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6-1話 遅れて来た地獄の依頼料


 その日、集まった者達は皆同様に絶望的な感情を胸に抱いていた。

 ある者は現実が理解出来ず茫然とし、ある者は己が愚かな行いの所為でこうなったのだと後悔した。

 ある者は少しでも状況を改善しようと知恵を絞りだそうするが何も出来ずに黙り込み、またある者は我関せずと目を閉じる。

 そんな悲惨な現状に陥っていた。


 何か悲劇が起きたのかと言えばそんな訳でもなく、むしろ嬉しいハプニングであると言っても良いだろう。

 彼らもこれ自体は非常にありがたく思っている。

 だが……それはそれとして絶望的なまでに困る事に変わりはなかった。

 これは彼らの日常とはかけ離れた現状であり、同時に彼らの対処出来るキャパシティを遥かに超えた事態でもある。


「どうしよっか……これ……」

 この場には数人いるはずなのに、プランの呟きに答える声はなかった。


 何が起きたのかを一言で言えば以前解決した依頼の報酬がようやく払われたのだ。

 アップルツリーに住み着いた軍人崩れの盗賊をプラン達はガダルスナ町長シュウ達と協力して討伐。

 色々慌ただしかったり困ったり悩んだりとあったが、それでも何とか依頼はこなす事が出来た。


 この事件は表向き以上に複雑な事情が渦を巻き、教会を中心に色々な意図や目論見が混ざった為本来少人数で成し遂げる様な依頼でなく、また腕利きに任されるかそのまま軍が受けもつ様な依頼である。

