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命令

週一で更新していますが……


評価してもらえたことが嬉しすぎて、今日のうちに2話分投稿します

本当にありがとうございますm(_ _)m

『翡翠裕也を殺せ』


          ❦


 フィリッツは小瓶片手に地下牢に来ていた。手にしていた角灯を下に置き、地下牢を開ける。中央に小瓶を置き、鍵を閉めた。


 スッと横に手を動かすと同時に小瓶が割れ、中に閉じ込められていたオーガイとケンジが姿を現した。


「フィリッツ、お前!」


 オーガイとケンジが牢の鉄柵を掴む。


「落ち着いてください」


「俺らをこんなところに閉じ込めて何を考えているんだ!」


「翡翠様の敵となりますので」


「ふざけるな! 今すぐここから出せ!」


「オーガイ、落ち着いてください」


「落ち着けるわけがないだろ!? ただでさえ、アイツに目をつけられているんだ! こんなところに閉じ込められているとなれば、俺らが殺される!」


「そうだ! 出してくれ、フィリッツ!」


 憐れに泣き叫ぶ二人に、フィリッツは小さく息を吐くだけだった。角灯を手に持ち、二人に背を向け去ろうとするフィリッツに、ケンジは叫び呼んだ。


「フィリッツ!」


 地下牢の壁にぶつかり響き渡るその声に、フィリッツは振り返らず立ち止まった。どこからか水が漏れているのか、ピチャピチャと音がしていた。


「フィリッツ。お前は裏切るのか?」


 ケンジの静かな問いかけにフィリッツは黙り込んでいたが、やがてため息交じりに振り返ると無表情で穏やかな視線をケンジとオーガイに向けた。


「私は傍から誰の味方でもありません」


「そうやって! いつもそうやって、逃げるのだ!」


「ケンジ……。私はとても弱いのです」


「お前のように強いやつはいない」


「私はとても弱く、無力です……」


「アイツはそんなことを思っていないと思うが?」


「『あの人』は私のことなど、もう信じていませんよ。どちらかと言えば、私を敵に見ていると思います」


 フィリッツの自信なさげの表情にオーガイは口を開いた。


「お前、本気で言っているのか!?」


 フィリッツは微笑み、再び歩き出した。


「私はいつでも本気です」


 地下牢の扉の音が、空しく響き渡った。


 オーガイとケンジはその場に座り込んだ。


「お前のせいだ」


「オーガイの方が立場は上だ」


「ケンジも然程変わらないだろ?」


「それにしても、これからどうするんだ」


「と言われても、この地下牢の管理はフィリッツの管理下……。早々容易く逃がすわけがないだろうな」


「妖術も意味をなさない」


「ジンやナクが助けに来てくれさえすれば早いのだが……」


          ❦


 珀巳はフィリッツの自室に帰って来てからずっと、窓際に佇む空汰のことを気にしていた。


『酒々井空汰くんは、君の次の妖長者の子……つまり、次期妖長者だから目が離せない……からでしょ?』


 ジンがそう言うと、翡翠はどうやら縛られていた縄を既に解いていたようで立ち上がると、隠し持っていた短刀でジンに襲い掛かった。しかし、短刀の刃を受けたのは他ならぬフィリッツであった。


 その一部始終を扉の隙間から見ていた空汰は、悲鳴を隠すため口を抑えていたが、体の震えは止まらなかった。


 翡翠の短刀はフィリッツの手を刺し、床にはフィリッツの血が雫となって滴り落ちていった。何より驚いたのは翡翠本人である。翡翠は数歩後退り尻餅をつくと、フィリッツをまるで奇妙なものでも見るかのような目で見上げた。


