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5-10話 大人の尻拭い


 広大な土地にありとあらゆる施設が内包されその統括を学園中央が行う。

 その様な形式である為アルスマグナ学園は学園というよりも一つの領地と考えた方がわかりやすい形式となっている。

 そしてそのスポンサーがノスガルド王国直々の為、高貴な方を迎え入れるに相応しい建物も多々存在していた。

 流石に城の様な巨大な建造物は学園本体位しかなく貴族用の住居と言えども二階建て程度であり、普段彼らがいる場所と比べるなら犬小屋と呼んでも差し支えない程度の規模である。

 だが、それでも内装は豪華絢爛であり王族すら迎え入れる準備のあるその部屋に文句を言う者は誰もいなかった。

 その建物の一つに、現在彼らは住んでいた。


 ロスカル公爵家の跡取り息子……跡取り候補であるマルクドゥール・ロスカルと二人の従者ガンネとキュリオである。

 住む場所、用意された物は違えど、彼ら三人もまた他の学園生同様の生活を送っていた。


「……ふむ。なるほどの。こんな職業も庶民の中にはあるのか……」

 マルクは己の書き記したノートを見ながらそう呟いた。

「ぼっちゃん。何かぼっちゃんの興味を引くような物があったのでしょうか?」

 メイド服に身を纏った女性が微笑みながらそう言葉にするとマルクは頷きノートを見せる。

 そこにはパン専用抜き打ち監視官と書かれていた。

「パン屋などを巡ってパンを抜き打ちチェックする仕事らしいぞ」

「へー。変な職業ですね。それ意味あるんですかねぇ」

 キュリオは見下す様にそう呟いた。

「その発言は若に恥を掻かせるぞ。ガルドを馬鹿にする領主なんておらん」

 そう二人の会話に混じって来たのはもう一人の護衛、ガンネである。

 相変わらず執事服がきつそうであり、そして似合っていなかった。


「……ガンネ。説明」

 むっとした口調でキュリオがそう言葉にし、マルクもガンネの方に目を向けた。

「ああ。パンの監査官をガルドって言うんだが、彼らの仕事はパンの品質、値段のチェックが主だ。この意味がわかるか?」

 その言葉にキュリオは首を横に振った。

「彼らがいなければパン屋はケチって悪い小麦を使っても不当に値上げしても許されるという事だ。今でこそ多くの民はパン以外の食い物に在りつけるが昔はそうじゃなくパンが食事の中心だった。そんな時にパンの質が下がったり極端な値上げがあるとどうなる?」

