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1学期終業式

朝、書記の迎えでいつも通り学校へ向かうと、途中で赤羽君と出会った。


「あ、赤羽君、おはよう」


「…誠か。おはよう」


よく見れば赤羽君は片方だけイヤホンをして歩いているようだ。

そう言って赤羽君は片方の耳からイヤホンを外した。


「何の曲を聞いていたの?」


そう聞けば、赤羽君はスマホを出した。


「事務所の先輩の曲で、メモリーズってやつだ。今度サマフェスに事務所から勉強になるから行ってこいって言われててその予習で聞いてる」


なるほど、サマフェスでメモリアルを聞くのか。それで予習…。


「えらいね、聞いたことないから自主的に予習してるんだ」


「あぁ、自主的ではなくて、一度は聞いとけって言われてな。白雪社の社長と共同制作だから聞いとくべしって…言われてな」


おう…私と共同制作って言ったの亮くんだな。


「へ、へぇ…そうなんだ」


なんか、途端に触らない方がいいことな気がしてきた。


「…?なんで目を逸らすんだ?」


「やっほー?まこちゃん!おはよう!あ、あれ、邪魔しちゃったかな?」


後ろから可愛い挨拶がして振り返ると美智ちゃんがニコニコして手を振っていた。


「美智ちゃん!おはよう!邪魔なんかしてないよ!赤羽君と世間話してただけだよ」


相変わらず、大和撫子のような素敵な雰囲気を醸し出している美智ちゃんににこりと挨拶すれば、美智ちゃんは嬉しそうに笑った。


「そっか!よかった!あ、でも、赤羽君的には邪魔な可能性はあるんじゃないかな?」


美智ちゃんがそう言ってチラリと赤羽君を見る。赤羽君は別にと言って離れようとしている。


「…うーん、むしろ美智ちゃんがいた方が話が盛り上がるかな?メモリアルの話してたし」


「え!?メモリアル!?」


「誠!?」


赤羽君はコミュ症な所があるのか、人が来ると避けがちな所があるような気がする。だけど、人と話すことって大事だと思うんだけよね。


「赤羽君の事務所はSNOWWHITEだから、メモリアルは先輩で、今度サマフェスで事務所から見てこいって言われて予習してたんだって。美智ちゃんはメモリアル相当詳しいから、教えてもらえれば相当な予習になると思うよ」


ちなみに、私もメモリアルの客観的な視点をゲットできで一石二鳥だ。


「え、赤羽君もサマフェスに行くの!?しかもメモリアルを見に!?メモリアルのことなら、ある程度教えられるかも!ただ、まこちゃんも私と同じくらい、もしかしたら私以上に詳しいけどね!」


「いやいや、私なんて美智ちゃんほどではないよ…」


「まこちゃん!それはダウト!」


「…よくわからないが、2人で俺の予習に付き合ってくれるってことなのか?」


「もちろん!!」


美智ちゃんが嬉しそうにウインクを赤羽君にしている。赤羽君惚れちゃうんじゃないかな?


メモリアルの一般的な知識なら美智ちゃんの方が明らかに詳しいよね。私は業務的に話の方が多いからな…。でも、亮くん的にはどちらも知っている方が助かるのかな?


「…うーん、力になれるかわからないけど、教えられることがあれば」


そう言えば、赤羽君は嬉しそうに笑った。


「それはありがとうな」


赤羽君のレアな微笑みに美智ちゃんはポカンとしている。そりゃそうだよね、赤羽君は基本怖そうな雰囲気で真顔だもん。


「…あ、赤羽君…ちょっといい?」


美智ちゃんははっとして赤羽君に声をかけて2人で私から離れていく。一体どうしたのだろうか。


嬉しそうな美智ちゃんと赤面してる赤羽君、なんの話かはわからないけれど、美智ちゃんの魅力に赤羽君がときめいてる感じなのかな?まさにときめきファンタスティック。


はっ、またいい案が舞い降りてきた!このときめきファンタスティックは明らかにメモリアル案件だね。この曲に戦慄するメモリアルメンバーが浮かぶけど、メモリアルのファンをときめかせる為の彼らの犠牲は忘れないよ。


