1-10話 割と忙しい自由時間3
食堂での手伝いを終えたプランは席に付いて待ってくれていた二人に声の元に小走りで移動した。
「お待たせ二人共……あれ? 二人? エージュさんも待っててくれたの?」
プランがそう声をかけるとエージュは不安そうな顔をして頷いた。
「え、ええ。ああお邪魔でしたら去りますわ」
「ううん。邪魔じゃないよ。待っててくれてありがと。これから私達受付の人に色々話を聞きに行くんですけど、一緒にどうです?」
その言葉にエージュは安堵を息を漏らし、微笑みながら頷いた。
「ええ。ご一緒させていただきます」
その言葉にプランは溢れるような笑みを浮かべ頷き返した。
「俺の時もそんな可愛らしい反応してくれたら良いのに」
サリスがジト目でエージュを見つめた。
「あら? お猿さんと人類を一緒にしろだなんて……なんて難しい事をおっしゃるのでしょうか」
ふふんとした態度でそう答えるエージュに対し、サリスはやれやれと呟いてからわざとらしく溜息を吐いた。
「んじゃ受付さんのとこに行こうか。おばちゃんまたねー」
プランは遠くにいるおばちゃんに手を振りながら食堂を退出し、サリスとエージュはその後ろを言い争いをしながら付いて歩いた。
昨日と同じように第三エリアのメイン施設入り口の受付に向かって出会ったのは、見覚えのある人物だった。
「お姉さん! 昨日入学受付していた可愛い服のお姉さんだ!」
プランがそう言葉にすると、その女性は少し困った顔で微笑み小さく手を振った。
「あはは。確かに可愛いけど私服じゃないから褒められても少し困るかな」
「そういえばそうだっけ。でもお姉さんも美人だよ?」
「ありがとう貴女も可愛いわよ。それで、ご用件は何かな?」
そう言って受付の女性は優しい眼差しでプランを見つめた。
「その前に、昨日は話すようにアドバイスをしてくれてありがと。おかげで友達が二人も出来たよ」
そう言ってプランは両手を広げて後ろの二人を指し示した。
「あら凄い。将来有望ね。そうやってコネを作って大切にしていくのよ。冒険者は横の付き合いがとっても大切だから。……でないと私みたいになるわよ」
笑顔でそう語る女性だが、表情とは違い恐ろしく実感のこもった言葉だった。
「えっと、プランさん。あの……私もですか?」
エージュがそう尋ねるとプランは首を傾げた。
「ん? 何が?」
「えっと、お友達です」
「……嫌だった? 嫌なら撤回するけど? あ、貴族的に友達は選びたいとかそんな……」
そう言いながらしょんぼりするプランを見て、サリスはエージュを肘で小突いた。
「おい。貴族様が一般人をいじめるなよ」
「いじめてませんわよ! そんな事ないですよプランさん。お友達と言ってくれた事、とても光栄です」
そう言って微笑むエージュを見て、プランはぱーっと満面の笑みを浮かべ、エージュの手を握ってぶんぶんと振った。
「よろしくねエージュさん」
「ええ。エージュでも構いませんよ」
「わかったよエージュ。私もプランで良いからね」
「すいません……お気持ちは嬉しいのですが他人を呼び捨てにするのは少々苦手でして」
「そか。じゃ呼びやすいように呼んで」
その言葉にエージュは優しく微笑んだ。
「麗しい友情だなー」
そう言って受付の女性は目にハンカチを持って行き泣くフリをして見せた。
「ああごめんなさいお姉さん。お仕事中の目の前で」
「別に良いわよ今は人あんまいないし。というわけでプランちゃんだっけ? お姉さんともお知り合いにならない?」
「もちろん良いよ。私はプラン。ただのプランだよ」
「ありがとうプランちゃん。私はイヴ・ストール。この学園に入って三年目の二十一歳よ」
「へー……イブお姉さん学生だったんだ。教師か受付だと思ってた」
「ふふ。人付き合いが億劫で横を広げる事を投げ出し、外出するよりも研究する方が好きでずっと引きこもっていた私に教師は受付というペナルティを与えたのよ。酷いと思わない?」
「……えと、冒険者って横のコネが大切なんですよね?」
「ええ。とても大切よ。危険な仕事も多いし冒険者を名乗る荒くれ者も多いからね。本当何が起こるのかわからないわ。それこそ、知り合いがいないならいつ大地の養分になってもおかしくないわ」
「……だったら、そのペナルティはイヴお姉さんの事を考えての必要な処置では……」
その言葉に後ろにいるサリスとエージュも頷いた。
「そうね。でも、私だってわかってるのよ? わかってるけど……知り合い増やすのめんどい……。プランちゃんくらい可愛くて話しやすいなら良いけど……」
