5-18話 諦める者、明らかに見る者
プランはない頭で必死に考えた。
やるべき事は見えた。
手伝ってくれるという友達に頼る事である。
だが、自分は現在、魔法が使えない為その友達を呼ぶ事が出来ない。
それは過去自分のめちゃくちゃな無茶の所為だ。
その所為で自分はまだ魔法が使えず、そして大切な友達を呼ぶ事すら叶わない。
だが、その友達が間違いなく自分を呼べと言っているのだ。
だからプランは必死に考えた。
魔法の知識もない。
妖精についても詳しく知らない。
それでも、その友達が自分を信じて呼べと言ってくれているのだから、間違いなく何か方法はあるはずである。
だから必死に考え……良くわからなかった。
残念ながら、プランはそんなに頭が良い方ではない。
だから考えるのを止め、直感で動く事にした。
何時もの様に――。
「エージュ! 魔力を動かしたり注ぎ込んだりとかそんな感じの何か出来る!?」
同じ魔法使いであるエージュに質問をプランは投げかけた。
「え、あ、はい。ただ、毒の所為で私や私の妖精石に入った魔力をプランさんの妖精石に渡す事は出来ません」
「動かせるなら大丈夫。ここをお願い!」
そう言葉にしてプランは二人の傍から離脱し、マルクの方に走った。
「あぶねぇ!」
ガンネは慌てた様子でプランに襲い掛かる獣を蹴飛ばした。
「あんがとっ! んでマルク様!」
「う、うむ。何だ。どうするつもりだ」
「その魔石貸して下さい! 魔力全部持っていきます」
そう言ってプランは手を差し出した。
それに対し……。
「だ、ダメだ! これがなければ合格が出来んのだぞ。課題内容は魔石の回収で、それは要するに魔力の回収であろう。ならそれを使えば合格出来ないでは……」
「後チャンスは一度あります。だから――」
「後たった一度しかないのだぞ! 四度駄目で最後の一度がどうして上手く行くと思うのだ! これを持って帰れなければ……余は終わる。お主と違い余は重い物を背負っているのだ! これは余にとって絶対に必要なのだ!」
自分が間違っているのはわかっている。
そして相手が正しいのも。
だが、それでも……マルクはその言葉に従えなかった。
子供の背にのしかかるには多すぎる重荷に身動きできず、ずっと歯を食いしばってきたマルクにはその提案を受け入れる事が出来なかった。
プランは優しく微笑んだ。
まるで母親の様な優しい笑みを浮かべ、そして一言――。
「何とかしますよ」
「は?」
「私が全部、何とかします。正しくは私の友達達がですがね。それでも、何とかしますから――」
そんな無責任な言葉に、マルクは怒りを覚えた。
やけに説得力があり、全てを投げ出してしまいそうになる気持ちを堪え、マルクは強くプランを睨んだ。
「余が何を抱えておると思う!? 公爵家にかかわる全ての者だぞ! それを平民風情が、護られる程度の者が気軽に何とか出来るとなど二度と申すな」
「何とかなりますよ。マルク様さえ生きていればね」
そう言ってプランはマルクの泣きそうな睨み顔を見ながら笑みを崩さなかった。
「ガンネさんはマルク様の安全。たぶん家に対する忠義ですね。キュリオさんはガンネさんとずっと一緒に居る事。理由は……まあ無粋ですね。そしてマルク様は、大切な人達の安泰。民も、家族も含めて……ですよね? 本当に凄いですよマルク様は」
プランは三人に対し、そう言葉を紡いだ。
三人は何も言えなかった。
それが一番の望みである事に間違いがないからだ。
「うん。見て来たからわかるよ。マルク様が本当に凄くて、頑張って歯を食いしばってる事も。だからこそ、大丈夫。そんな頑張れるマルク様がいるなら、家の問題だって何とかなるよ。あまり好ましい手じゃないけど、そういう友達に頼るから」
あまりに自信満々な様子のプランを見て、キュリオは質問を出した。
