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まこちゃん

 朝早くに教室に着いた私は不安な化学式の確認と元素の記号と順番を必死に暗記していた。私の朝は比較的早く、8時30分からホームルームが始まるのに対し、7時30分には教室に着くという状況だ。それはお父さんが仕事に行く途中で私を乗せてってくれるからである。とにかく今日は苦手な化学ということもあり、他の自信のある教科をさらに、というのではなく、苦手な教科が赤点を取らないようにという目的で勉強している。集中している私の耳にガラリという扉の音が聞こえた。ふと、時計を見れば7時45分。もう15分くらい経っていたようだ。音源を見れば日向であった。日向は凛々しい顔をこちらに向け、爽やかそうに笑って


「おはよう、須川さん。朝から精が出るね」


と挨拶をしてくれた。日向はオクロックというアイドルグループの所属とだけあって、かっこいい。昼休みには日向を見に行く女の子も多い。それも最近では先生が『迷惑になるので控えてください』と注意したのが効いて治まっている。私は日向と同じクラスでよかったと感じた。なんせ、面食いなものでイケメンは目の保養と考えているからね。閑話休題。


「おはよう、日向くん。ちょっと自信の無い教科だから頑張らないとと思ってね。でも、昨日からずっと勉強しているから飽きて来ちゃった」


「同じ勉強をずっとするって勉強がよほど好きじゃないとできないよな。じゃあさ、気分転換にさ質問したいんだけど答えてくれるかな?」


どうやら日向は私に聞きたいことがあるみたい。日向のアイドルデビューのきっかけのことやクラスでの動向を見ていると日向の質問したいことは大体わかった。伊達にクラスのことを観察していないわけではない。恐らく日向はまこちゃんのことを聞きたいのだろう。肝心のまこちゃんと言えば、聡明そうなところは聡明そうだけど、他人からの好意に関しては疎いと思う。彼女はもっと自分の周りを見るべきだ。


「いいよ。どんな質問?」


「白雪さんのことなんだけどさ」


ビンゴ。心の中でガッツポーズをしながら、日向を見る。日向は少し、瞳を揺らしながら私に問いかけてくる。


「白雪さんの家って、高級住宅街の白い壁とレンガが端にある家に今も住んでいるの?」


…日向はまこちゃんの個人情報が欲しいのかな?さすがに家の情報までは教えるわけにはいかない気が…。私が沈黙している理由に気付いたのか日向は慌てたように口を開いた。


「あ、違くて。白雪さんの個人情報を聞いてこっそり行くとかではなくて、昔俺と白雪さんは家が隣同士だったんだ。白雪さんの家に行ったなら、その左にある家見ただろ?おそらく、オレンジの壁に青い屋根の家。俺は昔そこに住んでて訳あって引っ越したんだけど、家はそのまま引っ越したからさ。…今も白雪さんはそこに住んでいるのかなって」


日向とまこちゃんは幼馴染ってことか!そして、高校で偶然同じに。そんなこと奇跡ってあるんだ。しかも、日向はまこちゃんに片思いしているだろうし。…でも、まこちゃんは日向を幼馴染として接している風には見えないんだよね。この矛盾は一体なんなんだろう。


「うん。まこちゃんは日向の言っている家に住んでるよ。ところで二人は幼馴染ってことなんだよね?」


「うん、そうだよ。ただ、白雪さんは覚えていないみたいだけどね。無理もない。小学2年生で引っ越して行ったからね。白雪さんは」


つまり、小学2年生までは日向と隣同士で住んでいたのか。これは良い情報を教えてもらった。まこちゃんについては謎が多いけど、その中の日向の初恋何故疑惑が晴れた。


「も、もう一ついいかな?」


日向が遠慮げに私に尋ねてくる。もちろんわたしはOKと頷く。


「白雪さんがカイトと仲良さげに歩いているのを見たんだけど、いつ知り合ったのか知ってる?」


カイトか…。


「結構最初の頃あたりでまこちゃんがお昼に何処かへ行ってたからその頃に知り合ったんじゃないかな?最近じゃ、屋上でいるのを見たっていう子がいたよ」


「そっか」


日向は考えるように机を見つめている。日向にとってカイトの存在は脅威なのだろう。確かに、かっこよくてスタイルもいいカイトは日向と並んでも違和感がない。それに加えて、中間テストでは上位に食い込んでいた。頭も良いに違いない。カイトは女子にモテるに違いない。


「最後なんだけどさ、白雪さんてどんなアルバイトしているか知ってる?」


アルバイト…。それは色々な種類の形で存在している。彼女はアルバイトを平日及び休日・祝日も行っているらしい。そして、白雪ファンクラブの情報部の情報によれば放課後直接職場に行っているのではないかという調書まで出されている。ただ、一体どんなアルバイトをしているのか、どこでしているのかは一向に調査が進展しないらしい。何故かというと、彼女は校門を曲がり商店街を通り、何処かへと歩いていくらしいのだが、商店街が終わった曲がり角で必ず見失ってしまうらしい。たまに、調査をしていると変なイケメンの男に声を掛けられ、ストーカーについて熱弁されるらしい。ただ、その男は一人に対し、一度しか出会わず、二度会うことは無いらしい。実に不思議な男だという話を聞いている。ただ、ストーカーについての熱弁を聞くと、イケメン度が増すらしく、周囲の主婦が頬を染めてこちらをちらちら見てくるらしい。結局、まこちゃんがどんなアルバイトをしているのかについてはお蔵入りとなっている。

