表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

記憶~始まりの鍵~

 ガコンッ!と大きな音を響かせて、斧を振るい、薪を割っていく。

 初めての頃は上手く斧を使えず、薪が割れなかったり、身体中痛めたりしていたものだが、馴れたものだ。

 今では、一撃必殺。全身をしならせるように使うことによって、体を痛めることも無くなった。


「あら?ケイちゃん、また斧使ってるのね。」


 ふと、声がする方を見ると黒のローブを羽織った女性が家の陰から出てきたところだった。


 彼女はネリア。この家の主であり、山の中で倒れていた僕を助けてくれた命の恩人だ。彼女が助けてくれなければ今頃魔獣のお腹の中だったことだろう。


「僕も男だからね。体を鍛えたいんだよ。それに、リア姉みたいに上手く魔法を使えないから。」

「そんな事言って、誉めても何も出ないわよ?」


 彼女はクスリと笑って指を振る。

 すると山のように積み上がっていた、まだ割っていない薪が全て真っ二つに割れてしまった。


「じゃあ、私は夕御飯の用意をしておくから、ケイちゃんは水浴びしてらっしゃい。汗がすごいわ。」

「うん、ありがとう。リア姉。」



 言われた通りに水浴びを済ませ家に入ると、リア姉が夕飯を並べているところだった。

 魔法を使って、ご飯や食器が独りでに翔んでいってるからご飯()並んでいると言うべきか?


「さあ、食べましょ?ケイちゃん。」


 リア姉はそう言ってふわり、とそんな表現がよく似合う笑顔を浮かべた。


 「今日の糧に、生命の恵みに感謝を…」と、食前の祈りを済ませ眼前に並べられた料理に手をつける。

 品数は少ないながらも、素材を活かした料理は絶品だと舌鼓を打つ。


「それで、どう?」

「…?どうって?」

「記憶。戻りそう?」

「全然だね。かけらも思い出さないよ。」


そう、僕には記憶がない。

自分の名前、歳、家…何もかも覚えていないのだ。

流石に名前がないのは不便だと、ネリアさんから京神と言う名前を付けてもらった。なんでも東国の方の名前だそうだ。


「そう…、ゆっくり思い出すといいわ。焦らないでね?」

「大丈夫だよ。そこまで気にしている訳でもないから。」


そもそも、ここでお世話になってもう3年になるのだ。気にならないと言えば嘘になるが、記憶が戻ることは望み薄ではないかと思っている。


「あ、そうだリア姉。そろそろ塩が無くなるんじゃない?明日町まで行って買ってこようか?」

「本当?助かるわあ!」


それじゃあ、お願いね。と花の様な笑顔を浮かべていた。








翌日、リア姉に見送られ町を目指していた。


うちはほとんど自給自足してはいるものの、それも限度がある。その最たる物が塩だ。

町から半日ほど離れ、山奥にあるこの場所だと塩が全く手に入らないのだ。

その為、こうやって定期的に町まで降りて買い出しをする必要がある。


3年前まではリア姉一人で半日かけて町まで歩き、一月分の塩やその他の必需品を抱えて帰っていたと思うと、とても心配になってしまう。

この辺は少ないとはいえ、魔獣は生息しているし、賊の類いが出てこないとも限らない。

女性一人を歩かせるのは安心などとても出来たものではない。


「なんて事を考えていたからかな?」


道を挟んだ左右の林に1,2…4匹?草を揺らして、隠れてるつもりなんだろうか?

ウルフなら音を立てないし…恐らくエイプだね。


左の腰に下げている短めの剣、ショートソードと言われるそれの柄を右手で軽く触りつつ奇襲に備える。

あくまで柄に触れるだけの自然体だ。待ち伏せされていることに気付いていることを気付かれないようにしないと。


相手は一人。無警戒のカモだと思っていたのだろう。


左右の林から1m程の茶色い毛の生えた猿。エイプが飛び出してきた。

エイプの特長は、その鋭いキバと木を使った立体的なすばしっこさだ。

その為、追いかけても逃げられるか頭上からの奇襲でキバを突き立てられたりと対処に馴れていないと大変な事になってしまう。


ではどうするのか?


答えは簡単。


専守防衛からのカウンターだ。


「フッ!」


居合いの要領で振り抜いた剣が飛び掛かってきていたエイプ二匹をまとめて切り裂いた。

「ギャイイイイイ!?」と悲鳴を上げながらのたうち回っていた二匹だったが、力尽きたらしくピクリとも動かなくなった。


残った二匹も何が起きたのかわからない、という感じで地面に転がった二匹を呆然と見ていたところを止めを刺した。

ふぅ、と息を吐く。

もう数えきれないほどに経験したというのに、命を奪う感覚には慣れないな、とそんなことを考えて空を見た。


「これは…降りそうだね。」


少し急ごう。とひとり呟き、早足で町へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