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1-1話 新しい過去、懐かしい未来

お手に取っていただきありがとうございます。


こちらは『男爵令嬢の辺境領主生活』(https://ncode.syosetu.com/n5174ew/)の続きとなっております。

出来る限り前を見ていなくても楽しめるようにはしたいのですが……よろしければそちらの方を先にお願いします。


そして前作を読んだ上でこちらに来てくださった方、本当にありがとうございます。

お待たせしました、これからもプランを取り巻く日々にお付き合い下さいませ。


 のどかな平原の中、ぽつりとある一軒だけの小さな民家。

 小さな畑を営み自給自足の生活を行っている老夫婦の家は、今日いつもよりほんの少しだけ賑やかとなっていた。

 その賑やかな理由は、一月に一度ほどの頻度で野菜を買取にくる業者の馬車が来ているのだが、その馬車に野菜の箱を詰め込んでいるのが民家に暮らす老夫婦ではなく女の子だったからだ。

 大人しい老夫婦とは違い、その女の子はいつもニコニコしていて元気一杯だった。

「はい四つ目詰め込み終了! おじいちゃんあと幾つある?」

 どうしてそんな楽しそうなのかわからないが、その女の子はとにかく楽しそうに家主の男性老人に尋ね、男性は申し訳なさそうに指を二つ立てる。

「すまんが後二つほど奥に余ってる野菜があるんじゃが、良いかい?」

「オッケー! まっかせなさい!」

 女の子は元気に親指を立てて男性老人の示す方に走って行き、直後に重たそうに箱を二つ持ってぷるぷると震えながら戻って来た。

「こ……これで……終わり?」

 老爺は女の子を心配そうに見ながら頷いた。


 その様子を確認した後、女の子は馬車に向かって移動して、そろそろと優しく馬車内に野菜を積んだ。

「ありがとう。若い女子をこき使って申し訳ない気がするがのぅ」

 男性老人の言葉に女の子は笑ったまま首を横に振った。

「まさかまさか。三日も滞在させてもらったんだからこのくらいやって当たり前よ」

 その言葉に男性老人は少しだけ寂しそうな顔を見せた。

「そうか……もう三日か……。出来ればずっと居て欲しいが……行くんじゃの?」

「うん。やらないといけない事があるからね」

 女の子ははっきりとそう言い切った。


 その女の子の決意に満ちた瞳を見ると、老爺は何も言えなかった。

 その瞳は力強く美しいのだが……とても子供の出来るような瞳ではない。

 何か計り知れない苦痛を受け、その上で立ち上がった者のような……。

 そんな瞳だと老爺は思った。


「そうか。せめて婆さんの占いが終わるまで待ってくれんかの」

「あはは……。凄く興味あるけど、馬車の人を待たせるのも悪いので」

「そうか……いや、そうじゃの……。若い者の時間は沢山あるが無限ではない。もう終わった我々が足を止めるのも失礼じゃしなぁ……」

「終わってませんよ。……お礼も兼ねてまた会いに来ますから」

「そうかそうか。じゃ、次に来る時までは生きとかないといかんな」

「もー。そんな事言うなら来ないですよ?」

「む。それは困るの。じゃ、二年以内に来なかったら寂しくてぽっくり逝ってしまうかもしれんってのはどうじゃ?」

「はいはい。一年以内にまた来ますね」

「うむ。……っと、足止め成功じゃ」

 老爺はニヤリとした笑顔で笑った瞬間、家の奥から老婆が現れた。

「あー。そういう事か……」

 老婆が占いを終え、見送りに来るまでぐだぐだした話をしていたんだと気づいた女の子は微笑みながら老爺にそう呟いた。


「うむ。そういう事じゃ。ワシはババア思いのナイスガイじゃからな」

 そう言う老爺の頭に、老婆は大きな水晶玉をゴンと叩きつけ自称ナイスガイは地面に蹲った。

「ああ間に合った間に合った。やっぱり見送りに糞ジジイだけってのは申し訳ないからの。急いで占いをしてきたわ」

「あはははは……」

 仲が良いのは確かなのだが、喧嘩仲間のような二人のやり取りにはどう答えたら良いのか女の子にはわからず、困った顔で笑う事しか出来なかった。


「さて、占いの結果だが……すまんが良くわからんかった。これでも昔は凄腕美人占い師で有名だったのじゃがのぅ」

 大げさにしょんぼりして見せる老婆に女の子は優しく微笑んだ。

「まあそう言う時もありますよ。気持ちだけ受け取っておきますね」

「うむ。本来ならば一ハーフガルドの占い料じゃが、三日も糞ジジイに付き合ってくれた礼じゃ。タダでええわい」

二分の一金貨(ハーフガルド)ってたっか! 本当に売れっ子占い師だったんですね」

「なんじゃ、本当だと思っとるのか?」

「え?本当でしょ?」

 からかうような老婆の口調に女の子は当然のようにそう答え、老婆は目を丸くしかっかっかっと楽しそうに笑った。

「ああ本当だったとも! 道具やら準備やらに金がかかるからそれだけとっても大した儲けにならんかったがな」

「ほえー。占い師ってのも大変なんだね……。っと、馬車の人待たせてるから、私そろそろ行くね」

 その言葉を聞いた瞬間、老爺は立ち上がり老婆の横に寄り添った。


「何を目指しているのか知らんががんばりなさい。――いってらっしゃい」

 老爺は優しい声でそう言葉にした。

「たった三日だけだけど、本当に楽しかったよ。出来たらまた会いに来てね」

 老婆は穏やかな声で女の子にそう優しく囁いた。


 女の子――プランはしっかりと頷いてから馬車に乗る男性に一声かけ、野菜が詰まった馬車の中に入り込み、男性はプランが馬車に乗り込んだのを確認し馬を走らせた。

 馬車が走る間、プランは二人にずっと大きく手を振り続けた。




 ……馬車が通り過ぎ、いつもの静かな時間に戻った瞬間老人二人に寂しさがこみあげて来る。

 そんな自分達が面白くて、二人は顔をお互いの寂しそうな顔を見てドッと笑い合った。

「かっかっかっ。いやはや……人嫌いでこんな場所まで逃げて来たワシらがの。たかだか小さな女の子が独り、たった三日来ただけの子が去っただけで人恋しくなるとか……世界はまだまだ面白いのぅ」