「……そうか。民が飢える事を止める役割を担っておるのだな」

 キュリオの代わりにマルクが答えるとガンネは微笑み頷いた。

「その通りですぜ若」

「うむ。良く良くわかった。確かに重要な職であると理解出来たぞ」

「ええ。ついでに言えばパン屋の権利を守る事も職の内です」

「……ガンネの癖にやけに詳しくて腹立つ」

 そう言葉にし、マルクから尊敬の目を向けられたガンネの脛をキュリオは蹴飛ばした。

 もうおなじみの事であり、事前に入れられた防護パットにより脛は鈍い音をさせながらもガンネはノーダメージだった。


「うむ。良い事を教えてくれた。礼を言うぞガンネ。それでキュリオ。馬車の時間は後どの位だ?」

「はい。あと三分ですが既に到着しておりますよ」

「わかった。では用意しよう。そなたらも学園に向かう用意をするのだぞ」

 そう言葉にし、マルクは教科書等必要な物を纏めたバッグを持ちそのまま一人で馬車に向かった。


「……ガンネ。単刀直入に尋ねるわ。ぼっちゃまはこのままで()()と思う?」

 自分の指を噛みながら苦しそうな表情でキュリオはそう言葉にした。

 ガンネは眉を顰め、苦笑交じりにぽつりと呟いた。

「幾らでも保ってしまうだろうねぇ。……流石は公爵家跡取りだわ……」

 ガンネは大丈夫であるという保証を付けるのだが、二人の表情は酷く暗いものとなっていた。


 二人が心配しているマルクの事というのは非常にシンプルな事で、昨日の生活を顧みればそれはおのずと見えて来るだろう。


 早朝五時に起床し三十分で朝の身支度。

 そして五時半から教師を直々に呼び剣技の指導を受ける。

 その一時間後は弓の指導を受け、三十分かかる馬車の中で香木についての勉強。

 学園内では昼食も抜きダンジョン、冒険に関わる事を学び帰りの馬車内で新聞を読む。

 そして戻ってから領主としての教育の片手間にサンドイッチを頬張り、算学と宗教を学んだ後全体の復習をして深夜二時に眠る。


 マルクは学園に来てからそんな生活を続けていた。

 別に大人であるならそれ位の無茶をしてもまあ良いだろう。

 本人が望むのならそれもまた自由だからだ。

 だが、マルクはついこないだ十一歳になったばかりの少年であり、それは夜更かしをする事自体好ましい事と言えない位の年齢である。

 その為侍従二人はマルクに自愛を求めたいのだが……そうもいかない理由があった。


「……どうにか出来ないものかねぇ」

 ガンネはマルクに付き添って眠たそうなキュリオの方を見て困った様子でそう呟いた。

 誰よりもマルクに忠義を捧げている自覚のあるキュリオだが、その問いに答える事は出来なかった。




「あー。すまんな。馬車でのお勉強の時間なんだが……皆忙しくてマトモな教師がおらずどういうわけか俺になった。本当にすまん」

 馬車の中で座ったままそう言葉にするのはマルク達の担任である死んだ魚みたいな濁った眼が特徴的なグライブル・ラスカディである。

「良いんだよグラさん。来てくれただけで本望さ」

 芝居がかった様子でガンネがそう言うとグライブルは泣き真似をしてみせた。

「よよよ。これも貧乏が、貧乏が悪いんじゃよ……」

 そんなおふざけを二人はしてキュリオは冷たい眼差しを向けるが、マルクは本気であると思った。


 今のマルクに冗談を考える余裕がないというのも理由の一つだが、それ以上にグライブルの恰好が余りもみずぼらしいという悲しい事情も所為であった。

「……余の小遣い程度で良いなら譲ろうか? それでも金貨数十枚は……」

 そう言葉にするとグライブルは悲しそうな顔で首を横に振った。

「残念だけど、賄賂は受け取れないんですよね先生だから」

「む。無礼な事を言った。許して欲しい」

「良いさ。というわけで、悪いけど俺教えられる事何もないのよね」

「……ふむ? 学園の講師陣は皆優れていると聞いていたが……」

「ただし何とやらって奴だろ。すまんね。と言っても三十分せっかくの時間だからな。……よし! グライブル先生のいかにして楽をするか講義をしようか」

「……はい?」

 マルクは目を丸くし驚きつつも学ぶ心構えの出来ていたグライブルの話に耳をしっかりと傾けた。


「いやね。不良先生やってますとかなーり無茶でご無体な罰を食らう事があるのですよ。例えば魔物を倒して来いとかねー」

「……それは不良でなければ良いのでは」

「はい先生は無敵だからその言葉聞きませーん。あーあー聞こえなーい」

 耳を塞ぎながらのグライブルの様子はどちらが子供かわかったものじゃなかった。


「はい続き話しまーす。というわけで魔物を倒してボロボロの状態になりました。でも先生だから授業があります。休めません。じゃあどうしたら良いでしょう? 正解はこの前俺が行った行動となります」

