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あるエルフ少年の復讐譚  作者: ポムの樹
第一章 
3/6

新たな場所へ

「お久しぶりです」


声の主の女性は、そう言うと深々とお辞儀をした。


「ん、4日ぶりだね」


「はい、そうですね。私はその4日のほとんどが移動時間でしたが…」


語尾は伝える気がないのか、自分に言い聞かせるように愚痴をこぼす。


「それで、今度はなんですか?今回は、病院ということ以外全く情報をいただきけませんでしたが」


怒りを隠すように笑みを浮かべるが、ほとんど隠すことはできていない。


「今回は、国家レベルの機密事項だったのでね、前情報を伝えることはできなかったのだよ」


女性は、その答えに一瞬驚いた素振りを見せたが、その怒りは消えていない。


「孤児の話ですよね?」


「そうだよ」


女性は、国家機密の孤児の話と聞いてまだ納得がいってないようだ。


「実はここにエルフの子どもたちが、仮で住んでいてね。でもこのままこの町の真ん中にくらしていたらいずれバレてしまう。バレてはいけない理由は…分かるね?」


その女性の顔を覗き込むようにそう問うと、こんどは驚きを隠しきれないのか、棒立ちで固まっていた。


「…………エ…エルフ…です…か。なる…ほど分かりました。ちなみに何人いるのですか?」


()()には4人だけだよ」


「ここ?」


「他のところにも何人かいてね。全員同じところに連れてくると、病室が足りなくてね。それにエルフがいることを悟られる確率が跳ね上がるからね。」


「なるほど。でもなぜこの前の子と分けたのですか。ここからあそこは、3000マイルほどあって非常に移動が大変なのですが」


「エルフの子たちを見つけたのが3日前だったからだよ。」


「そういうことでしたか」


こんどこそその女性の怒りは消えたようだ。話し方に落ち着きが見られる。


「それで、引き受けてくれるかい?」


「(いや断っても押し付けてくるじゃないですか…。でもエルフと聞いてやる気は出てきましたけどね。)はい!もちろんです‼」


 ******

 

「知ってる天井だ」


俺は目を覚ますとそうつぶやいた。


ここで目を覚ますのは二回目だ。ところで、俺はいつまでここにいるのだろうか。強くならないといけない。だけどこんなところにいては強くもなれない。早く…あいつを、メビウスを倒してここを出ないと…


 ーーバンッッ


「おにぃぃぃ‼なんかメビウスさんにおにぃ、呼んできてって頼まれたんだけど……何してるの?」


「あぁ、ちょっと驚いてった〜だけだよ?で…なんだってぇ?」


部屋中に響き渡った音に驚いてしまったがなんとか持ち直して言葉を探すようにそう言い放った。が、なぜか上手くろれつが回らない。


「大丈夫?おにぃ?しんどいなら別に寝ててもいいと思うけど」


「心配してくれてありがと。でもホントに大丈夫だから。」


エリーに言い聞かせるように行ったが、当の彼女はなぜか不満顔だ。


「まぁ…おにぃが大丈夫って言うならそれでいいけど…。本当にしんどいときはお願いだからそう言ってね。ね‼ね‼ねね‼」


妹の顔がめちゃくちゃ近い。鼻と鼻がぎりぎり当たらないぐらい近い…いやあたっている。


「はっはっっはい!!!」


エリーの圧に飲まれていた俺は、気づいたらそう叫んでいた。


「で話戻るんだけど」


彼女は腕を組みながら立ち上がった。


「なんかでっかい部屋におにぃのこと呼んでってメビウスが」


「私達ここから出ていくことになるかもしれないんだって」


メビウスと聞いて、やっぱりしんどいことにしてここで寝とこうという考えが一瞬頭を過ぎったが、『ここから出れるかも』という言葉は俺のそんな作戦を吹き飛ばした。


早くこんなところをでて強くならないと。メビウスの顔も見たくないし…


俺は心の中でガッツポーズをしながら言い放った。


「分かった。すぐ行くよ」


 ******


「やっときたかい。よしこれで全員揃ったね」


そこはロビーのようだった。メビウスと知らない女性、また、あったことのないエルフの子たちが四人座っていた。


「遅えんだよ!何してたんだよ!」


エルフの子のうちの一人がそう怒鳴ってきた。

するとその後ろから小さな手が出てきたかと思いきや、幼い女の子が前に出てきてその怒鳴った少年の左手を掴んでそのまま背負い投げ?をお見舞いした。


「別にちょっと遅れたぐらいでそんなに怒ることないでしょ‼」


その女の子は怒鳴った少年を踏みつけながらそう叫んだ。


この子はブーメランという言葉を知っているのだろうか。まぁ、俺達の味方をしてくれたようだし、ここは突っ込まないでおこう。また後で教えてやろう。


「で、集まってもらったわけなんだけど…」


メビウスはまるで何も起きなかったかのように自然に話し始めた。のびていた少年は起き上がったようだ。


「ここにいる女性は結構田舎の方で孤児院の院長をやってもらっている子なんだけどね。君たちをずっとここに置いてておくわけにも行かないから、引き取ってもらうことにしたんだ」


