カラオケ
期末テストが終わってクラスでカラオケに行くことになった。クラス全体でのカラオケは五月以来ということで、クラス全員が見事に団結して行くことになった。そして、そのカラオケの日、土曜日になった。
皆で集合するカラオケショップに仕事の関係もあり、遅刻気味に入るとみんなが優しい目で迎えてくれた。
「おっはよう!誠ちゃん!今日の私服も可愛いね!」
美智ちゃんがそう言って私を席まで連れて行ってくれる。美智ちゃんの隣にはなつちゃんと有紗ちゃんもいた。私は美智ちゃんの隣に腰を下ろす。右側に美智ちゃん、左側には暮梨君が座っていた。
「おはよう!まこちゃん!」
「おはよう!誠ちゃん!」
なつちゃん、有紗ちゃんも挨拶をくれた。
「おはよう!二人とも!暮梨君もおはよう!」
二人に挨拶して流れで暮梨君にも挨拶をする。暮梨君は一瞬ビックリしたように止まったけどその後挨拶を返してくれた。
「おい、暮梨。話があるからついて来てくれないか?」
数人の男子が立ち上がり、暮梨君にそう言って連れて行ってしまった。暮梨君は人気者だなと思いながらも、今歌われている曲を聞く。歌っているのは鳥羽さんだ。曲はスターマジカル事務所の金本彩理が歌っている『Love of piece』という曲のようだ。金本彩理が歌っている曲は大体がトップアーティストの作ったものだ。曲や歌詞などの工夫がすごく、勉強になる。私ももっといい曲を作ってみたいな。
「はい。誠ちゃん。あ、ねえねえ、私もなつちゃんみたいにまこちゃんって呼んでいい?」
美智ちゃんがそう言って照れた感じに笑った。それがとても可愛くて私も思わず笑顔になる。ほら、みんな美智ちゃんを見てる!
「もちろんだよ!ぜひまこちゃんって呼んで!」
「ありがとう!これからもよろしくね、まこちゃん!」
友達にニックネームで呼ばれるという喜びを噛みしめていると、有紗ちゃんがこちらを向いた。
「私も!私もまこちゃんって呼んでいい?それと私をあーりんって呼んでほしい!」
いつもクールな感じの有紗ちゃんが真剣な顔で言うので私も思わず真顔で頷いていた。
「やった!まこちゃん、ありがとう」
嬉しそうに笑ったあーりん。私、今日は幸せな日だ。死んでもいいかも。
「こちらこそ、あーりん」
曲を決めようと正面を向くと丁度男子達が戻って来たみたいだ。今回はどんな曲にしよう。あれかな?デビューしたての『新星の夜空』の曲でも歌おうかな?シングルを出したのが数日前だから。そんなにも広がってない。そして、亮君が作詞、力作って言っていたし。
『今日、社長が作った曲に作詞したんだけどさ、めっちゃよくできたよ!これは力作!』
『え!見たい!作詞見せて!』
『ダメだよ!社長はあいつらが歌うのを聞くまで楽しみにしてて!』
こういうやり取りを亮君としたんだけど、結局、忙しくなって聞けていなかった…。もうさすがに知りたいので亮君には悪いけど、歌わせてもらおう!というわけで入力だ!そして、暮梨君に渡す。丁度曲が終わり、鳥羽さんがマイクをなつちゃんに渡していた。なつちゃんが歌うのはオクロックの曲みたいだ。本人がいるのに堂々と歌おうとするその姿勢、素晴らしいと思います。…やっぱり、なつちゃんと日向って。日向にちらりと目を向けると楽しそうになつちゃんが歌っているのを聞いているようだ。これは。恐らく、私の目は光っているだろう。
さて、なつちゃんとあーりんが綺麗な歌声を披露し、問題の美智ちゃん。彼女は相変わらず、メモリアルであった。メモリアルの『ホワイトラバース』っていうホワイトデーにメモリアルが発表した曲を歌っていた。
さあ、いよいよ私の番である。曲は自分で作ったんだけど、歌詞がどんなのか分からない。すごく楽しみだ。
『シューティングスター by新星の夜空 作詞 夏目亮 作曲 社長』
さあ、歌詞が流れるぞ!
「駆ける流星 求めるまま 気が向く方へ シューティングスター
君といた 夜の夜景 照らし出される 丘の上
流れている 夢と希望を 詰め込んで どこまでいくの
揺れる光に 照らしだされた 今 はじまる 僕たちの時代
逆境の中を乗り越えて 一片の光を集めだし 光を超えたその速さ
未来は今 切り開かれる
夢と希望を希望を 詰め込んだ箱 投げ出して 地上に雨降らせ
駆ける流星 求めるまま 気が向く方へ シューティングスター」
これで一番が終わった。確かにこれは力作かもしれない。『新星の夜空』のユニットのイメージにもあっているし、歌詞の意味が分かる!そして、デビュー曲としても明るく希望に満ち溢れているという感じが伝わってくる!
