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5-14話 甘くて強い考え方


 初日のは一体何だったのかと言うほどにダンジョンアタックは上手く行っていた。

 プランは当然としてサリス、エージュもマルクだけでなくキュリオにも相当以上の配慮をし実務面だけではなく精神面でも気遣いを見せたのは非常に大きく、ガンネにとってそれは感動を覚えるほどにありがたい事だった。


 だが、それ以上に上手くパーティーが噛み合っている理由としてキュリオの方がプラン達三人に戦闘面、準備面で協力をしていた事である。

 マルクを護る片手間程度の手伝いではあるのだが、それでもあのキュリオがそこまでするなんて考えた事すらない。

 それはもうガンネにとって天変地異の前触れと思う位は異常な事だった。


 だが、その御蔭でパーティーは本来のスペックを遺憾なく発揮し、巨大な熊やモグラ、犬、狼の様な四足の獣等の敵対勢力や天然トラップなど様々なトラブルに襲われてもその全てをあっさりと対処する事が出来ていた。


 そう、確かにパーティーの方に問題はなかった。

 だが……。




 強く机を叩く音が狭い室内に響く。

 その怒ったマルクの手と精神面を心配するキュリオがオロオロとし、ガンネが苦笑を浮かべる。

「なぜだ! 確かに上手く行っているはずだ! 手応えもある。余達は上手くやれておる。なのに……何が悪い!?」

 吐き捨てる様に叫ぶマルクの怒気は少年特有の声であるにも関わらず大人顔負けの迫力が込められている。

 それを見てプラン達三人は何も答えられなかった。


 現在三度のダンジョンアタックを終えた後。

 成果という意味で言えばそれなり以上に得られている。

 以前言われた通り余裕を見ては安全の確認されている植物を回収した。

 三メートルを超えて洞窟に引っ掛かり動けなくなっていた巨大な謎黒熊や、一メートルほどの大きさのまま恐ろしく俊敏に走り回るけれどスタミナのないモグラ、初回で出会った様な犬や狼等は戦闘で処理した後解体して爪、牙を回収した。

 流石に皮を剥ぐほどの解体する時間はない為毛皮等の素材回収は出来なかったが、それでも小銭とは呼ぶに相応しくない程度の利益は得られている。


 そう、ダンジョンアタックとしてみれば十分以上成功している。

 だが、合計三度のダンジョンアタックで本命である回収物の発見には至っていなかった。


「これは後の者が不利すぎるのではないか!」

 そうマルクが叫びたくなる気持ちもわからなくはなかった。

「いえ。一概にそうは言えませんわ」

 そうエージュが言葉にすると同時に、プランはそっとマルクの方に喉を冷やす為の冷たい水を置いた。

「……そうなのか?」

 マルクが納得出来ない表情でそう呟くとエージュは頷いた。

「はい。当初の方々は入り口付近でも相当苦労したそうですから。現在私達が安易に進めているのは初期の方に通って下さった方の道を進んでいるだけに過ぎません」

「……なるほど。それもそうか。そうだの……そんな不平等な訳がないか。すまぬ、無意味な愚痴に付き合わせて」

 マルクは申し訳なさそうにそう呟くとエージュは首を横に振り悲しそうな笑みを浮かべた。


「ま、俺達に向いてないって意味なら間違いない言葉だ。俺達は戦闘関連の方が得意だからな。ぶっちゃけ俺も探索は苦手だ」

 サリスが慰めも兼ねてそう言葉にするとキュリオが頷いた。

「はい。ぼっちゃまの言葉は何も間違っておりません」

 そんな慰め込みのキュリオの言葉にマルクは首を横に振った。

「正しいとか正しくないとかどうでも良いのだ。大切なのは、これからどうするかだ。チャンスは後二度あるわけではない。……二度しかないのだぞ!」

 そう言葉にしながらグラスに注がれた水が周囲に飛びるほどテーブルを強く叩くマルク。

 その様子に誰も言葉にする事が出来なかった。


 上手くいっている。

 それは間違っていない。

 若く優れたサリスとエージュに経験の多いガンネが引っ張り残りのメンバーが三人を立てるという形でまとまり、下手な冒険者パーティーよりも優れていると言えるほどの能力を発揮出来ていた。

