5-21話 千の言葉より一度のパーティーで(前編)
ダンジョン内での出来事を報告をした後、六人は再度集まり反省会とラストのダンジョンアタックに備えて準備をした。
計五度のダンジョンアタックが可能な為、チャンスはあと一度。
それまでに未使用の擬似魔石Cを持ち帰らなければならない。
マルクは既に目的を失い、自分達が功績を集める理由はなくなった事を皆に説明した。
だが、同時にリーダーとして最後まで諦めず、全員が課題合格を達成すると改めて誓った。
そんな訳で全員が明後日のラストアタックに望みを賭け明日準備をしようと約束して眠ったその翌日――。
まだ日も登り切っていない時間帯、小さな部屋の中。
その中で六人が再度集まっていた。
「……一応点呼を取るぞー。何か知らぬが全員出席せよと命じられたからなー。いーち」
マルクが眠たそうにそう言葉にし、全員がそれに追従し数字を告げていく。
そしてビギニンググローリーと名乗った六人全員が揃っている事を確認すると、マルクはだるそうに頷いた。
マルクの朝が弱い訳ではない。
ただ心と気が緩み今まで頑張りすぎて来た分の疲労が一気に来たのと昨日の頑張った疲労が残っているだけである。
ついでに言えば昨日の激戦は新人冒険者には荷が重く、マルクだけではなくほぼ全員の顔に疲れが残っていた。
問題なさそうなのはサリス位である。
ちなみにそのサリスも疲れているからか何時もの事なのか、盛大に腹の音で音楽を奏でていた。
「はいサリス。味もないパンだけど」
そう言ってプランは長いパンをそのままサリスの口に突っ込んだ。
「もぐ。もがががが。もぐもぐ……もがもが……もがが! もぐもぐも……」
「……何を言っているのかわかりませんし食べながら話すのはマナー違反ですわよ。どちらかに集中しなさい」
そうエージュが言うとサリスは黙り込み食べる事に集中しだした。
「えっと……お腹空いているのにこんな場所に閉じ込めてどういう要件だ。せめてご飯を食べてから集まるかご飯食べながら集まろう……的なニュアンスで良い?」
プランがそう尋ねるとサリスは「もが」とだけ呟き頷いた。
「という事でマルク君要件は聞いてる? 大した事でないならご飯食べながら話そ? 私作ってくるし」
「……それはとても魅力的な提案で断るのが心苦しい……。うん、本当に……。だが、僕が呼んだ訳じゃなくて僕はリーダーとして皆を集める様言われただけでな。全員で待っていろと言われた。すまぬがもうしばらく待ってくれ」
そう言ってマルクは悔しそうにした様子のまま頭を下げた。
「はは……。だよね。マルク君もお腹空いたよね。うん、一緒に待とっか」
そう言ってプランは微笑んだ。
ガンネはニヤニヤとし、キュリオはぐぬぬと悔しそうな顔をしマルクは困った顔をするという全員が一致しない不思議な表情を浮かべていた。
「はいはいお待たせ―! 待った? 待ってたよねごめんねー」
そう言いながら軽やかな足取りで部屋に入ってきたのは本名クリティアスと呼ばれる先輩のクリスだった。
今日もうさ耳のついたフードを被っているという冒険者らしからぬ可愛らしい恰好をしており、どう見ても女性にしか見えない。
ただ、何を言ったら良いのか何が傷つく言葉になるのか良くわからない為、男であるという事実を知った今でもそのまま『クリス先輩』のままとして扱う事にしていた。
「およ? クリス先輩が私達を呼んだんです?」
プランが首を傾げてそう言葉にするとクリスは手をブンブンと振った。
「ううん。僕はお使い。今みーんな凄く忙しいからね。あのめんどくさがりな担任すらあくせく働くほどね」
「何かあったんです?」
「いや……何かあったって……君達が原因でしょ」
「え?」
「え? じゃなくて……。君達がダンジョンで魔物と遭遇したからその対処やら事情説明やらで皆てんてこ舞いになってるのさ。まあ君達が悪い訳じゃなくて君達も被害者なんだけどね」
クリスはそう呟き苦笑いを浮かべた。
「クリス先輩。ダンジョンで魔物が出るのってそんな大事なんです?」
プランがそう尋ねるとクリスは首を横に振った。
「ううん。普通のダンジョンなら別に。でもさ、三か月、要するに新入生に毛が生えた様な人達が行く難度の低いダンジョンで深層でもないのにってのは流石にね……僕もあのダンジョンでは魔物なんて見た事ないし」