曲を歌い終わり、マイクを暮梨君に渡す。
「白雪さん、この曲、いい曲だね。今度聞いてみようかな」
「ありがとう、暮梨君。ぜひ聞いてみると良いよ」
「?どうしてお礼を言う必要があるんだ?」
「え、あ、私が褒められたと思って勘違いで言っちゃった。気にしないで」
「お、おう」
やばい。自分が作った曲だったから、当たり前のように自分が褒められたと感じてしまった。いけないいけない。私は平凡女子高生、白雪誠。
「まこちゃん!この曲って新しくデビューしたばかりの『新星の夜空』だよね!?」
美智ちゃんが少し興奮気味に話しかけてきた。
「う、うん。そうだよ」
「もう、カラオケに入っているんだね!メモリアルが紹介していたのを聞いて興味あったんだ。っていうか、白雪事務所のアイドル達ってお互い紹介し合ったり、コラボしたり、めっちゃ仲良くない?」
「そうだね。すごく仲いいよね」
「まこちゃんもやっぱり白雪事務所のアイドルに詳しいね!もしかして、カイトとかのモデルにも詳しいの!?」
!?もしかしてこの流れやばいかな?下手したら白雪系関係者ってばれてしまう。ここは慎重にならないと。
「あはは。『White』を愛読しているからね!」
「さすが!」
二人で笑いあう。あー、よかった。冷や汗出そう。
ブーブー。ふと、鞄の中で携帯が震えた。…書記かな?今度はなんだろう。ここでスマホを弄るのも悪いので、外に出て携帯を弄ることにする。美智ちゃんにちょっと電話来ちゃったと言って部屋を出る。
そのまま、少し離れた所へ向かい、スマホを見る。
『from 七海
社長。お楽しみ中の所、申し訳ございません。遠山君を保護しましたことを報告申し上げます。つきましては彼を新人社員として入社させたいのですがよろしいでしょうか。それと、先ほど藤堂と話し合ったところ、新入社員に対する説明会を夏休み中に行うということが決まりました。そのため、社長の仕事に副社長のスピーチを来週までに作って下さい。
それと、カラオケはどうですか?楽しいですか?もし、男に絡まれたら言ってください。私が飛んでお仕置きをしておきます。また、帰りが遅くなる際はぜひご連絡ください。人気のない所で待っております』
どうやら業務連絡のようだ。でも、あからさまに下の方を送るためな気がする。
『to 七海
書記。業務連絡わざわざありがとう。来週までに考えておくね。
あと、カラオケは楽しいし、皆優しいからいらぬことを考えなくて大丈夫。
それと、社員への合格、不合格通知の判子はもう押してあるから、社長室の机の上から取ってね。住所の貼ってある封筒に一枚一枚確認して入れて。部下に任せてもいいし、各課に振り分けてもいいし、采配は任せます。あと、人事部から合格者に配布するプリントがあるのでそれも受け取っておいてね。
私が帰るまでに終わっていると良いかな』
きっと、書記は仕事がなくて暇なのだ。きちんと帰りは迎えをお願いするので今は仕事に集中してほしい。遊んでいる私が言うのもなんだけどね。送信完了を確認して後ろを振り返ると日向が立っていた。
「っ!?」
気付かなかった。気配を殺せるなんて…忍者か。
「…いや、立ったのが気になったからちょっと」
申し訳なさそうに目を逸らす日向。心配してくれたみたいだ。
「ごめんごめん。保護者が過保護でさ」
全く書記ったら、と心の中で愚痴を言いながら答える。
「保護者って言えばさ、紅葉さんや幸雄さんは元気?」
「え?」
思わず反応ができなかった。日向は私の表情を見て申し訳なさそうになんでもないや、先に戻っているねとカラオケルームに戻って行った。
…。私はしばらくして部屋に戻り、気づいたら書記の車に乗っていた。
「社長…浮かない顔をしておりますが、なにか会ったのですか?」
「…ううん。なにもないよ。美智ちゃんにはメモリアルの話を永遠に聞かされた感じがしたけど」
「…社長が学校でのことを話すのを初めて聞きました。その子のことを亮に話せば喜ぶのではないですか?」
「そうだね。今度話してみる」
書記と話しながらも私は頭の中で考えていた。どうして、日向は、私の両親を知っているのだろうか。
『また会おうね』
『うん。約束』
頭が疼き、どこかでの会話が流れる。なにか忘れているのだろうか。
…ま、覚えていないのなら大した記憶ではないのだろう。
「よし、書記。明日はばりばり働くからね!それと言っておいた仕事は終わった?」
「もちろんです。社長。社長からの仕事は第一に終わりました。後は発送のみです。一通当たり三人で見直しをしたので間違いはないはずです」
「OK。さすが書記!」
「そ、そんな、社長に褒められるなんてもう死んでもいいです。あ、褒めてもらえるなら、私のことをたまには羽空と呼んでいただけませんかね」
「死ななくていいし、羽空と呼ぶのは遠慮しておくよ」
「羽空と呼んでくれた!社長!私一生ついて行きます!」
「わかった!わかったから、ハンドル見て!書記!前!」
大きなブレーキ音が鳴り響き車が急停止する。シートベルトが命を救ってくれたみたいだ。世の中シートベルト様だね!by白雪誠