「まこちゃん、終業式の後って何か予定ある?」


気づけば、美智ちゃんと赤羽君がこちらに戻ってきていた。


「…予定は今のところないかな?」


「やった!今日放課後、赤羽君と私とカラオケでメモリアル講座しよ!まこちゃんのメモリアルの知識とか私のおすすめとか色々赤羽君に聞いてもらお!」


「私の知識そんなにないけど、いいの?赤羽君は美智ちゃんと2人がいいとかじゃない?」


「まこちゃん!何言ってんの!まこちゃんがいなきゃダメに決まってるじゃん!赤羽君も私もまこちゃんの話聞きたいんだから!」


なぜか美智ちゃんより私の方がメモリアルオタクになってるような気がする。赤羽君が不思議そうな顔で口を開いた。


「…誠は」


「まずい!学校始まっちゃうよ!」


美智ちゃんが不意に走り出した。つられて見れば時計が後数分で始業時間を差す。


「あ、赤羽君!続きは後で!遅刻しちゃうよ!」


走り出した美智ちゃんを追う為に私は赤羽君の手を掴み走り出す。


「え、ま、誠!?」


突然手を掴まれて驚いた赤羽君を無視して、美智ちゃんを追いかけて校舎に入り込む。


「じゃあ、放課後ここで!」


下駄箱は分かれるのでそう赤羽君に呼びかけて私は急いで教室へ向かった。



 席に到着と共にチャイムがなり、先生が挨拶を始めた。


「山田、白雪、危なかったな。今日は終業式なので体育館へ行って終業式をやり、報告事項を聞いたら解散だ。以上、遅刻しないように体育館へ行けよ」


手短に話した先生はさっさと教室を出ていく。


「まこちゃん、おはよう、珍しく今日は遅かったね」


「おはよう、なつちゃん。道中で花が咲いちゃったんだよね」


「…花?」


おっと、おしゃべりを花というのは女子高生には死語かもしれない。


「話が弾んじゃったんだ」


「なるほどね!だからみっちゃんも遅れたのか!」


「へへへ、なっちゃんご明察」


美智ちゃんが嬉しそうになつちゃんに笑顔を向ける。それを見て周囲の男子が顔を赤くしている。


「1学期あっという間だったね、すぐ終わったちゃった…」


「なっちゃん…それだけ学校が楽しかったんだね」


美智ちゃんが嬉しそうになっちゃんに笑いかける。今日の美智ちゃんはスマイル全開だ。


「ん、…うん、そ、そうだね、楽しかった…」


「ふふ、それって誰のおかげなのかな?」


「だ、誰のお陰って…それは、…みっちゃんやあーりん、まこちゃんやこのクラスの人たちのお陰だよ」


な、なつちゃーん!!この子すごいいい子だ!!!クラスのみんなも一斉にこちらを見ている。照れたようにバックに顔を乗せるなっちゃんが天使に見える。


「さすがなっちゃん!夏休み前最後にクラス全員を喜ばせてくれるなんて!」


「うっさい、みっちゃん、これ以上言ったら体育館に行っちゃうよ!」


「あ、そう言えば終業式そろそろだね、行こうか」


照れるなつちゃんに、嬉しそうにいじる美智ちゃんを横目に有紗ちゃんが颯爽と空気を元に戻した。


「そうだね、そろそろいく時間だね」


美智ちゃんの言葉に廊下を見ればちらほら体育館の方へ向かっている人たちが見える。


私達も体育館へ移動した。




 終業式が無事終わり、教室に戻れば担任に夏休み中の注意事項を述べられ、解散となった。夏休み中も連絡を取ることをなつちゃんと約束して美智ちゃんと2人で玄関で赤羽君を待つ。