 だがそれでも……このままダンジョンアタックを続けて課題を達成出来るという保証はどこにもなかった。

 それが我慢出来ないマルクを幼稚と呼ぶのは少々以上に酷な話だろう。


「俺さ、一つだけ学んだ事があるんだ」

 ぽつりとサリスがそう呟くとマルクはその方に顔を向いた。

「……この状況を打破する術があると。課題をこなすに足る何かがあると」

 そう答えるとサリスはにかっと笑った。

「俺にはねぇよ。だけど――笑えや」

「……笑えるわけなかろう。余がどれほどの物を抱えてここにいると思っておる……。余が何を抱えていると――」

「知るか。だけど笑えや」

 そう言ってサリスはマルクの口角を両手で引っ張り無理やり笑顔にしてゲラゲラ笑った。

「や……止めい! キュリオ。どうして止めぬ!」

 バタバタと暴れキュリオに縋るような目を向けるマルク。

 それを見てキュリオは嬉しい様な羨ましい様なそんな不思議な表情でマルクを見返した。

「さきほどまでの辛そうな顔よりも今の方が健康に良さそうですので。ええ、決して引っ張られたマルク様が可愛いから見て居たいというわけではないですよええ、ええ」

 そう言いながらもキュリオの顔はマルクの方をじっと見つめるだけだった。


「……変わったの……お主……色んな意味で」

 マルクは驚いた表情でそう呟いた。

「悪い変化ですか?」

「いや。良い変化だと思う。何やら余裕が見えるからの。……余と違って」

 そう言葉にし落ち込むマルク……の頬をサリスは再度引っ張り無理やり笑わせた。


「だから笑えよ。おう。俺は何も出来ないし知らないぞ。だがな……こういう時は出来そうな奴に任せるんだよ。俺はそう習ったぞプラン」

 そう言って力強く頼もしい笑みのまま、サリスはプランの方を見つめた。

 プランもまた笑みで返し、そしてテーブルの上に紙を重ねて置いた。

 それにより下に見える地図が透け、上の紙にあるバツや丸のマークが地図上に表示されていた。



「これが最初クリス先輩から受け取った地図。そしてその上に重ねたのが私が移動した結果何等かの敵と遭遇した位置と石が置いてあった痕跡のある場所」

 そう言葉にした、更にプランはもう二枚紙を重ねた。

「そしてこれが他所のパーティーがマッピングした地図と更にその他所の人達が敵と遭遇した位置に魔石を発見した場所となります」

 そして重ねられた三枚の地図は、限りなく完璧な地図と化した。

 それにサリス、エージュは予想済みであり特に驚きもしなかったがマルク達三人は驚き声を失った。


「お主……これをどうやって……」

 マルクがそう尋ねるとプランは力強く笑った。

「出来ない事は誰かに頼む! 無力な私はそうやって生きてきました」

「……それは褒められる事なのか……いや、だがそれで結果が出せているから……だがそれはそれで……」

 いまいち納得出来ない様子のマルクを見てサリスとエージュの二人もうんうんと頷いた。

「そうだよな。俺らも最初そんな気持ちだったわー。こいつ唐突に他所から解決策持ってくるからな」

 そうサリスが言葉にするとプランは不満を露わにした。

「今回のはサリスもエージュも一緒だったじゃん」

「お前のやり方を覚えただけだ。と言っても……やばいのはクコの方だがな」

 そう言葉にするとエージュは頷きながらもう一枚、紙を上に重ねた。


「……これは?」

 マルクが色の違う丸が複数の書かれた紙を見て首を傾げるとエージュは微笑んだ。

「私達の友人であるクコさんがこれまで擬似魔石Cが発見された位置を分析し考察した予想図です」

「なんと……」

 マルクは食い入る様に地図を見つめた。

「赤いのがほぼ間違いなく取られている場所。黄色が残っている可能性のある場所。緑色の丸がほぼ確実に未発見である可能性が高い場所だそうです」

 そんなプランの言葉にマルクは絶句した。

「……これが事実かはわからぬがそうであると仮定しよう。もしそうなら相当奥に行かねば余達は達成出来ぬのではないか?」

 そう言ってマルクは緑の丸を指差し叫んだ。

 そこはプラン達が今まで潜って来た場所よりも何キロも先だった。

 往復である事を考えると相当早く移動しなければ間に合わない、そう思う位ギリギリの場所だった。


「そうだね。だからこその絶対に取られていない位置なんだと思う」

 そんなプランの言葉にマルクは納得し顔を顰めた。

「……うむ。よし。では、明日のアタックはここを目指す。良いな?」

 マルクがそう言葉にし、ギリギリの距離にある位置にマークを付けるとキュリオ以外の全員が頷いた。


 キュリオは眉を顰め苦しむような顔をした後、ぽつりと呟いた。

「……ぼっちゃま。お暇を頂いてもよろしいでしょうか」

「それはどういう意味だ?」

「……明日のアタック。私はお休みしようかと」

 その言葉にマルクは驚きながら怒鳴った。

「どうしてだ!? 怪我もなくここまでこれて何故今このタイミングで――」

「私がかならず足を引っ張るからです」

 そう言葉にするキュリオの表情は恐ろしく暗く、その顔でマルクはようやくキュリオの体が弱いという事を思い出した。

 