 フィリッツは何食わぬ顔で短刀を引き抜くと、血が滴る短刀をジンとナクに見せつけた。


『人間には隠したい秘密のひとつやふたつくらいあります。次は庇いません』

そう言いながら刺された手を数度振った。すると、瞬く間に傷が消え、そこには綺麗な手があるだけだった。


 ナクが立ち上がり、翡翠を指さした。


『で、でも! 翡翠様の隠していることは、妖長者としての隠し事にすぎません!』


『そうですね。それに、それは隠すべきことではありません。しかし、それをジンとナクの手で直接暴くことでもありません』


『ですが!』


『ナク』


 先ほどまでとは打って変わって穏やかで静かな声に、ナクは怯んだ。大抵、フィリッツが穏やかな口調になるときは、それ相応の深い理由があるときである。


『フィリッツは、いつもそばにいながら、何もわかっていないのです!』


『確かにその通りです』


『はい?』


『私は翡翠様と一緒にいながら、何一つ分かっておりません。ですが、それが普通なのです。干渉しすぎることはよくないことだということです』


『分からない。分からない。貴方は一体、誰の味方なのですか!?』


『私は誰の味方でもありません』


 ジンは舌打ちをすると、ソファに座り翡翠を睨んだ。


『フィリッツは、翡翠様がそれを隠していたことは知っているの?』


『当然です』


『だったら、何で、お前は空汰くんに言わなかった?』


『私が話すべきことではないからです。翡翠様が何も言わないのであれば、私も言いません。逆に空汰様が何も言わないのであれば、私も翡翠様に何も言いません』


『なるほどね。それは分かった。じゃあ、これからどうするの? 計画通り?』


『私はその計画を知りません』


『知っている奴に聞いてるの』


『私は計画通りに最後までするべきだと思います』


『だってさ。フィリッツは?』


『私は……』

そう言うフィリッツの視線の先には翡翠がいた。翡翠はふてくされた子供のように俯いていた。


『好きにしてください』


『はい? フィリッツ、お前さ、最後まで仕事放棄?』


『私にできることはします』


『それ以外は全部パス?』


『私は全員を守ることは出来ません。私は「ある人」を守ることしか出来ません』


『じゃあその「ある人」を最後まで守るのだね?』


『……命に代えても』


 自分が次期妖長者? ジンが何を言っているのか、全く理解できない。もちろん、理解していないのは、自分だけだということも気づいているが、それでも理解できていなかった。翡翠は確かに何かを隠していた。でも、それが……これ? 話が大きすぎる。俺は翡翠を助けるために、たまたま、出会った。そして、たまたま、この世界に来て、たまたま、こういう事態になっただけ……。そう思っているのは俺だけなのか?


 俺が次期妖長者……。でも、翡翠が現妖長者……。妖長者は一人しかいない。つまり、どちらかがいなくなる……!? 翡翠か俺が……死ぬ?


「珀巳……」


 空汰は振り返ることなく、珀巳に声を掛けた。


「はい」


「教えてくれよ……。俺は、次期妖長者なのか?」


「空汰様。何を聞いても本人から聞くまでは、詮索をしない約束です」


「教えてくれよ……。珀巳…………」


 振り返った空汰の頬には涙が伝っていた。


「俺は一体何者なんだ」


「空汰様は……空汰様です。それ以外、何でもありません」


「ふざけるな……」


「空汰様、知らないふりをするから連れていってほしいと頼んだのは、他ならぬ空汰様です。どうか、フィリッツ様との約束を違えないであげてください。あれでも、フィリッツ様はかなり悩んでいるのです」