玄関から出てくる人が少なくなった頃、赤羽君がやってきた。


「遅くなって悪い」


気まずそうな赤羽君の後ろになぜか日向がいた。


「白雪さん、山田さん、偶然話聞いちゃったんだけど、メモリアルの勉強会するんだよね?俺もいいかな?」


にこりとした顔でさらりと他社アイドルの勉強して自身に生かしますと言ってのけた日向を尊敬するよ。


「…どうする?まこちゃん、私は別にいいけど」


「…私も別にみんなが問題ないならいいよ」


「だそうですが、どうでしょうか、カイト」


「…はぁ、行けばいいんじゃないか」


日向が嬉しそうにし、赤羽君は諦めたように溜息をついた。



 カラオケの部屋に入り、席に着くと早速メモリアルについての話が行われた。


「まずね、メモリアルはこの5人のメンバーで構成されてるんだよ」


美智ちゃんがそう言ってメモリアルメンバー5人の写真を丁寧に並べた。

っていうか、それ、結構プレミアの写真だよね?初回限定CD付属のやつでもう市販されてないやつだ。


「…お、おう、それは知っている。メモリアルには直接会ったことがあるからな」


学校のスクール鞄から5枚の写真が出てきて赤羽君は戸惑ったように返事をする。


「え、え、えっ!?会ったことある!?直接!?ど、どうだったの!?やっぱり素敵なんだよね!?」


「美智ちゃん、落ち着いて、焦っても赤羽君のメモリアル出合い話は逃げないよ」


「だ、だって、直接会ったことあるってことはさ…赤羽君と私が会えばメモリアルと直接会ったことになるでしょ?興奮せずにはいられないよ」


「???」


美智ちゃんは何を言ってるんだろうか。羨ましいとか話を聞かせてというわけじゃなく、自分が会ったことになる?空気感染的な?メモリアルってメモリアルウイルス的な?


「ははっ、山田さんにとってメモリアルは本当にすごい存在なんだね」


日向が楽しそうに笑ってくれたことで美智ちゃんが元に戻った。ナイス、日向。


「そう!メモリアルは本当に本当に凄いんだよ!彼らの凄さを語ると地球が終わっちゃうくらい凄いから!…ってわけで凄さを説明して組んだけど、メモリアルのメンバーは全員二次元の人みたいな感じに顔も良くて、性格も特徴的で、仕草にも品があるの!見てるだけで心が満たされるというか…」


「なるほど、山田さんがそう言ってくれてメモリアルもアイドルとして嬉しいと思うよ」


日向がアイドル側からの視点で感想を述べる。


「そう思ってくれてたら嬉しいな、曲もいいんだよね、メモリアルは歌も上手でダンスも上手で、練習たくさんしたんだろうなって感じで見応えがあるよ。特に曲が社長と亮で作成されているときは凄いよ。メモリアルと社長と亮のお互い尊敬しているような感じが伝わってくるというか…」


美智ちゃん、ありがとう。大体、社長と亮のときは深夜のハイテンションすぎで脳が一周してるから、彼らのことを思い遣った状態で作れてないんだけどね…。結果的に彼らの個性の尊重につながるかもしれないけど…。


「この社長ってやつは、事務所の社長か?」


「あ、この社長は白雪事務所を運営している白雪社の社長だと思うよ」


「白雪社か…そういえば、白雪さんと同じ名前みたいだけど、親戚だったりするの?」


「え??親戚!?」


日向が変な質問を私に投げてきた。白雪社の社長が私だから白雪社って名前にはなったけど、その辺のところはあまり突っ込まないでほしい。


「そんなことないよ!たまにそう突っ込まれるけどね!そもそも社長なんて見たことないから判断もつかないかな」


無難な回答をすれば、メモリアルへと話が戻った。




 メモリアルの話で時はあっという間に過ぎていつの間にか夕方になってしまった。


「あ、そろそろ仕事が始まってしまう…」


日向が名残惜しそうに呟いた。


「日向はこの後仕事なのか…」


「水を刺すようで悪いね、みんなはこの後も楽しんで。今日は勉強になった、ありがとう。それと…またこのメンバーで遊ぶ可能性もあるだろうし、友達追加しない?」


「日向…お前」


赤羽君がちょっとギョッとしたような顔で日向を見た。


「あ、カイトのはもう知ってるからいいや、山田さんと白雪さんどうかな?」


「え、こちらこそなんか交換してくれてありがとう。アイドルの連絡先なんて他のファンに殺されそうだけど大丈夫かな?私だったらメモリアルの連絡先持ってる人射殺すつもりで呪っちゃうけど」