「ふむ。……まあ、頑張って授業に出てその後ゆっくり休むのが正解では?」

「ブブ―。無茶に無茶を重ねてもしんどいだけで誰も得せんさ。というわけで正解は『誰か出来る人に授業をお願いしてサボる』が正解でしたー」

「え……えぇ……」

 そのマルクの声は少年が放ったとは思えないほどに困惑と呆れが混じっていた。


 そんな最初こそ下らない話をすると思いきや、グライブルの話はピンポイントでマルクに必要な話だった。

 最初に誰もいなかったから自分が来たとグライブルは言っていたがそうではない。

 ガンネがわざわざ空き時間の少ないグライブルを呼び頼んだ。

 その理由は単純で、休む事が今のマルクも最も必要な授業であるとガンネは考えていたからだ。


「おっと。サボるのだって本当に必要な事だぞ。特にあんたがこれから長い事政務を果たす事を考えるならな」

「……ふむ。ご教授頂いても?」

「ああ。他の事は駄目でもサボる事に関してなら俺はまあそれなりに出来ると思っている。という訳なんだがな、人によって能力は違う。それは当たり前だろ?」

「うむ。その通り。故に貴族が領地を統治しておる。これは貴族が民と比べて優れているという意味ではないぞ。能力に差はあれど個人の出来る事には大差ない。だからこそ貴族は民に仕事を任せ限られたリソースを全て領地管理に回して特化しているという意味だ」

 マルクが自慢気に子供らしくない事を語るとグライブルはパチパチと拍手をしてみせた。

「流石流石。まあ今回話したいのはそこではなく、人にとって得意不得意ってあるだろ? 程度の話だ。まあ能力の差ってのは皆が知ってる事だろ?」

「うむ。余は優れている自負はあるが所詮子供である。それ位はわかっておるぞ?」

「うーん。そうなんだけどそうじゃないというか……。まあ話を戻そう。言いたい事はこうだ。能力は差がある事を知っているのに疲れやすさは個人毎に違う事を知らない人が多い」

「ほぅ。その発想はなかったな。言われてみればその通りだ」

「だろ? 疲れにくい人もいれば疲れやすい人もいる。そもそもそれ以前に、疲れやすい日疲れている日ってのがあるのが人間だ。わかるか?」

「うむ。つまり皆が動けると思ってるとその気がなくとも無理をさせてしまう、という意味であろう?」

「流石は公爵様様。覚えが良いね」

「……馬鹿にしておる様にも聞こえるがね」

「純粋に褒めただけですのでその様な意図は……いえすいません剣先でちくちくしないでくれませんかおぜうさま?」

 キュリオに脛をチクチクさされながらグライブルがそうおどおどと言葉にした。

 それでもキュリオはチクチクするのを止めず、むくれた顔のままグライブルをチクチクし続けた。



「所で、マルク様は狩りをするのにお供として動物を連れていくのを知っているでしょうか?」

 すっかりキュリオに怯え敬語となったグライブルの言葉にマルクは頷いた。

「うむ。知っておるぞ。鷹であろう?」

「ええ。流石です。ですがそれだけではなく狼や犬、場合によっては猫やフクロウ、鼠すら狩りに連れていく者がおります」

「ほぅ! それは興味深いな」

「まあその辺りは授業で。重要なのは動物を連れているという事です。狩りに連れていく動物は先程の通り色々います。さてここで本題です」

「やっとか。待っておったぞ」

「すいません。主人が無茶をした場合動物達はどうなるでしょう?」

「……ふむ。わからんな。どうなるのだ?」

「答えは主人以上に無茶をしようとします。無茶をする主人を見習い、そして無茶をする主人を護る為に。そうなると悲惨ですよ。どっちかが壊れますからね。と言っても上下関係があるだけでなく人に従うという重労働を動物は常に行っています。その上で無茶まですればどっちが先に壊れるか言うまでもないですね。わかります? 上の人が無茶をすれば下が先に壊れるんです」

 グライブルは伝わる事を祈り、普段では見せない様な熱意を見せそう言葉にした。

「……なるほど。であるなら、その場合どうすれば良いのだ?」

「簡単ですよ。無茶しないで仕事を減らす。上の人間が疲れるまで毎回やれば部下はもっと疲れるから上の人間は適当に疲れない程度で仕事を止める事。つまり――サボりです」

 そう言ってグライブルは死んだ目のまま力なく微笑んだ。

 

