どうするんだ!
「そこでなにをしているんですか?誠さん?」
低い声と冷たい目で私を見る書記にぞっとする。怒ってらっしゃる。なにかは分からないけれど怒ってらっしゃる…。
「え、ええと、面接?」
遠山君は白雪社に入るかもしれないし、無難にこれが正解だと思う。書記はさっきよりも冷たい視線に加え、冷笑をして口を開いた。
「…その体勢で、ですか?」
書記の視線が気になりながらも、私は自分の体勢を見る。腕は遠山君の背中に回り、顔は胸元。あれ…どう見ても抱き着いている姿勢だ。ふと、遠山君を見れば顔を真っ赤にしてそっぽを向いている。
「あわわわ、ごめん、遠山君」
慌てて体を離し、遠山君に謝れば顔を真っ赤にして俯きながらもこくりと頷いてくれた。よかった。許してくれるみたい。それにしても遠山君は照れ性なのかな?それとも人見知り?こんなに顔を赤くして、まさか熱の再発ではないよね!?
「と、遠山君!ちょっとおでこ!おでこ出して!」
鬼気迫る勢いで遠山君に接近し、叫ぶ。
「え?え?」
パニックを起こしているのか遠山君は目を見開いて固まっているだけだった。私は素早く彼のおでこを触る。うん。熱はないようだ。
「じゃあ、なんで赤いんだろう?」
疑問を呟いたところで書記に肩を掴まれた。
「ちょっとこちらで話を聞かせてもらいましょうか。お客様はこちらの部屋でお待ちください」
書記は遠山君を先ほどまでいた私の仕事部屋に押し込み、私の腕を優しく引っ張り始めた。痛くない程度で引っ張ってくれることから書記の性格が伺える。
「さて、どういうことか話してもらいましょうか?社長?彼は一体、いつ、どのように、拾ったんですか?あれですか?ダンボールに拾ってくださいとでも書いてあったんですか?」
一階に降り、テーブルを挟んで書記が冷たい目をして私を問い詰める。怒ってる。物凄く怒ってる…。書記は本気で怒るととても冷たい視線を向けてくる。まるで、侮蔑したかのような視線に肩をすくめながらも私は言葉を選びながら、書記に説明を始める。
「書記、落ち着いて。まず、彼は遠山音瑠くん。15歳の高校1年生だけど、おそらく学校は行ってない。保護者の子供に対する人権の考えが足らず、自分の娘の従者にでもして使えなかったから捨てたんだと思う。捨てられた後、私が学校から家へ向かう道でふらふら歩いてて、目の前で倒れられたから責任感じて助けてしまった…かな?」
「…つまり、目の前で倒れたので拾ったのですね。なぜ、すぐに救急車とか呼んだり、私に連絡したりしてくださらなかったんですか?」
書記の言葉は私の胸に鋭いナイフとして突き刺さる。
「…」
頭になかった…なんて言ったところで書記から、さらに医療組の琴音からもお説教を喰らいそうで怖い。特に怒った琴音は、ものすごく怖いのだ。速人の件のように何年も前のことも根に持つ。例えば、私が琴音に初めて出会った時、「鋭いメガネの人!」と叫んでしまったのも未だに時々根に持ってる発言を聞く。おじさんもある時にスルメを食べている琴音を見て、「なんて栄養のなさそうなものを食ってるんだ」と呟いたのを拾われてて、琴音直筆の『スルメの栄養学』というタイトルで1000ページ以上あるような本が届いたと嘆いていた。暗記させられたようで、琴音がたまに「108ページ目の5行目にはなんて書いてあったかな?」と凄い良い笑顔で話しかけているのを見る。それに対しておじさんは「スルメの一番おいしくてなおかつ、栄養を取るために効率的な食べ方は…」と若干遠くを見つめながら話していた。…思えば誰かしら琴音に対して根に持たれていることあるな…。葉月も反抗期で琴音殴って、それ以上にカウンターでフルボッコにされて舎弟にされていたし…。ん?書記だけ綺麗にないな。そう考えると書記ってすごいな。
相変わらず冷めた目をこちらに向けている書記を見つめる。
「…なんですか。そんなに見つめた所でなにも変わりませんよ。そもそも社長は警戒心が足りません。彼が大人しかったからよかったものの、殺人者とかだったら社長は殺されていますよ?」
「ねえ、書記って琴音のことどう思っているの?」
「は?」
書記は目を見開いてきょとんとした顔をしている。綺麗な顔が綺麗なままなのがムカつくな。と思いながら、書記の顔をまじまじと見ていると書記は顔を赤くさせたり、青くさせたりとしながら口を開いた。
「え、えと、社長。それは一体、何がどうなってそうなったんですか?もしかして、私に興味がおありで?」
「うーん、どっちかっていうと、琴音に興味がある、かな?」
思ってみれば書記と琴音ってそんなに話している所見たことないんだよね。ん?いや、書記は他の人とも話している所を見ないな…。
「やっぱり、書記の方が興味あるかなあ?書記って他の人にどう接しているの?」
「私はあなた一筋ですよ!社長!」
