地獄の新入社員選考9
あけましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!
いよいよ始まった新入社員選考。私の主な仕事は白霧静として新入社員の観察、スパイの駆除、社員の仕事の確認だ。鬘がずれていないか確認し、メガネをかけ、社長室を出る。今頃、入社希望者が社内の待機室で待機しているはずだ。私はエレベーターで1階まで降り、エントランスの様子を伺う。エントランスは静かで遅刻で手続きしている入社希望者は見当たらなかった。入社希望者が殺到して大忙しだった受付へ向かう。お団子頭の受付嬢の所へと向かう。
「すみません」
疲れているのであろう、少し伏せ目ながらも笑顔で返事をする受付嬢。後で給料に色目を付けておこう。
「はい、どうされましたか?」
「お仕事お疲れ様です。白霧です。入社希望者の受付名簿を見せてもらえますか?」
そう言って、私は胸元にあるネームカードを見せる。途端に慌てだす受付嬢。さっきまでのお淑やかさとしなやかさはどこへ行ったんだろうと聞きたくなるようなギクシャクダンスを見せてくれた。
「し、白霧さん!?あの社内で切れ者で一番できて社長の右腕とも噂されている白霧さん!?部署を色々廻ってなんでも完璧にこなす白霧静さんですか!?」
な、なんかめっちゃ持ち上げられている…。若干ずれ下がったメガネを直して、自分に念じる。私は白霧静…私は白霧静…。心よ、静まれ。全て静になれ。
「ええと、色々とつっこみたいところですが、忙しいので名簿をとにかくくれますかね?」
苦笑いでそう言えば、受付嬢はすみませんと謝って私に名簿を見せてくれた。私もお礼を言ってさっさと管理室へ向かう。管理室には警備の人が休憩する休憩室と監視カメラがある監視室がある。社内の仕事場には監視カメラは設置されていないが、廊下には設置されている。そのカメラを見て、どう新入社員への仕掛けを施すかについて考えながら、名簿に遅刻者及び、欠席者がいないかの確認を取る。もしいた場合は面接の組み合わせを変えてより早くできるようにローテーションを組むのだ。
脳をフル回転させて仕事を行った。仕掛けについても例年通り、書類落とし、ペン落としで行こうと思う。仕事が終わったらさっさと次の仕事へと向かう。まずは、普通に案内人の仕事を行う。待機室に行き、面接の説明を行う。そして、しばらく待機し、時間が来たら、案内を始める。案内を始めると同時に抜けて、こんどは観察及び社長特別試験である。入社希望者とすれ違うたびに何かしら落とすという行動を行う。そして、その反応を伺いつつも他社のスパイを見つけるという作業を繰り返す。
そこで、面接が終わった人の案内をしている九条君とすれ違う。九条君は目でお辞儀をして通り過ぎていく。私も目でお辞儀をしてその後ろの列の人たちを軽く見る。よく見ると男女男男女の順番で並んでいる人たちが緊張した面持ちでこちらにお辞儀していた。その中でふと探るような視線が私に向けられた。おや。もしかしたら他社のスパイかもしれない。一応マークを付けておこうとその人たちのナンバーを確認していく。125~130番の人たちだ。この人たちへの仕掛けは断念して次へと向かう。
しばらくして、仕事の確認へ回る。お昼を回り、面接が終わったようなのでおじさんが面接していた部屋へと向かう。ノックして返事がした後、失礼しますと言い部屋に入る。見ると終わったばかりで書類を整理していた3人がいる。
「…白霧さん。どうしました?」
おじさんが普段は使わない敬語で白霧静に話しかけてくる。
「仕事の確認です。面接ではどのような感じでしたか?」
「緊張した人が多かったですかね。あとは、頑張って自分をアピールしようとしていた感じで今年はレベルが高いですね。競争率が高いから質の高い年になると思います」
「なるほど。では、そちらの書類を預かって失礼させていただきます」
「わかりました」
そして、書類を受け取る時にさりげなく紙を渡しておく。おじさんは素知らぬ顔でそれを受け取り、ポケットにしまった。私はそれを見届けると部屋を去った。
次に向かう先は125番から130番が面接を行った部屋だ。そこは第2課の人たちが担当している所だったようだ。美人の第2課の人が不思議な顔で私を見つめている。
「どうされましたか?白霧さん」
一人、真ん中で面接官をしていた立花さんが聞いてきてくれた。
「すみませんが、125番から130番の面接の記録紙ありますか?それと面接の感じがどうだったか教えてほしいです」
「125番から130番ですか?記録紙ある?」
「は、はい。あります」
立花さんが後輩に確認を取り、記録紙を私に渡す。
「ありがとうございます。実は、この番号の中にスパイがいる可能性があるんです。手ごたえが他と変だったり、変な視線を感じたり、しぐさが変だった人はいませんか?」
「スパイ!?うーん。125番から130番…。誰か覚えてる?」
立花さんは必死に思い出そうとしているようだが、今回面接は3回ほど行われている。125番から130番はもしかしたら覚えていないのかもしれない。
「…私、もしかしたら心当たりあるかもです…。129番村田紗希さん。彼女少しおかしかった…いやこの会社に入る気があまり感じられなかったです」
