5-23話 千の言葉より一度のパーティーで(後編)
「いやーこれはカップル誕生かしら」
誰よりも多く茶々を入れ二人を冷やかしまくったジュールは楽しそうな声でそう言葉にした。
そんなまるでコイバナをする女性の様だったジュールはやけに満足げだった。
「私も相性は悪くないと思うよー。ただまあお互いそんな意識はしてないと思うけどね」
プランは腕を組み考えながらそう言葉にした。
「あらそう? まあそういうもんよねぇ。でもさ、お似合いではあるでしょ?」
ジュールの言葉にプランは頷いた。
「ですね。私もミグちゃんと良い感じになるなら先輩位しかいないと思ってますし」
「きゃー! 二人だけのト・ク・ベ・ツ! 良いわよねそういうの。私も何か潤っちゃうわぁ」
ジュールは汚く甲高い声で喜び身を捩らせた。
その何か恐ろしい粘液で潤いそうなジュールからプラン以外の全員が目を逸らした。
「でも、私個人的な意見で言えば二人が付き合うのは反対です!」
自分を例外としての話だが、知り合いの中で最も重たい過去を抱えているのはミグである。
それが何なのかはプランはまだ知らないし知ろうとも思わない。
だが、欠けた常識と感情に表情、そして特異としか言えない魔法の能力。
普通の人生を歩んできたと考えるのは無理な話である。
そんなミグの過去が何かトラブルを招くものであり、何時かそれが襲い掛かった時に、嫌がらず心の底から喜んで助けられるのは極度のお人よしで実力もある人位……そう、ヴェルキスが間違いなく適任である。
実力的にも二人は遥か高みにおり、お互い共に欠けた部分を補える為間違いなく相性は良いはずだ。
そうプランは考えていた。
だが、それはそれとして二人が付き合う事にプランは反対だった。
「あら? どうしてプランちゃんは反対なの? あんなにお似合いなのに」
「そりゃ簡単ですよ。ミグちゃん取られると私が寂しいからです」
ドヤ顔のプランにジュールは目を点にさせぽかーんとした表情を浮かべた。
「だからまだ駄目です。そりゃ二人がそういう感じになったらさ、私だって遠慮するのはやぶさかでもないです。でもそれは今じゃないです。まだミグちゃんは私のです」
えへんと胸を張ってそう言葉にするプランにジュールは苦笑いを浮かべた。
「プランちゃん……。人の恋路を邪魔するのは良いレディになれないわよ」
「まだ子供ですから。ま、本当にそうなったら流石に遠慮しますよ。未来の私が」
きりっとした顔でそう言葉にするプランはしょうがない娘でも見る目でジュールは見つめ頭を撫でた。
普段の気持ち悪い演技よりも、こういう素が表に出てきてどことなく男らしい……というよりも父親らしいジュールの方がプランは好きだった。
「はい。お代わりはいくらでも持ってくるから好きに食べてね」
そう言いながらいつもの食堂のおばちゃんはテーブルの上に揚げた肉が山の様になっている大皿をどんと乱暴に置いた。
一番食べるであろうサリス側にしっかり置いている辺りもう流石である。
「お前らもどんどん取れよ。早く食わないと俺が全部食うからな」
そう言ってニヤリとした顔をするサリス。
おそらく本人は冗談のつもりなのだろうがそれが冗談に聞こえた人は誰もいなかった。
「ま、その時は私が次をすぐ持ってきてあげるから安心しな」
そう言ってどんと胸を叩くおばちゃんにプランは微笑んだ。
「その時は私も手伝うね」
そうプランが言うと、おばちゃんはプランの頭を軽く小突いた。
「あんた今日の主役でしょうが。代わりに今度手伝いに来た時は今まで以上にしっかり働いてもらうから」
「それは構わないけど……今までと何か変わるの?」
その言葉におばちゃんは難しそうな困った表情となった。
「いやー何と言うか……おばちゃん難しい言葉わからないから私にもわかる様な説明だけど良い?」
「うん。もち」
そんなプランの言葉におばちゃんは頷き言葉を続けた。
「別にそういう規則があるわけじゃないけどね、本格的に仕事を手伝わせるのは三か月からっていう暗黙のルールの様な雰囲気があるんだよ。まあ要するにさ、私ら食堂の人間は三か月過ぎてない学園生を生徒と思ってなくてわがままな子供みたいに思ってるのよ」
「はえー。つまり私達はおばちゃんに認められたって事?」
