧れだけでなく、濁った部分も含めて認めその上で憧れる。

 そこだけは確かにクラウは大人びていた。

「……最近の子供って皆こうなのでしょうか。私の子供の頃はもっと単純で……適当だった気がします」

 少々以上に困った顔でエージュはそう言葉を漏らした。

「それに……私はほら。もうすぐこの家貴族じゃなくなるじゃないですか。だから尚の事憧れるのだと思いますわ」

 オルシュタイン家に与えられた名誉貴族という称号。

 それは何もなければクラウかソラスが手にするはずだったもの。

 だからこそ、クラウの心は未練となり恋い焦がれていた。

「クラウさん……」

「ほら。お母さん嫌そうだったしソラスはあんま向いてなさそうだったから私がやるんだってずっと思ってただけですけどね。ついでに言えば貴族ならお金困らないだろうなーっていうちょっと自己中心的な考えもあります実は」

 そう言ってクラウは恥ずかしそうに笑って見せた。


 金銭目当てな事を笑えるわけがない。

 責められる訳がない。

 何故ならそれは……クラウがお金の事を考えているのはどう考えても家族の為なのだから。


「……本気で貴族に憧れるのでしたら嫁入りという手もございますよ」

 そうエージュが言葉にするとクラウはあははーと笑って手をパタパタと振って見せた。

「またまたー。貴族様はそういう家柄同士で結婚したりするんでしょ? 流石にそれ位知っていますよ」

「いえ。それだけではありませんよ。確かに公爵家などはそうですし伯爵家も大体家柄も重視します。ですが子爵や男爵なら家柄を重視せず別の物を重視するお家も多くあります。また悪名が薄れた頃になれば元名誉貴族というのも十分な資格とも言えますし」

 その言葉にクラウは食い付いたと表現して良い程興味を持ちエージュの方に身を乗り出した。

「んでお貴族様が庶民を拾う時は何を重視するんです? 美貌? 博識さ? それとも料理の腕?」

 その言葉にエージュは苦笑いを浮かべ首を横に振った。


 本来ならこんな話子供にする話ではない。

 わかっているけれど、エージュは同情と少女からの羨望の眼差しによりこの時口が軽くなっていた。


「人柄ですわ。欲に溺れ家を潰さない様、()()家を守れる様な、そんな人柄が重視されます」

 その言葉にクラウは苦笑いを浮かべた。

「じゃあ私は駄目だ。家族に仕送りしたいっていう一番駄目な金銭欲に囚われてるもん」

 その言葉にエージュは微笑み首を横に振った。

「良いんですよそれ位。むしろその程度の欲を持った人の方が男性には好まれるらしいですわよ。私はまあ……そういう経験御座いませんが」

 実際エージュの目から見ても家族思いな優しい少女に映るだけでそれがマイナス点にはとても見えなかった。

「え? そうなの? 俺の稼いだお金を無駄にする奴が許さないみたいな理由じゃないの?」

「いいえ。クラウさんの状況で例えるならオルシュタイン家を再興する為に旦那の家から財産、人脈、コネ、全てを奪う。そんな事を狙う様な人が嫁に来るのを下の方の貴族方は恐れているのですよ」

「……そんな人いるの?」

「残念ながらそれ相応に。特に貴族のなり立てには取り入ろうとそういう人間がうじゃうじゃと……」

「……何で……何でなんだろ。家を大切に出来ないのに何でお嫁さんに行くんだろ……」

 そう言ってクラウは悲しそうな表情を浮かべた。


「……まだ時間はあります。ですが早ければ早い方が良いですわ。もし本当に貴族に嫁入りしたいのでしたら早めにご決断を。貴族にしてあげる事は出来ませんが……その手助けをする事は私が、いえ私達が出来ますわ」