「フィリッツが!? 何考えているか分からないだけだろ」


「フィリッツ様は、空汰様と翡翠様のことを考えておられるのです」


「有り得ない。翡翠のことは現妖長者だと言って助ける意味がある。だけど、俺にはそれもない!」


「空汰様! 私が言ったことをお忘れですか?」


『空汰様は、ご自分のことを考えすぎなのです。そうでなければ、翡翠様に嫉妬をなさっています』


「俺が翡翠に嫉妬? 自分のことばかり考えている自己中だって言いたいのか!?」


「はい」


 想像以上にきっぱりと言う珀巳に、空汰は涙を拭い鋭い視線を向けた。所詮、珀巳も翡翠の味方である。


「どこがだよ! 俺は翡翠のために!」


「本当に翡翠様のためだけですか?」


「そうだよ。俺はいつだって、翡翠のために動いている」


「でしたら、お聞きします。翡翠様のために、何故死なれないのですか?」


 珀巳の真っ直ぐな言葉に、言葉が出てこなかった。決して意味が分からないわけではない。しかし、命を投げ出して他人を助けられるほどの勇気を持ってはいない。


 黙り込み俯く空汰に、珀巳は追い打ちをかけるように静かに話し始めた。


「もしも空汰様が、翡翠様のためだけに動いているのでしたら、翡翠様のふりをして身代わりとなり死ぬことが一番早いのです。翡翠様は死体として、自由を手に入れられ、人間界へ戻ることも出来ます。本名くらい、フィリッツ様を拷問なされば吐くでしょう。ですが、空汰様はそれをなさいません。何故なら死にたくないからです。翡翠様のために、自ら命を棄てることが出来ないのです」


「命と翡翠を比べるな!」


「確かにその重さは違うでしょう。しかし、本当に空汰様が、翡翠様のためだけを思っているのであれば、自分のことなどどうでもよいはずなのです。でも、そうではない。ということは、空汰様はご自分のことを考えているとしか思えないのです。


 空汰様。私は空汰様に死んでくださいと申し上げているわけではありません。寧ろ、その自分本位の気持ちをお持ちで構いません。空汰様は、どちらにしろ、この事が終わり次第お別れなのです。それまでの繋がりなのです。そこまで空汰様が気に病むことはありません。ですが、私が一つ気になっていることは、気持ちと動きが合っていないということです。本当は嫌。でも、翡翠様のためにしなければいけない。その気持ちが無いとは言えないのではないでしょうか。


 空汰様。もう少し、ご自分をきちんとした意味で、大切になさってください」


「俺は翡翠のために……」


「空汰様が翡翠様のために、命削ることはなくても良いのです。どうか、お気に病まないでください」


「俺は、翡翠が……嫌いだよ……」


          ❦


 翌日、フィリッツは書斎の椅子にただただ座っていた。手には公務をするべく羽ペンが握られているが、一文字も進んではいなかった。ここ数週間、全く長老の長としての公務をしていないため、仕事がかなり溜まっているからと、椅子についたのだがする気が全く起きず、ただ座っているだけの状態である。


 栖愁が時折声を掛けるが、それも全く聞こえていないらしく無反応だった。相変わらず、別館内の図書室に空汰と珀巳は行っていた。


 未だ翡翠はジンとナクに捕まったままである。しかし、助けなくていいと言ったのは翡翠本人である。


『じゃあその「ある人」を最後まで守るのだね?』


『……命に代えても』


 そこで空汰の気配が遠ざかったのを感じ、ため息を吐いた。


『それで、翡翠様はどうなさりますか? 助けましょうか?』


 翡翠は不機嫌にフィリッツを見上げていた。フィリッツを刺してしまったことで、視線を合わせられないのか、視線はどこか違うところを向いていた。


『翡翠様?』


『良い』


『はい?』


『俺は俺で逃げ出す。お前は速く空汰のもとに戻れよ』


『良いのですか? 封じの腕輪をされている状態で、人間如きが妖には勝てません』


『俺は勝つよ』


『何故そう言い切れるのですか?』


『無駄口叩いてないで、さっさと失せろよ』


 翡翠様の性格を隅から隅まで知っているつもりでしたが、翡翠様はお優しく他人思いの方という一面のほかにも何を考えているのか分からない怖さの一面……そして、この一面があるのだということを今更ながら感じました。


 結局、あのまま本当に翡翠を放置してきたが、翡翠が今どうなっているのか気になって仕方が無かった。ジンやナクにひどいことをされているのではないだろうか。まさか瀕死の状態にまでなっていないだろうか。無さそうな考えばかりが脳裏を過る。