「私に、というよりも誰から見ても冒険者と名乗って良い最低限を身に着けたって感じかね? ま、どこを一人前と呼ぶかは人それぞれだから何とも言えないけど……私は一人前になったんだって思って良いと思うよ」
「なるほどねー。そいや、三か月過ぎたら学費に寮費からここの食事代も有料になるんだっけ? うーん。学園に残るのだけでも大変そうだ。大人になるって大変だね」
そうプランが愚痴る様に呟いた。
そう呟くプランを見て、おばちゃんは一瞬だけ獲物を狙う目をした。
「まあアレよ。お金の事は食堂のお手伝いをしてくれたら何とかなるわ。今までより難しい事すればその分お金貰えるし場合によってはボーナスもでちゃうかもしれないし場合によったら色々困った時手を貸しちゃうかもね」
「わぁおー。ふとっぱらだね」
そうプランがおばちゃんに言うと、おばちゃんは笑いながら自分の腹をどんと叩いた。
それからしばらく、ごく普通に雑談をして楽しく過ごした。
ヴェルキスの忘れていった酒の残りをジュールが青い顔で届けに行き、クリスの冒険者仲間がクリスを拉致していき、そしてそんな事もお構いなしにとにかく食べるサリスの食べっぷりは見ている者の胃を膨らませ、プランとエージュは主食を食べ終えデザートのアイスクリームに入り、皆でそこそこ賑やかなパーティーを楽しんだ。
酒が入ってない為盛り上がりには欠けるが、それでも楽しい時間な事に変わりはなかった。
「という事でさおばちゃん。一つ質問良い?」
アイスのスプーンを咥えながらプランがそう尋ねるとおばちゃんは三度目の大皿をテーブルに置きプランの方に目を向けた。
「何だい? 料理に関してなら言うまでもないだろうけど」
「うん。それは美味しいフライドチキンですね。料理長の味付けした」
「誰が作ったまでわかるんだから……って思ったけどわかるか。良い香りがするもんね」
そう言っておばちゃんは微笑んだ。
秘伝のスパイスの甘いのに厭らしくない絶妙な香りが出せる人をプランは他に知らなかった。
「んで質問だけどさ、何でこの学園ってアイス安いの?」
その言葉に、おばちゃんは目をまーるくさせ驚いた。
「え? あんた学園に三か月もいたのにまだわかっていなかったの?」
その様子は馬鹿にしているというものでもなく本気でそう思っている様だ。
どうやら簡単な答えで学園にいたら自然と気付く類の物らしい。
「うーん。正直さっぱり……皆はわかる?」
そう尋ねるとマルク達が興味深そうに話にもぐりこんできた。
「一体何を話しているのだ?」
「えっとね、アイス関係って高級品じゃん?」
「うむ。そうだな」
「でもこの学園ってアイス関連何でものきなみに安いんだよね。甘い物全般安いけど特にアイスが安いの」
「ほぅ。特産という事か? にしても別に寒い訳でも……」
「うん。だから不思議なんだよねー。という事でアイスが安い理由わかる人いる?」
そう尋ね、サリス、エージュ、テオ、ヴェインハット、マルク、ガンネ、キュリオは全員首を横に振った。
残されたクコのみが頷いて見せた。
「流石クコ君。理由わかるんだね」
「ああ。まあ色々と大切な部分だからな。経済を知るという事は。むしろ俺はプラン……は微妙なラインとしても……エージュが気づいていない理由が正直わからない位だ。ある意味においては最も当事者であるのに」
そうクコに言われ、エージュは首を傾げる。
「えっと……私が……当事者ですか?」
「というよりも、アイスが安い理由そのものだな」
そう言われ、エージュは再度首を傾げ考え込む仕草をする。
そして、プランと同時に「あ」と呟いた。
「魔法を使うのですね!」
「妖精さんにお願いするんだね!」
二人は同時に自分の答えを提示した。
だが、二人の答えはどうも微妙なズレがある様だった。
「えと……氷の魔法を使用するのです……よね?」
そうエージュが呟くとおばちゃんはこくんと頷いた。
「食材を冷やすのは食堂の立場で言えば色々な意味で基本だけどそれ以外にも牛乳を生成する魔法使いも直接アイスを生成する魔法使いもいるわよ。そうでなくとも魔法が入れば作業がぐんと楽になるものよ。というわけでその影響が最も出たのがアイスってわけ」
そう言葉にし、おばちゃんとエージュはプランの方を見つめた。
「えっと……妖精さんにアイスの分け前あげるからって手伝って貰う……なんてお花畑っぽい答えは駄目?」
そうプランが言うと、その場にいた全員が目を点にした。