 そんな事件をそれなりとはとても言えない様な活躍をした為ある程度支払いが多くなるのは多少は理解出来る。


 だが……この量は予想外としか言えない。


 現在プラン達八人、プラン、サリス、エージュ、テオ、ヴェインハット、ミグ、ヴェルキス、クコは学園敷地内の大広間にいる。 

 本来ならば貴族や豪商などとの密約に使う様なその場所に学生が入る事はないのだが、今回は特例である。

 要するに……用意された報酬はそういう想定外な額だった。


 詳しい金額は誰も把握できていない。

 だが、足元から自分達の背よりも遥かに高い硬貨の入った袋を見ればそれが尋常なものでないという事は理解出来る。

 白く綺麗で恐ろしいほどに丈夫な布で作られた十人位入りそうな布袋。

 その中身の硬貨は銅でも銀でも大銀でもなく、当然金貨である。

 一枚あれば軽く一月は暮らせるというあの……。


 流石にこの金額となるのは誤算すぎる。

 規模と支払いの予想で言えば金貨三百辺り。

 多くても一人頭金貨五十枚程度でありそれに消耗した物資の補給と考えていた。

 だが、これはその額の十倍ですらないだろう。

 雑に重ねられている為見た目ほど多くないとしても、それでもとんでもない量である事だけは確かである。

 どう考えても多すぎた。


 更に言えば、想定外であった事態なのは額だけでない。

 報酬が八人全員分一まとめになってくるというのもまた彼らにとっては予想外な出来事であった。


「……シュウさんに……任せたんだけどな……」

 プランはそうぽつりと呟くと、ヴェインハットが顔は見えなくともわかるほど罪悪感を全身で表現していた。

「……俺が……この前あった時ちょっとシュウさんに茶々入れたからもしかしたらこんな事に……」

「おい馬鹿何言いやがった?」

 サリスがそう尋ねるとヴェインハットは申し訳なさそうに呟いた。

「こう……ちょっと気軽な冗句が言える場で『町長さん有能で真面目なのに下半身は制御不能なんですね』と……」

「俺もその場で悪のりして『隠し子何人いるんですか? 子沢山で羨ましいですね』って全力で煽った」

 クコが苦々しい顔でそう呟くとサリスは盛大に溜息を吐いた。


 だが、この二人を恨む様な気持ちの人物はこの中にはいない。

 皆が一度は同じ事を、助けた少年が隠し子であると知ってからいじろうと考えていたからだ。

 この二人の在り方は一歩違えば自分であった可能性が非常に高かった。

 あのプランですら、何か言ってやろうかなどと考えていた位である。

 その事に文句を言うつもりはないが、この状況がどうしようもないという事実だけは変わる事はなかった。

 プランは何時も通り机でうたた寝しているミグが心の底から羨ましかった。




 事実だけで言えば……シュウはその事に慌てふためきはしたが怒ってはおらず、そしてこの一まとめの金貨も決して嫌がらせのつもりではない。

 この様なプラン達が困り果てる様な状況をシュウが生み出したのは事実だが、それはただの、シュウの受けた言葉からの誤解でしかなかった。


 依頼の際、プラン達がシュウに頼んだのは報酬を中心とした金銭管理の処理である。

 シュウは今後の事を考えてある程度自分達で町を守ったという功績とその為に使った金額の請求をしたいが為に色々と暗躍していた。

 だからこそプラン達は本来ならば依頼を自ら受け解決した冒険者であるのだが今事件で言えば町への協力者という格下げともなる形となっている。


 それは目立つ事を避けるというメリットもあったが同時に依頼によって発生する功績、名誉の大半はシュウが受け取る為はっきり言えば損である。

 その代わりとして、シュウに報酬を適切に分配して貰うと頼んでいたが今この金貨の山を見るほどとは思っていなかった。


 一方シュウは冒険者達はほぼ全面的にこちらの要求を全て飲み、他の町、村の扇動など難しい役割もこなしてくれ、そして隠し子であったとしても大切な子供の命を救ってくれた。