「私は間違えていたのかもしれません」


「え?」


 そばでずっと様子を窺っていた栖愁は、フィリッツのふとした言葉に反応した。栖愁が不思議に思っていると、フィリッツは栖愁に視線を向けることなくスッと立ち上がった。


「酒々井空汰様との出会いはもしかしたら……」


 そう言った瞬間、フィリッツは書斎の書類の数々を荒らし始めた。栖愁は驚き、フィリッツに声を掛けようとしたが止めた。それはフィリッツが何かを探しているのだと思ったからである。何を探しているのかは全く分からない。分からないが、それはとても大切なものなのだということだけは分かった。


 しかし、どうやらこの部屋にはないようで頭を抱え椅子に座った。


「フィリッツ様?」


「栖愁……」


「はい」


「君は何を知っていますか?」


「フィリッツ様がご存知以上のことは何も知りませんが」


「この部屋にはない……」

だとすると、他に考えられるのは自分の仕事部屋……。だが、ここからは出られない。ジンとナクが居る限りここから出ることは難しい……。


「フィリッツ様?」


「栖愁……私はどうやら勘違いをしていたようです……」


「勘違い?」


「こんな簡単なことにも気付かないとは……私も落ちたものです」


          ❦


 その夜……屋敷内は、妙に静かな時間が流れていた。空汰は久しぶりに、夢も見ないほどの深い眠りについていた。


 静かな屋敷内、暗闇の廊下にカツカツと足音が響いていた。広げていた掌には、青白い光りが放たれていた。


 人影は静かに廊下を進み、地下牢に辿り着くと、鍵を開け中に入って行った。青白い光りを浮かばせ、角灯を持ち、中を進んでいく。少し進んだところで立ち止まると、中に鋭く冷たい視線を向けた。


 人影に気付いたオーガイとケンジは鉄柵に近寄った。


「も、申し訳、ご、ご、ございません!」


 オーガイは冷や汗を浮かべながら、深々と額を冷たい牢の床につける。


「け、計画が失敗しました……。誠に申し訳ありません」


「じゃあ、死ぬ?」


 人影の低く唸るような声に、二人は体を震わせた。人影の足元をじっと凝視し、恐怖のあまり見上げることは出来なかった。


「もうお前ら要らないから」


「も! もう一度、チャンスを!」


 オーガイが鉄柵を掴んだのを見て、ケンジも掴む。


「お願いします! 次こそは! 必ず!」


「五月蠅い」


「ど、どうか! 命だけは……!」


「報告を」


 二人は鉄柵から手を離し、オーガイは重い口を開いた。


「フィリッツが、私達を捕まえここに連れ込みました。口ぶりからして、ジンやナクも捕まえるでしょう。そして、本当に黒幕を探し出しているようです」


 その言葉に人影は、鉄柵を思いっきり蹴った。もともとガタがきていたのもあって鉄柵が一本外れ落ちた。カランッカランッと音をたて落ちるのを見て、二人は恐怖がさらに掻き立てられていた。


「お前ら今まで何やってるの?」


「そ、それは……」


「オーガイ。お前気付かれるのが速い」


「も、申し訳ありません!」


「勝手な行動はするなと、あれ程言ったはずだ」


「も、申し訳ありません! お許しを!」


「ケンジ。お前、フィリッツ相手に気を抜いていたな?」


「そ、そんなことは……」


「何? ……口答え?」


「い、いえッ。申し訳ありません!」


 人影は角灯を下に置き、深くため息を吐いた。


「最期のチャンスをやる」


 そう言って地下牢の鍵を開けた。それを見たケンジが慌てた様子で人影を見る。


「ここはフィリッツの管轄です!」


「だから? 無効化した」


 人影はそういうと、すぐそばで浮いている青白い光りを見せた。


「ついでに、眠っていて貰っている」


「さ、流石です……」


「次は無いと思え」


「はい! ありがとうございます」


「翡翠裕也を殺せ」


 深い眠りにつく空汰のもとに人影が現れ、空汰は目を覚ました。


「どうした?」


 まだ寝ぼけ半分の空汰に、人影は真剣な眼差しを向ける。太陽がない妖世界は昼夜問わず、寒さがある。空汰が体を起こすと、人影は自分の着ていた羽織を空汰に羽織らせると、小さな声で話し始めた。