「なるほど……。そうですよね。普通に考えたら魔物が出るなんてわかる場所に行かせる訳ないよね」
「うん。という事で僕は学園側から君達に伝言を伝えに来たのだよーふはははー崇め奉れー」
「へへー」
ドヤ顔のクリスにプランだけが頭を下げ、残りサリスやエージュはクリスの方に冷たい目を向けた。
「はっはっは。先輩とやらは随分楽しい性格をしておる様だ」
マルクは何故か嬉しそうにそう言ってプランとクリスの二人のやり取りを楽しそうに聞いていた。
「んで学園からの伝言だけどねー……」
そう言葉にした後、クリスは満面の笑みで大きく拍手をしてみせた。
「三か月課題合格おめでとー!」
その言葉に、皆が目を点にした。
「……え? あれ? 終わり?」
プランの言葉にクリスはニコニコしながら頷いた。
「うん。おめでとっ」
「あ、ありがとう。でもクリス先輩。私達まだ未使用の魔石持ち帰っていないから合格基準満たしてませんよ?」
その言葉に残り五人も同意する様不安な様子で頷いた。
「えっとね……こほん。『これは依頼ではなく課題である。依頼であるならば目的を達成せねばならぬが今回の場合はその能力があるかの試験が主となっている。そして諸君らは使用したとは言え特殊な魔石を持ち帰り、その上魔物から速やかに逃走し情報を持ち帰った。準備から内容、報告までの行動を吟味した結果、今回は特例として合格とする』だってさ」
ぶっきらぼうな言い方でそう言葉にするクリス。
その言い方はまるで先生であるジョルトの様だった。
「……というのが建前。先生方の本音聞く?」
クリスの言葉に六人は全員が迷わず頷いた。
さっきまで前向きにラストチャンスに臨む気持ちでいた為、どうにももやっとした何かが胸に残った気持ちとなってしまう。
そして、そう思うのは皆同じだった。
「元々僕があのダンジョンは危ないって報告してたところに今回の魔物騒動。そんな訳であのダンジョンは完全封鎖。んでその余波であそこで試験を受けていた他の人達やこれから受ける予定だった人達への予定変更やらお上への報告やらダンジョン調査やらで皆がてんやわんや。だから能力ある人はとっとと合格にして放置! って感じみたいだよ」
「……何と言うか……やるせないの」
マルクはしみじみとした口調でそう呟いた。
その様子は、やけに含蓄が含まれまるで老人の様なぼやきだった。
「んでんで、一応僕も今回の事件について多少の情報は貰ったけど聞きたい? それとも興味ない?」
「……それはあのダンジョンの魔物についてか?」
マルクの言葉にクリスは頷いた。
「それらだね」
「では教えて欲しい。ま、土産話にもなるしなにより僕にとっては記念すべき冒険だった。尻すぼみではあるがそれは変わらぬ」
「うん! そゆ事ならお話しましょー! でも本当にちょっとしか知らないからあんまり期待しないでね」
マルクが頷いたのを確認した後、クリスはプラン達が帰った後の事について簡単に説明しだした。
まず、プラン達が持ち帰った魔石は過去の擬似魔石であり今ほど性能が良くないそれは最低でも三十年は前の物だそうだ。
それだけなら大した事はなかったのだが、長い時間ダンジョンに置かれていた事が何等かの影響を与えたらしく、本来の性能や外見とは全く異なっており極めて特異的に変質を起こしているらしい。
ちなみに、通常はどの位ダンジョン内で放置してもこうなる事はないそうだ。
本来の形状とは全く異なり、同時に奇妙な性能をしているそれは今まで類を見ない変化の為研究者達は喜び涎を流す勢いでその魔石の調査を進めている……とクリスはその研究者の一人であるイヴから聞かされた。
魔物に関しては報告のあった一時間後には討伐された。
学園での戦闘指導者五名で戦闘時間は五分程度。
逆に言えば、学園上位陣で五分も時間がかかる様な魔物が課題ダンジョンで出た事になる。
それはそれで大事だった。
更に、他にも魔物が発生している事が判明した為しばらくダンジョンは封印し教師陣や特定の冒険者だけで調査をする事となった。
「というわけでその調査隊に僕も入ったから僕もしばらく忙しくなるや。とほほ……ま、その分報酬は美味しいけどね。今日も贅沢に使っちゃった」
そう言って嬉しそうにするクリスを見て、プランは微笑んだ。
「先輩は何に使ったんです?」
