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5-17話 逆境だらけだったからこその


 勝つ、とは一体何か。

 たった二文字の言葉の意味は多義に渡り、明確な一つの答えであると言う事は難しい。

 故にその『勝つ』を定義付けするならば『作戦目標を達成する』となる。


 そして、プラン達と魔物の作戦目標を比べてるとその状況が芳しくない事が理解出来る。

 まず、魔物の目標はシンプルだ。

 ()()()

 たったそれだけであり、その為になら自他共にいかなる犠牲を強いても構わない。

 それが魔物の在り方であり、存在定義だからだ。


 ではプラン達はどうなるかと言えば、実はこの時既に作戦目標が一つに絞れない状況となっていた。

 プランの作戦目標は『この場の脱出』であり安全確保となる。

 だが、マルクの作戦目標は少々異なり『魔石を確保したままダンジョンを離脱』する事となっていた。

 似ている様でその考えには大きな差異がある。

 生きていたら何とかなると考えるプランと違い、マルクはこの場で魔石を確保しなければ生きる意味がないとすら考えている。

 プランの考えにサリス、エージュは従い、マルクの考えにキュリオ、ガンネは従う。

 この達成すべき目標が統一出来ない事は戦術に置いて大きなマイナスとなっていた。


 本来なら作戦目標が異なるという分裂待ったなしの状況なのだが……現状はそれ以前の話だった。

 プラン達冒険者は六人皆が戦術という面で考察出来ていないからだ。

 行動そのものが戦術と言える魔物と比べるとあまりにお粗末であるとさえ言って良い。

 だからこその現状とも言えた。


 現在プラン達の前にいる魔物は会話する知性もなければ喜んだり悲しんだりする様な感情も持ち合わせていない。

 当然餌を食う為に頭を使う事もない。

 だが、人を殺す為の殺意と戦術を組み合わせる頭脳だけは持ち合わせていた。


 手持ちの駒を一斉に使って押しつぶし、殺せずともただ疲労させ、弱らせてから殺す。

 手札が弱くともその全員が毒を持っているからこそ一手決まれば戦況を崩壊させられる。

 その上で自分達の優位性を維持する為に極力情報を公開しない様立ち回る。

 それこそが魔物の戦術であり、そしてその戦術が天秤を極端なまでに傾けていた。


 ダンジョンの程度が低いのもありこの魔物は魔物の中ではかなり弱い部類に当たる。

 過去プランが戦った理不尽と比べると雲泥の差と言っても良いだろう。

 だが、その正体が全くわからない為、プランは対処が出来ずにいた。


 その秘匿性と自らの欠点を隠し無敵の様に振舞う事、それと周囲の動物を操作し回りくどくねちっこく追い詰める事。

 この二つが魔物の特性であり、同時に冒険者を殺す為だけに生み出された戦術だった。




「三匹一度に斬れば……」

 そう言葉にしプランが剣を抜こうとする。

 だが……。

「止めろ! それ死ななければお前だけじゃなくて俺達全員がやばい!」

 サリスの声にびくっと震えプランは剣を持つ手を離し盾を両手で抱えた。

「ええ。プランさんの力を疑っているわけではありません。ですが、ハワードさんの言う通りそれで仕留めきれなかった時プランさんを抱えながら戦う余裕は今の私達にはございません」

