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空気を読む少女は平均点を目指す

 遠山君が家に泊まった次の日。テストは無慈悲に私に襲い掛かってくる。やむを得ず、学校へと向かう。本当は1日家にいて、遠山君に構ってあげたかった。遠山君は私が出かけると同時に家を出て、仕事場や泊まるところを探すらしい。もっと家に居ていいのにと言ったら、すごく悲しい顔でこれ以上はもうしわけありませんと言われてしまった。もし、寝泊りとか仕事とか見つからなかったら、家に戻っておいでと合い鍵を渡しておいた。なかなか受け取ってもらえなかったけれど、じっと見つめながら渡すと受け取ってもらえた。威圧が効いたようで何より。その後ろにいつの間にか書記が立っていた時には大きな声を上げてしまったけど。

 とりあえず、今日は化学、コミュニケーション英語、現代文だ!平均点へえいえいおー!


「おはよう!まこちゃん!」


教室の扉を開けると私より早く来ているなつちゃんがいた。それと、日向だ。机を挟んで二人っきりでいる。他にはまだだれもいない。珍しく早めに来たからだろうか。それにしても…。私は無言で教室から出て扉を閉めた。


「ちょ、ちょっとまこちゃん!?なんで閉めるの!?」


すぐに扉は開けられ慌てたようになつちゃんが出てきた。


「二人の密会を邪魔しちゃいけないかなって思って」


そう、教室に男女が二人きり。これは何かある関係に違いない。それに、なつちゃんだって日向かっこいいって前に呟いていたし、彼氏がいるにしてもかっこいいイケメンと二人きりで教室なんてどきどきする。そして、乙女は必ずこの瞬間がずっと続けばいいのに…と思っているのだ!!よって、私のようなお邪魔虫はこのような教室には入らず退散するのが空気読み達人への一歩!目指せ!空気マスター!


「いやいやいや、別に邪魔していないし、普通に入っていいよ?」


なつちゃんがそう言って教室のドアから私を促す。首をかしげている日向が目に入る。さらりと揺れる金髪。きっとなつちゃんは遠慮をしているのだろう。全くなんて優しい子なんだ。


「ん?まこちゃん、なんで生温かい目で私を見ているの?無言で扉を閉めようとするのはやめて?」


二人でニコニコしながら扉を開けたり閉めたりしているといきなり私の後ろから腕が現れてドアを止められた。


「きぇ!?」


やばい、妖怪みたいな声が出ちゃった。乙女の欠片もない。なつちゃんはなんか上の方向いて固まってるし、もしかして幽霊なのかな?え?腕見えてるの私となつちゃんだけだったり?ドアの地縛霊の祟り?こ、怖くて後ろが向けないよ…。


「おい…」


低い地面を這ってきそうな男の声が後ろから聞こえる。やばい!このままじゃ憑りつかれる!


「と、憑りつくのだけは勘弁してください!き、清めの塩を撒きますよ!」


胸ポケットから清めの塩を取り出し、下を見ながら振り向き、そのまま後進する。なんで、上を見ないかって?だって、見たら怖くて悲鳴あげそうだから!


「…大丈夫か?」


ふと、幽霊の下の方が視界に入った。


「足が…ある」


いやいやいや、最近の幽霊は進化して足がある人もいるのかもしれない。一応清めの塩をわかるようにかざしておこう。


「っふふ」


ふと、私の横にいたなつちゃんが笑いをこらえるように震えているのが目に映る。え?なつちゃんが笑いをこらえているのも幽霊の祟り?


「あはははははははははっ」


ふと、後ろを見れば日向もこらえられないというように笑っている。なに?何が起きてるの?やっぱりこの幽霊による怪奇現象?笑いの呪い!?


「おい、し、白雪っ。ふは、お前、頭大丈夫か?」


恐る恐る目の前を見れば担任がいた。


「ぎゃーーーー!先生いつの間に幽霊になってたんですか!?生霊!?」


幽霊が担任だったなんて、どうしよう。取りあえず、心の中で悪霊退散と唱えながらも清めの塩を振りかざす。ばばーん。悪霊退散!


「おっまえ!そのポーズは面白いからはははははっははははは!!」


担任幽霊まで笑い出した。涙を目に浮かべたなつちゃんが私の肩を叩いた。


「もう、まこちゃんっ。ふふ、今目の前にいるのは正真正銘生きている先生だよっ」


「へ?」


生霊ではなく?そう思い恐る恐る先生の腕を触ってみる。


「あ、触ることができた。これ本物だ」


そのままぺたぺたと腕に触れていると先生が口を開いた。


「も、もういいか?それと、お前ら、扉は開けたり閉めたりをくりかえすと壊れやすくなるから気を付けろ」


「「はい、すみません」」


怒られてしまった。確かに、会社でも扉を荒く開ける人は注意されていた。しかも自分も注意したことあるわ…。これは非常に申し訳なくて、恥ずかしい。前に注意した人に顔を向けられないわ…。ああ、穴があったら入りたい。


「先生はどうしてこんな朝早くに教室に来たんですか?」


私が恥ずかしさに悶えている間になつちゃんは冷静に先生に質問をしていた。さすがなつちゃん。頼れる女の称号はあなたの物よ!