 老爺の言葉に老婆は頷いた。

「うむ。本当に面白い。次に会う時まで生きないともったいないわい」

「うむうむ。んで婆さんや」

「何だい爺さんや」

「――どうして嘘を付いたんじゃ?」

 老婆はぴたっと動きを止め、そして老爺の方を見つめる。

「ありゃ。バレてたか」

「長い付き合いだからのう。ついでに言えば、婆さんが占いに失敗するなんてありえんからの」

「ま……そりゃそうか。いや、言っても意味のない言葉じゃし……若い子に言いたくない言葉だったからの」

「ふむ。何て出たんだ」

「『神は助けず』だとさ。あの子は一体どんな運命を背負っているのじゃろうかねぇ」

 老婆は寂しそうに、己が崇拝する神ルインに若干恨みのような感情を持ちそう呟いた。


『神は助けず、ただ見守るのみ』

 何かやるべき事があるらしいプランの助けになろうとして老婆は占いを始め、その結果がこれである。

 そしてこんな結果、老婆は今まで経験した事がなかった。


「……じゃ、後ワシらに出来る事は願う事のみか」

 老爺の言葉に老婆は小さく頷いた。

「そうじゃの……」

 老婆はそう呟き、プランが去っていった方を見つめ続けた。




「おっちゃん。この馬車はどこ行くのー?」

 プランの声に馬に乗った男は苦笑いを浮かべる。

「あんた、それも知らんで付いてきたのかい?」

「うん。お爺さん達が貴方なら信用出来るって言ってたからね」

「ああ……そう言われると何も言えねぇなぁ」

 男性はまんざらでもない表情を浮かべながら、ふっと小さな笑みをこぼした。

「というわけで、どこ行くの? 北なのはわかるけど」

「ああ。ダルクレイス侯爵様の領内にあるレスト・レインシティだな。嬢ちゃんはどこに行く予定なんだい?」

「王都」

「そうかそうか。だから北に向かってるのか」

「そゆことー」

「そかそか。……嬢ちゃん、一つ提案なんだがね」

「んー? 何ー?」

「急ぎじゃないならウチの店手伝ってみないかい? 当然給料は払うし他にも報酬としてうちから出る王都行きの馬車に乗せるぜ?」

「あー。それは良いねぇ。期間は?」

「一月くらいでどうだ?」

「あー。それなら余裕で間に合うから良いけど……どうして急に?」

 どこにでも居そうなただの女の子を突然雇いたいと言われ、プランは疑問に思いそう尋ねた。


「……ぶっちゃけて良いか?」

「うん」

「若い女子が一人でフラフラしてるのは見ていて危なっかしい。しかもあんたはコンラ――いや、あの老夫婦さんが一緒に暮らしたいって言われるほど親しい人柄だ」

「うん。凄く楽しい三日間でした」

 当然のようにそう言い放つプランに男は苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。

「それは本当にすげぇ事なんだよ。んでな、そんなあんたに何かあったらあの人達が悲しむ。俺に取ってあの人達は恩人みたいなもんだからな。だからちょっとお節介を……ってのが八割ほどの本音だ」

「ほうほう。残り二割は?」

「野菜詰める手際が良かった。そこそこの見た目に手際よく動け体力があって愛嬌二重丸。これは王都に運ぶ事と衣食住全て賄うって条件つけたら使える人材雇えるなって考えた。……安めの値段で」

 本当に包み隠さず話し、しかもその内容は安い賃金で雇いたいという目が銭になっているような内容。

 だが、それを一切隠さずにしかも堂々と話すからこそ逆にプランは好感が持てた。

「ふふ。流石商人ね」

「おう。んでどうだい嬢ちゃん。受けてくれるかい?」

「もちろん良いよ。おっちゃん本物の商人ぽいし」

「ほぅ。嬢ちゃんの思う本物の商人ってのはどんな人なんだい?」

「相手の欲しい者を見極めそれを提供する事でお互いウィンウィンの関係を築き、それを繰り返して利益を得続けられる人」

「なるほどね。良くわかってるじゃないか」

「ま、ただの受け売りだけどねー。んでさ、おっちゃんの事なんて呼べば良い?」

「このままおっちゃんでも良いぞ」

「いやいや、お店に雇われるんだし働くんだからちゃんと呼ばないと」

「そかそか。さっきの話と言い……嬢ちゃん見た目によらずしっかりしてんな。んじゃ副店長って呼んでくれや」

「あいあい。副店長。短い間だけどよろしくね!」

「おう! というわけで、嬢ちゃん従業員となったわけだが……一つ聞いて良いかい?」

「良いよー。何何?」

「嬢ちゃん。名前何って言うんだ?」


 その言葉にプランはしまったという顔を浮かべ小さく頭を下げた。

「あちゃー、ごめんなさい言い忘れてたわ。私はプラン……ただのプランよ」

「そうか。んじゃプラン。短い間だけどよろしくな」

 男に頷きプランは小さく微笑む。

 その笑みには少しだけ寂しそうな表情が含まれていたが、馬に乗っている男がそれに気づく事はなかった。


ありがとうございました。

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