「……睡眠中に申し訳ありません。空汰様、お体に御障りありませんか?」


「ん? フィリッツ?」


 そこには、寝衣を身に纏うフィリッツの姿があった。どこか少し疲れているようにも感じられる。


「夜中に申し訳ありません……」


「どうした? 何かあった?」


「私の結界が屋敷内、届いていないようです」


「結界が?」


「はい」


「何で!?」


「分かりませんが、私の結界を誰かが無効化した可能性があります」


「無効化?」


「はい。それから、少々気になることがあります」


「気になること?」


 空汰は眠さを隠しきれずにいた。


「瘴気が濃いのです」


「しょうき?」


「瘴気です。あまり濃くなると、人間には負担が大きくなりますので、空汰様、お体御障りありませんか?」


「今のところは……大丈夫そうだけど……」


「瘴気にあまり触れると、空汰様に危険が及びます」


「待って……。それって、翡翠も」


「はい。しかし、翡翠様は妖長者という身です。もちろん、印は空汰様が持っていますが、力的には翡翠様の方が強いですし、長年人間界よりも瘴気の濃いこの世界で過ごしてきた分、耐性はあると思います」


「なら、少しくらい大丈夫か」


「ですが、これ以上濃くなるようであれば、危険です」


「どうして、瘴気が? 原因は?」


「瘴気は妖世界よりもさらに下、地下深くから溢れ出てきます。何らかの理由で、屋敷内に亀裂が入ったか、妖世界全土のどこかに亀裂が入ったかと思われます」


「それを塞がないと」


「ですが、その亀裂を埋めるにはその原因を探らなくてはなりません」


「…………フィリッツは、何でこうなったのか分かってる?」


 空汰の問いにフィリッツは一瞬戸惑いの表情を見せたが、致し方なさそうに小さく息を吐くと、空汰に向き直った。


「はい……。空汰様も勘がよくなられましたね」


「何が原因何だ」


「それは……」


 空汰は妙な胸騒ぎを覚えていた。何故か嫌な予感がする……。


「何が原因何だ!」


 その瞬間、フィリッツの手に空汰は口をふさがれた。


「あまり大声を出されますと、無効化している犯人に気付かれます」


 そっと口から手を離されると、空汰は少し落ち着きを取り戻した。


「フィリッツ……原因は……」


「空汰様。これから私が話すことは、私が話すべきことではなく、翡翠様との約束を破ることにもなります。それから、珀巳には伝えないでください」


「誰にも言わないことを誓う。珀巳にももちろん」


 空汰の真剣な表情にフィリッツは頷いた。


「まず、ジンが言っていたことは事実です。空汰様は翡翠様の次の妖長者となる方です。翡翠様が隠していた理由は、翡翠様自身から話があった際、お聞きください。そこは、私には荷が重すぎます」


「翡翠が話すとも限らない」


「いえ、必ず話してくれますよ。それも近いうちに……」


「何故?」


「それは、私の口からは申し上げられません」


「俺が……次期妖長者……」


「そして、次期妖長者が確定する条件があります」


「確定する条件?」


「妖長者が健在の場合は、次期妖長者は生まれません。次期妖長者が生まれる条件は、一つだけです。他殺以外の何らかの理由で、現妖長者が五年以内に死亡するためです」


「他殺以外?」


「はい。自然死、自害、病死などです」


 空汰はその言葉を聞いて、黙り込んだ。


――――翡翠が……死ぬ…………だと?


 あの元気な翡翠が死ぬ!? そんなはずは……。


「空汰様?」


「翡翠が…………死ぬはず……」


「空汰様が次期妖長者として名が上がったのは、今から約二年以上前です」


「今折り返し地点……」


「空汰様……」


 フィリッツの呼び声に顔を上げると、フィリッツは今にも泣きだしそうなほど哀しげな表情をしていた。その顔に驚いていると、フィリッツは空汰から視線を逸らした。


「翡翠様の気配が薄れてきています……」


――――翡翠が……本当に…………死ぬ……!?


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