「貴女の、公爵家を何とか出来そうな友達って……誰?」
プランはにっこりと、友達を誇る様に笑った。
「フィーネ・クリアフィール・アクトラインとアルストロメリア・コンラート・ヴァルハーレ。どっちが良い?」
その言葉に、三人は絶句した。
ノスガルド王国は六神教の中でもクリア教が強い。
そのトップの枢機卿であり、同時にクリア神と直接言葉を交わせるクリアフィールの名を持つ一族の者。
それと、この国の王妃。
当たり前だが、ほぼ最頂点に位置する二人である。
そして、その言葉が嘘の可能性は限りなく低い。
前者が嘘なら神を騙る者として天罰が下り、後者なら王族を騙る者として処刑される。
そんな重罪をただの庶民であるプランが出来るわけがない。
つまり、この二つは間違いのない事実だという事だ。
「プラン。お主は一体……」
「友達が凄いだけのただの人です」
そう言ってプランはふんすと胸を張った。
「……ま、友達を自慢する情けない小娘なだけだけどね。だからさ……大丈夫だよ」
「何が大丈夫なのだ。一体……何を持って大丈夫だと……」
「私が全部責任を取る。この魔石を使った事で受ける不利益を全部、私が何とかするから」
そう言葉にし、プランはそっと右手を差し出した。
プランを見て、マルクは理解した。
自分では公爵家を建て直すという事など絶対に出来ないと――。
そこいらにいる一般人にすら、器が負けているのだ。
そんな人間がいますぐ公爵家を何とか出来る訳がなく、むしろ邪魔にしかならないだろう。
弟と同様に。
だからこそ、マルクは全部を諦め空っぽになった。
自分はガンネとキュリオの望みなど考えた事がなかった。
付いてくるのが当然だと思っており、その上で使い捨てるつもりでいた。
親しい者を切り捨てなければならない自分を可哀想だと慰めながら……。
そう、二人の気持ちなど、望みなど考えた事がなかったのだ。
ただの一般人であるプランは自分だけでなくキュリオもガンネも見ていた。
パーティー全員をしっかりと見て願いを理解していた。
そして責任を取るといった。
本来ならパーティーリーダーであるマルクが取らないといけない責任を、プランは取ると言ったのだ。
口から適当に言ったわけではない。
正しくその重さを理解し、その意味を知った上で。
そんな事、マルクには出来ない。
たった二人すら理解出来ないのに全員を理解し、その上で命令を下す事に責任を持つなど……絶対に不可能だ。
だからマルクは諦めてしまった。
諦めた上で、軽くなった背中でマルクはプランを見た。
そこには、マルクがなるべき姿があった。
能力がなくても、配下達を見続け、そして責任を取る為に存在する領主の姿が……。
「……駄目だ」
マルクはそう言葉にする。
それにガンネとキュリオは何かを言おうとし、そして押し黙った。
何も言う事が出来ないしその資格もない。
公爵家の人間とはそういうわがままが許される人間だからだ。
プランは笑っていた。
マルクに向けて、感謝を示す様に笑っていた。
マルクはそっと、持っていた黒い結晶をプランに渡した。
「余が……いや、僕が責任を持つ。お情けで、わがままでなったリーダーだがそれでも僕がリーダーだ。何も出来ないけど、責任だけは僕が取る。プラン。頼んだ。皆を助けてくれ」
その言葉にプランは微笑み小さく敬礼をしてみせた。
「あいさーリーダー! じゃ、マルク様やってきますね」
「マルクで良い。……頼んだ」
「うん! マルク君。でも私だけじゃ無理だから手伝ってね」
「うむ。何をすれば良い?」
「まずガンネ。エージュの元に戻るから援護して。後は三人で時間稼ぎをお願い!」
そうプランが言うとガンネはマルクの方をちらっと見た。
マルクは頷いた。
好きにやれという意味で。