「……出来るのか?」
サリスがエージュに尋ねるとエージュは困った顔を浮かべた。
「えと……その発想自体をした事がないですわ」
妖精についての人間からの視点というのは酷く安定しない。
何故なら人は妖精という存在を詳しく知らないからだ。
そもそも、妖精自体どこまで実体が何が出来るのかも千差万別で良くわからないあやふやな存在でもある。
人を洗脳する邪悪な化け物。
魔法を使う為の道具。
困った隣人。
わがままでいたずら好きの異生物。
自由を愛する可愛い自然現象。
神の使い。
これら全てが、人間から見た妖精の感想である。
その一見バラバラな意見だが……実は一つの共通点が存在する。
妖精という存在は人と対等な存在だと考えていないという事だ。
知らない人は下に見て見縊り、詳しく知った者は知った者で人間よりも上位の者であると知り恐れる。
だからこそ、妖精が友達という言葉はあっても本当の意味での友達とはなかなか成れずお願いをするという発想は誰も持っていなかった。
「えと、プランさん。妖精ってこう……人の頼んだ事を、それも複雑な作業とか出来るのでしょうか?」
エージュ自身妖精と契約しているが自分の妖精について何もわかっていない。
昔は色々ないたずらに酷く困らされたが最近は大人しくしており、決してその関係は悪くないと思うが妖精の事を深く考えた事がないのもまた事実であった。
「さあ? 私はわからないよ?」
そうあっけらかんと言うプランにエージュは苦笑いを浮かべた。
「そう。私はエージュの妖精の事良く知らないよ? だからさ、本人に聞けば良いんじゃない?」
そう言われ、エージュは尋ねてみるという発想もなかった事に気づき妖精を呼び出した。
召喚された妖精は驚くほどの速度でエージュの周りを飛び回り何かのアピールを始めた。
「えと……もしかして……アイス作りをしてみたいのですか?」
そうエージュが尋ねると妖精は飛び方を変え、縦に何度も動いた。
それは誰か見ても首を縦に振っている様に見える飛び方だった。
「どうやらその子アイスが好きみたいだね? 何のアイスが好き? バニラ?」
そうプランが尋ねると妖精はふわふわと否定も肯定もせず困った様子を見せた。
「ああ。ミルクアイスかな? ふわふわな感じで。美味しいよね」
そうプランが言葉にすると、妖精は全力で縦に動いた。
「というわけで出来そうだよ? エージュが魔力とか使う許可さえ出したら」
そう言って微笑むプランに、エージュは信じられない物を見る様な目を向けた。
「……あのさおばちゃん。妖精がアイス作るのって良くある話?」
サリスがそう尋ねると、おばちゃんは首を横に振った。
「さあ。初めて聞いたよ……」
そう呟き、二人はプランの方を見た。
プランはエージュの出した妖精と一緒にきゃっきゃと楽しそうに遊んでいた。
「……それが、お主の在り方か……」
マルクはそんなプランを見て、ぽつりと呟いた。
「何と言いますか……能天気ですよね」
キュリオがそう呟くとマルクは苦笑いを浮かべた。
「それは否定せん。だが……それこそが僕の本当に目指すべき道だったのかもしれん」
自由に、気ままに……心のままに生き、それでいて誰かを想い続けられるから誰とでも仲良くする。
それはマルクの思い描く理想図とは正反対である。
マルクの思い描いていた理想図は殺伐としたものだった。
武力を含めた功績を多く残して自らこそが領主になる者として相応しいという箔をつけ、味方を増やして領を合法的に乗っ取る。
その後に逆賊として弟を処刑し権力を絶対の物としてロスカル公爵家と領地の維持に人生を捧げる。
それがマルクの領を護る者として、貴族の一族として、そして領地を乱す弟を持った物としてやるべき事なのだと、ずっと考えていた。
本当は弟殺しなんてしたくなかったのだが敵となった弟を考えると他に道はない。
そうマルクは考えていた。
「なあプラン。一つ尋ねても良いだろうか?」
マルクの言葉に妖精をふわふわ体に纏わせながらプランは頷いた。
「君は冷たい妖精なんだね。体がひんやりして気持ち良いや。……ん? 何マルク君。何でも聞いてー」
のんきにそう答えるプランにマルクは頷き、真剣な口調で尋ねた。
「もし、本当はやりたくないのにそれをしなければ大切な物が護れないとすれば、そなたならどうする?」