どうやら聞いていた話と同じようだ。しかし2つ疑問がある。


「俺たちをここから出してもいいのか?機密がどうのとか言ってなかったっけ?あとあんたを倒さないで出ていくことになるが、それはいいのか?」


「フッ、ここに普通の孤児院の院長を呼ぶわけ無いだろう。彼女の運営している孤児院はうちの騎士団との関わりも強くその周りには結界もはられている。関係者以外の一般人は入ることはできないよ。それに彼女は僕の古くからの友人でね。少なくとも調査隊の班長ぐらいの実力はあるよ。つまり君たちはさらわれることもないし、彼女に任せておけば君を抑えるぐらいわけないってこと。わかったぁ?」


メビウスは俺を挑発するように淡々とそう語った。

やっぱりこのお兄さん嫌いだ。


「ねぇ、なんの話?」


エリーが背中に乗りながら、上から俺の顔を覗き込むようにしてそう問うてきた。

しかしここでエリーに奴隷やゼオンの話をするのは兄として気が引ける。ここはエリーの好きなことの話をして切り抜けよう。


「妖精や精霊の捕まえ方の話だよ。」


「えっ!妖精さん?そういえば…最近あってないなぁ会いたいなぁ…」


エリーはねらい通り俺の嘘を信じてくれたようだ。


「何か他に質問ない?」


メビウスが子どもたちに問うた。しかし誰もそれらしい反応は見せなかった。


「じゃあないということで、俺は仕事あるからあとはよろしく〜。連れて行っといてね〜」


メビウスがそう言うと、その謎の女性はメビウスの方を見て頷いた。


「とりあえず自己紹介するねー。はじめまして、今日からみんなと一緒に暮らすクシャナです!よろしくー。とりあえずみんなの名前を知りたいんだけど」


クシャナと名乗る女性は手を俺たちに振りながら笑顔を浮かべている。


「俺様はカイルだ。正直ここの生活は何も面白いもんがなくて飽き飽きしてたんだ。早く連れて行ってくれよ。」


カイルは逆立たせた金髪をなで上げながらそういった。


妙に時間に厳しかったり、自分を俺様とよんだりとなかなか荒々しいやつだな。


「スズよ。よろしく。」


カイルの後ろからそんなちょっと上から目線の声が聞こえた。しかし顔は見えない。


「俺はオメナ。で、これが妹のエリーだ。仲良くしような。」


俺はエリーを抱きかかえながら他のエルフの子たちに向かってそういった。


するとスズは笑顔を見せたが、カイルは『ハッ』というような顔で俺たちをその瞳に写した。


「えっと、カイルくんとスズちゃんとオメナくんとエリーちゃんね。よし覚えた。じゃあもう出発するけど準備はいい?」


「早っ!」


そうつぶやいてあれこれ考えて見たものの特にこの病院に用はない。


「大丈夫だ。」


そう言って顔を上げると、すでに他の子たちは準備ができているようだった。


「じゃあ帰るよー」


そこで俺はあることに気づいた。


「なぁ、町中を通るならエルフだってバレるんじゃないか?」


「いや、大丈夫だよー」


そう言うとクシャナは、両手で大気を混ぜるような素振りを見せると、勢いよく両方の手を前に出した。


するとそこには黒よりさらに黒い漆黒を写すような楕円形の物体が出現した。


「これは…?」


「転移魔法よー」


「じゃあ一瞬で孤児院に行くことができるな」


「それがそうとも限らないのよね〜」


クシャナはそう言いながら俺たちをその漆黒の球の中に押し入れた。


するとそこには、一匹のドラゴンと大きな荷車があるだけで他には何もなかった。


「ここはどこだぁ?」


「ここはさっきの町からちょっとだけ離れたところよ。転移魔法は、そこまで実用的な魔法じゃなくてね。ほんのちょっと移動するだけで莫大な魔力を消費するの。だからめったに使うことはないわ!…ということでここからは竜車での移動よ。」


クシャナは漆黒の球から出て来ながらそう説明した。


「マジかよぉ。ちなみに何時間ぐらいなんだぁ?」


カイルは転移魔法で直接孤児院に行けると考えていたようで少々ショックそうだ。


「2日よ」


その答えは俺の予想をも遥かに上回る答えだった。

せいぜい六時間ぐらいでつくと思っていた。


そして俺たちはもれなく両手両膝を地面につけてショックを受けていた。


隣からはクシャナの深いため息が聞こえた。





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