 そう言葉にした後エージュは会話で疲れた喉を癒す為、置かれていたカップを手に取りそっと傾けた。


 そんな仕草を見てクラウは我に返り、カッコいいので真似しようとしたが……自分のカップは空になっていた。

 思ったよりも美味しくて一気に流し込んだ事を思い出し、クラウはそっと手を上げ淑女らしからぬ声を出した。

「すいませーん。紅茶のお代わり下さい!」

 そう言葉にしてクラウは紅茶を美味しく淹れるメイドを呼びつけた。

 それに対しメイドはパタパタと慌ただしく走りながら二人の元に移動した。


「はいお嬢様。少々お待ちくださいね」

 メイドは手際良くティーポットを使い、新しいカップに紅茶を注ぎクラウの前に出した。

「どうぞお嬢様」

 そう言葉にしながらメイドはクラウの前のカップを片付けた。

「別に前のカップで良いのに」

 そう言葉にしてからクラウはエージュのまねをする様に背筋を伸ばして紅茶のカップを傾けた。


「ここは快適な上少々涼しいので」

 そう言葉にするメイドにクラウは首を傾げた。

「どういう事?」

「お花が上手く育つ様に……。そしてここに来る方が快適に過ごせる様にこの庭園は涼しめになっているんじゃないですか?」

 そんなメイドの言葉にクラウは頷いた。

「うん。そうね。それがどうしたの?」

「ですので空になったカップは早く冷めるのですよ」

「ふむふむ」

「実はですねお嬢様、美味しい紅茶を淹れるには温めたカップが必須なのです」

 指を立て内緒話の様に呟くメイドの言葉にクラウは驚きの声を上げた。

「へー! だからわざわざ新しいカップを温め直して用意してくれたのね。ありがとうメイドさん」

「いえいえ。これがお仕事ですから」

 そう言葉にするメイドを、エージュは珍しくしかめっ面となってじーっと見つめた。


「……それでプランさん。さきほど紅茶を淹れて下さった時からずっと気になっていたのですが……一体何してるのでしょうか?」

 そう紅茶を淹れるのが上手なメイドに話しかけるとメイドさんことプランは首を傾げた。

「え? メイドさんだけど」

「それは見たらわかりますわ。どうしてメイドさんをしているのか聞いているのです私は……」

 わなわなと震えながらそう言葉にするエージュにプランは困った顔を浮かべた。

「だってサリスとエージュどっちも子供の相手をするのが上手じゃん? 私も何かしようと思ったけどしゃしゃり出る事が出来そうにないほど仲良くなってるし。じゃあ私も出来る事しようって思ったらさ……やっぱこれでしょ。そりゃ本職のメイドさん達には負けるよ私。お手伝い程度だもん。それでも私もそれなりにメイド歴あるし」

 どういってふんすと胸を張るプランにエージュは何と言って良いのかわからず頭を抱えた。


「とりあえず……ほどほどにしてくださいまし。私達は外部の人間ですのであまり派手に仕事をしすぎると恨みを買う恐れが……」

「うん。とりあえずオールワークメイドさんの下のお手伝いって役割貰ったよ。つまり下っ端の中の下っ端だから大丈夫」

「ええ。その様に大人しくしてくださいね。恨み云々の前にプランさんはやりすぎるフシがありますので……」

 そうエージュが言葉にしたと同時に、二人の子供がその言葉に興味を持った。


 傍で話を聞いていたクラウと、訓練疲れで喉が渇いてこっちに来たソラスである。


「何何、このメイドさん。何か凄い事が出来るの?」

 そうソラスが言葉にするとプランは首を横に振った。

「んーん。ちょっと掃除が得意なだけで前ここにいたメイドさん達よりも私はまだまだ未熟だよ」

 そうプランが言葉にすると、傍にいたエージュとサリスは同時に手を横に振った。

 実際プランの技術はオールワークメイドが元となっている為本職の、特化したメイドの足元にも及ばない。

 しかし同時に、オールワークメイドとして、つまりあらゆることを手広く素早く行うという意味ならプランは本職と同等かそれ以上であった。

 特にその速度が尋常でない事を知っている二人はそう言葉にするのだが……プランには伝わっていない。

 昔いた場所のメイドは皆この程度軽くこなしていたからだ。


「……メイドさんは大した事ないと言ってるけど、二人は凄いって言ってる。どう思うクラウ?」

 ソラスの言葉にクラウは考え、両手を横に広げ溜息を吐いた。

「わからないわ。このメイドさん初めてみるもん」

「だよね。実際に見てみないと」

「そうねソラス。実際にやって貰わないとわからないわ」

 そう言葉にし、二人の子供はプランに期待の眼差しを向けた。

 キラキラした綺麗な瞳で、ドキドキと期待を胸に秘めた様子を見せる少年少女。


 その瞳を見て、プランが応えようとしない訳がなかった。


「よし! じゃあお姉さん……じゃなくてメイドさんはちょっと本気で頑張っちゃいましょう!」

 プランがそう言葉にするとサリスは楽しそうに笑い、エージュは困った顔で苦笑いを浮かべた。




 その日――久方ぶりにオルシュタイン家から埃という存在が全て消え去り屋敷はまるで新品の様に光り輝いた。

 そして本題である依頼の事を忘れて掃除に全力を注いだプランは夜二人に軽く窘められ……ほんの少しだけ反省した。


ありがとうございました。

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