しゅーんとするイヴを見てプランは苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。
「とても良く出来たお姉さんと思ったけど……うん。イヴお姉さんちょっと駄目な人だったんですね」
その言葉にイヴはきりっとした表情で大げさに首を横に振って見せた。
「――違うわ。私はちょっと駄目じゃなくてとても駄目な人よ。だから養って」
そう言ってイヴはプランにしがみついた。
「……凄いな。俺が見てた間は誰に対してもまっすぐ受け答えして、常に笑顔でい続けたプランが、完全に困った表情でしどろもどろになってやがる……」
サリスがそう呟いた。
「えと、イヴお姉さん。クラスとかサークルとかその辺りの事を聞きたいんだけど良いかな?」
その言葉にだらだらして緩み切った表情のイヴは突如として出来る女モードに戻り、受付台の裏から辞典のように分厚い本を取り出しパラパラとめくりだした。
「お二人のお名前も聞いて宜しいでしょうか?」
イヴは微笑みながら、プラン後方の二人にそう尋ねた。
あまりの変わり様に面食らいながら二人は頷いた。
「サ、サイサリス・ハワード」
「エージュ・バーナードブルーですわ」
「……はい。プランちゃんとサイサリス様、エージュ様の確認が出来ました。三人共三日後に授業が開始されますので準備を怠らないようご注意下さい」
そう言って微笑むイヴに、プランはわくわくした表情で見つめた。
「えっと、三人一緒てことは――」
その言葉にイヴは優しい、姉のような笑みを浮かべ頷いた。
「ええ。三人共同じクラスみたいよ」
「わーいわーい。少しだけ心細かったんだよね。二人共これからもよろしく!」
そう言ってプランは二人に抱き着いた。
「……いや、わずか二日目にこれだけ知り合い作るお前が不安って……」
そう言いながらサリスは苦笑いを浮かべた。
「……にしても、偶然にしても出来すぎですわね。三人が一緒のクラスなんて……。何か理由が……」
エージュが不安げな顔でそう考え込む仕草をしてみせた。
「あー。そうか。確かに良い事尽くしでとても偶然とは思えないね。イヴお姉さん。その辺りはどうなの? 何かお金とか権力とか派閥争いとか、何か裏の思惑とかある感じ?」
プランは単刀直入直球ストレートを投げつけ、イヴは微笑みながら首を横に振った。
「全く何もないわよ。入学の資質調査で三人が仲良さそうで、資質的にも一緒のクラスにしても問題なさそうだからそのまま放り込もうって考えただけよ。付け足すなら、女の子同士だからお互い気にし合ってって事でもあるのよ。やっぱり男性の方が入学者多いから」
「そか。という事で問題ないって」
プランがそう尋ねると、エージュは至極まじめな表情を浮かべぽつりと呟いた。
「……プランさんについてはあの時も気にかけていましたから良いですが、このお猿さんと仲が良いって思われてたのは心外ですわ」
「奇遇だな。俺もお嬢様と親しいなんて思われたくなかったぜ」
そう言って言葉の牽制をしあう二人を見て、プランとイヴは納得したような表情で頷いた。
「そいやおねーさん。三年目って、本来なら学園ってどのくらいいるものなの? 四年? それとも十年?」
「んー? 別にお好きに。払う物払ってちゃんと勉強してればいつまでもいて良いわ。私の場合は下手すりゃ一生学生だし」
「そなの?」
「うん。錬金術だけなら他所でも国立の施設でもあるけど、その他あんまり人のいない魔法の研究ってここ以外だとちょっと難しいのよね。出来ない事はないけど」
「お姉さんは錬金術の人じゃないの?」
「錬金術も出来るけど、私興味を持った事なら何でも調べたいって思うようなタイプの研究者なの。だから、気になる事があれば一から学べて、しかも専門的な施設も存在し、更に研究の進み具合によってはお金も貰えるからよほどの事がない限りは私はここで一生を過ごす事になるわね」
「……はえー。冒険者学園なのにそんな考え方もあるんだねー」
「――ま、ね。色々あるのよここも。さて、ここで話すのも悪くないけど私はペナルティの業務中。そしてあなた達は新入生で忙しい。切り替えていきましょうか。次はサークルについての説明で良い?」
イヴがそう尋ねるとプランは頷き、サリスとエージュは言い争いを止めて聞く姿勢に入った。
「えと、一応サークルがどういう感じなのかはスカウトされた時にちらっと聞いたよ。ただ、どこに行ってどうすればサークルに入れるとかはわからない感じ」
「もうスカウトされたんだね。そのコミュ力分けて欲しいわ。んで、サークルについてだけどサークル活動用の施設は第四エリアって決まってるの」