「ああ、黒板のチョークが切れかかっていたから取り替えておこうと思ってな。昨日はテストの関係でばたついてしまったから変えられなかったんだ」


チョークの補充か。


「言ってくれれば私がやっておいたんですけれども」


「いやいや、たかがチョークの補充。秒で終わるし、みんなの前でやるのは恥ずかしいから早朝にやろうと思ってな」


流石先生!私も見習って今度、会社のあらゆるところにあるコピー機の中の用紙を早朝に補充しておこう!そして、事務の仕事を少し手伝ってもいいかもしれない!そうだ!テストが終わったら白雪社の事務に行こう!そして、備品の見直しをさせてもらおう。社員に事務用品のアンケートを取ってみてもいいかも!白雪社の事務用品は外部発注だから、少し開発に関わらせてもらって事務用品の充実をしてみてもいいかもしれない。そうと決まれば一端、明日の朝議にこの計画を出せるように企画書を作成しなければ。


「それはそうとまこちゃん。私と日向くんは別に思っているような仲じゃないから、気にしなくていいからね。むしろ、日向くんは今日はま」


「おはよう、白雪さん。今日の教科の勉強具合はどうかな?」


なつちゃんの話を聞いている途中に日向が話しかけてきて、なつちゃんの会話が遮られる。なんだろう。日向の何の話し合いをしていたのだろうか。まあ、それよりも日向の話題の方が気になる。なんせ、平均点を取るには多くの人と会話をして勉強量、苦手意識、自信についてのデータを取り、平均化しなければいけないからね。


「おはよう、朝比奈君。今日は化学、コミュニケーション英語、現代文だったよね。化学の化学式は大体頭に詰め込んだけど、モル質量とか、密度とか、ちょっと複雑な化学式は自信ないかな。コミュニケーション英語の方は新出単語を頑張って覚えるので精一杯だったかな。現代文は、長文で答える問題が出てきたらアウトかな。朝比奈君は?」


「ずいぶん勉強したね、白雪さん。俺なんか、化学式どころか、元素の質量と順番も怪しいよ。先生が優しいことを祈るしかないな。英語に関しては教科書の内容暗記したから結構行けると思う。現代文は白雪さんと一緒かな?記号で答える問題なら恐らくだけど消去法で行けると思うんだ」


日向は真面目に自分の解答に対する自信を述べてくれた。すると、なつちゃんが自慢げに笑った。


「私は今日は自信あるんだよね。化学は置いといて、コミュニケーション英語は教科書の内容は完璧だし、応用も恐らく解ける。あとは、現代文だけど、結構得意だから上位に食い込める自信があるよ!」


なるほど。二人の今の発言からするに日向は化学が平均点より下だろう。だけど、英語は平均点より上だね。現代文は平均点程度だろう。一方なつちゃんは化学が論外であろう。ただ、コミュニケーション英語は満点に近い点数を、現代文は平均点より上ってところだろう。まあ、これらの予想は問題の傾向によって変わると思うけどね。


 先生はその後、職員会議があるということで教室を出て行った。私たちは一応確認ということで教科書を見直したり、ノートを見直したりしている。ちなみにだけど、私は提出する予習ノートと授業で使うノートを分けている。予習ノートは他の人に見られてもいいように普通のことを書いている。授業ノートの方は言ってしまえばテスト対策用である。先生がここテストに出るよと言ったところをメモってあり、どこでどのように間違えるかについてこと細やかに記してあるノートだ。私は書くと同時に暗記をしてしまえるので、見直すということはしないけれど、まあ、授業中に必死にノートを取っているというように見せたくて書いているものである。

 そう言えば、葉月についてだけど、期末テストが彼にとっては初めてのテストだ。1日目の車の中『白雪社の社員として恥をかかない、むしろ上の評価をもらえるような点数を取ってきてね。社長としての命令だからね』と念を押しておいたので全てのテストで満点を取っているはずだ。今日の車の中でも『高校のテストってこんなもんなんだね』と話してきたので、『そう!全部の教科で満点取れたらご褒美になんでもしてあげるよ!』と言っておいた。これには書記が後ろを向いて運転しながら『社長!?さすがにそれは…』と言っていたのだが、前を見ずに運転なんて事故る未来しか見えないので冷めた声で『前』と言っておいた。葉月はそんな私の隣で真剣な瞳をしていた。

 だんだんと時間が経つにつれて人が増えてくる。そして、朝のホームルームが始まりテストが始まるのだ。



次回は明日の同じ時間帯に投稿されます。


没案になった葉月が学校に転入した時の話を活動報告に載せました。興味のある方は見てみてください。

最初に「小話」とタイトルに書いてあるやつです。

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