 口では決して言わないがシュウは心の底から彼ら冒険者に感謝していた。


 そんな冒険者達が『信用するから金関連は任せた』と言ってきたのだ。

 例え鉄面皮で、損得勘定を第一とし、自らの街の為なら何でもする男だとしても燃えないわけがなかった。


 そう、シュウの心は燃えていたのだ。

 完全なまでに話を誤解した上で……。


 プラン達の考えていた事はこうである。

 シュウの目線、立場なら八人がどれくらい仕事をしたかわかるはずだから受け取るべき金額を正確に用意しその通りに払ってくれるだろう。

 例え幾ばくか中抜きがあったとしても、それは間違いなくあの町の為に使われるだろうから別に気にしない。

 彼らはシュウが金を抜かないと思っているわけではない。

 シュウならば、抜くにしろ抜かないにしろ適切とし皆が納得できる分配をしてくれると信じていた。


 一方シュウの考えはもっとシンプルである。

『金関連は任せた』

 その言葉を聞いたシュウは少しでも多くの報酬を貰いたいという意味だと受け取っていた。

 まさかわざわざ自分に頼んできたのだからただ分配するだけなわけがないだろう。

 そうシュウは思い込んでいた。


 そしてシュウは――やり遂げたのだ。

 冒険者達にヘイトが行かない様場の流れを調整しつつ、中央政府、つまり王直属の人間を動かし同時に依頼を用意した側であるクリア教をも巻き込んだのだ。

 恐るべき手腕と話術により政府と教会をそこはかとなく対立さえ、お互いがプラン達に対する報酬を吊り上げる様競い合う形を取らせた。


 シュウの策略は予想以上に上手く事を運んだ。

 元々教会の上層部は今回が神からの依頼であると知っており、それを彼女達が見事成し遂げた事も理解している。

 だから金額の上限は非常に緩い。


 そしてそんなゆるゆるでガンガン値段を吊り上げる教会を見て、事情を上から教えて貰っていなくとも政府に所属する内政官は教会に対抗意識を強く燃やした。

 信賞必罰を良しとする政府としてここで負けるわけにはいかなかった。


 そしてその結果が……この金貨の山である。

 この額が出た事はさすがのシュウも驚きを隠せなかったが、同時に仕事を成し遂げられた奇妙な満足感も覚えていた。

 故に、本来なら貸金庫にでも預け小切手を渡せば良いだけなのに……わざわざ護衛を雇い安全を確保した上で金貨を学園に運びこんだのだ。


 これに関してシュウは決して嫌がらせをしているわけではない。

 ただ……シュウの中でプラン達というのは新人冒険者ではなく金程度に困りはしない一流冒険者であった。

 その様な上向きな誤解が幾つも重なり、今現在この有様である。




「はいというわけで提案です!」

 皆が困り果てる中、プランは混乱しない為金貨を見ない様にしながらびしっと手を挙げた。

「はいプランちゃん」

 ヴェインハットが何故かそう返事をし、皆が一同にプランに視線を集中させた。

「えっとね、こういうのってやっぱり仕事をした人が一番貰うべきだと思うの」

「そりゃ間違いない。だがな、問題はそれを誰がどうやって判断するかだ」

 テオがそう言葉にすると横にいるクコはこくんと頷いた。

「ああ。特に俺は長い事倒れていたからその間の事を言われても何も言えない。お前らもずっと一緒だった訳じゃないだろ?」

 そうクコが言葉にすると、プランは頷いた。

「うん。何してたか、どう役立ったかなんてわからないね。だからさ、もう強さ順でいんじゃない?」

 プランの言葉に全員が沈黙し、そしてしばらく経ってからクコはぽつりと呟いた。

「……悪くない発想だ。強い奴ならいるだけで仕事した事になるし出来る事も多い。その発想は案外否定出来ないな」

 そう言葉にし、全員の視線はプランからヴェルキスに注がれた。

「は? 俺?」

 全員の視線に冷や汗を掻きながらヴェルキスはぽつりと呟いた。


「……冒険者の先輩で魔剣保持者。うん。誰よりも多く貰う権利もありゃこれを分配する権利もあるわな」

 そうクコが言葉にするとヴェルキスは慌てて首を振った。

「待った待った! 俺はそこまで活躍していないし」

「……何言ってるんだ?」

 クコとテオはヴェルキスに対してジト目で見ながら同時にそう言葉を放つ。

 それには理解出来ないという気持ちと実力に対するやっかみが混ざっていた。


「いやまじで。そもそも活躍という意味でも強さという意味でも今回はミグが凄かった。横で見ていた俺が言うんだから間違いないって!」

 そうヴェルキスが大人としてあるまじき責任の丸投げを、それも少女に対して行うと全員の視線先がミグに移り変わった。


「私?」

 眠そうな顔で自分に指を差しそう尋ねるミグ。

 それに対しヴェルキスは何度も首を縦に動かした。

「ああ。恐らく単独で最も強かったのが俺達の戦ったあのガラの悪い男だ。そいつを実際倒したのはミグだしそもそも俺は何度も命を助けられた。だからMVPはミグだ。間違いない」