「んー。内緒。という訳で僕の話は終わりだよ。質問とか文句なら上に言ってね。たぶん誰も聞く余裕ないけど」
「……いや、命があって、プラン達が合格した。結果で言えば文句なしだ。ただ……別件で気掛かりな事はあるな」
そう言葉にした後、マルクはエージュの方に目を向けた。
「僕の鞘を使ったから毒は消えたがエージュだけは何故か毒が残っていた。それについては大丈夫か?」
マルクの言葉にエージュは少しだけ驚き、そして微笑み頷いた。
「ご配慮痛み入りますマルク様。ご安心下さい。昨日の内に治療室に見て頂きましたから」
「……それで、その結果は?」
ジト目で疑り深い様子でマルクがそう尋ねるとエージュは苦笑いを浮かべ、正直に答えた。
「専門的な事ですので詳しくはわかりませんが、無理に魔法を使えば体が傷付く状態になっていたそうです。薬をもらいまして……まあ、しばらくは安静にと」
「うむ。それで、もし明日ダンジョンアタックする場合そなたはそれを僕に報告していたか」
エージュは苦笑いを浮かべ、謝罪の意味も込めて頭を下げた。
「それも含めて、御慧眼とだけ」
「……はぁ。一番問題なさそうなのもまた頑固で……流石バーナードブルー家と言うべきか」
マルクの笑みにエージュは微笑みだけで答えを返した。
それから少しした後、ビギニンググローリーの六人はクリスの指示によりある場所に移動していた。
何の説明もなく「良いから良いから」という声だけで連れていかれた場所は……食堂だった。
現在朝食時で本来なら人が波の様になっているはずの食堂はがらんと人の気配がほとんどなく、代わりに『貸し切り』の看板が立てられている。
その食堂のテーブルの奥、色付きのテーブルと椅子の上には滅多に見ない魚料理も含まれた豪勢な料理で彩られていた。
「ぱんぱかぱーん! 合格おめでとー!」
クリスは両手を広げ、くるくると回りながら大声でそう叫んだ。
皆はその様子を茫然として見ていた。
「えへへ? 驚いた? 驚いた? ダンジョンうんぬんやら口止めやらで臨時収入が入ったからぱーっと使ってみたよ!」
クリスはまるで褒められたい犬の様な口ぶりで六人の方を見ていた。
「……仲の良い三人ならわかるが、僕らもというのは少々心苦しい物があるな。かかった金額のいくらかを……」
マルクの言葉にクリスは手を前に出し遮った。
「おおっと! 野暮な事は言うもんじゃないよ。同じ僕っ子仲間だし気にしなくて良いから!」
ドヤ顔でそう言葉にするクリスを見て、マルクはそれ以上言葉にするのを止めた。
これ以上はその気持ちに対して失礼になると考えたからだ。
「お礼、ありがたく……。だが僕は子供だからこの口調なだけだから仲間と言われても少々困るぞ」
「今は仲間だから良いんだよ細かい事は。プランちゃんの友達なら僕の友達でもあるしね!」
そう言った後クリスは六人をそのテーブルに座らせた。
「というわけで主賓のごとーじょー! 拍手と飲み物の用意をー。あ、ノンアルコールでね」
そう言ってクリスがすると厨房の方から大きな拍手がされ、いつもお世話になっているおばちゃんが飲み物の乗ったトレーを持って現れた。
「おめでと。これで本当の意味で学園生になったって言えるわね」
そう言いながらおばちゃんは六人の前に透明な液体を並べていく。
「はいあんたも」
そう言っておばちゃんはクリスにも同じ物を手渡した。
「およ? 予算に僕の分は入ってないよ? まあ勝手に食べるつもりではいたけど」
「良いのさ。この子らに、特にうちでも良く働いてくれるプランに良くする子ならおばちゃん贔屓するから」
「あはは。じゃ、ありがたく……。ついでに乾杯の音頭……は、流石に僕じゃダメだね」
そう言葉にし、クリスはテーブルに視線を向ける。
プラン達五人はそれに合わせてマルクに視線を向け、マルクはグラスを手に持ち眉間上辺りに掲げた。
「では……尻すぼみで微妙なケチが付いたが……それでも目標達成には違いない。ビギニンググローリーのダンジョンアタック成功記念と……あの様な事態であったにもかかわらず誰も死なずに再び再会出来た喜びに……乾杯」
「乾杯!」
全員が声を大にして叫び、目の前の飲み物を一気に飲み干した。
ヨーグルトサイダーの様な味だがクリアな見た目通りクリアな味わいであり、食前のジュースには丁度良い味だった。
ありがとうございました。