「129番…確かに志望動機も他の人と比べてやけに志望動機がテンプレートだった気がします。あとは、あまり印象に残らないような感じでぼやけているイメージがあります」
第2課後輩1人と立花さんが順に口を開く。彼女たちの証言を聞きながら記録紙を見て見る。志望動機は白雪社の事業を見て自分をしてみたいと感じたから、らしい。他の人は自分の力を生かせるのはここだけだと感じたからか。他も…確かに一番当たり障りのない回答をしている。これだけでは決め手にならないけれど、とりあえず村田さんという人を探してみよう。もしかしたら、勘違いかもしれないし、軽く疑うだけで行ってみよう。三人にお礼を言い、部屋を去る。今度は待機室に行ってみよう。
待機室に行くと、すでに解散しているはずが、話し声が聞こえた。これは…。
「…教えて下さいませんか?」
「すみませ…がひ………出来ません。これ以上は………しますよ」
「そんなことできるわけありませんよ」
「え?」
「だって…」
「へ?」
おっと!これ以上はダメだ!なにかいけない気がする!急いでドアを開けると、案の定、129番と書かれているナンバープレートを身に付けている女性と九条君がいた。どう見てもあと少しで危ないところだった。129番の女性の手が九条君の手を掴み、おそらく不埒な行為をしようとしていたのだろう。冷静にそう判断し、二人に向かって歩きはじめる。はっとした九条君が女性の手を振り切り、口を開いた。
「白霧さん。これは…」
「九条さん、話の内容はなんとなくわかります。ですので、少し黙っててください。129番の入社希望者さん…。いえ、他社のスパイの方ですよね?なにをしていたのかお話してもらえますか?」
九条君は私の言葉に黙る。逆に女性の方が言い訳を始めた。
「すみませんが、私がスパイ?そんなわけないですよ。私はそこの案内の方に引き留められて、訳も分からずここにいたんですよ。そして、そこの方が私の胸を触ろうとして来て…」
いつ、目薬を仕込んだのだろうか。女優顔負けの綺麗な泣きを私に見せてくる。つい、いらっとしてしまう。落ち着け。私は静ちゃんよ!静かなのよ!動じないのよ!冷めた目で彼女を見つめ…やっぱ無理。視界にこれから処分されるのを待っているかのようなか細い姿で立つ九条君が目に入ってしまった。処分なんてされないから安心してということを伝えたい。
「失礼ですが、村田紗希さん。大崎大学情報経営学部4年、というのは本当で、年齢は誤魔化されてますよね?23歳となっていますがもう25歳は超えているのでは?そして、社会人3年編入という制度を利用して大学に入学し、今まであらゆる各社でこの様な手を使って会社の情報を掴みとっているのではありませんか?そして、その会社の企業名は…西園寺グループでは?聞きたい内容は…そうですね。白雪社の社長とはどのような人物なのか、と、白雪社のねらい目な人物は誰であるか、と、白雪社の重要な秘密はなんであるか、ということの三点が大筋ですよね?西園寺グループ情報集約部第3課、村田紗希さん?」
「な!?なぜそれを!?」
恐らく私は今悪魔のような表情をしているのだろう。まるで生贄を見つけて面白くて一方的な取引を行おうとする悪魔に。
「なぜ?それは…あなたの会社の情報がある程度こちらに漏れているからですよ」
そう。これは本当だ。前に、西園寺グループと我が社の車の事故について調べる際にファザーのパソコンに社員情報がぱぱっと出てきてたまたま見てしまっただけだ。彼女は入社して2年。年齢は26歳となっていた。出てきた顔写真まで彼女と一致しているのだから確実に彼女は西園寺グループの会社員だ。一応、彼女のデータが入っていたのは他の会社員のデータよりもセキュリティが強かったのが記憶に残っている。他にもセキュリティが強い人はいたので恐らく工作員的な何かなのであろう。ただ、私の言葉で何かしらの方法でデータが漏れていると気づいてくれるといいよね。西園寺グループのセキュリティはがばがばだもん。
「そ…そんなはずはないわ。我が社でもトップのセキュリティで…」
村田さんは青ざめた顔でこちらを見ている。
あれでトップのセキュリティ…。ま、きっと西園寺グループにはセキュリティに優れた方はいないのだろう。可哀相に。
「内通者でもいるのでは?とりあえず、あなたは西園寺グループに強制送還させていただきます」
そう言って、指ぱっちんをすると筋肉むきむき男が2人入ってくる。一回やって見たかったんだよね。
「は!?ちょっと離してちょうだい!」
叫ぶ村田さんを無視して彼女の両腕を拘束して部屋から出て行くマッチョ二人。私はお辞儀をしてそれを送り出す。純の部下を借りました。とりあえず、あの村田さんからは西園寺グループから白雪社に情報が流れているという話が出るだろう。そして、西園寺グループのセキュリティの見直し。そして、セキュリティに侵入された形跡はない。誰の仕業だ。と社内を疑いはじめることになり、他社の情報集めなどということどころではなくなるだろう。一件落着。と、九条君を忘れていた。
昨年はみなさんお世話になりました。今年もお世話になりたいと思います。
人物紹介などはひとまず前回で終わりです。
なにかありましたら教えていただけるとありがたいです。
いつも読んでくださりありがとうございます。
私は今年、トラックでスポンジケーキを運ぶ夢を初夢で見ました。