 そうどことなく正論に聞こえる言葉を言い放つヴェルキス。

 だが、言葉自体にも思っている事にも嘘がない為その言葉には強い説得力が含まれていた。

「……ま、待った! さすがにミグちゃんに押し付けるのは駄目だよ先輩」

 ある事実に気づきプランは慌てた様子でそう言葉を取り繕うが、既に流れと主導権はミグに預けられた後でその行動に意味がなかった。


 そう、プランは気づいてしまったのだ。

 ミグに選択が委ねられるという事は……。


「……ん。じゃあ……めんどくさいからプランに任せる」

「ほらやっぱり戻って来た!」

 プランは頭を抱えてそう絶叫した。

「……あ。私報酬いらないしその分プラン持ってってね」

「悪化してるじゃないですかやだー!」

 そう叫び、プランは縋るような瞳で周囲を見つめる。

 ある者は目を逸らし、ある者はニヤニヤしたまま反応を見せず、またある者はそんなプランに憐れんだ表情を向ける。

 だが、誰一人として助け船を出そうとはしなかった。


「……あ。いるじゃん。良い人が」

 そう言葉にし、プランはニヤリとした瞳でじーっとクコの方を見つめた。

「あん? 俺は長い事倒れていたから貰う額は一番少なくて良いぞ」

 そうクコは言葉にした後、しまったとばかりに顔をしかめる。

 本人もすっかり忘れていたが、クコが今に残るまでの大怪我をしたのはそれ相応の理由があった。

「そうだね。私達を助ける為に犠牲になって大怪我したんだよね。ねーサリス」

 その言葉にサリスはニヤリと笑った。

「そうだったな。プランだけじゃなくてあの時一緒だった全員がクコのお陰で今生きていると言っても過言ではないなー」

「そうそう。ついでに言えば怪我って事はほら? 手当とかも出るべきじゃん? んでその分コレ上乗せされてるじゃん? つまりさ……」

 そんなプランの言葉に全員がクコの方を見つめる。

「ほら。まずは自分の受け取るだけの金額を決めろよ。なぁに、半分持っていくって言っても誰も怒らないぞ」

 ヴェインハットはそう言いながらクコの背をドンと強く押した。


「何でお前らこう言う時に限って無駄に頭の回転が早いんだよ……」

 クコは顔を顰めながら盛大に溜息を吐いた。


 その後、結局煮え切れずにクコも自分以外の誰かに押し付け、再度醜い押し付け合いが始まった。

 莫大な金貨の前で八人は何時もの様に馬鹿なやりとりに費やした時間は実に二時間を超えていた。




「……なあ。なんで俺ら金の押し付け合いをしてるんだ?」

 ここに来てからおよそ二時間後、ふと冷静になりテオがぽつりとそう呟いた。

 お金がいらない様な人などこの中には誰も……ミグ以外の誰もいない。

 この莫大な額を管理するのが嫌ではあるがそれでも多く貰いたいという気持ちはある。

 だがいつからか話の本題はいかにして金を押し付けるかに変わっていた。

 本筋が変わっているのだから答えなど出るわけがなかった。


「……提案。もうこの際何も考えず金額平等に分けよう」

 サリスがそっと手をあげそう言葉にした。

 実力差もあれば活躍した度合も違うのだが、それでもこれ以上話し合っても決まる気配がない。

 ならばこれが一番マシだろうとサリスは考えた。

 それに無駄話と大金を前にした緊張と興奮から全員が相当な疲れを感じており、無駄な会話でこれ以上疲弊すれば何となく最悪の選択を皆がしてしまいそうだったからだ。


 そして、サリスの提案に誰も意義を唱えなかった。


「んじゃ俺からも提案だ。学費、寮費その他もろもろにそのままこの金学園に預けようぜ」

 クコはそう言葉にした。

「そりゃ良い。金を管理しなくても良いし金を使いすぎる心配もないってわけだ。だけどこれ多すぎないか?」

 そんなサリスの言葉にクコは首を横に振った。

「いや。学費もべらぼうだが他にも図書室を含む施設使用料もやばい。あと教員に直接指導を頼めばその分もかかるしな。それらひっくるめて全部先払いに出来る。それなら二年分かそれ以下になるだろ。かなり高額な先生に頼めば一年すら保たないだろう」

「なるほど。そう言う事なら俺としては反論はないぜ」

 サリスの言葉に皆が同時に頷いた。


「あ。じゃあ俺の分は良いわ。俺その辺り大体払い終わってるし」

 そうヴェルキスが言葉にすると全員が同時にジト目でヴェルキスの方を見つめた。

「……ヴェル先輩の分はそのまま現金で」

 プランの一言にヴェルキスを除いた全員が頷いて答えた。


 そのまま話を煮詰めていき、先に治療費や使用した道具の補填や武具の修復や買い直し等の金額を受け取った後そっくりそのまま八当分して七人はそのまま学園に預け、ヴェルキスのみどこかの金庫に預ける事となった。