抽象的な言葉だが、マルクの真剣な様子にプランは顔を引き締め頷いた。
「えっと、わかりにくい部分があるけど、まずさ、その何かをやりたくないんだよね?」
「うむ。それは間違いなく。百人を救う為に一人を殺す。要はそういう『やりたくない事』だ」
「だったらやらなかったら良いんじゃない?」
「だが、やらねば大勢の民が犠牲に……」
「それそもさ、その『やりたくない事』ってぶっちゃけこのままだと失敗しない?」
そんな予想外の返しにマルクは軽く驚きプランの顔を見つめた。
「それはどうしてか教えて貰っても?」
「いや、難しい話じゃなくてさ、それってとても大変な事でしょ?」
「うむ。きっとそうであろうな。僕が必死に頑張っても出来るかどうかもわからぬほどに」
「だからさ、そんな大変な事をさ、そんな迷った気持ちで私に尋ねる様な心のままで出来る? 例え能力があってもさ、迷わずにやり切れる?」
そう言われ、マルクは押し黙った。
どれだけ綺麗事を言おうともやろうとしている事は兄弟の殺し合いだ。
それを平然とした気持ちで出来るほど、マルクの心はまだ死んではいなかった。
「本当民の事を……いや、僕らも含めて人の事を良く見てるんだなプランは。僕も見習わねばな」
「んー。私は別にそんな……人よりちょっと見る目には自信あるけどマルク君とかエージュみたいな本職の貴族絡みの方々には勝てないし」
「僕はそう思わない。歳という物を考えずとも、プランは人を見抜く力に相当以上に長けておると思うぞ。僕の父上の様に……。それ故に、そなたの周りには良き人が沢山おろう」
「にゃはは。だったら嬉しいけどね。友達が凄い事が私の数少ない自慢だし。んでさっきの答えだけどね、もし私がマルク君の立場ならさ……とりあえず無力な私はまず誰かに相談するよ」
「……ふむ? つまり?」
「迷った時は信頼出来る人にとにかく相談して意見を考えてもらう。相談して相談して、出来るだけ多くの人を救いたい道を探してみて。そしてその上で答えが見えず、どうしても選ばないといけない時は……迷わず悩まず、私の意思でその一人を選んで殺すわ」
そう、プランははっきりと断言した。
苦しそうに、辛そうに、そして嫌そうにだが、プランははっきりと、まるで為政者の様に人を切り捨てる選択をすると言い切った。
「そなたは……いや、そうか。だからこそ……あのような妖精を……そして枢機卿と知り合いと……」
マルクはそう言葉にし、プランの方を若干の哀れみを含んだ瞳で見つめた。
「そうだね。きっと最後は選ばないといけないかもしれない……。でもさ、たぶんだけど、それは今じゃないんじゃない? まだ何か他に手はあるはずだよ。その百人も一人も両方生かす道が――」
そんなプランの言葉にキュリオが若干の棘を込めながらその言葉を遮った。
「悩んでないわけないに決まってるでしょう。悩んだ上でぼっちゃまその重たい選択を――」
「だからさ、一人で悩む事が間違いなんじゃない?」
その言葉に、キュリオは顔を赤くし露骨なまでに怒りを覚えた。
「だってさ、誰よりもマルク君の事を想ってるキュリオはその事について相談を受けた?」
「いや、それは……」
「受けてないでしょ? マルク君が一人で抱え込んだから。もちろんガンネも」
ガンネはその言葉に苦笑いを浮かべ頷いた。
「ほら? そりゃー私は事情もわからないしどういう事なのか、いやそれ以前に何が正しいのかすら知らないよ? でもさ、事情を知っていて頼れる人が最低でも傍に二人いる。三人で相談すれば別の答えが見つかるかもしれないじゃん。それで駄目なら父親とか知り合いとかもっと沢山の人に相談したりとかさ。ね?」
そう言葉にするプランを見て、キュリオは言葉を失いガンネは苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。
マルクはきょとんとした顔の後、食堂全体が響く様に高笑いを浮かべた。
答えを見つけた様な満足げな笑みのまま、楽しそうに嬉しそうに高笑いを続け皆を不気味がらせた。
プランはそんなマルクを見てニコニコと嬉しそうに一緒に笑った。
ありがとうございました。
忙しくて更新が遅れがちになりそうでならないギリギリの感じです。
もし更新遅れたら申し訳ありませんが罵倒でもしながらお待ちください。