第四エリア。
第三エリアが今ここで山の中腹にある一番外側のメイン施設がある場所で、第四エリアはその外側。
昨日イヴと会った施設があるような、山の外側にある建造物群の事となる。
「……山をぐるっと一周か。全部回ろうとすれば何日どころか何週間もかかるだろうな」
サリスがぽつりと呟いた。
「そこの入り口を出て数百メートル右に歩くと馬車の待合所があるわ。それで、どこか入りたいサークルって決まってるの?」
三人は揃って首を横に振った。
「ううん。だからどんなのがあるのか見学に行こうかなと。後は購買所とかトレーニング施設とかを確認しておけって紙に書かれてたしその辺りも三日以内にしておきたいかな」
「そうねぇ……それなら……。最初に私が渡した要綱今持ってる?」
プランが頷いてバッグから紐で縛った紙束を取り出した。
「うん」
「それの三十八枚目。第四エリアの簡易地図に主なサークルの場所が書かれているからそれを見て興味のある場所を巡ると良いわ。他の場所、特に購買所はまた明日にした方が良いわよ。二度手間になるし」
「二度手間?」
「ごめんね? 私今はこの学園の受付だから色々言えない事あるんだ。大した事じゃないけどそれでも教師側の話だから」
「そかー。うん。じゃあお姉さんの言う通りサークル見る為に馬車の待合所行ってくるよ。ありがとお姉さん」
そう言ってぶんぶんと手を振るプランに、イヴは微笑みながら軽く手を振って見送った。
「コミュ能力が高いと友達も出来てあんな明るく振舞えてアクティブに動けるのか。……良いわねぇ羨ましい。でも……うん。やっぱ私にはめんどいかな」
そんな駄目人間みたいな事を言いながらイヴは受付業務に戻った。
「すっげぇ下世話な事を聞いて良いか?」
馬車の待合所に向かう途中、サリスがプランにそう尋ねて来た。
「ん? 別に良いよ? 何?」
「いやさ、朝食堂の手伝いで幾ら貰った? 今後の参考なまでに」
「あーまだ確認してなかったな。でも軽かったしそんな沢山じゃないよ」
そう言いながらプランはバッグをごそごそと漁り、小さな布袋を取り出した。
「これだけー」
そう言いながらプランが手の平に硬貨を転がした。
手の平に転がる二枚の銀貨。
ただし、普段良く使う銀貨よりも一回り以上大きく……それは大銀貨と呼ばれる物だった。
「……は?」
「……は?」
「……は?」
三人は目を丸くしてプランの掌に転がる二大銀貨を見つめた。
「……入学金の五倍……だと……」
サリスはぽつりと呟いた。
「……なあ、俺相場とか知らないんだけどさ……これ、どうなんだ?」
サリスの言葉にエージュも首を横に振った。
「いえ、私も経済には明るくないので……」
そう言って二人はプランの方を見た。
「……以前働いていた厨房だと、日給で三小銀貨だったよ」
「……プランさん。それは日給で?」
「うん。日給で」
そのまま三人は、見間違えじゃないか確認するように再度二枚の大きな銀貨を見つめた。
「これさ、プランがめっちゃ凄いからこんだけ貰えたんだよな?」
サリスの言葉にエージュは非常に困ったような仕草をしてみせた。
「いえ。プランさんが有能なのは認めます。朝食、大変美味しゅうございました。でも、たぶんそれだけでは……」
三人は無言で何も言わないが、考えている事は同じだった。
ちょっと一時間働いただけで二枚も大銀貨が貰える。
こんなに金払いが良いと言う事はこの学園が金銭的に非常に恵まれているという事を意味しており、それはつまり……。
「三か月後の学費。かなーり覚悟していた方が良いよねこれ……」
プランはしみじみと呟き、大切にそのお金を財布に仕舞った。
「……最悪エージュが金出してくれないか? 正式な借金という形で良いから」
サリスの言葉にエージュは申し訳なさそうに首を横に振った。
「いえ。貸せるならそれでも良いのですが、私もあんまり実家を頼れる立場ではなくてですね……。すいません。少額に困る事はないのですが……」
「……そか。いやわりぃ。嫌な事言ったな」
「いえ……。ちょっとした武具くらいなら買ってあげられますので、それで三人で頑張るしか……」
「……そだね。うん。三人で頑張ろうか」
多少頑張ったら何とかなる額だろうと思っていた三人は、ここに来て現実と向き合う事となる。
その事実は、今までそこまで意識していなかった三人が正式に冒険者として組むのを考えようと思うのに十分な事実だった。
そんなプランの言葉に二人は頷いた辺りで、三人は馬車の待合所に到着した。
ありがとうございました。




