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あるエルフ少年の復讐譚  作者: ポムの樹
第一章 
2/6

復讐の誓い

「うわぁぁぁぁ、あ…あぁ…」


心臓がけたたましくサイレンを鳴らす。俺は両手で頭を抱えて、目から涙の洪水を起こしながら懸命に"あのとき"のことを思い出そうとする。ほとんどのことは覚えていないが、唯一はっきりと覚えていることがある。


ーあれは…母さんだった…


俺はいつもどおりの日常が続くと思っていた。何事もなく、兄貴(キュロス)(エリー)と起きて、遊んで、寝るような平和な日々が続くと思っていた。でも……


「……………」


夢であってほしい。いやこれは夢だ。これは俺が少し怖い夢を見ただけで、今目を開ければいつも通り母さんが目の前にいるはず――いや、あの母さんの温かさ、あの声、そしてあの真っ赤に染まった顔は…本物だった。


「………ぁに…………」


もうどうしょうもない。現実に起こってしまったのだから。でも…俺にもっと力があれば、母さんが死ぬことはなかったのに…


「あああああああ‼」


俺は髪の毛をぐちゃぐちゃにかきむしりながら叫んだ。


「あにぃ!!!!!」


俺の声をかき消すように、耳元に飛んできた声に少し困惑しながら前を向くとそこにはエリーがいた。


「やっとこっち向いた。」


エリーはジト目で俺の顔を覗き込んでいた。


「あにぃ、やっと目を覚ましたと思ったら急に叫びだすんだもん。超びっくりしたんだから。」


彼女はため息をつくと腕を組みながら立ち上がりそうつぶやいた。

それが何を意味するかは、俺でもわかる。


「えっとその…ごめぇッッ」

 

俺が左頬を人差し指でかきながら謝ろうとすると、エリーは俺の言葉をかき消すように抱きついてきた。


「もう気にしてないよ。それよりすっごく寂しかった。」


俺も同じようにして彼女に抱きつく。エリーのおかげでなんとか正気を保てることができた。あのままだったらどうなっていたか自分でもわからない。


「ありがとな」


「へっ?」


俺が頭をなでてやると、嬉しそうに笑った。


「それで…ここはどこなんだ?あのとき何があったんだ?」


俺がそう尋ねると、その瞬間部屋のドアが音もなく高速に開いた。


「それについては私がお答えします。」


そう言いながらその謎の女性は俺に近づいてきた。


「私はグラリア王国騎士団調査隊副隊長のメザイアと申します。オメナさん、よろしくお願いします。」


「なんで俺の名前を知って…?」


「兄とエリーにいろいろお聞きしましたので」


「兄?なんであんたの兄が俺たちのことを知ってるんだ?」


「私の兄はグラリア王国騎士団調査隊隊長のメビウス、おそらくあなたも出会っているはずです。」


「大剣を振り回してたお兄さんか?」


「はい。そうです。兄はあなた達を助けだしたあと、エリーにいろいろ聞いたと」


「話を戻します。ここは騎士団直属病院です。あなたは7日間眠っておられました。」


「そうだよ〜、だから寂しかったんだよ〜。私が唯一話せたのメザイアさんだけだもん。あにぃ私がコミュ障なの知ってるでしょ」


「あぁそうだな。ごめんな。でももう大丈夫だぞ。」


俺はもう一度エリーの頭をなでた。


「それで、アルビノで何があったんだ?」


「アルビノ?」


「エルフの国のことだ。」


「あぁ…簡潔に言いますとエルフの国(アルビノ)は…滅びました。」


メザイアは俺にゆっくり諭すように語った。


「なッッッ!!!」


心臓の鼓動が激しくなり背筋が凍りつく。


「人間族の勇者ゼオンによりエルフの国は発見され、人間族の圧倒的な軍勢でたった一夜にして消滅しました。」


「あぁ…クソ…なんでなんでなんで!」


頭が痛い。意味がわからない。分かりたくもない。


「あにぃ‼聞いて!逃げようとしないで‼これが現実なの。現実逃避しても何も始まらない。私も最初は理解したくもなかった。でもメザイアさんが私にゆっくりでいいから受け止めてってだから…うっぅ…」


エリーはそう言いながら泣き出してしまった。

そしてその気持ちは俺にも伝わってくる。この現状を受け止めて生きていかなければならないという思いが。ただし、この全ての元凶であり、いま妹を泣かしている張本人である人間族。そして勇者ゼオンだったか。やつは絶対に許さない。

殺す。殺してやる。この憎しみを何万倍にして返してやる。


「ちょっとどこ行くの?」


メザイアがそう叫んだが今の俺には聞こえない。ー聞こえるはずがない。

そして迷うことなく病院の玄関にたどり着くと、そこには、メビウスがいた。


「お、目が覚めたのか。…どうしたんだ?そんな顔して?……あぁそういうことか。」


メビウスが視界に入ったが今は関係ない。無視して横切ろうとすると玄関とは反対側に吹き飛んでいた。


「ゴァッ」


体中、特に背中が焼けるように痛い。

一体何が起きた!?いやこんな事をしている場合でわない。殺す。殺してやる。


そう思い立ち上がろうとするが体に力が入らない。


「せっかく助けてあげたんだ。見殺しにしたりはしないよ。ちょっと落ち着きなよ。君の気持ちは僕にも分からなくはない。でも、君をみすみす死なせに行かせるわけには行かない。君は幼く、()()()()()。少し押してあげただけなんだけどね。それで動けなくなっちゃってるようじゃね。その弱さじゃこの病院を出たらすぐにそのへんの野生の獣に殺されてしまうよ。それに一応エルフがここにいることは、国家機密となっているからね。だってそんなこと知られちゃったらエルフをさらおうとする魔人が出てきちゃうからね。エルフは、この国では存在すら怪しいものだった。それが目の前にいたらさらおうとするやつの一人や二人はいるかもしれないからね。さて、そろそろ落ち着いたかな?」


メビウスは大剣を肩に担ぎながら、聞き手が聞き取りやすいように言葉に抑揚をつけながら話した。


「落ち着けるかよ!どうしろって言うんだよ?この思いを憎しみをどうすればいいんだよ!?」


俺はいやみったらしく、しかし体が動かないので床に寝転がって無様に叫んだ。


「勇者ゼオンにぶつければいい。まぁ僕よりも強くなったら、僕も君が何をするかに口出しはしないよ。僕よりも弱いうちは絶対に行かせないけどね。でもこの国に彼に恨みがある魔人は多いからね。早く強くならないと誰かが討ち取ってしまうかもしれないけどね。僕も彼に個人的な恨みがあるしね。まぁ彼の力は未だに深淵が見えないんだけどね。」


何も言い返すことができない。やっと俺は自分が弱いことを自覚した。でも俺は決して諦めない。必ず復讐は果たす。これから強くなって強くなって、メビウスに勝って必ずゼオンに復讐してやる。


「いつか必ずお前をコロす。」


俺は看護師さんに病室に運ばれながらそう叫んだ。

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