 戦闘力という意味だけなら、キュリオはサリスやエージュどころかガンネと比べても決して引けを取ない。

 むしろ誰かの護衛という意味においてならキュリオの立ち回り、行動、戦闘力全て完璧に近かった。

 だが、たった一点……ことスタミナという意味においてはキュリオという存在は相当以上に劣っている。

 それは冒険者と比べてでも学園生と比べてでもない。

 一般人と比べてであってもキュリオの体力は乏しい。

 それをふまえると、急いで奥を目指す次のアタックにおいてキュリオという存在は邪魔にしかならなかった。


 そう、ずっとスタミナで悩んでいたキュリオ自身は気が付いてしまった。


「ぼっちゃまの事、よろしくお願いします」

 誰が見てもわかるほどに悔しそうで、辛そうな表情のままキュリオはプラン達三人に心から、縋る様に頭を下げた。


 悩んで、悩んで、悩んで、悩んで……。

 そしてここの人達なら一番大切な人を預けるに足ると、キュリオは考える事が出来た。

 納得は出来ないが、それでもそう選択出来た。


 マルクは何も言わない。

 目的の為ならどの様な犠牲も厭わない。

 そう考えるほどに追い詰められているマルクにとってこの選択は間違いではないからだ。

 むしろキュリオを使い捨てず手札として温存出来るのだからマルクにとって最も都合の良い選択でもある。

 それもそのはず、マルクの事を一番に考えるキュリオの選択なのだからマルクにとって都合が悪いわけがなかった。


 ガンネは驚きはしたがその選択を否定しない。

 迷惑をかけ続けているのだから何も言う権利がないとわかっているからだ。


 サリスとエージュは困った顔のまま、選択をプランに託す様プランの方を見た。

 その選択が間違いではないとわかっているが、正しいとはとても思えない。

 だが、他の解決策は思いつかない。

 そんな二人は何時もの様にプランに解決を託した。


 不安そうなサリス、エージュに応える様……プランはしっかり頷き、キュリオの傍まで移動しじっとキュリオを見つめる。

 そして、一言ぽつりと呟いた。


「嫌」

「――は……は?」

 ちょっと以上に予想の斜め上の言葉にキュリオは驚き茫然とする。

 同時に、マルクとガンネも茫然とした表情を浮かべ、サリスとエージュは苦笑いを浮かべた。

 プランはまるで自分が被害者ですという様な顔で頬をぷくーっと膨らませていた。


「なんでそんな選択になるの? 大切なんでしょ? 守るんでしょ? そして一緒に行動したいんでしょ?」

「いえ、さきほども言ったけど……私体が弱いから」

「一回戦ったらしばらく置物になる私に対しての嫌味かな?」

「そんな訳ない! そもそも貴女は十分スタミナあるじゃない。でも私は……」

「足りない物をカバーするのがパーティーです」

「……え?」

「そもそもの話ですよ! マルク様! 一つ尋ねます」

「え、あ、うむ。何だ?」

 唐突に話をぶち込んで来るプランに驚きあたふたしながらもマルクは頷いた。

「一人欠けた不完全な五人と休憩しながらのフルメンバー六人。どっちの方が早く、そして上手く行くと思いますか?」

 その言葉にマルクはぱーっと明るい笑顔に変わった。

「それは当然後者である」

「ですよね! という訳でサボりたいなんて選択認めません!」

 そうドヤ顔で言い切るプランにキュリオは泣きそうな顔になった。


「じゃあ今すぐ! 何とかする解決策を提示してよ!」

 無茶ぶりであるとわかってるし八つ当たりである事もわかっている。

 そんなヒステリー気味なキュリオの言葉にプランは堂々と頷いた。

「良いですよ。何とかしましょう! サリスが」

 唐突に名前を呼ばれ、サリスは自分を指差しながら不思議そうな顔をした。


 プランは満面の笑みのまま、しっかりと頷いた。


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