 と言っても新人冒険者が使った額などたかが知れており、全員が金貨一枚あれば全然元が取れる程度だった。

 唯一の例外はヴェルキスが使った薬の分位であり、それは後に全員で分割し払おうと決めていたのだがここでヴェルキスはそれを拒否した。

『俺が助けたという満足感はどんな贅沢よりも贅沢なもんだ。だがその分金を貰ったらさ、俺が助けたと言えなくなる。それだと心から満足出来ないだろ?』

 そんな言葉をのたまい、先輩としてというよりは浪漫ある冒険者としてかっこつけたいという優しくも傲慢な理由でヴェルキスはその分の補償は一切受け取らなかった。

 ただ、ここだけはヴェルキスは折れず、またサリスはクコ、テオがそのヴェルキスの在り方に同意した。

 ヴェルキスは無駄な意思を貫いて小さな満足感だけを受け取る為に薬の代金を受け取らなかった。

 そんなヴェルキスだからこそ、先輩冒険者として皆が尊敬する事が出来た。


 そしてその後にプラン達は学園の受付担当の人を呼び、金貨の入った巨大な袋をそのまま学費含む諸経費として振り込む旨を伝えた。

 元々貴族用だからか防犯は完璧な上秘密の経路もあり、山の様な大きさで人が持てる限度を遥かに超えた金貨だがそのままどこかに運び出された。

 と言っても、流石に受付の人が運ぶ事は不可能で男性事務員らしき人物二十人ほどでその袋は運び出された。


 そしてそこから待つ様指示されてぐだぐだしながら待って一時間、一枚だけ金貨が返却された。

 端数である。


「……これ、どうしよっか?」

 プランがくるくる指で金貨を弄びながらぽつりと呟いた。

 本来ならばたった一枚でも莫大な金額であるはずのガルド硬貨なのだが……今だけは何故か玩具の様にしか見えなかった。

「依頼を受けたのもプランだしプランが取って良いと思うぞ。なあ先輩?」

 テオはそう言いながらヴェルキスの方を見た。

 ヴェルキスも当然頷いた。


「んーでもなぁ……」

「まあ良いんじゃね。聖女様なんだしそれ位役得あっても」

 学園から用意された支払い領収証の中身を人数分確認しながらクコがそう呟きいた。

 最初はその言葉にプランは気にせず金貨をいじっていたが、途中変な言葉が混じっている事に気づきプランは顔を上げクコを見つめた。

「ちょっと待った。聖女様って何?」

「あん? ……ああ。知らないのか」

 そう呟き、クコはほんの僅か哀れみが混じった瞳をプランに向けた。

「うん知らにゃい。どゆこと?」

「ほれ? 今回の依頼でお前町の扇動役になっただろ?」

「うん。言われるがままに叫んで、言われるがままに動いて一緒に戦って欲しいって願うだけの操り人形になったね」

 その言葉にクコは苦笑いを浮かべた。

「んで後になって参加した民衆が旗頭になったお前を探したんだよ。お陰様で助かりましたってお礼を言う為にな」

「ほうほう。それでどうなったの?」

「シュウも元々いないはずの町民をでっちあげたもんだから当然見つかる訳がない。そもそもプランの姿を覚えている者自体少なかった。だからこそ……噂が独り歩きした」


 町民から見える情報は四つ。

 盗賊達から大切な山を取り返す為、皆の為に立ち上がった若き少女。

 後に探しても姿形は見えずどの町にもいなかった。

 参加した町長達と親しくまた一部の人は正体を知っているが口を紡いでいる。

 そして、クリア教の教会の方々と仲が良く、司教様が傅いていたという噂話。


 その結果、民衆は一つの答えを見出した。

 神が我らを救う為に差し向けたの神の使い、すなわち神の代理人である聖女であったと。


「そんな訳で今やあちらの地方では聖女様が降臨なされたという事でてんやわんやの大騒ぎってわけだ吟遊詩人の詩にもなったんじゃないかな」

 そう言ってクコは苦笑いを浮かべた。

「…………」

 プランは無言だった。

 無言のまま、そっと立ち上がり、頭を抱えた。

「……どんまい」

 サリスがぽんとプランの肩を叩いた。

「羞恥心は叩きつけられるし騙した事に対して罪悪感が痛いよぅ……」

 プランはしくしくと泣いて見せた。


「……まあ、そういう作戦でしたしたぶん誰もプランさんだとわかってませんから大丈夫ですよ。シュウさんも名前は隠す様考慮して下さっているようですし」

 苦笑いのままエージュがそう言葉にし、横でそれに同意する様クコが頷いた。


「……うんまあ……そう言う事なら……紛い物だけどさ……少しは聖女様らしい事しようかな……」

 そう言葉にし、プランは手元の一枚の金貨を教会に寄付する事に決めた。




 後日……アップルツリーの教会にシュウから一枚の金貨が届けられた。

 それはそのまま額縁に飾られ、二度と誰の手にも触れない様大切に供えられた。

 聖女が手渡した金貨として――。


 シュウはそれを見て……必死に笑いを堪えた。


ありがとうございました。


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