「あいよプラン! 行ってこい!」
ガンネが背を押すとプランは後ろも横も見ずエージュの元に走った。
そんなプランの襲い来る獣共は剣に、矢に、ナイフに阻まれる。
「……うむ。どうやらこれが僕の相応らしい」
弓を持つその手が、その肩が軽い事を知りマルクは微笑んだ。
「若……たあもう言えませんな。マルク様。それで良いんですよ。たぶんですけどね」
そうガンネが言うとマルクは目を丸くし、そして微笑み頷いた。
柔らかい笑顔が出来たのは何年ぶりだろうか。
自分の事ながらマルクはそれが可笑しくて、また笑った。
「んで、今度は何をするんだ滅茶苦茶娘!」
サリスが笑いながらそう言うとプランは眉を顰めた。
「お互い様じゃん目茶苦茶なのは」
「お前ほどじゃないさ。ほれ。オーダーを言えよ」
「ん。お願いサリス。マルク君達と共に時間を稼いで。私とエージュを守って」
さっきまで三人がかりで、しかも今は魔物すら攻撃に参加しようとしている。
その状況で相方のエージュもなしに一人で戦えと言うのは無茶以外の何でもない。
だが、サリスはそれに頷いた。
「おう」
ただそれだけ答え、サリスはプランとエージュの二人に背を向けた。
「エージュ」
「わかってますわ」
エージュは魔石を手に持ち、妖精石を握るプランの手を掴んだ。
「先に言っておきますけどこんな事した事ないからどうなるかわかりませんよ?」
魔力を移すという事自体あまり経験がない。
この魔石が何なのかわからない。
妖精石の中で妖精が眠るなんて事知らない。
そんな不安要素の塊しかない状況でエージュはそう言葉にした。
「ううん。大丈夫」
「どうしてそう思うのですか?」
「この中にいるのは私の友達だよ? サリスやエージュの様に、凄い人ばっかの私の友達の一人。だから大丈夫」
「……それは確かに大丈夫そうですわね」
そう微笑み、エージュは魔力を操作する事に集中しだした。
「ガンネ、キュリオよ。この場はもう、僕だけが助かるという道はない。誰か一人死ねば皆共に死ぬ。ここは死地だ。違うか?」
「いいえぼっちゃま。違いません」
キュリオはそう答えた。
「……ガンネは僕を名前で、若ではなくマルクと呼んでくれたのにそなたはぼっちゃまなのだな」
「……私にとってぼっちゃまはぼっちゃまですので」
そう言ってキュリオは少し恥ずかしそうに微笑んだ。
「あー。いちゃつくのは帰ってからにしてくれ。んでマルク様。ここが死地だと何かあるんですかい?」
「うん。二人には僕を護る事を止めてもらう」
その言葉にキュリオは絶望した様な表情を浮かべた。
「どうしてですか!? まさか命を捧げて……いけません! それなら私達の方が」
「そうではない。キュリオ。さっきも言ったが誰か一人死んだ時点で瓦解する状況である。だからこそ、僕も死ぬつもりはない。だからさ……僕も戦う。守られながらじゃなくて……ちゃんと」
そう言葉にし、マルクは弓を捨てて剣を抜いた。
己の分身でもある、ロスカル家の名誉の証である剣を。
「二人に命じ……ううん。お願い。僕と共に戦って欲しい」
その言葉にキュリオは驚愕を覚えた。
自分の知っているマルクでないみたいだったからだ。
「俺はマルク様の剣ですからね。ご命令拝借」
そう言ってガンネは微笑んだ。
「……ぼっちゃま、立派になられましたね」
「ううん。背伸びを止めただけだよ」
「背伸びを止めた時が大人になる時とも言います。そう考えると、ぼっちゃまと呼ぶのは相応しくないかもしれません」
「でも、ぼっちゃまなんだろ?」
若干拗ねた様子でマルクがそう言葉にすると、キュリオは頷いた。
「もちろんですよぼっちゃま。背中、お預け致します」
そうキュリオが言葉にすると、マルクは走った。
サリスが一人で戦っている場所に向って。
ありがとうございました。