 その後もグライブルは意外としか言えないほど真面目に授業を続けた。

 馬車の中で密閉した空間での、生徒三人しかいない授業。

 しかしその授業は非常に興味深い事であり、三人は思わず真剣に聞いていた。


 無茶をしても結果は出てこない。

 普段から頑張りすぎるといざという時に頑張れない。

 休みというのは成長の時間である。

 仕事の密度を増やすには仕事の時間を減らす事こそ有効である。


 そんな内容を回りくどく、説教臭くならない様冗談を交えながらグライブルは語った。

 熱く語りたいのを堪え、適当そうに、ただし心の底から真剣に語り続けた。


 同時に、子供には子供の楽しみがある事をグライブルは伝えた。

 走り回り、笑い、楽しむ事。

 勉強も仕事も義務も責務も大切だが、それと同じ様に休み遊ぶ事も人には必要である。


 最初に話した狩りの話を交え、子供でも出来る狩りの仕方をグライブルは楽しそうにマルクの興味を引きながら語った。


 馬車の移動時間三十分は、皆にとってあっという間の時間だった。




「着いたか……。先生、お主何も出来ぬなどと戯言ではないか。その話術、十分な能力であったぞ。楽しい時間であった。賄賂を払う事が許されるなら是非とも払いたいくらいだ」

 そう言ってマルクは馬車を降りながらケラケラと笑った。

 グライブルは賄賂を拒否した事を心の底から後悔した。


「若。中々に楽しかったな。今度一緒に狩りに行くか? 男だけで」

 そう言ってガンネが笑うとキュリオはガンネを睨みつけ、そしてマルクは微笑んだ。

「ふむ。その時はキュリオにはお弁当でも用意してもらおうか」

「もちろんです。坊ちゃまの為に心を込めて作りましょう!」

 ころっと態度を変え、キュリオは嬉しそうに叫んだ。

「うむ。そういう日も……きっと楽しいであろうなぁ」

 そう言葉にした後マルクはグライブルの方を向き深く頭を下げた。


「素晴らしき事を学ばせてもらった。もし余が領主になった暁には民には無茶をさせず皆が働き過ぎないで済む様な領にしたいと思えた。うむ。そなたの名前を余は一生忘れぬであろう。そなたは素晴らしき教師である。キュリオ、ガンネ、行こう」