「山田さんは気にしすぎだよ」


お互いに冗談なのか本気なのかわからない話をしながらスマートに友達追加をする2人。交換が終われば、日向がこちらを向いてスマホを向けてきた。


「ほら、白雪さんも」


そう言われれば私もスマホを出さざるを得ない。こうして日向と友達追加してる間に赤羽君も美智ちゃんと友達追加している。日向の友達追加が完了すれば、赤羽君もスマホを差し出してきた。


「よし、メモリアルグループ作っとくね!」


美智ちゃんが嬉しそうにグループを作り、みんなが入ると


「じゃあ、何かあって送ってくれれば駆けつけるから!」


日向が凄い上機嫌に帰って行った。美智ちゃんとの連絡先が相当嬉しかったようだ。さりげなく、手を振っていれば赤羽君がじっと私を見てきた。何かと言わんばかりに無言で見つめ返せば、彼は困ったように視線を逸らした。




 日向が帰った後もメモリアルのカラオケをひたすら歌い、赤羽君に聞いてもらった。


「そろそろ終わりにする?」


私はふとそう提案してみた。あまり暗くなりすぎると美智ちゃんが心配だ。


「もうこんな時間なんだね。私、親に連絡して迎えにきてもらうね。2人は電車?」


「ああ、俺は電車だな。誠は?」


うーむ、赤羽君と美智ちゃんにそう言われて私は悩んだ。おそらく書記が迎えに来ると思うけど、会社と駅なら駅のほうが近い。駅まで行って迎えにきてもらおうかな。迎えのお願いして駅まで行けば丁度いいだろう。


「私も駅まで行ってそこから迎えかな?」






 「あ、親、もう近くみたい!2人も気をつけて帰ってね」


カラオケで精算し終えると美智ちゃんがそう言って去って行った。


「じゃあ、私たちも駅に向かうか」


「おう…」


赤羽君は少し顔を顰めて返事をした。…やっぱり私と一緒に駅に行くの嫌なのかな?


「誠は…、」


赤羽君が口を開いた。何を言われるのかと思っていたら、真横の車が急に止まった。助手席の窓が開いた。


「し、誠!さあ、帰りましょう!」


「は、羽空兄さん!?」


咄嗟に書記じゃなくて兄と呼びかけたのはナイスだと思う。私の反応を見て赤羽君が私を庇うように手を伸ばした。


「誠!こいつ不審者だ!!」


あれ?私さっき兄さんって言わなかった?聞こえなかったかな?


「えっと、赤羽君…彼は私の従兄弟の羽空兄さんです」


「えっ!?」


赤羽君君が信じられないと言わんばかりに書記を見つめた。


「どうも、羽空と申します。その節ではうちのしゃ…誠がお世話になりました」


「あ、ねえ、羽空兄さん、どうせ駅前通るから赤羽君も乗せてかない?」


「…誠が言うならどうぞ」


赤羽君が放心したようにこちらを見てるけど、書記がイケメンすぎてなのかな?とりあえず、赤羽君を押して車に乗せてシートベルトを閉めてあげる。そして自分のも閉めればそれを確認した書記が車を動かし始めた。しばらくして放心から戻った赤羽君が申し訳なさそうに口を開いた。


「ま、誠…。なんか悪いな、駅まで乗せてもらって」


「大丈夫だよ!方向が駅と同じだからどうせ通るし」


歩くとかかる距離も車だとほんの少しだ。赤羽君と会話していたらあっという間に駅に着いた。車から降りた赤羽君がお礼を言ってペコリとお辞儀した。ふと、書記が助手席の窓を開けて口を開いた。


「また何かお世話になることがありましたら、ぜひよろしくお願いします」


書記の挨拶にビビったように赤羽君は足早に去って行った。書記の変態性が赤羽君にバレてしまったのかもしれない。


「…書記、赤羽君に変なことしてないよね?」


「しゃ、社長!?し、してないですよ、変なことなんて。普通に礼儀をしただけです」


書記の目線は少し怪しかったけど、確かに車の中での書記は無言で最初と最後に挨拶しただけだ。怪しいと思いながらも特に何か問うことはせずに私は動く車に身を任せた。


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