そう言ってきらきらした笑顔で立ち上がる書記。先ほどまでの冷たさは消え、周りに綺麗なお花畑が見える。そして、めっちゃ輝いてる。…仕事のやり過ぎかな?目が疲れてるのかも。
「ですが、社長」
咳払いをする書記。一体どうしたんだろう。
「私は社長が高校を卒業するまで待ちますよ!」
高らかに宣言する書記。…なにか勘違いしていないかな?先ほどまで噛み合っていた会話が急に合わなくなった感じだ。
「えっと、なにを?社長の素顔公開?それなら、成人するまでやる気ないよ?」
「あ、えっと、はい」
静かに席に座りなおす書記。どうやらなにかを勘違いしていて急に間違いに気付いたようだ。
「って、流されませんよ!とにかく、子犬は元いた場所に戻してきなさい!」
手をテーブルにつき、私を睨みつける書記。ブリザード再び。
「書記、落ち着いて。私の家に犬はいないから」
「違います!あの拾ってきた少年のあだ名です!」
…遠山君のあだ名子犬なの?そもそも元いた場所に戻すなんていうのは難しいよね。
「…戻すのは難しいんじゃないかな?だって、西園寺グループの総帥に届けるようなんだよ?子供拾ったので元の場所に戻しにきました~って、書記やってくれるの?」
「ん?ちょっと待ってください。さい…なんですって?最近喧嘩売ったばかりのグループの名前が聞こえたような」
「西園寺グループの総帥、西園寺隆三が保護者なの」
「はい?あの西園寺グループの総帥の名前は隆三と言うんですか?」
やっぱそこが気になるよね~。
「そう。そこのお嬢様の執事をやっていたらしいよ。主に葉月の盗撮」
「はっ!?は、副社長の!?それは…」
「そうそう。この話聞いちゃうと白雪社に抜きたくならない?だって、素晴らしい執念と潜伏力だよ」
「確かに…私も副社長と結構いましたが、気づきませんでした。それに西園寺の情報も吐いてくれるかもしれませんしね」
「…情報は吐いてもらう気ないんだよね、私。ほら、やっぱり堂々と戦いたいじゃん?裏でこそこそは窮地に追いやられる以外にしたくないから…」
書記は目を閉じて静かに頷いた。
「わかりました。なら、子犬を元の場所に戻すのはやめておきましょう。あの西園寺のお嬢様はヒステリックで葉月の信者だと聞いています。そのようなところに子犬を戻すのはネズミを猫に与えるようなもの。そこまで私は無慈悲じゃありません。それに、結構いい腕をしているかもしれません。私が子犬を預かります」
そして、手を静かに私に差し伸べる。いやいやいやいや。
「書記が預かる前提だけど、私がしばらく預かるからね?助けたの私だし、書記初対面でめっちゃつめたい視線を向けてたから絶対好印象を持たれてないよ?それに、拾ったものは最後まで面倒見ないとっていうのが私の保護者の口癖だからね?私も最後まで面倒見るつもりだから!」
書記が立ち上がって私に指を向けた。人に指向けちゃダメって教わらなかったのかな?
「あなた女子高生でしょう!同い年の男女が同じ屋根の下とかどうなるかわかってるんですか?」
「ん?同い年の男女が同じ屋根の下だとなにかおかしいの?そんなこと言ったら学校も同い年の男女が屋根の下だけど?」
「…同い年の男女が同じ屋根の下で二人っきりです!」
「それだとなにかあるの?」
そう聞くと、書記の顔が真っ赤になった。なぜそこで真っ赤になるのだ書記よ。同い年の男女が同じ屋根の下だと宇宙と交信されて宇宙船が現れて銀河系から連れてかれちゃうとかそういうのがあるのかな?そうだとすると、遠山君をこの家に泊めるには、酸素ボンベと宇宙服の用意が必要だ。いくらくらいするかな…。というか、そんなこと言ったら男女の双子の家計って凄いことになってそうじゃない?凄いな~。
「…もういいです。わかりました。社長に間違いは起こらないと踏みます。あとは、子犬の方ですね。社長は子犬が必要そうなものを買ってきてあげてください。私は子犬と少し戯れて、社長が帰ってきたら帰ります」
書記は諦めたような顔で立ち上がり、二階へ向かおうとする。
「遠山君が嫌がるようなことしないでね?書記の事、信じてるから」
本当に、遠山君を書記がいじめることのないように祈る。
「っく。やりますね、社長。また明日早い時間にお迎えに来ます。取りあえず、社長に免じて柔らかく遊んできます」
書記は若干顔を赤らめて上へと登って行った。
さて、遠山君の為にいろいろ買ってこよう。男物のシャンプーに歯ブラシに、たくさん必要だ!お金はたくさん持っているからね!遠山君計画について考えながら私は財布とスマホを片手に家を出た。…鍵はいらないでしょう。書記は結構武術できるしね!!
毎回思うんですけど、この二人の会話って本当にツッコミだらけですね。誰かツッコミ役を…。主に誠ちゃんの思考へのツッコミ役を…
いつも読んでいただきありがとうございます。