 そう言葉にし、マルクは次の授業を受けに向かった。


 その後ろ姿を見送り、三人の姿が見えなくなってからグライブルは後頭部を掻いた。

 乱暴に掻き……掻きむしり……壁を蹴飛ばした。

「……クソッ! そうじゃねぇんだよ!」

 怒りのぶつけ所に困りながらグライブルは一目も気にせず叫んだ。


 何一つ伝わっていない。

 グライブルの伝えたい事を理解し、そしてその重要性も理解した。

 マルクは確かに神童と呼んで相応しい位優れていた。

「……肝心なのはそうじゃねーだろうがよ……人よりも優れているなら凡人の……俺の出来る事位理解しろや……」

 その声は泣いている様だった。


 マルクはグライブルの伝えたかった事全てを理解した。

 その上で、その対象から、人は疲れるという当たり前の対象から自分を完全に除外していた。

 さきほどの会話は自分に関係ない事であるとはなから決めつけていたのだ。


「やっぱり俺にゃ先生なんて無理だな……」

 そう呟きグライブルはとぼとぼと歩いた。

 今日だけは、どこにも遊びに行く気分にはなれなかった。




 キュリオもガンネもマルクの問題には気が付いている。

 だからこそガンネはグライブルにわざわざ授業を頼み、キュリオも出来る限りマルクを甘やかしている。


 そして二人共、もしマルクが無理をし続けて壊れ取り返しが付かない事になれば命で責を負う覚悟すら決めていた。

 それでも、彼らはマルクに何も言えない。

 言えるわけがなかった。


 何故ならば、マルクの行動は全て正しい事であり同時に必要な事でもある。

 無茶をしなければマルクは自分の居場所すら守る事も出来ない様な状況となっているからだ。


 そう、マルクは必要な事しか行っていない。

 間違っているのは……マルクを追い詰める様な状況を作った公爵家に住まう大人達の方である。


 事の始まりはいつになるだろうか……。

 去年とも言えるし三年前とも言える。

 また、マルクに弟が生まれた時にこうなる運命であったと言っても間違いではないだろう。


 マルクに二つ下の弟が生まれた。

 マルクは弟を心から可愛がり、慈しみ、尊敬されるべき威厳ある兄となろうとした。

 確かに兄弟仲は悪くなかった……はずである。

 少なくとも、三、四年は誰の目から見ても仲良き兄弟であった。


 弟は優秀であり人に褒められ育った。

 そんな弟をマルクは誇らしく思った。


 間違いなく言える事だが、現在も含めてマルクには何一つ罪はない。

 子供相手に他人の心の痛み、苦しみに気づけと言う方が無茶な話である。


 弟は確かに優秀であった。

 だが、兄であるマルクは優秀という言葉で片付けられないほどの能力を持っていた。

 弟が優秀なのはマルクと比べなかった場合に限っての話だった。


 長男である跡継ぎの方が高い能力を持ち、次男も十二分に優れている。

 為政者の視点から見れば理想的な状況である為親も気付くのが遅れてしまった。


 そしてその結果……誰かに気づかれるまで弟は膨れ上がった自尊心に苦しめられ続けた。

 誰もが自分を褒めてくれる。

 良く出来る良く出来ると言ってくれる。

 だが、兄には追いつく気配すら見えずむしろ差は広がる一方。

 いつも褒められているからこそ、その劣等感を味わうのは苦しく情けなかった。


 ただ憎むだけの相手であるならここまで歪まなかっただろう。

 自分に並々ならぬ愛を注いでくれた兄でなければこんなに苦しまなかっただろう。

 弟は誰にも言えぬほどの苦しみに身を焼き苦しんでしまっていた。


 とは言え……ここまでならまだ取返しが効く範囲であった。

 喧嘩でも何でも良いからぶつかり合い、腹の底を吐き出せば良いだけの話である。


 再度繰り返そう。

 マルクドゥールに罪はなく、またその弟にも罪はない。

 罪があるのは大人だけである。


 彼が歪むほどに苦しんでいるのに気づけなかったまぬけな大人と……歪むほどに苦しむ彼を利用しようと考え動いた腐った大人だけ。

 マルクの弟が苦しんでいると最初に気づいたのは、残念な事に腐った大人達であった。


 何時からかマルクと弟は会話を交わす事がなくなった。

 そして弟の傍には常におべっかを使う大人が纏わりつく様になった。


 弟を傀儡として大人達は人を集め、その勢力は日に日に強くなり、気づけば家の三割ほどが弟側についていた。

 彼らが声を揃えてこう告げた。

『マルクではなくこの方こそが公爵家の跡取りに相応しい』

 それを実行する為に彼らはその実績と表に出来ない工作を重ね続けた。


 気付いた時には家は二分される寸前となっていた。


 彼らはありとあらゆる手段で正当性を奪いに来た。

 この争いに正しさなど何の価値もなく、そこに優しさなど邪魔にしかならない。


 腐った大人共は全ての功績を弟が行った事にし、気づけば弟が跡取りであるという話が周囲に広まっていた。

 その結果……八歳という年齢の弟は腐った目で兄を見る様な魔物となってしまった。


 そんな弟がとても民を導ける様な存在にはマルクには見えず、同様に弟の周りにいる人物は欲に取りつかれている様にしか見えない。


 だからこそ、マルクは立ち上がった。

 誰よりも優れ、間違いを犯さず、誰の目から見ても立派であると言い切られる様な為政者となる為に――。


 そして大切な公爵家を、領を、民を護る為にマルクは弟への愛と己への自愛を全て捨て、歯車となる事を決めた。


 間違いではないからこそ、誰にもマルクを止める事が出来なかった。

 マルクが無理をする事は何一つ間違っていなかった。


 ただ……それでもキュリオとガンネはマルクに幸せになって欲しい。

 そう願っているのだが……その為の方法などどこにも存在していなかった。

 自分を殺して民を護ると選択したのは他の誰でもなくマルクだからこそ、二人には付いて行く事以外の選択肢が存在していなかった。


ありがとうございました。

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