 ちなみに、私たちもさりげなく聞いてみると、あやふやな答えしか返ってこなかった。とにかく秘密厳守なアルバイトということしかわからない。


「ごめん、それに関してはわからないんだよね。クラス中で謎を解こうとしているんだけど…ヒントの欠片もなくてさ」


「そっか。じゃあ、もしかしたらと思ったんだけど違うかな」


どうやら日向はなにか情報を握っているらしい。


「な、何が違うの?」


私は動揺で少しどもってしまった。


「いや、結構前なんだけどさ。俺がテレビの撮影の時に白雪さんらしき人を見たんだよな。スタッフの服着ているし、彼女がこんなところにいるはずがないと思ってな」


アルバイトがまさかテレビ局のスタッフさん!?でも、それなら、カイトと出会うのも納得するし、商店街出た後に消えるのが分かる気がする!だって商店街を抜けて角を曲がると大きな通りに出て、そこがテレビ局だから。これは、新たな情報が手に入った。まだ、スタッフかもしれないという仮説だけど。


そんな話をしていると扉が開く音が聞こえた。時計を見れば7時59分。8時前だ。


「白雪さんだ」


そう呟く日向に反応して私は扉の方を見る。そこには黒髪の美しいまこちゃんが!


「おはよう!まこちゃん!」


私は明るい声であいさつをする。すると、彼女は申し訳なさそうに扉を閉めた。


「「え?」」


私と日向二人そろって疑問の声を口に出す。よく考えてみて。教室に私と日向。他には誰もいない。彼女の思考について考えてみると、答えは一つ。わわわわ!誤解!私は慌てて立ち上がりドアを開ける。


「ちょ、ちょっとまこちゃん!?なんで閉めるの!?」


まこちゃんは申し訳なさそうに、


「二人の密会を邪魔しちゃいけないかなって思って」


と言う。色々考えて察してくれようとしたんだと思いながらも、扉を閉められるのは嫌だ。まこちゃん、教室に入ろう!


「いやいやいや、別に邪魔していないし、普通に入っていいよ?」


すると、何か理解したようにまこちゃんが私に生温かい視線を向けてきた。


「ん?まこちゃん、なんで生温かい目で私を見ているの?無言で扉を閉めようとするのはやめて?」


本当になにもないから、おいでとにこにことまこちゃんを促す。けれど彼女は一向にひかない。しばらくドアの開閉を繰り返しているとまこちゃんの後ろに誰かが立ち扉をガッと押さえた。


「きぇ!?」


まこちゃんが可愛い声を上げる。後ろをよく見ると正体は先生だったようだ。先生は…結構怒ってる。


「おい…」


案の定低い声で先生が注意しようとする。すると、まこちゃんがくるりと先生の方を向いてなにか分からない透明な袋を持った手を上に掲げ後退し始めた。彼女にぶつからないように私も普通に後退する。けれどまこちゃんの後退はおかしかった。どう見てもムーンウォークだった。


「と、憑りつくのだけは勘弁してください!き、清めの塩を撒きますよ!」


どうやら、透明な袋に入った物体は塩らしい。手を上にしながらムーンウォークする様を見た先生は


「大丈夫か?」


と言った。どうやら、副音声に"頭"を入れられている。まこちゃんは答えずにムーンウォークを続け、ふと立ち止まった。


「足が…ある」


いや、その言葉はおかしい。生身の人間には普通足がある。…塩の時点で察してたけどもしかして先生のことを幽霊だと思ってるのかな?ふと、まこちゃんを見れば、手を腰に当て足は開いて決めポーズのように塩をかざしている。まるで警察が自分の警察手帳を相手に見せる時のような格好である。っていうか、先生を幽霊だと…。


「っふふ」


自然に笑いがこみあげてくる。おかしい、色々とおかしい。日向も後ろで笑っているようだ。笑い声が聞こえる。先生も今の状況のおかしさに注意するよりも笑いが込み上げてきたようだ。


「おい、し、白雪っ。ふは、お前、頭大丈夫か?」


なんとか耐えながらも言葉を発している。私は腹筋が笑いを抑えることで精一杯なので先生は凄いと思う。まこちゃんはようやく顔を上げると、先生を見て叫びだした。


「ぎゃーーーー!先生いつの間に幽霊になってたんですか!?生霊!?」


そうして、なにを思ったのか、左足を宙に浮かし、左手を上にかざし右手で塩を先生に見せつけるように突き出した。どこかの武闘家がとってそうなポーズだ。どう見てもおかしいポーズに先生は笑いをこらえきれなくなったみたいだ。


「おっまえ!そのポーズは面白いからはははははっははははは!」


私は我慢できなくなり、いまだに幽霊だと思っている先生についてネタバラシを行う。するとまこちゃんは先生の腕をぺたぺたと触りだした。さっきまで幽霊だと怖がっていたのに、今では堂々と先生を触っている。先生を見ると顔が少し赤くなり、目が動揺していた。これは…と思いながらじっと見ていると、先生が私に気付き、


「も、もういいか?それと、お前ら、扉は開けたり閉めたりをくりかえすと壊れやすくなるから気を付けろ」


と言葉を発した。私にはその注意が単なるまこちゃんへの照れ隠しだと気づいていたのでそれほど気にしなかったけど、まこちゃんは本気で反省しているようだ。さすがまこちゃん。その後、先生との話が終わり、私が日向との誤解を解こうとまこちゃんに話していると日向が割り込んできた。まこちゃんのことについて話してたんだは言っちゃいけないという意味だろう。早く、まこちゃんに幼馴染についての確認を取ろうとしたのに。日向のことを話せばきっと彼女は思い出してくれるだろう。



クラスの闇の帝王…ボソッ


菜摘「なにか、私は作者を殺さないといけない気がする」


菜摘様神。


菜摘「やっぱりなんでもないかな」


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