 エージュが淡々とそう言葉にするとプランは頷いた。

「うん。ごめん頭に血が上っていた。ここから逃げる方法とか何かある?」

 そんなプランの言葉にサリスとエージュは漆黒に染まった動物たちを蹴散らしつつ首を横に振った。

「ないな。体力は余裕ある。敵もぶっちゃけ雑魚だ。だがそれでも足止めされてるし魔物は近づいてきている。ぶっちゃけまじやばい」

「……まるで軍を相手にしている様な気分ですわ。または格上との戦術遊戯の様な……。その場合はこの現状は詰みに近いですけどね」

 二人の言葉にプランは頷き、盾で犬をぶん殴った後マルクの方を見た。

「マルク様! そっちは何かありますか!?」

 剣を振るい犬を切り伏せながらマルクは叫んだ。

「ガンネ! 作戦を示せ!」

「すんません若。ないっすね。後は俺とキュリオを犠牲にしてマルク様だけを逃がす事です」

 そう言われ、マルクは少し悩んだ。

 目的の為に切り捨てる。

 その為に二人は従者となっており、切り捨てるべき時にきっちり従者を切り捨てる事もまた公爵家跡取りとしての責務でもある。

 民か従者、どちらかを犠牲にするなら迷わず従者を選ぶ。

 貴族の中でも上澄みに位置するロスカル家はそうあるべきだとマルクも教育を受けていた。


 だが、それは今ではない。

 感情の問題ではなく、それでは意味がないからだ。

「ガンネよ。余が一人で逃げたとしよう。このダンジョンから一人で脱出出来る可能性はどの位だ?」

「正直に言いますとまあ、一パーセントありゃ良い位ですかね?」

「流石に小数点に賭ける為二人を犠牲には出来ん。二人にやってもらわねばならない事があるしな」

 そう、公爵家を継ぐ為、マルクは功績を残し、人望を集め、弟を政略の中で殺さなければならない。

 その為に自分は生き続けなければならない。

 その為だけに、マルクは生きていた。


「……せめて逃げる隙間だけでもあれば……」

 群れにより背後を塞がれ、その上死骸も積み重なり足場すら怪しくなってきた現状でキュリオがそう呟いた。

 そう、隙間があればマルクだけでなくプラン達を逃がし自分とガンネの二人で殿となれば良い。

 その程度はキュリオも覚悟を持っているが、それを許す現状ではない。


 いやそれ以前に、皆殺しを目標とする魔物側はその一部離脱だけを絶対にさせない様に動いているからそれが叶う事はなかった。


「手は……何か手はないのか!?」

 マルクがそう叫ぶがその声に応える者はいない。

 答えられる者はいなかった。

 本来守られているだけのマルクが守られながらでも戦闘に参加している時点で既に限界の状況であると皆が理解していた。




 この時、六人の心境は二つに分かれていた。

 一つは、絶望し半ば諦めている者。

 何も考えず、ただ襲い掛かってくる集団を返り討ちにするだけの単純行動しか行わなくなった者。

 マルク、キュリオ、そしてガンネの三人である。


 だが、もう一方は諦めていなかった。

 サリスとエージュは僅かでも多く時間を稼ぐ為に、少しでも多くの獣共を自らの意思で散らしていった。

 身体能力に自信のあるサリスは常に全力でアイアンクラブを振り回し続けた。

 多少の傷は聖水で癒えるからと無理をし、毒に侵されながらも一切動きを止めずに。

 背中にエージュがいるからこそ、サリスは全力で前だけを向き続けていた。


 魔法が使えなくなっているエージュも細身の剣一本で戦い続けている。

 汗で体がべとべとになりながら、髪がぐちゃぐちゃになるほど振り乱し、とても貴族とは思えないほど荒々しく舞う。

 エージュらしくない立ち回りであっても、サリスと共に戦うその目の輝きは誇り高いエージュのままだった。


 そして二人が諦めていない理由は……プランの目が諦めていないからだ。

 どれだけ苦しかろうと、どれだけ辛かろうと、そしてどれだけ己が無力であろうと、プランは絶対に最後の最後まで諦めない。

 そう二人は知っているからこそ、諦めず足掻き続けていた。


 プランは確かに諦めて()いない。

 だが、解決策など思いつくわけがなかった。

 なぜなら、それがプランだからだ。


 プランは自分自身が役立たずであると一番知っている。

 こと戦闘に関して言えば知識も技量もなく、確かに優れた力はあるが所詮一発屋でしかなくその上その一発も現状では何の役にも立たない。

 であるならば、今の自分は本当にただの役立たずでしかない。


 だが、そんな事プランには関係なかった。

 諦めない事に理由はない。

 そう考えるのがサリスやエージュの知るプランだった。


「何か作戦……は皆ないね。何かちょっとした程度で良いから知恵ない知恵! 何かこうした方が良いとかこういうのがやばいとか。何でも良いからさ」

 敢えて笑いながら、明るくプランが叫んだ。

 魔物がもうそこまで来ており、今にも何かしそうなこの状況で、プランは笑っていた。


「ない! 他の奴!」

 サリスが笑って叫んだ。

「あるわけねぇだろ。兵士上がりって基本馬鹿なんだよ」

 そう言ってガンネも笑って見せた。

 腕に赤い線が出来、痛みから顔を歪ませながらも笑いながら、戦いながらそう答えた。

「私言われた事しか出来ない系の人間なんで」

 キュリオはそう答えた。

 少しだけ、冗談っぽく。

「じゃ、今度から自分で考える様にならないとね。はい次!」

 プランがそう叫ぶ。

 エージュもマルクも答えなかった。

 マルクはこの状況で笑っている事に少し怒りを覚える位には心に余裕がなく、何も答えなかった。


 エージュはマルクとはまた別の理由らしく、何か考え事している様だった。

「お? エージュ様。何か貴族っぽい解決策あるのかにゃ?」

 プランがニコニコしてそう答えるとエージュはそっと首を横に振った。

「いえ。ただ……」

「ただ何かな? 今ならどんなヒントでもありがたいよ。雑談でも可」

 その言葉にくすっと笑った後、エージュは申し訳なさそうに謝った。

「すいません。今更ですが、相手の動きはどう見ても計画しての作戦行動です。そう考えるなら、私の現状が相手の弱点を示しますね」

「はい詳しく」

「初手の毒で私は現状魔法が使えません。これも計画であると考えるなら、相手の欠点は魔法という事です」

 そうエージュが答えると、プランは笑った。


 プランに作戦があるわけではないし、思いつくわけもない。

 いつだって、いかなる時だって人任せだ。

 だからこそ、プランは笑った。


 ほんの一瞬だけ、妖精石が震えたのを感じて。


ありがとうございました。


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